若い俳優たちが多く活躍している2.5次元と呼ばれる舞台の世界。しかしその中には、座組をしっかりと支え、後輩たちの心のよりどころにもなるベテランの俳優たちもいる。
2.5ジゲン!! では、経験値の高いベテラン俳優・先輩的立場の俳優たちにスポットをあてた新企画「2.5次元のベテラン教室」を始動した。
記念すべき第1回は、オリジナル舞台や映像の世界での活躍も非常に多い富田 翔。2020年2月20日からの「カレイドスコープ」をひかえ、2.5次元の世界では、舞台『炎の蜃気楼』シリーズ、「体内活劇『はたらく細胞』、「舞台『刀剣乱舞』義伝 暁の独眼竜」などに出演している。
多くのことを経験してきたからこそ伝えられること、今感じていること。後輩である若手俳優たちだけではなく、今何かの壁にぶつかったりしている多くの人の心に刺さるのではないか、と感じられるインタビューとなった。
もくじ
病気、挫折…自分を大きく変えた20代で得たもの
――まず、デビューの頃からのことを振り返ってお聞きします。大きな壁や、ターニングポイントとなったこと、そこで得たものを教えてください。
何回か、ターニングポイントとなったことがありました。ひとつめは、病気になって一カ月入院したこと。死と向き合って、20代前半の感覚が変わりました。
――死、ですか……。大変な病気だったんですね。
現場の京都へ向かう新幹線に乗る直前に病院へ行って、ドクターストップがかかったんです。それで即入院。もしもあのまま乗っていたら危なかったと言われました。
病気になる前はずっと「全部を完璧にやらなければ」というイメージがすごく強くあって。そう思ってしまっているから、眠れない日もありました。
病気はきつかったけれども、経験したことで気持ちが少し楽になりました。
――自分に完璧を求めていたのが、考え方が変わった、と。
変わりました。まず、それまでは「休む」っていう考えが無かったんです。毎日働きたい、毎日撮影をしたい、って。
入院中に、時代劇で共演させて頂いた宇梶剛士さんなどの先輩方から、たくさん言葉を頂きました。
なかでも覚えている言葉が「役者は、マイナスをすべてプラスに変えられる仕事。だから、そう考えて今は休みなさい」。心に沁みました。
人間関係に閉鎖的な部分もあったのですが、それ以来変わりました。入院中に来てくれた友達や仲間が、すごく大事に思えて。
助けられたし、閉じこもっていたらもったいないな、という考えになれたんですね。
――完璧じゃなくてもいい、休むことも大事。先輩や仲間たちの存在や言葉が大きかったんですね。
その次は、役者を辞めようと思ったときのことです。
事務所をやめて仕事が来なくなって、1年を過ごしました。その期間はプライベートでもいろいろなキツいことが重なって、本気で役者を辞めようと思いました。
そんなとき、青山円形劇場で2日間だけ立たせてもらった舞台がありました。そこに、以前よりはもちろん数は減っていたけれど、僕のことを応援してくださる方々が来てくださって「続けてほしい」と。
それを聞いて「もう一回頑張ってみよう」と思いました。1回本気で「辞めよう」と思ったので、若干怖いものが無くなりましたね。芝居に対しても。
――芝居に対しても、ですか。
それまでは「平均点より少し上の芝居だね」と言われていたんです。怒られないけれども、次にもぜひ、と強く呼ばれるわけじゃない。
自分では100点だと思って一生懸命やっていたんですよ。でも今思えば、台本に書いてあるとおりのこと、になっていたんでしょうね。
そこで思ったのが「自分は1週間の中でどれだけ『芝居』をしているのだろうか?」と。芝居を、演技をしている時間がもっと欲しい、と思うようになりました。
ーーそこでまたひとつ意識が変わったんですね。
30歳を過ぎたときに馬力が無い自分は嫌だな、と思いました。20代終わりのその頃は、確かに本当にきつかったですが、今思えば、さまざまなことを経験しておいてよかったなと感じます。
30歳手前。その3年間に何をするかがとても大事です。そのときにやっていたことが、そのときは分からなくても30歳を超えたときに「大事だったのだな」と分かります。
やっていて良かった、サボっていなくてよかった、と思うことがたくさんあります。経験をたくさん重ねて、負けないと思えることがひとつできたから、少し自信を持ってこの仕事をできるようになりました。
――30代を迎えるときというのは、やはり何かの転機があるのでしょうね。20代で得た経験が生きていると感じられる、具体的なことはありますか?
