2020年1月8日(水)、品川・ステラボールにて、舞台『文豪とアルケミスト 異端者ノ円舞(ワルツ)』の東京公演が始まった。
本公演は2019年12月27日(金)に大阪にて開幕し、年明けて東京での公演となった。公演に先立ちおこなわれたゲネプロと、大阪公演を経て自信をつけた、力強い会見の様子をお届けする。
※開幕前に行った出演者インタビューはこちら
▼「本当に思い合っていないと伝わらない」谷佳樹×杉江大志 舞台「文豪とアルケミスト」
▼国木田独歩と島崎藤村、納得するまで彼らを自分の中に落とし込みたい。舞台「文アル2」斉藤秀翼×小西成弥
▼舞台「文豪とアルケミスト」坂口安吾役 186cmの美男・小坂涼太郎の素顔【#令和のイケメン名鑑】
白樺派にスポットが当てられた今作。最も大切なものは、弱点にも勇気の源にもなる。
舞台は、萩原朔太郎(演:三津谷 亮)が転生したところから始まり、白樺派の2人、志賀直哉(演:谷 佳樹)と武者小路実篤(演:杉江大志)の友情についてが書簡の形で語られる。
学生時代からの友人だった2人は、途中何度も喧嘩を繰り返しながらも生涯の友であり続けた。事前におこなったインタビューで志賀役の谷が語ったとおり、オープニングからぐっとくるシーンだ。
今回の「異端者ノ円舞(ワルツ)」はこの2人の友情を軸として話が進んでいく。
侵蝕された作品は有島武郎(演:杉山真宏)の「カインの末裔」。キリスト教をテーマに、信仰心と罪について書かれたものだ。裕福で上流階級育ちだった有島武郎自身の罪悪感から生まれたと言われている。
前作に引き続き本作も、自書に侵蝕された作家の、それぞれの反応が興味深い。
生み出された作品は作家の魂そのものだ。自分の憧れ、理想、大事なもの。そして時に、奥底に潜む罪の意識、嫉妬、羨望。
自己表現、感情の昇華、誰かに伝えたいという気持ち。その時々のさまざまな思いが文章となり、形になっている。
その思いを知っているからこそ、文豪たちは侵蝕された仲間の書物に潜書し、守ろうとする。
島崎藤村(演:小西成弥)、国木田独歩(演:斉藤秀翼)自然主義の2人。「取材だ」と転生した文豪たちに迫ったり、不思議な行動を取ったりする。2人の真の狙いはどこにあるのか?
また、2人が過去を語るシーンにも注目してほしい。
前作を知っている人は、芥川龍之介(演:久保田秀敏)の成長に目を見張るだろう。今回芥川は「侵蝕」されたことのある経験者としての面も見せる。
各キャラクターに見どころが用意されており、文学作品をテーマにした舞台らしく心に残るひとこと、胸に響く言葉があちこちに散りばめられている。
また、最高にクールでかっこいい主題歌、アナログなマンパワーの強い演出にもぜひ注目してほしい。文学作品と文豪をモチーフとしている本作だからこそ、この演出が生きるのだと実感する。
手数の多い殺陣、全員がピタリと止まりポーズを取る一瞬は、歌舞伎の見得のような美しさがある。
アンサンブルは、時に恐ろしい姿で文豪たちに襲い掛かり、時に規則正しく、文豪たちに敬意をはらうように美しい配列で舞い踊る。彼らは舞台上で、文字・言の葉・文章として生きているように見える。
前作よりもアクションは増えたものの、くすりと笑えるシーンは健在。カンパニーの仲の良さが伝わってくる。
坂口安吾(演:小坂涼太郎)の「安吾鍋」のシーン。鍋に何が入っているか、誰にふられるかは日替わりのお楽しみだ。ゲネプロではチョコレートが袋のまま入っていた。
舞台だけでも楽しめるが、原作のゲームをプレイしていればより楽しく、そして元の文豪や書物のことも知っていれば、ストーリーや関係性がより深く心に刺さる。また、ほんのちょっとしたセリフや小ネタを楽しむこともできるだろう。
今回であれば「カインの末裔」それから白樺派2人の作品を、観劇後でもいいのでじっくり読んで欲しい。(できれば先に)
本作では特に、志賀と武者の友情がクローズアップされている。
どんなに好きな友人でも、たまには「こういう所がいやだな」と思ったり、妬ましく思うこと、羨ましく感じることもある。それらをすべてひっくるめて相手を認めて受け入れ、付き合っていかれれば、生涯の友となるだろう。
観劇後は、今一番仲の良い友達に、昔仲の良かった友達に、一報入れたくなる人も多いかもしれない。
「生きているうえで大事なものは何か? ダイレクトなメッセージを届けたい」囲み会見レポート
谷 佳樹(志賀直哉役):今回は、前作よりも殺陣のシーンが増えています。前回はほんわかするシーンが多かったのですが、今回はずっと戦っているような感じです。
新しいキャラクターと前回からいるキャラクターが半々なので、新しい風を吹き込んでくれていて、全体の空気感が前と違っています。
