インタビュー

プロ同士で起きる120%の化学反応が楽しい。ペダステ舞台美術の誕生秘話に迫る|秋山光洋【後編】

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素晴らしい舞台を作り上げているのは俳優だけではない。演出や衣装、メイク、デザイナーなど多くの制作者が関わっている。「2.5ジゲン!!」では、普段は見られない舞台裏の仕事にスポットをあてていく。

第3弾の今回は、舞台『刀剣乱舞』や舞台『エヴリィBuddy!』など数々の作品で舞台美術を手がける秋山光洋氏にインタビュー。

この仕事ならではの苦労や喜び、心に残る舞台『弱虫ペダル』でのエピソードなどをお届けする。

※前編
あなたの知らない“舞台美術”の世界。劇場に隠された仕掛けのヒミツ|秋山光洋【前編】

印象に深く残る「ペダステ」では、役者の姿に思わず涙

――今まで手がけた2.5次元作品で、とくに印象に残っているものは?

個人的には、「ペダステ」(舞台『弱虫ペダル』シリーズ)が印象深いです。「2.5次元」という概念が定着し始めてから初めて手がけた作品だし、演出・脚本の西田シャトナーさんとのやりとりもよく覚えている。役者さんの頑張りも印象的ですね。

――西田シャトナーさんとは、どんなやりとりをされたのですか?

とくに印象深いのが、最初にシャトナーさんとお会いしたとき「セットなんて無くてもいいんだよ」と言われたこと。「えっ、じゃあ舞台美術の僕はどうしたら!?」と思いました(笑)。

ただ、よく話を聞いていくうちに、シャトナーさんも「せっかくセットを使うなら、何か面白いことができないか?」と考えているんだなと分かってきました。それでいろいろアイデアを出してみたんです。

――具体的にはどういったアイデアを出されたのですか?

たとえば、よくドラマで使われる手法で、向き合うカップルの中心に固定したカメラを置いて、内側からくるくる〜っと回転する映像を撮ったりしますよね。ああいうことが舞台でも表現できないものかと、シャトナーさんは考えていたわけです。

だから「回転式のセットを作って、その上にスロープを置くのはどうですか?」と提案しました。そうすれば操作する人の力加減で速度も変えられて、立体的にも見せやすい。

スローモーションのようにゆっくり回すこともできるし、急に場面が切り替わるみたいに速く動かすこともできる。そんな提案をしたら、シャトナーさんも「それだ!」と膝を打ってくれたんです。

――ペダステ独自のあの演出は、そんなふうに生まれたんですね。

ペダステのセットはスロープ、坂が中心で、基本的にシンプルです。

それをパズルライダー含む出演者のみんなが動かしてくれて、初めてあの作品は成り立つんですよね。彼らがいつも頑張ってくれるからできるんだと、本当に思います。

――ペダステはとくに、役者がセットの一部を担っているようなところがありますね。

そう。もし役者さんに「こんなの大変です、無理です」って言われちゃったら成立しない作品です。

出演者、とくに初代キャストのみんなが頑張ってくれたから、今の形ができているんだとしみじみ感じます。2代目以降の俳優さんたちは、みんな「あれをやる」のを前提に受けてくれているので。

役者さんにとってはすごい苦痛を伴う作品のはず。でもそれだけ真剣に、必死にやっているからこその面白さが生まれていると思います。

――キャスト陣の頑張りも含めて、思い入れが深いんですね。

僕は芝居を見てもあまり泣かない方なんですが、ペダステのインハイ3日目(「インターハイ篇 The WINNER」)の、坂道くんと真波くんの勝負が決する辺り。あの辺りを初日に観たときは、さすがに色々感極まって涙が出ました。

みんなの頑張りに純粋に感動したし、キャストが一人、また一人と卒業していくのはやっぱり寂しいなという気持ちもありました。

舞台美術の仕事ならではの苦労とは?

――舞台美術の仕事で一番苦労するのは、どんな点ですか?

これは僕がちょっと特殊な例なのかもしれないですが、台本を読む作業が一番苦労します。もともとあまり本を読まない方なんですよ。本を読むと眠くなっちゃったりして、昔から苦手で。

だから読むのが1回ですむように、一つひとつのシーンを頭の中で考えて、スケッチをとりながら読んでいきます。台本の空白部分に小さくスケッチや平面図を書き込んでいく形です。

「このセリフを言っているときはここに立っていて、次のシーンではこう動く」と、頭の中でパズルをやりながら読み込む。

ときには、セットを回転させるつもりで読み込んでいくと、その先で「あ、回転してちゃダメだった」というシーンが出てきたりもします。そうしたら少し戻って、また先へ行って。その作業の繰り返しです。

だから上演時間が2時間くらいの台本を読むのに、4〜5時間かかります。

――たとえば、模型を作っていて「うまくいかない」といった苦労はないのでしょうか?

模型を作っている段階ではもう方向性がほぼ決まっているので、あまり悩みません。悩むとしても、細かいサイズ感やバランス的なところですね。

イメージを出す作業の方がやっぱり悩みやすいです。台本を読みながらイメージがなかなか浮かんでこない、というときはあります。いわゆる産みの苦しみというか、イメージが定まらなくて「うーん」と悩んでしまうことは年1〜2回くらいありますね。

――そんなときは、どう対処されるのですか?

