2021年3月13日(土)に幕を開ける畠中恵「しゃばけ」シリーズPresents シャイニングモンスター ~ばくのふだ(Shining編/Shadow編)~。畠中恵の小説“しゃばけ”シリーズの1冊『ひなこまち』収録の物語を原作とし、「Shining編」と「Shadow編」の2種類の公演が上演される。
2.5ジゲン!!では、演出を務める錦織一清と仁吉役の井澤勇貴に対談取材を行った。
緊張する井澤に対し、終始ジョークを飛ばしながらも温かいまなざしで演出家として、役者の先達としての想いを語る錦織。稽古場の様子や演出の面白さなどについて語った2人の貴重なトークをお届けする。
井澤が見た、演出家・錦織一清とは
――お2人にとっても「はじめまして」の方の多い現場ですね。稽古場の様子はいかがですか?
井澤:初めてご一緒させていただく方が多かったので、どういう現場なのかなと最初は様子をうかがいながら稽古していました。そんな中、錦織さんが誰に対しても丁寧に接している姿を見て、すごいな…!と。全員に「さん」付けで本当に丁寧なんです。
偉ぶるところも全くないし、芝居の面で誰かが悩んだりつまずいたりしていると「こうするんだよ」と実際にやって見せてくださる。
僕、ここしばらくずっと錦織さんの動画を見ているんですよ。もうね、歌やダンスやお芝居が素晴らしいのはもちろん、トークもボケも本当に面白くて!「あそこのあれがかっこいいです!」って細かく言えるくらい見ているので、もはやただのファンですね(笑)。
そんな方が実際にお手本を見せながら直接稽古をつけてくださっている…稽古場の雰囲気がいいのはもちろんなのですが、贅沢だなって感じています。
――取材の冒頭から、井澤さんが錦織さんをリスペクトされていることが伝わってきます。
錦織:いや嬉しいじゃないですか。俺らが若い頃に芝居してたときなんて、飲みに行ったら「もうさ、あの演出家いろいろ言うけど自分でやってみろってんだよ」って悪口から入るのが大体だったのに(笑)。そう言ってもらえるのは本当に嬉しいよね。
親子くらい年が違う役者さんばっかりなんだけど、仲良くなりに稽古場に行っているだけなんで(笑)。
井澤:それ、すごく伝わってきます(笑)。それから、稽古中にボケを繰り出されるんですけど、笑うよりもその前にまず「…すげえ」って思っちゃうんです。お芝居がお上手なので、「間」をうまく使ってされるボケなんですよね。もうとにかく大好きです。
錦織:まだそこまでできなくていいよ。俺の仕事がなくなっちゃうから!(笑)
――錦織さんは以前、若い役者さんなど後輩の方々にご自分の経験を惜しみなく伝えたいとおっしゃっていましたね。
錦織:俺は今55歳なんだけれどね、遠回りして得てきたものがたくさんあります。こうすれば本当にかっこいい、こうすればうまくできる…そういうことに気付くのに多くの時間をかけてきました。
でも俺は、それを若い子たちに早く気付かせてあげたいの。気付いてできるようになってからの時間が長い方がいいじゃない。例えば俺が30年かかって得たことでも、3年くらいでできるようにしてあげたい。
「10年はかかる!」なんて言われたことを実際10年かけて会得して、新しい別のことをできるようになるのにまた10年もかけていたら人生終わっちゃう。そんなケチくさいことはしたくないのね。
芝居ってある程度年を重ねていくと、目が落ち着いて、いい意味で“枯れて”いくんですよ。それが味になるんだけど、若いうちは体力やエネルギーがあり余っているからなかなか難しい。だから早めに情緒を安定させてあげたいんですよね。
俺がそうやってどんどん経験を伝えているのって、実は俺のためでもあるんですよ。今回の「しゃばけ」で言えば、この舞台をよりいいものにしたいから。みんながうまくなってくれれば、この舞台を成功させたい俺の夢がまた一つ叶う。だから、みんなのためであり自分のためでもあるんですよね。
――先輩としても演出家としてもですね。錦織さんはこれまで多数の舞台で演出をされてきましたが、演出家としての活動にどのような面白さを感じていますか?
