素晴らしい舞台を作り上げているのは俳優だけではない。演出や衣装、メイク、デザイナーなど多くの制作者の方が関わっている。「2.5ジゲン!!」では普段は見られない舞台裏の仕事にスポットをあてていく。
第1弾は8月28日に開幕する注目の舞台「幽☆遊☆白書」でキービジュアルなど宣伝美術を手がけたデザイナーの羽尾万里子を紹介する。
▲キービジュアルのデザイン画とともに制作の過程を説明してくれた
――冨樫義博さん原作の「幽☆遊☆白書」は、「週刊少年ジャンプ」(集英社)で1990年から1994年に渡り連載され、1992年から放送したアニメも高視聴率を記録。国内のみならず、世界でも人気の作品です。最初に仕事の依頼が来たときはどう思いましたか。
昨冬に電話で依頼をいただいたのですが、そのときは新宿駅にいて、「幽白の…」と聞いて思わず声が出てしまいました。
しかも舞台『刀剣乱舞』などでもご一緒している鈴木拡樹さんが蔵馬役と聞いて、「これは凄い作品が始まる!」とテンションが上がりました。 その場で「やらせてください」と言っていました。
――いつごろから2.5次元舞台を担当されていたのですか。
7年くらい前です。小さい頃から絵を描くのが好きでした。大学時代は演劇サークルに入っていて、役者をしながらポスターやチラシも作っていました。
社会人になってからも制作を続けて行く中で、たまたま舞台『弱虫ペダル』のプロデューサーと出会い、一緒に仕事することになりました。
それ以降、2.5次元舞台のポスターやグッズのビジュアルデザインをしています。最近では舞台『刀剣乱舞』やFate/Grand Order THE STAGE、舞台『血界戦線』を担当しています。
――もともと「幽☆遊☆白書」のファンだったのですか。
はい。私は中学校の頃に 少し遅れて漫画を読みました。アニメも好きです。推しは「大人コエンマ」。小さかったコエンマが大きくなって出てきたときに、ズキューンと心臓を打ち抜かれました。
でも何よりも漫画自体の面白さに夢中になったのを覚えています。
▲ビジュアルには制作者の思いが詰まっている
現代的でシックなビジュアル 飛影のレアな武器にも注目
――素晴らしいキービジュアルが解禁され、再現性の高さが話題になりました。どのように進めていったのですか。
実際に動き出したのは春になってからです。
まず、ビジュアルをどういう方向性にするか打ち合わせをします。私がビジュアルの線画を描いて、それをもとに写真撮影を進めました。キービジュアルは幽助が霊界探偵をしているときのエピソードに沿って、街を陰ながら守っているテーマで描きました。
衣装や髪のカラーはアニメをベースにしています。ただ、カラフルな色味でポップになり過ぎないよう、現代的でシックな印象にしたいという目標は衣装・メイク・デザインチームで共通認識としてもっていたと思います。
――ビジュアルを作る上でどこにこだわりましたか。
幽助は「霊丸を絶対入れたいよね」という話がありました。カメラマンの金山フヒトさんと相談して、霊丸を出す指の後ろにストロボの光をあてるライティングを作りました。桑原の霊剣もデザイン加工がかなりのっていますが、ベースは同じ撮り方です。
蔵馬はキービジュアルではバラを持ってほしいなと。キャラビジュアルは全員が武器を持つ設定だったので、「薔薇棘鞭刃(ローズウィップ)」を持ってもらいました。鞭の先を固定して躍動感が出るように撮りました。鈴木拡樹さんがパシンパシンと一生懸命、薔薇棘鞭刃を振ってくれる場面もあったんですよ。
飛影は、霊界大秘宝館の闇の三大秘宝の一つ「降魔の剣」を持っています。初期のエピソードでしか見られないレアな武器なのでご注目頂きたいです。
キャラビジュアルにも使われているイメージカラーは、アニメのキャラカラーをベースに考えました。コエンマは青? 飛影は青?黒? 桑原は服が青いから青?など議論した結果、桑原を髪の黄にするとメインキャラクターのカラーバランスが良くなり、現在の形に落ち着きました。
▲幽助の霊丸の撮影シーンについて解説
嵐のような撮影 役者魂に感動「その瞬間の雰囲気を出せる」
――撮影現場はどのような雰囲気でしたか。
楽しかったです。役者さんがキービジュアルのデザイン画をほぼそのまま再現してくださって。経験豊富な役者さんばかりなので、私が言うのは、例えば「飛影は顎を引いた方がより似て見える」など見え方の部分のチェックなので、その先の演技は役者さん。みなさん、作品のキャラ感を最初から持ってきてくれました。
――5人揃って撮影するのですか。
