畠中恵「しゃばけ」シリーズPresents シャイニングモンスター ～ばくのふだ（Shining編／Shadow編）～が2021年3月13日（土）、東京渋谷・CBGKシブゲキ!!で開幕した。
同舞台は畠中恵の小説“しゃばけ”シリーズの１冊『ひなこまち』収録の物語を原作に、「Shining編」と「Shadow編」の2種類が上演される。ジャニーズ事務所を退所したばかりの錦織一清が演出を手掛けることでも話題になっている。
ここでは、公演に先立ち行われたゲネプロ（Shining編）とフォトセッション、会見の様子をレポートする。
ロックなお江戸演出による2編融合のストーリー
時は江戸時代。廻船問屋兼薬種問屋、長崎屋の跡取り息子一太郎（前川優希）は「若だんな」と皆から呼ばれている。身体の弱い一太郎はすぐに寝込んでしまうほどの虚弱体質で、手代の佐助（小沼将太）と仁吉（井澤勇貴）はいつも一太郎の世話を焼いて心配していた。
実はこの手代の2人、正体は“あやかし”。何においても一太郎が大事で常に付き添い寄り添っている。
今日も若だんなのもとに何やら事件が舞い込んでくるーー。今回はどんなあやかしが登場するのだろうか…？
原作小説「しゃばけ」内の『ひなこまち』に収録されている「ばくのふだ」「ろくでなしの船箪笥」2編が元になっているとのことで、どちらかが「Shining編」、もう一方が「Shadow編」なのだろうと思っていた。
しかしそうではなく、この2編がうまく融合された一本のストーリーになっている。落語とほんの少し恐ろしい要素のある「ばくのふだ」、何者かが助けを求め知恵を絞って奔走する「ろくでなしの船箪笥」。なるほどと納得する自然な展開だ。
体が弱く儚げなれども「仕事がしたいんだよ」と2人の手代に強く願う、芯の強い若だんな。心配性の親のように甘やかせてずっと若だんなに寄り添う佐助と仁吉。
威勢のいい屏風のぞき（反橋宗一郎）と、ちょこまかと目にも楽しい獺（阿部大地）。トリックスターの磯貝龍乎演じる場久が、恐ろしさと爆笑を舞台に巻き起こす。
6人という少数精鋭の役者と歌姫・アマビエ（真城めぐみ）で構成された隙のない舞台だ。セリフを発していない場面でも、役者の表情や動きから目が離せない。
歌ありダンスあり。手拍子で大いに盛り上がり、マスクの下では思い切り笑って、この少し息苦しい現実を忘れ、幸せなひとときの夢を見てほしい。悪い夢はきっと、ばくがすべて食らい尽くしてくれるだろう。
「Shining編」と「Shadow編」両方観てほしい
上演時間は80分。肩の力を抜いて気楽にふらっと「ちょっと時間があるし、ちょうど面白そうなことをやっているな」という気持ちで観に行けるような舞台でもある。
いい意味で力の抜けた役者たちの芝居、ソウルフルでパワフルなアマビエ役の真城めぐみの歌声。全編にわたって西寺郷太による頭に残りやすく気持ちいい音楽が、さらに気持ちをわくわくさせてくれる。
オープニングからエンディングまで「楽しい」が続く。頭の中には始終、カラーインクで着色されたような鮮やかな色合いの浮世絵が浮かんでいた。富士山、荒波日本海、そこにドンと乗せられた江戸勘亭流文字の「JAPAN」。なるほどロックだ。
事前に行ったインタビュー取材で錦織が語っていた通り、この時代に出てこないものでもどんどん出てくる。小道具や英語の歌、奇抜な衣装に派手めなメイク。客席をいじり、演出家をいじる役者たちは実に楽しそうだ。
芝居上そう見せているのか、それとも実際にそうなのかは分からないが、役者たちは皆、余裕を持っているように感じられる。そのため観ている我々も必死になりすぎずに大いに笑い楽しめる。
正直なところ、はじめは「錦織一清演出の本髄を見届けねば」などと妙に肩の力を入れた緊張感を持って会場へ向かった。しかし、幕が開いてみればそれらを全て忘れ、ただただ楽しんでしまった。
キャラクター同士の関係性の説明が芝居の中で自然になされているので、原作を読んでいない人も置いてけぼりにされることはないだろう。この舞台を観て「原作を読んでみたい！」という気持ちを強く抱くこと違いない。元々の原作ファンは「この2編がこんなにも自然に1本のストーリーになるのか」と驚くだろう。
もちろん「Shining編」だけでも十分楽しめるのだが「Shadow編」もあわせてぜひ観てほしい。2本合わせて観ることでより楽しめる構造になっている。
望めるのであれば、このキャストやスタッフそのままでこれからもずっと見て行きたい舞台だ。
全キャスト＆演出・錦織一清コメント
ゲネプロ後の会見では、キャスト、演出・錦織一清から一言ずつ挨拶があった他、座長の前川と錦織2人で同舞台への思いを語る時間が設けられた。
一太郎役：前川優希
