2月20日に開幕する「カレイドスコープ」。2.5ジゲン!!は、開幕間近の稽古場にお邪魔し、演出家の吉谷光太郎にインタビューをおこなった。
本作が上演される会場は、プロレスの試合が多くおこなわれている新宿FACE。すり鉢状になった会場は、真ん中の正方形の空間を取り囲むように座席が配置されている。
ぐるり360度。四方を客席に囲まれ、大がかりなセットを配置することもできない。この特殊な会場で、いったいどんな舞台が上演されるのだろうか。
人と人、演技と演技のぶつかり合い。「ここでしかやれない舞台」とは
――2018年のオリジナル舞台「RE:VOLVER」に続いて今回の「カレイドスコープ」ですね。お話が決まった経緯を教えてください。
新宿FACEという、あの独特の劇場で「何ができるか?」というところから始まりました。あの場所でどういうことをやったら面白いんだろう? と。
普段やっている原作つきのものをやるか? とも考えたのですが、選択肢が潤沢ではないように思いました。
アンサンブルキャストを使って華やかにショーアップしたものを作るためには、高さやいろいろなものが必要になります。工夫すればもちろんできるけれども、どうせなら、ここでしかやれないことをやりたいと思いました。
無理をするよりは、その空間を活かせるようなオリジナルの作品をやってみよう、となったんですね。
それで、君沢ユウキくんに聞いたら「2月あいてます」って言ってくれて、役者のスケジュールの情報を聞いたら他にも面白そうな奴らばかりがいて(笑)。そのメンバーに原作物を当てはめるよりは、新宿FACEを使って濃密な演劇をやろう! ということになりました。
――濃密な演劇、どんなストーリーなのでしょうか?
ある少女が亡くなります。しかし、亡くなった理由は明らかになっていません。その理由を突き詰めるために集められた人々の話です。
その人たちは、少女がなぜ亡くなったのかの真実を求めるために集まってきたのですが、彼らの人間関係というものがどんどんあぶりだされていきます。
犯人探しのミステリーと、人間関係、人間の内面をリンクさせながら話が進みます。少女の死の真相を追い求めながら、それぞれの人物の理念が見えてくるんですね。キャラクター同士がぶつかり合って進んでいく会話劇です。
――会話劇なんですね。では、テーブルに座って話を進める?
……と思うでしょう?(笑) でもね、それじゃ僕がやることがなくなってしまう。会議なんだけど、それにプラスアルファの要素があります。まず、とにかく観てほしい。やり口や見せ方、絵の変え方に驚くと思いますよ。
「12人の怒れる男」みたいな、演技のぶつかり合いをやりたかったんです。「ザ・演劇」っていう。
原作ものの舞台で活躍している役者たちの中には、ある種、飢えている人たちもいます。そこで活躍すればするほど、違う空気も取り入れたくなるんでしょうね。
キャラクター像に縛られずに、ゼロから自分で答えを導き出す作業をしたい、と思うのは健全なパフォーマーとしての欲求です。
――キャラクターに「寄せていく」のではなく、自分で作り上げる、という?
そう。クリエイティビティのある役者であればあるほど、自分で作り上げたい思いが強くなるんでしょうね。休憩時間に話をすると、そういうことをやりたい、とよく聞きます。
そういった役者たちの声もあり、僕自身の挑戦もあり、今回の舞台が決まりました。
個性的な役者たちによる濃密な演劇。すべての武器を一度捨て、その中から大事なものを選んでいく
――今回の舞台でどのような挑戦をされるのか伺いたいです。
演劇としての原点に立ちかえろうと思いました。
僕にとって今主流となっている、アンサンブルの力、SE効果、セットの矩形の変化、そういったショーアップされたものを排して、それでもいかにステージに変化をつけられるか。見た目としても飽きさせない空間をつくる、というのが自分の中に課題としてあります。
原作ものは、すでに世界観があるから、下地ができていて、指針や答えもおぼろげながら見えている。「こうしたら面白いのにな」と思っても、その世界観に合わないことがあります。
でもオリジナルは、下地が無いからゼロから全部作っていきます。誰かが足を踏み入れていない、まっさらな雪を踏みしめていく気分です(笑)。
――100パーセント吉谷さん、の舞台ですね。
しかも今回は、ファンタジーでもなく現実世界に生きている人間を描いています。その人たちが、言葉でぶつかりあう会話劇です。だから、役者の演技がより面白いと思ってもらえる構造になっていると思います。
例えばまず山本裕典くん、彼は情熱的な芝居をセンスという武器で増幅させる技を持っています。数々の大きな仕事をやってきた彼の努力の賜物でしょう。彼がどういう姿をこの先見せてくれるか大変楽しみです。
富田 翔くん。今回彼とは初めてなんですが、2日ほど一緒に稽古をしたら、彼のやりたいことや理念やこだわりが見えてきました。
既存のキャラクターをまとっていないオリジナルもので、どう「富田 翔」を見せるか……。彼自身にもそういうものを見せつけてもらいたいです。
――他のキャストも皆さん個性的な方ばかりですね。
個性が強いし、演劇に向き合っている人たちばかりです。こういう演劇をやりたい、という欲求が醸し出ています。
稽古を始めて一週間ほど経っていますが、立ち上がりは早かったです。本人たちが危機感を持ってやっているというのもあるのでしょうね。
今回は特に、みんなと寄り添って演劇というものを見つめて、向き合って作っています。
役者同士がぶつかりあってスパーリングのように戦うのは、舞台の楽しみです。こうやりたい、という欲求が役者たちからにじみ出ているので、それを汲み取ったりヒアリングしたりしています。
――稽古は、指導するというより「引き出す」感じですか?
そう、「こうやりたいんだな」というのを汲み取って「今、こう動きたかったよね? 動いていいよ」というように。
ちょっと奇跡的な話になってしまうのですが「こう動いてほしいな」と思っていなくてもパチリとピースがはまる瞬間というのがあります。そういうとき、新しい世界が見えるんですね。そういうきっかけのようなものを作ってあげたいです。
きっと全方向から観たくなる。すべてがプラスに作用するように計算した演出の舞台
――今回の新宿FACEは4方向から見られる特殊な舞台ですね。演出の工夫はどのようにされていますか?
4面である以上、ある位置からは顔や演技が見えないところもあるのですが、それをマイナスではなくプラスに作用するようにしています。
IHIステージアラウンド東京のように座席は回らないけれど、回らずに同じことをしようと。
演出面では、より、没入してのめり込めるように工夫して作っています。飽きさせないように、絵と物語がさらに明瞭になるように。
舞台の見せ方は、原作付きのものの舞台をやって培った経験と技術を多く使っています。さっきね、「全部捨てる」なんて言いましたけれど(笑)。一度捨てた中から大事なものを選んで拾って使っている、そういう感じです。
役者の演技の方は、お互いをぶつけ合っているので絶対楽しいはずですよ。
――東西南北、どの方向の席から見ても面白そうですね。
どこから見ても、というのも実はヒントです(笑)。今僕ね、「演出卓」には座らずに、キャストの中に入って動き回ったりしながら見ているんです。
今回東で観た人は、次は西から観たくなる。そう言う風に作っているので、ぜひ全部の方向から観て、違う演技を楽しんでほしいです。
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