いいえ。スケジュールの関係もあり、それぞれ撮影した写真を合わせます。まるで嵐のような撮影でした。
幽助を演じる崎山つばささんはスケジュールの関係で撮影時間があまりなかったのですが、崎山さんだからこそ、短い時間でも素晴らしいカットを撮ることができました。
――桑原も見事に再現されていますね。
郷本直也さんの桑原が似すぎていて。フィッティングして撮影現場に来た瞬間、そのままだと。素晴らしかったですね。口元、最高です。あごやほお骨の出方(笑)。撮影のバリエーションも豊富で、はっちゃける瞬間もあるし、男のかっこよさを醸し出すときも。自分が大人になると、桑原のあのかっこよさに気づくんですよね。
――飛影は橋本祥平さんが演じていますね。
橋本さんは、かっこいい役からかわいい役までなんでもできる幅広い役者さんですね。以前も一緒に仕事させていただいたので、慣れている感じでディカッションしながら撮れました。
飛影は最初とその後のキャラが全然違うのですが、舞台でどう描かれるのか気になっています。飛影はクールでかっこいいけれど、実はかわいいところもある。ファンが求める飛影をビジュアルで表現しようと思いました。
――飛影と同じく、蔵馬も人気キャラクターですね。ビジュアルづくりは苦労しましたか。
蔵馬は難しかったですね。鈴木さんはファンが多い。そして蔵馬もファンが多い。どのくらい原作に寄せるか、鈴木さんの魅力をどこまで残すか、戦いがありました。
鈴木さんは舞台『弱虫ペダル』からご一緒していますが、彼は1を聞いて10を知ることができる役者さんで、お願いした以上の素晴らしい表現をしてくれるんです。
――鈴木さんはじめ、役者さんの魅力をどのように生かすようにしましたか。
演技力、表情の良さを消さないようにしました。演技が上手な方は目の表情に表れる。いまにも話し出しそうな、その瞬間の雰囲気を出してくれます。それを生かすようにデザインしました。
幽白のキャラクターはみなカッコよさ、かわいらしさ、色んな面を持っています。役者さんが表現してくれた表情をできる限りお見せできるように、制作の際も心がけています。
――荒木宏文さん演じるコエンマはいかがでしたか。
「おしゃぶり問題」があって。おしゃぶりをくわえながら微笑むのは大変そうだったのですが、撮っていくうちに、あっという間に慣れていくので、本当に役者さんってすごいなと。
それと、布がバサッとはためく様子を表現したかったので、荒木さんがジャンプしてくれる場面もありました。
▲デザイナーとして大事にしていることを教えてくれた
夢のような現場 「絶対いいものを作る」緊張感
――漫画もアニメもファンが多い作品です。プレッシャーはありましたか。
皆さんが絶対いいものを作るぞ、という気合、この作品に対する重圧と責任があり、いい緊張感がありました。原作のファンの方にもいいと言ってもらえるようにしたかった。でも苦労という苦労はあまりなくて、素晴らしい役者さん、スタッフに囲まれて、まさに夢の中のようです。
役者さんもスタッフもあえて語り合うというより、感じ取っている感じでした。
例えば『刀剣乱舞』はキャラの解釈のディスカッションがあるのですが、「幽☆遊☆白書」に関してはキャラ像を共有していて、以心伝心でした。スタッフが指示を出す前に、役者さんが同じ事を考えてポーズを変えてくれるといった場面も多々ありました。
――デザイナーとして一番嬉しい瞬間はいつですか。
反響の声をいただいたときですね。キービジュアルが出るときにどう盛り上げられるか。
嬉しいことに、2.5次元舞台のファン以外にも、ヨーロッパやアラビア語圏の方からもツイッターで反応がありました。「幽☆遊☆白書」は世界中から愛されているんだと思いました。伝説的な舞台になってほしいです。
――デザイナーとして大事にしていることは何ですか。
舞台は持ち帰れないもの。お客様は思い出を持って帰るしかない。私が制作したビジュアルが唯一、物質的に持ち帰れるものです。その思い出や興奮が鮮やかに蘇るようなビジュアルにしたいなと思って作っています。
役者さんのいろんな表情を見せたいと思うし、DVDが出るまでの時間、「あぁよかった」という思い出をぶつけるところはビジュアルとグッズしかない。その思いを受け止められるくらい強さがあるものにしたいなと。
思い出とお客様の橋渡しができたらいいなと思っています。
©舞台「幽☆遊☆白書」製作委員会 / ©Yoshihiro Togashi 1990年-1994年
(羽尾万里子提供)
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