レポート

むせかえるほどの演劇の熱と、ぶつかり合う役者魂をくらう。舞台「カレイドスコープ」ゲネプロレポ

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2020年2月20日(木)、舞台「カレイドスコープー私を殺した人は無罪のまま」が新宿FACEにて開幕した。本作は、演出を吉谷光太郎、脚本は谷 碧仁が担当。2人は、原作付き2.5次元舞台のミュージカル「王室教師ハイネⅡ」以来のタッグとなる。

個性的なキャストたちによる、息づまる濃密な2時間ほどの密室劇。演技と演技、人の感情と感情のぶつかり合いを目の当たりにし、終演後しばらくたっても脳内の感情整理が追いつかなかった。

ネタバレを避けるため、公式サイトにある導入あらすじをたどりながら、ゲネプロの様子をお届けする。

■開幕記念インタビューはこちら
<森田凌平役 富田翔インタビュー>
二度の壁を乗り越えた富田翔が、20代から続ける「たった1つのルール」――2.5次元のベテラン教室
https://25jigen.jp/interview/23479

<演出・吉谷光太郎インタビュー>
「下地の無い、ゼロからの物づくり」オリジナル舞台「カレイドスコープ」吉谷光太郎 前編
https://25jigen.jp/interview/23579
「舞台でやる意味があるものを作っていきたい」2.5次元の間口を広げる演出家・吉谷光太郎 後編
https://25jigen.jp/interview/23581

少女の死の真相を探るため、別荘に集まった10人の人物。人の奥底にあるものがカレイドスコープのように動き出す

1人の少女が亡くなった。森田かすみ(演・木村心静)。場所は、彼女の父親が所有する別荘、死因は首つりだった。容疑者として、別荘に出入りしていたデリバリースタッフ・夏樹 陸(桑野晃輔)が挙げられた。

しかしその事件は、かすみの自殺と判断され、夏樹に無罪の判決がおりた。

たったひとりの娘を失った父、森田凌平(演・富田 翔)。娘は本当に自殺だったのか? だとしたらなぜ? 他殺ではないのか?

判決はくだったものの、心の整理がつくはずもない。凌平は日々悩み、苦しみ続ける。

凌平の親友、伊藤健一(演・山本裕典)。憔悴しきった凌平を心配した健一は、凌平の別荘に、とある人物たちを呼び集める。

それは、かすみの死と判決に疑問を持った人々だった。

彼らは話し合いをはじめる。心の奥底にしまっていた「引っかかり」、疑問、推察、誰に言うこともなかった本音。

真実はどこにあるのか。それともすべてが真実であり嘘でもあるのか。

成熟した技巧、情熱、芝居への飢え。集まった役者たちの魂を込めた演技に圧倒される

「濃密な演劇をしたい」と事前に聞いていた。しかし濃密どころではない、熱をまとった空気のかたまりが殴りかかってくるようだった。

登場人物は10人。ストーリーの中心は健一と凌平ではあるが、誰一人として、欠けていい人物はいない。それぞれが大きな役割を持っている。

健一は場をしきり、何とか意見をまとめようとする。娘の自殺を認めたくない凌平。前科があるがゆえに容疑者にされてしまう夏樹。

しかし、物語は「カレイドスコープ(万華鏡)」。覗きこんでほんの少し回すだけで、まったく違う景色が見えてくる。

検事、馬場貴明(演・輝馬)。凌平の会社の元弁護士だ。正義感が強く、ものごとに対して細かいところを見せる。

人を守り、正義を追求しようとする気持ちは、ときに人と大きくぶつかる。それは、守ろうとする対象の凌平も例外ではない。

登場人物ひとりひとり、画一的な役割ではない。味方が敵になり、敵だと思っていた人物の心情に共感するようにもなる。

ひとつのセリフも聞き逃せず、ほんの少しの表情の変化も見逃せない。

被害者の会主宰・五十嵐智久(演・磯貝龍乎)。立場といい物腰といい、字面だけ見れば凌平の心に寄り添い気持ちを支える「良い人」だろう。

しかし、演じるのは磯貝龍乎だ。何とも不気味で、絶対にこの人は何か考えているだろうと思わせる。本当に暗いものを抱えているのか、それともそう思わせておいて何もないのか? 答えは舞台を観て確かめてほしい。

ほかの舞台では、コメディやトリックスターとしての役割が多い。しかし吉谷舞台では、笑いどころは与えられず「きっと何か考えているに違いない」と思わせる。存在感が非常に大きい。

