インタビュー

あなたの知らない“舞台美術”の世界。劇場に隠された仕掛けのヒミツ|秋山光洋【前編】

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素晴らしい舞台を作り上げているのは俳優だけではない。演出や衣装、メイク、デザイナーなど多くの制作者が関わっている。「2.5ジゲン!!」では、普段は見られない舞台裏の仕事にスポットをあてていく。

第1弾はキービジュアルを含む宣伝美術を手がけるデザイナーの羽尾万里子氏を、第2弾では宣伝写真などを手がけるフォトグラファー・金山フヒト氏を紹介。

第3弾の今回は、舞台『刀剣乱舞』、舞台『弱虫ペダル』、舞台『エヴリィBuddy!』など数々のヒット作で舞台美術を手がける秋山光洋氏にインタビュー。前編・後編にわけてお届けする。

舞台美術ひとすじ21年。初の原作付きは『ROCK MUSICAL BLEACH』

――舞台作品のセットや大道具を設計・デザインする舞台美術のお仕事。始められたのはいつですか?

仕事として始めたのは大学を卒業してすぐで、今年21年目になります。大学では演劇学科に通っていたので、学生の頃から同様の作業に携わることはしていました。

高校ではずっとラグビーをやっていて演劇に興味はなかったんです。でも最後の大会が終わった頃に野田秀樹さんの『国性爺合戦』という舞台を観て、セットのおかげで芝居がすごく立体的に見えることに「面白いな」と感動して、慌てて演劇関係の大学に進学しました。

その作品で舞台美術を手がけていたのが、師匠の堀尾幸男さんです。アルバイトをしながらその方に弟子入りをして、現在に至ります。

――原作付きの舞台に初めて関わられたのはいつですか?

2005年上演の『ROCK MUSICAL BLEACH』です。初演から2作目までを担当しました。当時はまだ「2.5次元」という言葉も無かった時代ですね。

――いわゆる「2.5次元作品」と他の舞台作品とで、仕事内容に違いは生まれますか?

「BLEACH」の初演の頃は、原作サイドからの要望・制約が今よりも厳しかったです。セットに対しても「このシーンはこの背景で、この色で」といった細かい指定がありました。

でも今はそうした制約がかなり少なくなったと感じます。原作サイドの方々にも「舞台は舞台専門のスタッフに任せたほうが作品として良くなる」という考えが定着してきたのかもしれませんね。衣装やヘアメイクについてはまた違うかもしれないけれど。

なので、今は「2.5次元だから」という違いはあまり感じません。舞台『弱虫ペダル』シリーズなんかはとくに、演出・脚本の西田シャトナーさんと話して、あえて原作を意識せずに役者や空間の動き優先で作っています。

意外と知らない「舞台美術」の仕事内容

――舞台美術とは、具体的にどのようなことをするお仕事ですか?

舞台全体の世界観を作る仕事です。台本・プロット・原作といった資料を元に、セットのデザイン・設計を行います。実際に作る大工仕事は大道具会社さんにお任せしますが、予算内に収めるための工夫や素材の選定などもします。

――実際の流れは、どのように進むのでしょう?

僕の場合は、まず台本を読んで自分なりの演出プランを頭の中で組み立てながら、セットのイメージをスケッチします。そのスケッチをたたき台に演出家との打合せを行い、スケッチにOKが出たら、今度は模型を作ります。模型にもOKが出たら図面を引く、というのがだいたいの流れです。

舞台美術も人によってやり方がまちまちで、演出家の話を聞くところからスタートする人もいるみたいです。

――模型はどれくらいの大きさですか?

劇場のサイズによって変わります。小さいものだと床面がA3用紙いっぱいくらいの立方体サイズ。大きいものだと、面積も高さもその倍くらいになります。

――製作期間はどれくらいでしょうか?