一太郎は芯が強いと言っていただいていますが、病弱であやかしたちに世話を焼いてもらっていて、一人で生きていくのが難しいかもしれません。でもそれは、現在に生きる僕らも同じでありますし、演劇をしている役者である僕たちも真に感じることです。一人では舞台に立つこともできませんし、また観ていただく方がいて初めて成立するものです。そういうメッセージを込めつつ、あやかしたちと日々を大切に生きて、皆さんに素敵な思いをしていただけたらなと思っています。最後まで精いっぱい頑張りますのでよろしくお願いいたします。
仁吉役：井澤勇貴
この「しゃばけ」シリーズはこれまでも何作か上演されてきて、今回ニシキさんが演出、キャストも新しく組んでいただいて新しく出来上がったのが今回の公演になります。これまでの「しゃばけ」の魅力も出しつつ、今回は一風…いや八風も変わったものになっています。こういった「しゃばけ」もあるんだよ、こういうあやかしたちもいるんだよと。このご時世において、皆さんがフランクにラフに笑っていただけるような作品になっています。（千秋楽の）21日まで怪我なくやっていきたいと思いますので、最後までよろしくお願いいたします。
佐助役：小沼将太
稽古場から錦織さんがすごく笑わせてくださって、そのパワーが皆さんに届いたらいいなと思いながらこの場に立っております。そのパワーを与えることによってお客さまが元気になることが、いま僕がまっとうしたいことです。稽古場でもらったパワーを皆さんに伝えられるように一所懸命頑張っていきますので、何卒よろしくお願いします。
屏風のぞき役：反橋宗一郎
ゲネの最中も聞こえていた錦織さんの笑い声、あれが稽古の最中もずっとありました。いい意味でみんなで遊びながら作っているような。錦織さん、台本を開かないんですよ、全部覚えていらして。耳で聞いて、その場で思ったことを全部言ってくださるんです。そうやって作り上げられたものだから、僕らもカジュアルでフランクに立てるのかなって感じました。原作があるので「2.5次元」なのかもしれないですけれど、まったく2.5っぽくない作品に仕上がっていると思います。楽しみながらやっていますので、どうか一公演でも多く観に来ていただけたら嬉しいなと思っています。
場久役：磯貝龍乎
本作品は、特にどうってことが起きるわけではありません。（THE 虎舞竜の「ロード」の歌詞を引用しつつ）でも、その何でもないようなことが幸せだったりと、そういうことを気付かせてくれるのがこの「シャイニングモンスター」だと思っております。…何でもないことが幸せだった、普通の生活を取り戻すために皆さま、頑張っていきましょう！
獺 役：阿部大地
この座組に入って、この時期にこんなに楽しくていいのかなと日々思っていました。両編ともとても素敵になっているので、ぜひお越しいただいて楽しんで帰っていただきたいです！
アマビエ役：真城めぐみ
私は（キャストで）唯一、錦織さんと同い年なので、錦織さんのギャグがズボズボ入ってきまして、お稽古中もばか笑いしておりました（笑）。普段少し畑の違うところにいる人間ですけれども、目指すところは一緒であります。このような状況ではありますけれど、一人でも多くの方に観ていただいて笑っていただけたら幸せです。最後までよろしくお願いいたします。
演出・錦織一清
本日は誠にありがとうございます。このような色々な制約がある大変な時期に舞台をやらせていただくことになり、僕もキャストたちも通常以上に感謝の気持ちを持って作りました次第です。僕はお芝居をカジュアルなものとして作っていきたいなと思っています。若い人たちと一緒になって、こういう時期でもなければ「あ、芝居でも観に行こうかな」と、軽くふらっと観に来てもらえるようないいものに仕上がったと思っています。若い人たちと一緒にやっていると「今が人生の中で一番楽しい」といつも思わせてもらえています。そんなカンパニーとの仕事は本当に楽しかったです。短い期間ではありますけれど、数多くの方々に認識していただきたく思っております。
前川優希＆錦織一清からのメッセージ
（C）2001 畠中恵／新潮社 （C）2021 Lol
前川「真城さんもおっしゃっていたのですが、僕にも錦織さんのギャグがグサグサ刺さって笑っていました（笑）。今回こうして主演として舞台に深く関わらせていただくことになって、錦織さんにも相談させていただくことが多くあったのですが、真摯に答えてくださりつつ笑わせてくれて、本当にあっという間の楽しい稽古期間でした」
錦織「つい最近まで、僕にも若い後輩たちがいっぱいいたんですけれども、そういった意味で同年代の前川さんたちと仕事をさせていただいて思ったのは、今の若い人たちは心の中が豊かな育ち方をしているな、優しいなと。若い人たちのパワーや優しさを勉強させてもらうことが多かったです。前にも「GRIEF7」という作品で演出をさせていただいたのですが、本当に楽しませていただいて感謝しております」
取材・文：広瀬有希
撮影：ケイヒカル
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