演出家に聞いて解決することが多いです。イメージが出てこないというのは、要するに台本に書いてあることをうまく解釈できていなかったり、矛盾点が気になってしまったりするときなので。

「ここはどうなっているんですか?」と演出家にズバリ聞いて答えをもらうと、「ああ〜そういうことか」と納得して次に進むことができます。

▲秋山さんのアトリエの一角

ひときわ嬉しいのは、120%の化学反応が起きたとき

――この仕事ならではの喜びを感じる瞬間は?

僕は自分の仕事がというより、演劇そのものが好きなのかもしれません。一番嬉しいし楽しいのは、お芝居そのものが面白く仕上がったのを観たときです。

セットの出来云々よりも、芝居全体がうまく噛み合って予想以上に面白くなったときのほうが嬉しいかな。セットが役者さんの力をより引き出してあげられることもあるし、逆に役者さんや演出家がセットの力を引き出してくれることもある。

結果的に芝居が面白くなれば、それはどっちでも構わないんだと思います。

僕がアトリエでやっていることというのは、業務の一部です。つまらない・面白いというよりは、「労力じゃない」と言った方が正確かもしれません。

たとえばライターさんの場合は、こういうふうに取材して文章を書くのがきっと苦痛じゃないから仕事にしているわけですよね。それと同じで、たまたま僕がこの作業を苦痛に思わないから担当している。

台本を読んで、模型を作って、図面を書いて、発注して。その一連の作業を「僕ができるから、やっているだけ」という感覚です。

――そうして作った舞台美術が、他の要素が噛み合った瞬間が楽しい、と。

そうですね。僕はだいたいゲネプロと初日公演を観たら現場を離れるんですが、「すごくいい初日だったな」と感じられる公演というのは、演出家の元でピラミッドが完全にうまく出来上がっているからなんだと思います。

もちろんスタッフもキャストもみんなプロフェッショナルなので、全ての仕事に一定のクオリティを保ってはいる。

でもその結果が100%を超えて、120%を表現できる作品がたまにある。そういう意味で、想像を超えるものを見ることができたら、すごく楽しいです。

――化学反応が起きたとき、ということでしょうか。

そうですね。それは演出家にプレゼンする段階でも同じです。

僕が持っていったプランを使って思いもよらない演出手法を見せてもらえると、すごくワクワクします。「その手があったか!」という新しい発見があると楽しい。

演出家さんというのは、発想力があるからこそできる仕事です。たくさんの引き出しを持つ人たちと何人もお付き合いできることは、この仕事の楽しみの一つですね。

――それもまた、一人では起こせない化学反応ですね。

初めての演出家さんと仕事をするときは、すごく緊張するけど楽しみも大きいですね。関わる作品の第1回目のプレゼンなんかは手が震えるほど緊張しますが、その分楽しいです。

「世界観を決定づける」という大きな責任感

――舞台美術の仕事が果たす最も大きな役割とは、何だと思いますか?

最初にビジュアルを決めるものだから、その作品の世界観を決定づけてしまうのだという意識は持ってやっています。

2.5次元作品ではキャラクターのビジュアルは決まっているけれど、世界観はやっぱり美術に大きく左右されます。

和風の古ぼけたデザインが合う舞台なのに可愛らしいセットをデザインしてしまったら、きっと作品全体が可愛らしい方向に傾いてしまう。それは良くないですよね。

「世界観のベースを決める仕事なんだ」という責任感の大きさは、常に意識しています。

――仕事をする上で、大事にしているモットーはありますか?

基本的には、「来る者は拒まず」というのがモットーです。僕のことを「いい」と思って預けて頂いたお仕事、そういうご縁があって来たものはできる限り引き受けています。

その中で全力を出して一番いいものを作る、ということを大事にしています。当たり前ですが、作品によって手を抜くことはしたくありません。

2.5次元をきっかけに「芝居」の世界を楽しんでほしい

――貴重なお話をたくさん聞かせていただき、本当にありがとうございました。最後に、2.5次元作品を愛する皆さんに一言メッセージをお願いします。

2.5次元で初めて演劇に触れた方もいるかもしれませんが、これをきっかけに芝居の世界全体を楽しんでもらえたら嬉しいです。

ときにはオリジナル脚本の作品も観に行くなど、自分の中にあるお芝居の世界を広げることで、2.5次元をより深く楽しめるようにもなるんじゃないかと思います。

それから個人的には、キャラクターや役者さんを観に来てくださるときに、たまには背景も見てね!と伝えたいかな(笑)。キャラクターを愛するのと同時に、背景にも少し視線をくれたら嬉しいです。

2.5次元の舞台裏シリーズ
・「幽☆遊☆白書」の世界を、3次元に再現した羽尾万里子のデザイナー魂「思い出を持ち帰れるように」
https://25jigen.jp/interview/16126

・舞台幽白・ペダステ…40作品以上のビジュアル撮影を手がけたカメラマン・金山フヒトが語る2.5次元の世界【前編】
https://25jigen.jp/interview/18237

・鈴木拡樹・小澤廉…カメラマン・金山フヒトが見つめた役者の情熱 奇跡の一枚を生み出す「必然」【後編】
https://25jigen.jp/interview/18274

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WRITER

豊島 オリカ
 
							豊島 オリカ
						

観劇好きのフリーライター。2.5次元が大好きです。頂いた日々の活力、勇気、心を揺らす奇跡のような感覚に、どうにか恩返しできないものかと願いながら執筆しています。カーテンコールで拍手することと、鼻ぺちゃな犬も大好きです。

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