かすみの担任教師、影山雄太(演・山田ジェームス武)。きまじめで少し気弱。生徒ひとりひとりに気をかけ、見守っていたのだろう。影山の口からは、かすみの学校での生活が語られる。

きっとこの先生は悪いことはしない。ただただ、かすみを思って心を痛めているのだ。そう思っても、周りが周りだけに「本当にそうだろうか?」という引っ掛かりが心に残る。

学校での立場、教師としての正義。優しい人間の、優しさゆえの苦しみと葛藤がじわじわと伝わってくる。感情移入しやすい人物だからこそ、見ていて辛い。

ジャーナリストという人間は、なぜ事件を追いまわすのだろうと考える。世間に真実を知らせたい、ただの興味など、さまざまだろう。

君沢ユウキ演じる浅井幸助は、場の空気を大きくかき回す。自分の中にある感情から目を背けようとしている人物たちを笑顔で追いつめ、心情を吐露させる。

美しさと狂気は背中合わせだ。牙をむき、つぎつぎに人物たちに襲いかかりながらも、自分の中にある氷を少しずつ削っているかのように感じる。

健一を演じるのは山本裕典。熱狂的なファンを多数生んだ仮面ライダーカブトをはじめ、映像での活躍が非常に多い。2年芸能界を離れていたが、その経験値の高さが、距離の近い新宿FACEでの密室劇にマッチしている。

おさえる部分と感情をむきだしにする部分のバランス感覚が良く、演技のセンスに磨きがかかっている。凌平との関係性も含めて、トータルで観劇後に強い印象が残った。

凌平を演じる富田 翔。これは辛い役だ。爪の先でひっかいただけで壊れてしまいそうな、ギリギリの精神状態の人間の心理表現がすさまじい。どうなるのか、いつ壊れてしまうのか、かたときも目が離せない。

何をどう伝えようと頑張ってみても「あの演技を観てくれ」としか言えなくなってしまう。表情で魅せ、爆発する感情を全身で演じる富田 翔をくらってほしい。

夏樹 陸を演じる桑野晃輔。観ていて、他の人物たちとは逆に「この人は本当は何もしていないのでは?」と、ずっと心に問うてしまう。

「やっていない」と法廷で証言する声、表情。悲痛だ。ひょっとしたらこの中で、もっとも強い心を持っていたのではないだろうか。しかしそれも、舞台を最後まで観て、どうなのか確かめてほしい。

女性陣3人も強烈だ。凌平の姉・祥子役の西丸優子。平穏な毎日を願う人物こそ、平穏を脅かされそうになったときに激しい自分をさらけ出すのではないかと思わせる。平穏すなわち、娘の久美(演・大島涼花)の心の安定と自分の生活だ。

久美は、娘として守られる立場の人間である。亡くなったかすみは、久美にだけは心を開いてさまざまな話をしていた。

子どもは親が思っている以上に重いものを抱えていることがある。それは、亡くなったかすみも同じことだ。

かすみは何を思い、どうやって亡くなったのか……?

派手な効果やショーアップのない演出。だからこそ分かる微妙なさじ加減と個性、本質。

原作付きの2.5次元舞台でもオリジナルの「RE:VOLVER」でも、ショーアップされた華やかで派手な演出で心の底から楽しませてくれる吉谷舞台だが、今回はアンサンブルなし、回ったり大きく動いたりするセットなし、歌も踊りもなしだ。

舞台にあるセットは、大きなテーブルと椅子のみ。そして内容は「密室劇」だという。

観て驚いてほしい。ここは別荘であり、学校で、法廷その他の場所だ。時間も所も入れかわり立ちかわり、「場所」が心理の奥底にもなる。

計算されたミザンス(立ち位置)、照明効果、静かに流れて心理表現を助ける音楽。目に見えて派手なショーアップではないのに、心と頭に大きなうねりが起こる。

普段は、舞台側から「与えてくれる」印象が強い。観て楽しい、感じて面白い。しかし「カレイドスコープ」は、与えられると同時に観客側から積極的に感情を探っていける。また、客席の特性上「見えない」部分があることが、逆に好奇心をかりたてる。

より楽しむためのおすすめ方法をひとつ。セリフを口にしている人物以外にも目を向けてほしい。誰かが話しているときの、他の人物の表情、目くばせ、視線の動き。これに注目すると、ぐっと人物の心理が深く見えてくる。

できることならやはり、東西南北すべての位置から確かめるために、4度は観たい。

オリジナル舞台の面白さのひとつは、先入観を持たずに観られるところにある。

原作がすでにある舞台は、キャラクターに対しての思い入れや理想を持った状態で観ることになる。しかしオリジナルの場合は、まっさらだ。ストーリーはもちろん、声、見た目、性格、すべて「こういう人間なのだ」と受け入れながら没入していく。