錦織:演出家って、野球で言えば監督みたいなものだと思っているんです。それぞれの個性を見極めて、どこでどう使おうかと考えてゲームを組み立てるの。面白いですよ。
でも、役者さんが俺の想定外のことをするのも楽しい。役者さん自身が考えた新しいプランを持ってきてくれるのも楽しいですね。
井澤:僕もそういう稽古への取り組み方が大好きです。どんどん新しいことを考えていきたいと思っています。
錦織が語る、若手俳優たちの魅力
――井澤さんは、今回の舞台で演じられる仁吉の好きな部分はどこですか?
井澤:仁吉は究極の優しさを持っていると思います。とても愛情深いキャラクターなんです。
仁吉は一太郎の祖母であるおぎんに恋をしていました。その気持ちを大事に持ち続けて、本当の息子ではない一太郎にも深い愛情を注いでいる…男らしくてかっこいいですよね。
一太郎を甘やかせたり、体が弱いから気を付けてくださいと過剰なまでに心配したりする。それは過保護というよりは、仁吉の優しさと愛情の現れなのだと思っています。過保護って愛なんだなと感じるようになりました。
僕は母がとても過保護だったので、小さい頃から子どもながらに「そこまで心配しなくていいよ」と思っていたんですね。でも28歳になった今だからこそ分かってきたことがいろいろとあります。
親ってすごいなと感じるとともに、そりゃ過保護にもなるよなと思ったり(笑)。本作で仁吉を演じることで母の気持ちがようやく分かりました。
――深い愛が故ですね。錦織さんは、井澤さんをはじめとした若手の役者さんたちと一緒になって、感じることやアドバイスはありますか?
錦織:すごく純粋だなと思います。いい意味で芝居にかぶれていない。それから、がっついていない。もうちょっと前に出たらいいのにって思います。
俺らが舞台に立ち始めた20代の頃を思い出すと、もっとがっついていたんですよね。演劇界全体の空気によるものもあったかもしれないですけれど、とにかくハングリー。演出家に「もうハケろ!」って言われてもしつこく舞台の上に残り続けていたりね。袖ギリギリまで行っても「ああ、ちょっと思い出した」ってこじつけてまた戻ってきたり(笑)。
今は演劇界が落ち着いていることもあって、豊かな時代ですよね。だから役者さんたちも落ち着いているのかな。
ジャニーズ事務所に在籍していた頃も後輩の指導や演出をさせていただくことが多くあって、今ちょっと懐かしい気持ちでいます。2018年と2019年に演出をした「GRIEF7」のときも感じたけれど、若い人たちと一緒に仕事ができるっていいなと。
今回の「しゃばけ」に出演する、井澤くんをはじめとした6人の男の子たちみんなすごく気を遣ってくれるの。俺が彼らくらいのときは、もっとずるかったなって思う(笑)。あと、ものすごくふざけていた。
――どれくらいふざけていたのですか?(笑)
錦織:もうね、俺の場合は度を越しているから。いい加減にしろって怒られるまでふざけ続けていたよ(笑)。彼らもそのくらいふざけてもいいと思う。でも恥ずかしいなっていう気持ちもあるのかな。そこは少し複雑だね。
“枠”や“ルール”に縛られなくてもいい
――お2人とも絵がお上手ですが、観察・想像・表現など、お芝居と通じる点はありますか?
井澤:僕は自粛中に「時間もあるし何かしたいな」と思ったのがきっかけで絵を描き始めました。今は主にiPadで描いていますが、筆を持って絵の具をつけてキャンバスに描くのとはまた違う感覚があります。
まだ模写をしている段階なので、「お芝居と通じる点があるな」と感じる領域にはいっていないです。自分の感性だけを頼りに描いたら何か出来上がった、という感覚もまだなくて…でも、分かるようになれたらいいですね。
――先日Twitterに上げられていた模写は素晴らしい観察力と再現力だと感じました。錦織さんはいかがでしょうか?