大志と2人、支え合ってやっていこうと話してきました。稽古期間から本番までずっと不安を持ちながらやってきたのですが、大阪で5公演、お客様の前で演技を見せて、自信が確信に変わりました。
東京でこれから9公演あるのですが、楽しみですし、楽しんで頂きたいですし、楽しませます。攻めの姿勢でいけるな、と心境の変化がありました。
前作は「生きろ」という真っすぐに届くメッセージを全員で言うシーンがあり、まさに明日から生きるための活力がダイレクトに届く作品でした。
今回は、志賀と武者の友情であったりそれぞれの関係性が深く掘り下げられています。現代に生きる僕たちにも通ずるものがあって、友情とは何なのか、大切な人はどういうものなのか、ということを改めて認識させられます。
そのメッセージがダイレクトに届く素敵な作品です。
生きることの価値を前作で見出し、そして、生きているうえで大事なものは何か、ということをこの作品で何か受け取って頂けたらと思います。
杉江大志(武者小路実篤役):今回はありがたいことに、志賀と武者にスポットをあてていただきました。見どころを厳選はできず、全体で何かを受け取って頂ければと思います。
谷やんが言ってくれたように「支え合って頑張ろう」と始まる前に言っていたのですが、支え合うというのはとても難しいのだと今回改めて知りました。
「支える」「支えてもらう」は分かりやすいのですが、「支え合う」って繊細なんです。パワーバランスが大事で、どちらかの力が強くても倒れそうになります。
でも、その難しいものを乗り越えたからこそ、大阪での初日の達成感に繋がったのだと思っています。
殺陣が満載! とか2人の友情に亀裂が! という話が出ていると思いますが、全体を通してみればほっこり楽しく、そして、心に何かが届いたらいいなぁと思って作った作品です。
「楽しかったなぁ」というのと「何だか心に残るなぁ」と思ってもらえる作品になっていると思います。その何かを受け取りにきてもらえたら嬉しいです。
久保田秀敏(芥川龍之介役):前作で僕は太宰に「生きろ」と言われ、生に希望を見出しました。今回僕は、前作での太宰ポジションとして、生きるメッセージを強く出すポジションにいます。
前作から見てくださった方は、芥川が生きることに希望を持って、前向きに明るく未来を突き進んでいこうと変わった様子を感じて頂ければ嬉しいです。
「文学」と言葉だけ聞くと堅苦しく感じるのですが、この「文豪とアルケミスト」という作品を見て、あらためて文学に興味を持って頂けたら僕たちも幸いですし、もっともっと人生が豊かになると思います。ぜひお楽しみください。
三津谷 亮(萩原朔太郎約):朔太郎自身、信じることをとても恐怖しています。「信じる」というのは目に見えないし、自分自身で思うことしかできないものです。
見えないけれども、信じることをコントロールするのは自分自身です。それを感じて頂けたら嬉しいです。
ぜひ僕たちの図書館へ遊びに来て、心の1ページに刻んで頂けたらと思います。
杉山真宏(有島武郎役):僕の演じる有島は、生きることをあきらめてしまったという役柄です。しかし再び転生して、自分をまた見つめ直す時間ができました。
生きることについて考え、自分と向き合う瞬間があるので、その有島の葛藤などを皆さんに伝えられたらと思っております。
大阪公演でお届けできたものを、東京でも皆さんにお届けできたらいいなと思っております。カンパニー一同全身全霊で頑張ります。
小坂涼太郎(坂口安吾役):僕の見どころは心温まる「安吾鍋」のシーンです(笑)。寒くなってきたし、お客様も鍋を食べたくなるのではないかなぁと思います。寒いですがお気をつけていらして、見終わった後に鍋を食べてください。
斉藤秀翼(国木田独歩役):今回、国木田独歩と島崎藤村は、自然主義というカテゴリーに分かれています。
取材は「自分たちの目的のため」と見られがちなのですが、そんな中、藤村と独歩が、生きていたころのことをちょっと話す、人間らしさが一瞬垣間見えるシーンがあります。
僕らが、主義を貫く動機や自分たちの罪の意識、そういうものが入っているので、そこを見て頂けたら嬉しいです。
新年の駆け出しです。素敵な時間をお客様に感じて頂けるように精いっぱい頑張りますので、ぜひ劇場へお越しいただければと思います。
小西成弥(島崎藤村役):僕も、自然主義の2人が過去を表現するシーンがあるのでそこを見て頂きたいです。それから、志賀と武者から影響を受けての変化を見て頂けたら嬉しいです。
大阪公演で積み上げたものを、さらにもっと上へと目指します。精いっぱい頑張りますので、ぜひ楽しみにしていてください。
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