2019年12月27日、舞台「文豪とアルケミスト」異端者ノ円舞(ワルツ)が開幕する。2作目となる今作は、有島武郎の『カインの末裔』が侵蝕され、同じ白樺派の志賀直哉と武者小路実篤をはじめとする文豪たちが潜書するストーリーだ。
2.5ジゲン!!は、志賀直哉役の谷佳樹、武者小路実篤役の杉江大志にインタビューをおこなった。前作から続投となった2人が、志賀と武者小路の友情や、役柄についての深い思いなどを語った様子をお届けする。
心地良い空気と関係性。お互いを支え合い、補う2人。
――舞台「文アル」2作目。前作から9か月ぶりの志賀直哉と武者小路実篤ですね。すぐに役の感覚を取り戻せましたか?
杉江大志(武者小路実篤役):もうね、あっという間でした!(笑)
谷佳樹(志賀直哉役):僕は仕事のスケジュールの都合で、稽古に入るのが大志より1週間遅くなったので少し不安がありました。でも、一回やったらすぐに感覚を取り戻せました。むしろ前よりも深まったな、という気がします。
杉江:前回、谷やんとは初めてだったんです。だから、探りながら稽古の中でやっとできあがったという感じがあって。で、終わってから一作共演したね。
谷:体力的にほんとキツかったね!でも、すごく絆が深まりました。
――厳しい部活を一緒に乗り越えた、という感じですね。そしてさらに絆が深まったところで今作で再び共演、と。
谷:前は「杉江大志」がどういう人物なのか探りながらだったんです。大志が武者や志賀、それから谷佳樹に対してどう向き合っているのか。でも今回はもうそれができているから、入りやすくてすごくやりやすいです。
どういう空気感で来るのか、も分かっているし、ちょっとクサいセリフも「この関係性だったらありだよね」と思います。
杉江:もう、人となりが分かっているからリズムが合うんです。どういう芝居をしたいのかも分かる。寄り添ってもらうことも、寄り添うこともできる。補い合う感じです。
役とのバランスが取れていて、本当に良い関係性です。ナイスキャスティングですね!(笑)
谷:今はまだ外枠的な部分なので、芝居的にはがっつりと返せていないんですけれど……もう中身も見えてきているというか。稽古中盤だけれども、もう、そこまでいっちゃってもいいかな、って話してます。
杉江:2人のシーンは「やってみたら何とでもできるね」って言う感じです。
谷:段取りせずに「じゃあやってみよう」でお互い動いて、返して受けてもらって。2人の空間の動かし方が分かりあっている感覚です。お互いの立ち位置も、「このときはこのくらいの距離でいたいな」と。本当にやりやすくて、ストレスが無いですね。
――お互い何も言わずとも、空気で察することができるんですね。
シンプルだからこそ表現するのが難しい「友情」。気持ちを大事に作り上げる
――今作は、志賀と武者小路の関係性や友情がクローズアップされているように感じます。性格的に反対の部分もあって喧嘩もするけれど「心が近い2人」の友情について教えてください。
谷:今回、その部分がすごく描かれています。白樺派が好きな人は、しょっぱなからグッとくるのではないかと思います。僕は脚本を読んでグッときました。本当に、すごく良いものになります。あとは僕たちの頑張り、心の埋め方次第ですね。
でもね「友情」ってヘタをすると安っぽくもなってしまうんです。「友情」や「親友」、綺麗な言葉だけど言葉にすると薄く感じてしまう。何をもって友情なのか、親友なのか。人によって違うし、分からない。
それが濃く描かれているから、表面的な部分だけでやっていると伝わりません。本当に思い合っていないと。「もっと深いものが見たかった」となってしまいます。シンプルだからこそ難しいです。
杉江:いつもだったら、稽古中盤になると、頭を抱えることが増えちゃうんです。
稽古が始まってすぐの頃は、こんな風にしたいなぁ、あんな風にしたいなぁってすごくポジティブなのに、中盤になると「いや……でも、こうじゃないのかなぁ」みたいになっちゃう。で、後半になると腹を決めるしかない(笑)。
でも今回は、後半になってからじゃ遅い気がして、先に気持ちの整理をつけるようにしています。そうじゃないと殺陣や動きのイメージもしづらい。動きを決めてから気持ちの整理をつけると、後でまるっと変えたくなっちゃう。演出の吉谷さんが頭抱えちゃいますね!(笑)
谷:今回の志賀は、葛藤する部分や頑固なところ、素直になれない面がたくさん描かれています。武者が大好きだからこそ言われるひとことが重いんです。他の人に言われてもさらっと流せるようなことも武者に言われると……。
――ダメージを食らってしまうんですね。
谷:そう、大打撃。落ち込んだり悩んだり、エグいくらいのダメージです。で、そんな状況だから、そうやってダメージを受けている志賀を見た、武者の異変にも気付いてやれない。気持ちを濃く作らないとできないですね。
杉江:「負の連鎖」のように感じます。相手が傷つく。その傷ついた相手のことを思って、自分も傷ついていく。その繰り返しです。
でも、その「負の連鎖」から相手のことを思いやって何とかして抜け出すんです。「この2人、すごい」ってそう思ってもらいたいです。
――想像するだけで涙が出そうです。観客席も涙、涙ですね。
谷:そうなってもらいたいです!(笑)
台本を読んで、志賀と武者のシーンが本当に大切に描かれているなと感じました。すごく有難かったです。それだけ、原作の志賀と武者の関係性を大切にされているんだと。
あと、有島もいい味を出しています。3人ともリンクしているかもしれません。
杉江:もうちょっとしたら、有島がもっと遊べるような空気を作ってあげたいね。
谷:うん、今、(杉山)真宏はいっぱいいっぱいだから!(笑)
生まれ変わる?自分のまま?もしも「転生」するとしたら
――文豪が転生してくるこの話ですが、逆に、ご自分がもし誰かに生まれ変われるとしたら誰になってみたいですか?
