レポート

紡がれる美しき言葉 谷佳樹・君沢ユウキら出演「わが友ヒットラー」対話が生む、感情の波

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CEDAR Produce vol.9『わが友ヒットラー』が、3月19日(土)より東京・すみだパークシアター倉にて上演中だ。本作は、演出家・松森望宏、俳優・桧山征翔らで結成された演劇ユニット・CEDARによる公演。2021年6月に上演予定だったが新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて延期となり、一部キャストを入れ替えての上演となった。

2.5ジゲン!!では本作の公演を取材。作・三島由紀夫の美しく膨大な台詞で紡がれる、男性4人での緊張感あふれる舞台の様子をお届けする。

本作は、1934年にあった“レーム事件”を元にした三島由紀夫による戯曲。ヒットラーが首相として政権を獲得した翌年の出来事で、突撃隊幕僚長のエルンスト・レームらをヒットラーが粛清する話だ。

登場人物は男性4人のみ。アドルフ・ヒットラー(演:谷佳樹)、エルンスト・レーム(演:君沢ユウキ)、党の元ナンバー2のグレゴール・シュトラッサー(演:桧山征翔)、鉄器や兵器などの製造会社社長のグスタフ・クルップ(演:森田順平)。一つの部屋の中、4人が入れ代わり立ち代わり話をする。3人、または4人が同時に言葉を交わすことはなく、常に一対一での対話で話が進んでいく。

聴衆を前にしたヒットラーの演説から始まり、クルップとレーム、クルップとシュトラッサー、クルップとヒットラー…と会話が重ねられていく。会話の中で、互いが互いをどう思っているのか、またはその場にいない他の2人のことをどう感じ、自分はどういう立ち位置でいようと捉えているのかが見えてくる。

今作における4人の関係をごく簡単に説明すると、ヒットラーは首相として左右どちらにも偏らない“中道”の政治を目指している人物。レームは明るく真っ直ぐな気質で、根っからの軍人。ヒットラーのことを友だと信じ、厚い友情の思いを抱いている。

シュトラッサーは社会主義者で、冷静な人物だ。少し引いて自分の立場を見ており、レームとは立場も考え方も相いれない。しかしヒットラーが自分とレームを処分するだろうと考えて、レームに「組もう」と持ちかける。クルップは商人。本作では、この3人にどう取り入ろうか、どう動かしてやろうかと考えながら立ちまわっていると感じる。

上演時間の約2時間15分ほどの間、ほぼひっきりなしに早口での会話の応酬が続く。相手を説き伏せるため、自分の主張を伝えるため、相手の本音を引き出すため…テーブルを囲んで言葉での戦いが繰り広げられ、真剣での斬りつけ合いのような緊張感が舞台上に満ちる。

まず味わってほしいのは、三島由紀夫による台詞の美しさだ。ひとつの文節の中で畳み掛けるように重ねられていく比喩が美しい。これだけの台詞量をいったいどうやって頭に入れたのだろう? と不思議に思うほどの膨大な言葉が、演説や会話として舞台上を駆け巡る。台詞回しや単語の一つ一つは確かに古典的ではじめのうちは耳慣れないかもしれないが、役者の口を通して聞くとリズムがあり、徐々にその世界観に引き込まれていくだろう。

次に舞台美術。奥から、中央にバルコニー、窓、段差、テーブルと椅子。左右全くの対象だ。座る位置、立ち位置も含めてさまざまな受け取り方ができるようになっていると感じる。

磨かれた床はシャンデリアの灯りを反射させ、照明の角度で背景に大きく人物を映し出したり役者の顔にくっきりと濃い影を作り出しもする。照明もセットの一つとしての役割を担っているので、色や明るさ、当て方などにも注目してほしい。

ストーリー面では、例えば「温かい情の気持ちである友情」と「理想に向けての無情さ」といった対照的なものが多数登場する。情熱的なレームと冷徹なヒットラー。広い視野で周りを見ているシュトラッサー、ヒットラーを信じているが故にまっすぐ前しか見えていないレーム。相反する存在や考え方がドラマを生んでいる。

