インタビュー

谷佳樹、“追い込み”と“比較”からの卒業…今は「以前よりももっと楽しい」

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演出家・松森望宏、俳優・桧山征翔が結成した演劇ユニット“CEDAR”による『わが友ヒットラー』が3月19日(土)、東京・すみだパークシアター倉で開幕する。当初、2021年1月に上演予定だったが新型コロナウィルス感染拡大の影響を受けて延期に。今回は一部キャストを入れ替えて上演される。

2.5 ジゲン!!では、主演のヒットラー役、谷佳樹に単独インタビューを実施。昨年延期が告げられた時の思いから現在の稽古の様子、この1年で始めたという読書による影響や最近の心境の変化などについて話を聞いた。

――今作では、役としてもテーマとしても難しいものに挑戦されます。役作りはどのようにされていますか?

ヒットラーを演じるにあたり、若き頃の彼を描いた「我が闘争」という映画をはじめ、さまざまな資料を調べています。それから、演出の松森望宏さんも囲んでみんなでディスカッションを繰り返しています。これまで色々な歴史上の人物を演じてきましたが、その誰よりも現代に近い時代に生きていた人物なのに、実在の人物だとはとても思えないことばかりで驚くとともに恐ろしさも覚えます。

今作は、ヒットラーが首相に就任した翌年1934年にあった「レーム事件」を元にしています。ここでヒットラーは、友であるレームを粛清します。我々が抱いているヒットラー像が出来上がる前と考えられている頃の話です。

周りからの圧力と首相である立場との間で板挟みになり、さらに色々な人間との関係が影となってちらついている。自分の理想とする政治のためには、友であるレームを切り捨てて処分しなければいけない…。感情面ではそういった苦しみを表現し、身振り手振りなどを含めた演説の仕方は実在の映像を参考にしていきます。

――登場人物が4人ととても少人数での会話劇です。稽古の様子はいかがですか

楽しくて仕方がないです。実は今回、普段出演しているジャンルの舞台とは大きく違うことがあって、“被り”を気にする立ち位置にそれほど制約がないんです。それから、会話と会話の間に“間”も普通にあります。

なぜかと言うと、普段こうして人と話している時って「あ、被ってる」なんて気にしませんよね。相手が話している時に「本当は何を考えているんだろう?」と思えば次の言葉を発する前に間も空きます。いつも出ている舞台であれば、相手の間があけば「セリフ飛んだ?」なんて焦ってしまうのですが、今回はそうではありません。セリフを読むというより、人として相手と会話をして、生の感情をやり取りしている感覚です。

それだけにすさまじい集中力が必要で、稽古の後はいい疲労感が残ります。気付いたら夕方になっている日もありますし、ぎゅっと短時間で稽古を終わらせる日もあります。

レーム役の君さん(君沢ユウキ)は、共演経験もありますし、価値観が似ていてすごく波長が合う人です。クルップを演じられる森田順平さんは、この作品の質や重さをがっちりと固めてくださっていて、森田さんがいるから大丈夫だと思える安心感があります。桧山征翔(シュトラッサー役)くんは昨年から変わらずのキャストですね。昨日も「これ、絶対面白い作品になるね」と話しながら帰りました。

この信頼できる4人での会話劇、張りつめた緊張の糸が見えるようなものをお届けできると思っています。

――昨年1月に延期が決まった時は、どのようなお気持ちだったのでしょうか。

目まぐるしく情勢も変わりゆく中「公演はできないかもしれない」と、日々不安が目の前にちらついていたので、延期が知らされた時は、残念であると同時にふっと力が抜けた感覚がありました。

ただでさえ、先行きが見えない中で稽古をするのは身が入らないものです。ましてやこの作品は生半可な気持ちや覚悟ではできないので、相当な集中力が必要なのに。膨大なセリフ量を頭に入れて、理解するために、台本を読み込んでいましたが、“心ここにあらず”の状態で…。そんな状態での稽古だったので、延期だと聞いて力が抜けたのでしょうね。

しかし「中止」ではなく「延期」なので、この作品のことはずっと心の底にあるままでした。家でも目に付くところに本作の台本を置いていたのですが、手に取って開くのは相当な勇気が必要で、いっそ封印してしまおうかと思うほどでした(笑)。

いざ、もうすぐ稽古が始まる! となっても、1年前の重い気持ちがトラウマになっていたのか、なかなか前向きになれませんでした。でも不思議なことに、発表されたキービジュアルを見た瞬間にパチッとスイッチが入ったんです。そこからは気持ちが一気に加速して、前向きに稽古に臨めるようになりました。