芝居の技術的なことなどはもちろんなのですが、自分が苦労したときのマイナスのことが、後輩と話すときに役だっています。それこそ、こういうインタビューのときにも。
いろいろな苦労をしたから、伝えられることがたくさんある、というのが大きいです。もし順風満帆だとしたら、また違う言葉になっているでしょうね。
「マイナスをすべてプラスに」という考えで、全部を良い方向にとらえようと思うように。そうすると、マイナスに考えているよりも、取り入れられるもの、得るものが大きくなります。
本当に、仕事ができなかったあのときの苦労があるから、仕事ができる有難さを感じています。役者は、土俵が無ければ何もできないですからね。
「演劇の体力を上げるためにも、手を抜かない」その姿勢でいれば、人はついてきてくれる
――30代に入ってからはいかがだったでしょうか? 経験値が増えてきたからこそ感じることもあったと思うのですが……。
言い方は悪いですが「使われるだけじゃダメだ」という気持ちになりました。自分がいる意味がなければダメだ、と。
自分が観たときに何を面白いと思うのか、自分だったら何を観たいのか、について強く感じるようになり始めました。使われる、という受け身ではない考え方ですね。
シリーズの5年間、主演をやらせていただいた舞台『炎の蜃気楼』では、本当に大きなものを背負わせてもらいました。あれが、舞台への関わり方が変わった時期ですね。
――大長編の人気小説原作の舞台化、2014年から2018年で5作。初演のときは30代初めの頃でしたね。座長として、大事にしていたことはありますか?
「言葉をかける」のではなく「手を抜かない姿勢を見せる」ことを大事にしていました。
自分だったら、主役の人のどんな姿を見たいかなと考えたとき、ものごとに取り組むそういう姿勢を見たいと思ったんです。
主役なので、出番も多いし本当に大変なのですが、そういう人間が誰よりも手を抜かずに頑張っていたら、人はついて来てくれるのではないか、と。手を抜かずにやっていると「演劇の体力」がついてくると思っています。
――演劇の体力、ですか。
そう、抽象的なんですけれど。限界を作らずに、ちょっとずつ無理をしていく。テンションや声の出し方とか。そうするとベースが上がっていくように思います。
年を取って行くと体力的には老いていくし、昔に比べて動けなくなってきたりしますけど(笑)。
――中心となる方が手を抜かずに頑張っている姿を見れば、この人のためにという気持ちも湧いてきますね。
1本の舞台に対してどのくらいの覚悟で臨めているか。そういう気持ちは伝染します。舞台の座組は、一緒にいる時間が長いですしね。
――主演ではない舞台のときでは、どのようなお気持ちだったのでしょう? 例えば舞台『刀剣乱舞』では、若いキャストの皆さんの中で先輩的な立場だったのでしょうか。
あれは3年前ですね。「義伝 暁の独眼竜」で伊達政宗を演じさせていただきました。初めての現場でしたが、ありがたいことに、知っている後輩も多かったです。
その中でまず、脚本・演出の末満さんや制作の皆さんに対して何を見せられるかな、と考えました。役者たちは後輩とは言っても、2.5次元の世界では彼らの方が先輩ですからね。だから彼らとは、一緒に戦っている感覚でした。
話として主役ではあったのですが、本当の主役は刀剣男士である彼らです。彼らをどう盛り立てて引き立てられるのか、歴史人物役としてどういう影響を与えられるのか、という気持ちでした。
こちらがもう、ああいう死ぬ思いで振り絞ってやったら、彼らもアガるしかなくなると思いますし。
――若い役者さんたちにも、先輩の素晴らしい演技で大きなものが伝わったのではないでしょうか。
本当にありがたい環境でした。稽古場でも舞台でも、そのときに舞台に一緒に上がっているメンバーはもちろん、荒牧も、出ていないときも袖でずっと演技を見てくれていました。
逆に僕も彼らの演技を袖からずっと見ていて……すごい化学反応がありましたね。
これから迎える40代。20代から続けている「1日ひとつ」のルールとは?
――これから40代を迎えるわけですが、今の30代で得たものをどう生かしていきたいか、というビジョンはありますか。
「作る側」をやりたいですね。作・演出ではなくても。
ここ3年くらいやっていないのですが、僕は「撃弾ハンサム」というユニットをやっているんです。自分で見て面白いと思ったことや、これをやったら面白いと思ってもらえそうなことを自由に表現しています。
今ももちろん現場ごとに面白いことはあるけれども、普通は役もセリフも決まっていますよね。でも、あの「撃弾ハンサム」をやらせてもらったことで、これがやりたい、と思ったことを自分で決められるというのが分かりました。
僕はもともと「影響力」からこの仕事を始めたので、常に発信をし続ける側でいたいです。表現者として、プレイヤーとしても。自分にしか出せないものを大事にしていきたいですね。
――今も続けている、習慣や心構えのようなものはありますか?