谷:坂本龍馬か明智光秀!僕は他の舞台で明智光秀役をやらせてもらっていたんです。
織田信長と坂本龍馬が日本の歴史を100年縮めたって言われているんですよね。その中で、その人たちが何を考えてどう動いていたのか気になる。革命児、異端児たち。いろんな逸話があるでしょう。
でも、どう動いても同じ結末にはなるんだけど(笑)。
杉江:俺は秀吉……いや、西洋に行くかな……でもどっちにしろ、争いとか戦いみたいな、血なまぐさい時代はいやだな、不便だし!(笑)
生まれ変わりっていうか、俺は俺としてその時代のその場に行きたいな。何回生まれ変わっても「杉江大志」でいたい!例えば戦国時代だとして、その時代に「杉江大志」がいたらね!
谷:すぐ死んでるよ。平民で足軽!「やー!」って無茶してすぐやられる(爆笑)。
杉江:そう、調子にのって早めに死ぬね!でもさ、もしかしたら若かりし頃の織田信長にちょっと勇気を与えて死ぬのかもしれない。
谷:それ、めちゃくちゃ歴史の片隅にいるやつだよね。主人公より脇役に魅力を感じるタイプね。
杉江:その後偉大になるやつにちょっと勇気を与えて死ぬの。「みんなだって怖ぇんだよ!」「怖くねえヤツなんていねえ」とか言って。
「俺は、お前のために剣を振る」って言ってそいつを守って、「お前の……大切な人のために、剣を、振れ……」って言って死ぬ。
谷:台本のセリフより恥ずかしい。
杉江:人間、そういう恥ずかしいセリフが大好きなんだよ!(笑)
友達について考える。自分が自分でいられる、素のままの顔を見せられる相手
――では最後に、舞台の中の「友情」になぞらえて、お2人が考える友情についてお聞きします。友達を大切だな、有難いなと思うのは、どんなときですか?
杉江:僕の場合、悩んだときは先輩などの大人の方に相談してしまうことが多いです。友達が有難いな、いてくれてよかったなと思うのは、息抜きのとき。
これだけ好きな仕事をやっていても、落ち込む日はあります。そういうとき、一緒になってバカなことをやってくれる。食い倒れしに行くとか。
ちょっと遠出してそのご当地のものを片っ端から全部食う。そういうとき、友達って大事だなぁって思います。
谷:この仕事をしていると、同世代の人がすごく多いんですよね。でも、どこからが「友達」なのかは難しいです。プライベートで遊ぶようになったら友達なのか?っていうと、そうではないし。
「この人と飲みに行きたいな」と思ったら友達なのかな。この人といたら楽だな、とか。何でも言える、素の自分でいられる。
杉江:言葉を選ばなくていい相手、楽だよね。
谷:うん、そう。自由にできる人。僕けっこうワガママなんで。一人でいるときにそばにいてくれる、そんなときに友達って有難いなと思います。
何度も喧嘩を繰り返しながらも、生涯を通じて、互いに一番分かりあえる相手だった志賀直哉と武者小路実篤。そして彼らを演じる2人もまた、まったく違う考え方を持ちながら、根の部分では似た価値観を持っている。
心地良い空気と信頼感、絆。2人の文豪が「負の連鎖」からどう脱出するのか、友のため仲間のため、どう戦うのか。舞台の開幕を楽しみにしたい。
※載せきれなかったふたりの特別カットは記事下の「画像一覧」に掲載
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