6月27日(日)に開幕する舞台「WORLD〜Change The Sky〜」。2013年の初演、2016年の再演に続く第3弾公演となる。
物語の舞台は、2021年の東京。派出所で一人の警官が殺害される。犯人のレインコートについた返り血は雨によって洗い流され、さらに、2人目の犠牲者が発見される。一方、18年前に雨が降る奥多摩で起こった、保育士の女性殺害事件。2つの殺人事件の因果関係とは…世界を変えようとする人間たちの物語が描かれる。
2.5ジゲン!!では、主演の校條拳太朗(三上龍司役)に単独インタビューを実施。連続殺人犯という難役を演じる思いや人生のターニングポイントなどを聞いた。
「芝居をしない」役作り
ーー連続殺人犯という役を聞いたときのお気持ちを教えてください。
台本を頂く前に連続殺人犯だと聞いて、こういう役が初めてだったので「難しいな」と思いました。役作りのための勉強がしにくい役ですからね。
例えば、お医者さんの役を演じるとしたらお医者さんの勉強をすることはできるけれども、殺人犯となると、色んなサスペンス作品を見たりして勉強していかないといけません。役作りに骨が折れそうではあるのですが、難しい分、ワクワクするので楽しみな気持ちが強いです。
ーー初めて脚本を読まれた時、ストーリーについてどんな印象を持ちましたか。
テレビドラマのような展開だと感じました。スリルがたっぷりの“ジェットコースターサスペンス”です。それを舞台でどう表現するか…役者冥利に尽きるストーリーです。
キャラクターたちには、それぞれが主人公であるくらいの背景があって、皆が自分自身の中の正義を持って行動しています。その正義と信念がぶつかりあって色々なものが生まれていくんです。
それから、すごく身近なところに殺意の種のようなものがあるんだなと感じました。この話であれば“愛情”ですね。すごく人間くさくてドロドロした感情も描かれているけれども、美しい部分もあります。
ーー今回演じる龍司というキャラクターをどのように捉えていますか。
脚本・演出の菅野臣太朗さんともお話をさせていただいたのですが、龍司はとてもピュアな人物なんです。18年間ずっと大切な人のことを思い続けながら生きている。また、殺人犯ではあるのですが、決して快楽のために殺人を犯しているのではありません。結果としてそうなってしまっているんです。
きっと18年の間、失ったものを取り戻したいと思いながら救われることもなく、胸に大きな穴が開いた状態で過ごしてきたのだと思います。孤立した状態でそこに囚われたまま、時間の進まない1人だけの世界にいたのでしょう。
人を殺すということはどうあがいても肯定できないものですが、その裏側にある龍司の愛情の部分に重きを置いて演じていきたいです。彼の気持ちに寄り添って観ていただけたらと思っています。
強い思いを持つ龍司の気持ちをどう表現していくのかは、臣太朗さんとこれから話し合ったり、共演の皆さんとセッションしながら作り上げていこうと思っています。
ーーこの役を演じるにあたり、どのように役作りをしていこうと思いますか。
例えば、自分の母が殺されてしまったとしたら…。そして、その犯人がのうのうと生きていて、目の前に現れたら…? 龍司は相手を殺してしまいますが、実際、僕にはそれはできない。その、龍司と僕の差をどう埋めていくのかを考えていかないといけません。
龍司はその時どう思って殺したんだろう? どうやって? 方法は? 参考になるようなドラマの殺人シーンなどを見ていると、ぐっと重い気持ちになってしまいます。答えという答えがないものですから…。
その瞬間は理性と自分が校條拳太朗であるという事実を捨てて、殺人犯を演じたいなと思っています。
連続殺人犯として生きるこの舞台が終わった頃には、演じたからこそ、過ちの大きさを知り、何かを失った時の気持ちを受け止められる人間になれるかもしれないと思っています。
どの仕事も“チェンジ”だった
ーー2020年はドラマや映画といった映像のお仕事も経験もされましたが、今作にどのように生かされますか。
映像のお仕事では、ナチュラルさと間を学びました。無理して演じなくていい、自分が感じたままに言葉を発して、そこにセリフを乗せていく。ナチュラルな演技と会話のテンポを映像で学び、これは舞台でも生かせるなと感じました。実際、映像の後にあった舞台のお芝居がすごくやりやすかったのを覚えています。
今回の舞台は、映像の時と同じく原作のないオリジナルであり、ストレートプレイなので、よりナチュラルさが求められます。特に今回は人間の欲望や思いが行き交ってぶつかり合うので、間によって生まれる空気を大事にしながら、繊細にナチュラルに演じていきたいです。
龍司を演じるために、芝居をしない。芝居なんだけれども、校條拳太朗として、同時に龍司でいる。龍司として生きて、自然な流れで殺意を持つ。そうやって役を作り上げていきたいと思っています。
ーー「Change The Sky」ということで、2020年に“Change”したと思うことは何ですか?