20代のころに、ひとつ決めたルールがあります。1日の中でひとつだけでもいいから、仕事のことをやろうと。
例えばテレビを観ているのでも、ただ楽しく見ているだけのときもあれば「これは仕事だ」と思って、何か取り入れようとして観てみるんです。
大きな事柄だとハードルが高くなっちゃうから、ほんのちょっとでいいんです。何かにこじつけても(笑)。すると「今日は何もしなかったなぁ」の日が、そうではなくなる。例えば、1日本当に何もしなくても、寝る直前に筋トレをすれば「筋トレをした日」になります。
人付き合いもそう。何かを取り入れようと考えてみると、人の話もよく聞けるようになります。
――1日ひとつ。ほんの少しの積み重ねとその意識が、大きなものを生み出せそうですね。
舞台「カレイドスコープ」。密室劇の稽古場でぶつかり合う、役者たちのスタイル
――今現在の富田さんが、役者として大事にされていることは何ですか?
全部を曲げることはしない、ですね。面倒くさいことも言うし、意見もぶつけるし。僕はそれが、作品を作るためにすごく大事にしていることです。
――今回の舞台「カレイドスコープ」、稽古が始まって1週間くらいと伺いました。この稽古でもどんどん意見を出されているのでしょうか?
僕は演出の吉谷さんとは今回が初めてなので、まずは自分のスタイルを分かってもらうこと、それから吉谷さんのスタイルも学んでいかなければいけない。すごく楽しいです。
今回の舞台で集められた役者は、自分のスタイルとプランを強く持っている人たちです。そうするとやはり、意見も違うしアプローチも違う。僕はこうした方が面白いと思う、いやこうした方が、って。
1つの作品を作り上げるための共闘、ディスカッション。ぶつかり合うのはとてもいいことだと思っています。
今はまだ1週間なので、心技体のうち心が完全に入ってないです。キャラクターを模索しながら心をスッと入れていかれるようにしたいですね。
とても脳を使う作品ということもあって、稽古が終わるともうヘトヘトです。セリフが多いというのもあるんですけれど(笑)。
――少女の死をめぐる謎、の話ですよね。他殺か自殺か。
そうです。とてもざっくり言うと、僕の娘が死んで、他殺か自殺かをみんなで話してあばいていく、という話です。
家に帰っても舞台のことを考えていると、内容の重さにダメージをくらっちゃいます。稽古に来る途中、道中で考えていると目つきも悪くなってくるし(笑)。
――ミラージュの景虎(加瀬)もそうですし、伊達政宗もそうですし、去年の舞台だと『乱歩奇譚』のカガミも重い役でしたね。頭の切り替えは難しいですか?
昔に比べて、役とプライベートの切り替えはできるようになりました。でもやっぱりそんな風に、軽くはない役が多いから難しいですね(笑)。
――では最後に、この「カレイドスコープ」の見どころと、ファンの皆さんへメッセージをお願いいたします。
「ここでしか味わえない感覚」が絶対に味わえる作品です。すごく考えさせられたり、想像したり。その世界観を味わって欲しいです。
例えば、今こうして生きていることが当たり前だと思っていることが、当たり前だと思えなくなる。そういう感覚が得られるはずです。このメンバーだからこそやれる舞台ですね。
舞台としてすごく距離が近いので、普段は見えない表情も見られます。誰と誰が視線を合わせているのか? そういうものが丸見えです。
四面全方向の舞台なので、自分には見えて他の人には見えていない、ちょっと得した気分にもなれると思います。
この重厚なストーリーを、「楽しむ」というより「くらって」欲しいです。そういう楽しみ方をしていただけたらと思います。
完璧でなければならないと思っていた20代で経験した、大きな挫折。そこで得たものが30代の今を作り、40代に向かおうとしている。
「マイナスなこともプラスに変える」マイナスをマイナスととらえない意識を持つこと。小さなことも自分の中に取り入れようとするポジティブさとプロ意識、そして貪欲さを強く感じた。
1日にたったひとつでもいい、「何か」をすれば「何もしなかった日」にはならない。そんな小さな意識の積み重ねが、実りある人生を送るためのヒントになることを、富田翔は教えてくれた。
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2020年2月14日(金)〜2020年2月28日(金)正午
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— 2.5ジゲン!! (@25jigen_news) February 14, 2020
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