――稽古に入って、去年と変化を感じたことはありますか。

文字に対する恐怖感がなくなりました。去年は、絶望するほどの膨大なセリフ量に振り回されていたように思えます。とにかくセリフを覚えるのに精いっぱいで、状況を掴んで世界観や気持ちを作り込むところまで行きつけずにいました。

今は台本を開くのが楽しみで仕方がないです。去年セリフを覚えたから今年は台本に抵抗なく稽古に臨めているのでは? と思われるかもしれませんが、きれいさっぱり忘れてしまっていたんです(笑)。これはまずいと思ったのですが、この一年で読書が好きになったので文字への抵抗がなくなり、楽に…とは言えませんが台本と役に向き合えています。

読書は、先輩の平野良くんに薦められて始めました。まず読んだのは去年本屋大賞を受賞した「流浪の月」(凪良ゆう/東京創元社)です。多くの書店員さんが投票する本屋大賞を取っているのだからハマるはずだ、と平野くんに言われて読んでみたら面白くて! 勢いがついて、加藤シゲアキさんの「Burn.-バーン-」(角川書店)やさまざまな本を読み始めました。

――読書を始めたことで、役者として他にどのような作用がありましたか。

想像力が広がって、見える世界が全く違ったものになったように感じます。街並みや登場人物を想像しながら読むのが楽しいんです。キャラクターの気持ちや状況が以前よりも早くつかめるようになったので、台本の読み方が一気に変わりました。

今作で言えば、演説も、演説のシーンを演じているのではなく、誰に向けて何を伝えたい演説なのか? というビジョンが見えたので、言葉の発し方も去年の稽古の時とは全く違ったものになりました。

でも実は、まだ三島由紀夫作の小説には手を出していないんです。戯曲と小説ではだいぶ違うだろうな、と思いますしね。今作が終わったら読んでみたいです。

――読書体験以外でも、この一年でご自身が変わったと感じることはありますか。

2つあって、まず、頑張りすぎることをやめました。がむしゃらに一生懸命何にでも向き合って、毎日壁を乗り越えていくような生き方をしていたのですが、人を楽しませるためにはまず、自分が人生を楽しまないとと思って。

お風呂に入りながらでも台本を読んで、毎日切羽詰まって役作りをして稽古に臨む…その姿勢も素晴らしいのですが、もっと心に余裕を持ってさまざまなことに目を向けようと思ったんです。必死に頑張らないと不安で眠れないほどだったのが、最近では、家に帰って台本を読んで、映画を観てから寝よう! というように肩の力が抜けています。

それから、人と比べることをやめました。友達のあいつはあんな大きな作品に出ている…とか、俺ももっとキラキラしている舞台に出たい! とか(笑)。もちろんそうなれたら嬉しいですけれど、自分の頑張りや適性を認めてあげられるのは、まず自分自身なんですよね。

そう考えたら、一つ一つのお仕事が以前よりももっと楽しく感じられるようになりました。僕のことをちゃんと見て、僕に合った仕事を持って来てくれているマネージャーにも感謝しています。

――最後に本作の見どころとメッセージをお願いします。

三島由紀夫が届けたかった、作品の奥底にあるメッセージを肌で感じてほしいです。普段こういったジャンルの舞台に触れない人にもたくさん見てもらえたら嬉しいです。

観終わって、あの時間はいったい何だったんだろう…と感じるほどにのめり込める作品だと思います。映画館の最前列に座って視界が全てスクリーンになって他の何も目に入らないのと同じように、この世界にどっぷりと入り込んでもらいたいです。

稽古をしながら、他のキャストの皆さんも制作陣も本当に演劇が好きな人たちなんだと日々思っています。男4人で板の上でバチバチにバトルを繰り広げます。この先、こういった作品を観られる機会もなかなかないと思うので、ぜひこの機会に観てください!

取材・文:広瀬有希/撮影:遥南碧

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公演情報

タイトル

CEDAR Produce vol.9『わが友ヒットラー』

公演期間・劇場

2022年3月19日(土)~2022年3月27日(日)
東京・すみだパークシアター倉

出演

アドルフ・ヒットラー:谷佳樹
エルンスト・レーム:君沢ユウキ
グレゴール・シュトラッサー:桧山征翔
グスタフ・クルップ:森田順平

三島由紀夫

演出

松森望宏

公式ホームページ

https://www.cedar-produce.com/

公式Twitter

@cedar_engeki

WRITER

広瀬有希
							広瀬有希
						

金融・印刷業界を経てフリーライターへ。エンタメメディアにて現場取材・執筆の他、日本語・日本文化教育ソフト監修、ゲームシナリオ、ノベライズなどで活動中。感動が伝わる文章を目指して精進の日々を送っています。

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