だいたい公演初日の2ヶ月前くらいに台本を受け取って、スケッチを始めます。そこから設計が完了するまで約1ヶ月くらいです。

模型と図面は同時進行で作っていくこともあれば、図面を先に書くこともあります。そのときの状況によりますが、僕の場合は迷っているときほど模型を先に作るかな。「こっちかな? それともこっちかな?」と形を見ながら、粘土をこねるような感覚で作っていきます。

ストーリーを盛り上げる「仕掛け」。アイデアはどこから来る?

――秋山さんが手がけた中でも、ペダステはシンプルながら立体的な仕掛けが魅力的です。ああいった仕掛けのアイデアはどこから得るのですか?

子供のオモチャやしかけ絵本から着想したり、収納用品がヒントになったりします。日常生活で不規則な動きをするものを見つけると「これ、どうなってんのかな?」「セットに使えないかな?」って、つい考えちゃいますね。

演出家さんとアイデアを出し合うことで引き出しが増えていく部分もあります。他の人が手がけた舞台を観に行って「こんなやり方もあるのか」と気づくこともありますね。

――常にアンテナを張っている状態ですね。

ホームセンターなんかは、すごく楽しいですね。買うものは決まっているのに、ぐるりと1周回ってしまう。仕掛けに限らず、何かを「別のものっぽく見せる」方法を考えるのが楽しいんです。

本来の使い方以外の使い方を考える、というか。たとえば塩ビパイプに色を塗って鉄パイプ風にしたり、発泡スチロールを瓦礫風に見せたりするのは、セットの定番ですよね。

模型に使うものは、手芸用品や釣具のコーナーでも発見できます。ネイルストーンをスチレンボード(厚みのある発泡スチロール板)に貼って、質感の違う絵の具で塗ったら「錆びた鋲」に見えるなあ、とか。

――工夫して、新しい仕組みを考えることがお好きなんですね。

そうですね。同業者が「これどうやってるの?」って言うようなアイデアが出たときには、思わずニヤリとしてしまいます。

▲その場で急遽秋山さんが制作してくれた

劇シャイ、アオハルライブ。現在進行中の作品について

秋山さんが手がける制作進行中の2.5次元作品は、舞台『エヴリィBuddy!』(劇団シャイニング)、ミュージカル『青春-AOHARU-鉄道』コンサート Rails Live 2019など。それぞれの作品にまつわるエピソードを聞いてみた。

――青春鉄道は、初演から手がけられていますよね。

アオハルは原作漫画でもあまり背景のディテールが出てこないので、想像をいろいろ膨らませました。「鉄道っぽい感じが欲しいかな?」と架線を加えたり、点字ブロックを付けてみたり。

そういう「鉄道っぽい」中であんまり関係ないコントをやっている感じが出ると面白そうだし、そのほうがお客さんも「アオハルを観に来た」という満足感が出るんじゃないかと提案しました。

――なるほど。新作は初めてのライブ形式になりますが、何か違いはありますか?

会場が結構大きいので、遠くから見ても見栄えがするように気をつけています。

普段みたいに舞台とお客さんとの距離が近いなら細かい部分に手をかけますが、今回はどちらかというと大きく見て、役者さんが引き立つようなセットを意識しています。あんまりちまちましないように、大胆に。

――10月開幕の『エヴリィBuddy!』では、劇団シャイニング作品に初参加されますね。

このシリーズに参加するのは初めてですが、脚本・演出の毛利亘宏さんとはもう長い付き合いです。

お互いのことが結構わかっているので、毛利さんに出したプランはたいてい一発でOKをもらえることが多いんですけど、『エヴリィBuddy!』に関しては久々に最初のプランに全ダメが出てしまって。デザインをまるごと作り直しました。

――全ダメ! それはどんな理由だったのですか?