人との歩み寄り方が変わったなと感じます。僕はもともと1人が好きで人見知りだったんですけれど、積極的に話にいかなければと思うようになりました。
稽古が終わってお酒を飲みに行って、くだけた話をして、より関係性を深めてそれを芝居に生かすということができなくなったので、積極的に話をして関わっていかないと、人となりを知らずにお芝居をすることになってしまいます。
今作は特に感情がぶつかりあいますし、大きく絡まない人とでもどこかで感情が繋がっています。カンパニー全体の空気感や協調性を作るために波長を合わせることも必要なので、積極的に皆さんと関わっていきたいと思っています。
ーーこれまでの活動を振り返って、ターニングポイントはどこでしょうか?
どのお仕事も“チェンジ”だったなと思えるのですが…大きく変わったなと思うのは、2.5次元ダンスライブ「ツキウタ。」ステージ(ツキステ。)とドラマ「CODE1515」(2020年、BSフジ)です。
僕は、自分の責任は自分で取るというような “個”の人間で、人見知りでもあったのですが、「ツキステ。」ではチームであることを強く感じました。僕は睦月始というチームのリーダー役を演じたのですが、リーダーとしてチーム全体に対するアドバイスを頂くこともありました。
はじめは、チームであることとリーダーとしての立場に少し戸惑いを覚えましたが、チームの力を上げるためには皆で力を合わせることが必要だと感じるようになりました。一人の力ではなく、皆で一緒になって一つのものを作るという意識ですね。
また、「CODE1515」に出演したことで、自分の表現の幅が広がったなと感じるようになりました。舞台は最後列の方にまで同じ熱量を届けるために、どうしてもお芝居やボディランゲージが大きくなります。でも映像はそうではなくて、目線を少し変えるだけで表現が変わったり、“何もしない”も表現のうちだと学びました。表現の幅が広がったことで、より一層、芝居を楽しいなと思えるようになりました。
ーー今作では雨が効果的な演出として使われますが、雨にまつわる思い出はありますか?
僕、実は晴れ男じゃないかなと思っているんです。でも、雨男、雨女と言われている人たちのパワーには負けちゃうんですよ(笑)。
地元の友達に雨男だなっていうやつがいるんですけど、そいつと一緒になるともう大変なんです。あったエピソードとしては「海に行こうぜ!」っていう話だったのに、台風が来て嵐になっちゃって、もう大荒れで海が真っ暗(笑)。
ーー雨男のパワーは強いですね(笑)。
強いですね。役者さんやプロデューサーさんにも雨男、雨女の方っていらっしゃいますけど、もともと芸能って雨乞いの儀式が由来しているって言われていますし、それはいいことですよね。
でも今回の舞台、できれば初日は雨が降ってほしくないですね!(笑) もし降っても、幸先がいいなと思って切り替えていきたいです。
ファンへのメッセージ
ーー今作は「WORLD」のシリーズ3作目です。このシリーズの根底にあるものをどのように捉えていますか。
「WORLD」は非現実と現実がものすごく入り組んだストーリーです。殺人は身近にあるものではないけれども、「こんなところに殺意の感情があったのか」と思ってしまうほどに現実的でもあります。
それから正義について。役者のエゴではありますけれど、こういう役を演じることで自分にとっての正義を再確認できます。みんながそれぞれ自分の中にある正義や何気ない感情で動いているから、何が過ちなのか分からなくなってしまうことがあります。
最近だと、ネットの誹謗中傷もそうですよね。している人は悪気がなかったり、深く考えていないかもしれないけれど、相手の表情や声色も分からないし、受け取り方によって解釈が変わってしまうことも大いにあります。文字だけの世界ですから、冷たく感じたり、ひどく受け止めてしまったり…。
何が正義なのか、自分の中にある正義は果たして正しいものなのか? そういうことも、稽古していきながら確かめていきたいと思っています。
ーー最後に、ファンの皆さんにメッセージをお願い致します。
このような状況ですから、観劇に来てくださる方も色々な不安があるかと思います。でも、観に来てくださる方には、しっかりと生の舞台の良さをお伝えして、観に来て良かったなと思ってくださるものをお届けしたいと思っています。
文:広瀬有希/撮影:ケイヒカル
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