舞台が終わればそれ以上のことは語られない。人物の過去も、そしてこれからのことも、知っているのは公式である作者ただひとり。

想像の余地があり、深い沼にハマるという意味では、オリジナルの舞台は一度ハマると抜け出せなくなる。

役者の演技にしても、既存のキャラクター像に寄せることなく1から人間を作り出して演じることになるため、より「その役者そのもの」の演技がむきだしになる。

原作つきの2.5次元舞台で目当ての役者ができたなら、次はオリジナルの舞台で演技を観てみてはどうだろうか。

「話の内容が重いからこそ稽古場の雰囲気は明るく楽しく」囲み会見レポート

ゲネプロ前に囲み会見がおこなわれた。登壇者は演出の吉谷光太郎、君沢ユウキ、山本裕典、富田 翔、桑野晃輔(写真左から)の5名。

ハードでシリアスな内容とは逆に、稽古場はいつも明るく笑いが絶えなかった様子。

「重いからこそ笑いを出しきらないと演技に影響が出ちゃうから」と富田が口にすると、周りからは「ストイック!」と声かけが。

吉谷が「いつもよりギャグ多めの稽古場にしようと」親父ギャグを頑張ったものの結果は滑り、女性陣が「無」の表情になっていたことも暴露されるなど、会見も明るく進んだ。

山本裕典:僕は、話し合いの決を取るための進行役です。親友である森田のために、8人を別荘に呼んで真実を追求します。

稽古は、ものすごいスピードで進みました。しかも本番直前まで、毎日のように台本が数ページずつ追加されたりして(笑)。正直、途中で逃げ出したくなるほどでした。

また役者を辞めるのかな、と思うくらい苦しみましたが、みんなからパワーをもらいました。

本当に悩みぬいて、みんなで考え、全員で作り上げた作品です。一人でも多くの方に足を運んでいただいて、何かを感じて帰っていただきたいです。

全15公演、怪我なく、日々成長して、良いものを作っていけるように一同でがんばっていきます。

富田 翔:話のきっかけとなり、なかなかにハードなポジションの役です。

みんなとの関係性、娘との関係性。起きたことをすべて観てほしいですし、その裏側も想像してほしいです。

ストレートプレイとエンタメの融合のような空間です。集まった役者たちの泥臭さと吉谷さんのエンタメ性が見どころです。

君沢ユウキ:僕はジャーナリスト役で、いわば部外者です。面白い記事を書きたい、そう思っています。

歌もダンスもコントもありません。持っている武器を全部捨てて生身の人間になって、皆さんの前に立ちます。

稽古ではたくさんディスカッションをしました。とても幸せです。こんな新しくて面白いものがあるんだ、と思ってもらえる作品にしたいです。

桑野晃輔:容疑者として、物語のキーパーソンとなる役です。役が重いので、稽古を追うごとにキツい夢を見るようになりました(笑)。

会場の新宿FACEは普段は格闘技場として使われています。今回も、役者同士がぶつかりあう格闘です。この舞台を一緒に体感して、一緒に真実を探っていってください。

吉谷光太郎(演出):原作つきの舞台はすでにキャラクターがありますが、オリジナルの舞台は、人間関係も含めてゼロから作っていきます。それらを稽古場で作り上げて来ました。

「カレイドスコープ」のタイトルどおり、見え方の変化があるように舞台を作っていて、目まぐるしく変わります。会話劇ではありますが、見た目も楽しんでいただけると思います。

 

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公演情報

タイトル

「カレイドスコープ‐私を殺した人は無罪のまま‐」

公演・劇場

2020年2月20日(木)~3月1日(日) / 新宿FACE

脚本

谷碧仁(劇団時間制作)

演出

吉谷光太郎

出演

山本裕典 桑野晃輔 磯貝龍乎 輝馬 山田ジェームス武・西丸優子 大島涼花 木村心静・君沢ユウキ 富田翔

主催・企画・製作

ポリゴンマジック

公式HP

http://kaleidoscope-stage.com
(c)ポリゴンマジック

WRITER

広瀬有希
							広瀬有希
						

金融・印刷業界を経てフリーライターへ。エンタメメディアにて現場取材・執筆の他、日本語・日本文化教育ソフト監修、ゲームシナリオ、ノベライズなどで活動中。感動が伝わる文章を目指して精進の日々を送っています。

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