舞台「無人島に生きる十六人」が4月15日(金)に新宿・全労済ホール/スペースゼロにて開幕した。
本作は、須川邦彦による海洋冒険譚『無人島に生きる十六人』の舞台化作品。1899年(明治32年)に実際に起こった、船の遭難と漂流、数カ月にわたる船員たちのサバイバル生活を記録したものだ。
2.5ジゲン!!では、初日公演にさきがけ行われたゲネプロをレポート。大自然の脅威にさらされ、翻弄されながらも前向きにたくましく暮らしていく十六人を描いた舞台の様子をお届けする。
ストーリー上の大きなターニングポイントとなるシーンなどには触れないが、見どころとなる写真は掲載するので、まっさらの状態で観劇したい人は観劇後にレポートを読んでほしい。
舞台は、十六人が乗った帆船・龍睡丸が嵐に飲み込まれて遭難するシーンから始まる。龍睡丸は、日本の漁業の発展のためにさまざまな知識を得るべく日本から四千キロ離れたハワイ諸島を航海中であった。その折、ひどい嵐に見舞われた。
中川倉吉船長(演:中村誠治郎)の指示のもと必死に運航を立て直そうとするものの、パール・アンド・ハーミーズ礁の付近で船は座礁。船員たちは龍睡丸から伝馬船(親船に搭載された小型の連絡船)に乗り換え、二週間の漂流を乗り越えて、とある無人島にたどり着いた。
龍睡丸から何とか持ち出せたわずかな缶詰以外は、水も食料もない。海図も流されてしまった今、ここがどこかも分からない。ここで耐えしのぎながら、いつ来るか分からない救助を待つか、無理をしてでも島を出て本来の任務に戻るべきか…。
身寄りがなく天涯孤独な国後孝夫(演:櫻井圭登)は「自分の命はもらったものだから…」と、周りの助けになるためならといつも命を投げ出そうとする。心優しくまだ経験の浅い国後に、率直に物を言う範多ウィリアム(演:校條拳太朗)と父島ケレップ(演:田淵累生)はイラつきをあらわにする。
国後を常に気にかける、幼なじみの小川仁太郎(演・松田岳)。水産講習所の学生、浅野達之助(演:井阪郁巳)と秋田康成(演:佐伯亮)。明るく声の大きいムードメーカー・川口雷蔵(演:小坂涼太郎)、父とともに船に乗る経験豊富な水夫・杉田傳(演:前田隆太朗)。
彼らの精神的支柱である中川船長、海を知り尽くした経験者・小笠原チャールズ(演:柳瀬大輔)、温厚な杉田丑五郎水夫長(演:加藤靖久)、冷静で頼りになる運転士・榊原作太郎(演:反橋宗一郎)、食物の知識が豊富な漁業長兼料理長の鈴木孝吉郎(演:稲葉光)、海が大好きな三人の水夫・高崎和平(演:穴沢裕介)、信澤与一(演:吉川大貴)、池本善太郎(演:寺島レオン)。
難破した他の船の銅板を叩いて伸ばし、彼らはそこに「救助乞う 龍睡丸難破 パールアンドハーミーズ」と通信文を彫り、毎日海に流す。必ず誰かが拾い、読んでくれるだろうと希望を持って。
これまで生きてきた背景の違う十六人が、それぞれの信念や価値観の違いでぶつかり合いながら、無人島でのサバイバル生活を始めることとなった。果たして彼らは、誰ひとり欠けることなく日本に生きて戻れるのだろうか――。
原作は、実話を元にした海洋冒険譚。中川船長の一人称で書かれており、事実とそれに対して感じたことなどがつづられている。明るく前向きに生きた内容の原作を、舞台では他の十五人各々の背景を掘り下げて描いている。彼らの性格や信念を丁寧に書くことで、ぶつかり合う理由も、各々の関係性も浮かび上がってくる。
海に出た理由、船に乗る理由。自然の脅威に遭いギリギリの状態だからこそ、飾ることも偽ることもない本音が出る。そんな状態でも、生きよう、死ぬなと仲間を想う彼らの姿に、胸が熱くなる人は多いことだろう。
時には暗い気持ちに飲みこまれそうになるシリアスな瞬間や、笑いどころ、(恐らく)日替わりであろうお楽しみ箇所もある。それらの緩急がちょうどよく、観劇後は満足感で晴れ晴れとした気持ちになる。
“舞台”と銘打ってはいるが、冒頭から迫力のある歌とダンスが目いっぱい詰め込まれている。安定感のある大人組の歌、荒々しくも生命感あふれる水夫たちのダンス、しっとりと心情を歌い上げるバラード、いさかいを表す歌…観どころ、聴きどころが多く、休憩時間を挟んで二時間半ほどの上演時間であるが、気持ちがだれる瞬間がない。
特に、小笠原チャールズを演じる柳瀬大輔の豊かな歌声は、本作の大きな魅力の一つだと言えよう。歌が終わる、ダンスが決まった、そんな瞬間に思わず拍手を送り、ノリのいい楽しい曲では手拍子をしたくなる。
大自然の前の人間の小ささ、仲間を信じる心、気持ちを一つにするなど、込められたメッセージは非常にたくさんあるが、難しいことはない。本作は、文化庁子供文化芸術活動支援事業対象公演として、6歳(小学生)~18歳以下の人を無料で招待しているという。この力強い舞台を、ぜひ若い耳と目で感じてほしい。詳細は公式サイトを確認しよう。
なお、開場中は、公演中を除いてスマホでの舞台撮影が可能だ。上演前と休憩中に撮影して、時間経過によるセットの変化を楽しんだり、観劇の思い出にするなど積極的に楽しんでほしい。
取材・文:広瀬有希/撮影:ケイヒカル
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