2.5次元作品を演出家という切り口から紹介していくコラムの第1弾。初回は「ペダステ」で2.5次元界に新たな表現の可能性を打ち出した西田シャトナー氏を取り上げてみたい。
西田シャトナーという表現者
河野智平さんが、2日前にはツルを折れなかったんですが、今日はユニコーン折りましたよ。 pic.twitter.com/HhsDba0P6X
— 西田シャトナー伯【ジャイ マヒシュマティ】 (@Nshatner) 2019年1月26日
西田氏は大学在学中の1990年に劇団「惑星ピスタチオ」の脚本・演出家を担当。
同時期にスタートさせた即興演劇シリーズ「シャトナー研」では自身も俳優として出演しながら、実験的な表現も含め、ステージ上に多彩な空間を生み出している。
ちなみにその表現力と独創性は幼い頃から折り紙という形で開花している。現在は個展を定期的に開くほど、人気の折り紙作家でもある。
身体での表現を追究するーーその魅力とは
西田氏の代名詞ともいえるのが「パワーマイム」というパントマイムを用いた表現手法である。
パントマイムというシンプルな体を使った表現で、様々な心情や情景、物体を表現する手法だ。そこにはシンプルなセットしかないのにも関わらず、ときに繊細でときに壮大な絵を空間に描き出す。
目から入る情報は少ないにも関わらず、観た者の想像力を掻き立てるのが特徴といえるだろう。
また、「カメラワーク演出」と命名された手法も西田氏の演出の特徴である。
舞台作品では、観客は客席から動くことができない。
しかし、この手法によって、映画でカメラが役者のまわりをぐるりと回ったときの映像のような、臨場感あるシーンを観ることができる。
これらの演出の共通点は、役者の体を駆使するという点である。いわゆる“演劇的”な手法で、それまでの2.5次元作品ではあまり例を見ない演出方法であった。
西田シャトナー演出の2.5次元舞台を観てみよう!その1〜舞台『弱虫ペダル』 〜
2.5次元作品のなかで、西田氏の代表作といえば「ペダステ」こと、舞台『弱虫ペダル』シリーズだろう。
もともとミュージカル『テニスの王子様』でも、テニスボールを照明と音響で表現していた。それも当時はかなりの衝撃を持って迎え入れられたが、そのうえをいったのがこの「ペダステ」である。
自転車レースのストーリーである以上、自転車は欠かせない。普通はそう考えるが、西田氏は自転車をステージに持ち込むことはしなかった。持ち込んだのはただひとつ、自転車のハンドルのみだ。
役者はこのハンドルを手に、まるで自転車にまたがっているかのような前傾姿勢で足を動かす。ハイケイデンスでペダルを回し頂点を目指す原作の熱を損なわないように、役者もまたステージ上で高速でペダルを回し続ける。
華美なセットはない。ただ、そこに役者の体とハンドル、そして会場を覆うほどの熱気があるのみだ。
前述した「パワーマイム」と「カメラワーク演出」が散りばめられたレースの演出は、2.5次元舞台に「こういう手法もありなのか」とひとつの可能性をもたらした。
こういった演劇ならではの、舞台だから観られる世界を表現しようという作品が「ペダステ」以降増えていったように思う。
劇団などで独自の演出を突き詰めてきた演出家たちが、その技法と2.5次元作品を融合させていったのだ。
「ペダステ」にこの手法がハマったのは、原作との相性の良さが大きいのだろう。自転車競技は、コンディションやテクニックももちろん大事な要素だが、最終的に自分自身の体との対話である。
とにかく自分の体を、脚をうごかさなくては、自転車は前には進まない。倒したいライバルには追いつけない。
この部分が、舞台上でがむしゃらに“見えないペダル”を回し続けるために、自身の脚を酷使する役者の姿と重なるのだ。
漫画やアニメでも、キャラクターたちの必死な様子は伝わってくる。しかし、それをよりリアルに“体感”できるのが舞台だ。
普段はきれいにメイクをした顔でブロマイドになっている彼らが、息を荒げペダルを回しステージに汗の水たまりを作っていく。普通にこの運動量だけでしんどいのに、加えて彼らはキャラクターとしてそこに存在し続ける。
こんなに熱いことがあるだろうか。多くの観客が「ペダステ」の熱に当てられ、このシリーズの虜になっていくのも一度味わえば納得できるはずだ。
西田シャトナー演出の2.5次元舞台を観てみよう!その2〜舞台『ALL OUT!!オールアウト THE STAGE』〜
次に紹介するのは高校生たちのラグビー漫画を原作とした舞台『ALL OUT!!オールアウト THE STAGE』だ。
「ペダステ」もそうだが、西田氏の演出は体を資本とするスポーツものと相性がいい。もちろんこの『ALL OUT !!』とも好相性だった。
「ペダステ」では自転車を持ち込まなかった西田氏だが、この作品では逆に選手たちにラグビーボールを持たせた。
ボールを使う作品は舞台ではとてもリスキーだ。手元が狂った場合に、ボールが客席側に転がっていってしまう可能性がある。
だが、西田氏はボールをいくつもステージ上に登場させた。選手が1つずつ持ったボールを使って、ボールの動線を表現したのだ。
ラグビーにとって勝負を左右するパスワークを斬新かつ丁寧に描いたことで、ラグビー自体の醍醐味を損なわずに、ステージ上に再現していた。
こちらは残念ながら現時点でシリーズ化していないが、「ペダステ」とはまた違った肉体がぶつかりあう臨場感が味わえるので、ぜひDVDで観てみてほしい。
臨場感溢れる舞台作品・演出家シャトナー氏
西田氏の作品を2.5次元から好きになった人には、『破壊ランナー』をおすすめしたい。
若手俳優が多数出演しているバージョンもあるので楽しめるだろう。思う存分、シャトナー節を楽しんでみてはどうだろうか。
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