ヒットラーとレームが笑顔で朝食の卓を囲んだり、昔話に花を咲かせれば咲かせるほど、後に来る展開がつらくなる。どのタイミングでヒットラーは、レームらを粛清することを決めたのか…それともはじめから決めていたのか。それは、観劇して思いを巡らせてほしい。

ヒットラーを演じる谷佳樹。「こういう谷佳樹の芝居が観たかった」と思う人も多いのではないだろうか。屈託のない笑顔でレームと懐かしい話をしたかと思うと、何者も寄せ付けないようなぞっとするほどの冷たい表情や燃える眼差しを見せる。

レームを演じる君沢ユウキはハマり役だ。事前に行われていた告知配信で「レームが君さんだと聞いて勝ったなと思った」と谷が口にしていた通り、明るく真っ直ぐで、自分の信念もヒットラーも疑っていないレームにぴったりだ。レームの直情さは頑固で、ある意味周りの意見をまったく聞かない傲慢さも感じる。

シュトラッサーは、桧山征翔の芝居で、理知的に計画を練りながら情に訴えかけもできる人物として表現されている。かつてナンバー2でありながら失脚した過去を持つためか、これ以上立場を危うくさせたくない、そのためならレームとも組む、そういった計算も見えてくる。

クルップを演じる森田順平。その経験値の高さで、舞台に重さと質感を与えている。存在しているだけで説得力があり、声はもちろん表情一つさえも見逃すことができない。狡猾なクルップの手のひらで他の3人が踊らされ、ストーリーが進んでいるのではないだろうかとさえ感じてしまうが、最後には…。

客席に背を向けヒットラーが演説をしている時の声以外は、すべて役者の生の声だ。マイクを通さない肉声により、さらに生々しい感情が伝わってくるように感じる。舞台との距離も近く、指先で机を叩く音や、足音、杖をつく音やため息一つまで聞こえてくる。演じる側はもちろん、観る側も、いっときたりとも気が抜けない。

公演が行われているすみだパークシアター倉は、JR錦糸町駅から早足で15分ほど歩く。できれば上演時間の30分前には駅に着いておきたい。おすすめの行き方は、錦糸町駅北口を出たらロータリーを左に、北斎通りを道なりに真っ直ぐ3~4分ほど進むと区立大横川親水公園に出る。公園内を、スカイツリーに向かってまっすぐ10分ほど歩くと右手にカフェと倉庫が見えてくるのでそこが劇場だ。

すみだパークギャラリーささや(ささやカフェ)と一緒になっているため入り口が分かりづらいかもしれないが、左手から入って左を向くと劇場の入り口になっている。

過去に何度も上演がされている名作戯曲の上演。紡がれた美しい言葉を浴びて、計算しつくされた“芝居”ではなく対話から生まれる感情の波に溺れ、心地良い脳の疲労を感じるためにぜひ劇場へ足を運んでほしい。

公演は3月27日(日)まで。

取材・文:広瀬有希

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公演情報

タイトル

CEDAR Produce vol.9『わが友ヒットラー』

公演期間・劇場

2022年3月19日(土)~2022年3月27日(日)
東京・すみだパークシアター倉

出演

アドルフ・ヒットラー:谷佳樹
エルンスト・レーム:君沢ユウキ
グレゴール・シュトラッサー:桧山征翔
グスタフ・クルップ:森田順平

三島由紀夫

演出

松森望宏

公式ホームページ

https://www.cedar-produce.com/

公式Twitter

@cedar_engeki

WRITER

広瀬有希
							広瀬有希
						

金融・印刷業界を経てフリーライターへ。エンタメメディアにて現場取材・執筆の他、日本語・日本文化教育ソフト監修、ゲームシナリオ、ノベライズなどで活動中。感動が伝わる文章を目指して精進の日々を送っています。

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