今回のストーリーでは登場人物たちが2箇所の場所を行き来するんですが、どちらのセットに重きを置くかで捉え方に違いがあったので把握にちょっと苦労しました。でもそういう苦労もまた、この仕事の楽しみの一つですね。

ステラボール、サンシャイン…観客が知らない「劇場のヒミツ」

――公演会場が複数ある場合、ステージのサイズが異なりますよね。たとえば品川ステラボールと池袋・サンシャイン劇場では、収容客数は50人くらいの違いでも、ステージの横幅や奥行きはかなり異なるように見えます。そうしたステージのサイズの違いには、どう対応されるのですか?

そこが難しいところですね。たいていの場合は、一番サイズが大きい会場に合わせてセットをデザインします。小さい方に合わせてしまうと、大きなステージに乗せたときにスカスカに見えてしまうので。

大きな方に合わせて作って、小さいサイズのステージでやるときには一部カットしたりもします。

幅と奥行きと同様に、高さも劇場によって違うんです。たとえばパネルを昇降させるとき、劇場Aでは一番上まで全部上がるけど、劇場Bでは半分の高さまでしか上げられない。

そういうときは半分の位置でカットしても絵になるようなデザインをしたり……。お客さんには申し訳ない気持ちもあるんですが、そうやって乗り切っています。

――劇場によって条件が異なるのは、大変ですね。

サイズだけじゃなく、劇場ごとにいろんな制約があったりもします。たとえば品川ステラボールは、シモテ(客席から向かって左側)の袖が楽屋と繋がっていないんです。楽屋にもトイレにも、カミテの袖からしか行けない。

だからステラボールで上演する場合、ステージ奥に90センチくらいの通路を設けられるよう、工夫してセットを作る必要がある。

僕以外の人が作っている舞台もそうだと思いますよ。階段なり壁なり、必ず何かしらで隠して役者の通り道を設けているはずです。

――役者の動線まで、全て計算してデザインする必要があるんですね。

他にもいろんな劇場がありますよ。

池袋のサンシャイン劇場は、カミテ側に袖が全くありません。ステージが途切れたところですぐに壁、という感じです。だからサンシャイン劇場では、大きなものは全部シモテ側から出てくると思います。カミテ側には置くところがないので。

赤坂ACTシアターは逆にシモテに袖がないので、大きな道具はカミテからしか出ハケできません。

新宿・紀伊国屋ホールは、カミテの手前にちょっと特殊な出っ張りがあるので、袖を使うのに結構工夫が必要です。

この4つは、大きい劇場の中ではクセモノと言えるかもしれませんね。

――劇場によって、本当にさまざまな制約があるんですね。

もちろん、お客さんにはできるだけそれを意識させないよう気をつけています。わざとセットに収納を作って袖から登場したように見せたり、袖に入り切らない長い階段はL字型にして、省スペースで作ったり。

僕も他の人が舞台美術を担当した芝居を観に行きますが、「今のよく袖から出したな、どうやったのかな?」っていうのは、観ながらつい考えちゃいます。もう職業病ですね。

後編ではさらに、舞台美術の仕事の苦労、喜び、そして秋山さんの心に残る『ペダステ』でのエピソードなどを掘り下げて聞いていく。

2.5次元の舞台裏シリーズ
・「幽☆遊☆白書」の世界を、3次元に再現した羽尾万里子のデザイナー魂「思い出を持ち帰れるように」
https://25jigen.jp/interview/16126

・舞台幽白・ペダステ…40作品以上のビジュアル撮影を手がけたカメラマン・金山フヒトが語る2.5次元の世界【前編】
https://25jigen.jp/interview/18237

・鈴木拡樹・小澤廉…カメラマン・金山フヒトが見つめた役者の情熱 奇跡の一枚を生み出す「必然」【後編】
https://25jigen.jp/interview/18274

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WRITER

豊島 オリカ
 
							豊島 オリカ
						

観劇好きのフリーライター。2.5次元が大好きです。頂いた日々の活力、勇気、心を揺らす奇跡のような感覚に、どうにか恩返しできないものかと願いながら執筆しています。カーテンコールで拍手することと、鼻ぺちゃな犬も大好きです。

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