錦織:言われて思いついたのは、“思い描く”と“ビジョン”ですね。頭にぱっと浮かんだ映像やビジョンを形にする。ジャニー(喜多川)さんもそういう人でした。
今回の「しゃばけ」で言えば、お話を頂いた時に歌川広重の東海道五十三次のような絵にローマ字で「JAPAN」と大きく書かれたものが頭に浮かんだんですよ。時代物ではあるんだけれど「時代劇」にはしたくないのね。
いい意味での奇天烈さっていうのかな。僕は違反行為が好きなので(笑)、英語なんかもすごく使ってびっくりさせたいんですよ。
井澤:稽古初日でそれをすごく感じました(笑)。もう全然「時代劇」じゃないんです。その時代に無いものでもどんどん出てきますよ。
――錦織さんの頭の中にあるビジョンの具現化ですね。舞台のタイトルが「シャイニングモンスター」という時点で驚きがありました(笑)。
井澤:シャイニング(Shining 編)とシャドウ(Shadow 編)がありますからね!(笑)。錦織さんが僕たちの予想を超える発想で演出をつけてくださっていて「あ、矛盾してもいいんだ!」ってすごく感じました。時代ものだけれど、時代劇っぽさにこだわらなくていい。”っぽさ”や枠、ルール、そういうものに縛られなくてもいいんです。
錦織:舞台上では外国人だって動物だって登場人物は日本語で喋っているでしょう。細かいルールにとらわられなくていいんです。
例えば18代目中村勘三郎さんがニューヨークでされた公演。石川五右衛門が逃げた先にニューヨークポリスが待っているの。細かいことを考えたらありえないんだけど、最高に面白いしかっこいいですよね。
エンタメはお客さまの目と耳だけに届かせるものじゃないから。心に届かせないといけない。楽しいなって心から思ってもらえる舞台を作っていきたいです。
見どころ、ファンへのメッセージ
――最後に見どころとメッセージをお願いします。
井澤:個人的なことで言えば半年ぶりの舞台になります。この状況下で何本も舞台などのお仕事がなくなってしまったのですが、そんな中、さまざまなことに挑戦してきました。先ほども言ったように、絵を描き始めたり洋服を作ってみたり…。
でも、楽しみながらいろいろなことをやってみても、やっぱり「お芝居がしたい」という気持ちが胸の中に強くあり続けました。
この期間、オンラインでの配信でさまざまなことができるようになりましたよね。でも、やっぱり生のエンターテインメントをお届けしたいんです。アクリル板で仕切られていない、グリーンバックで合成されていない、生の姿です。
この「しゃばけ」に出演させていただくにあたって、事前に全員検査をして”陰性”となった時「よし!」と思いました。半年ぶりの舞台、ようやっとここまで来た、と実感しました。
今、ものすごく揉まれながら稽古を頑張っています(笑)。僕を応援してくださっている皆さんに、僕を舞台でご覧いただくのも半年ぶりです。この期間に頑張ってきたこと、身につけてきたことを精いっぱい出していくので、成長した僕を楽しみにしてもらえたら嬉しいです。
錦織:楽しむことを思い切り楽しんでほしいです。“忙しい”とか“楽しい”を表に出したらいけないんじゃないか…今、何となくそんな雰囲気がありますよね。
でも僕らは、“楽しい”をたくさん感じてほしいです。これしかできないからというのもあるけれど、名誉と誇りを持ってしている天職だと思っています。
エンタメは不要不急だと言われたり、こんな時に…と思う人もいるかもしれないけれど、だからこそ、少し恥ずかしいけれど、この仕事に尊さを感じるんですよね。
勇気を持って観に来てくださる方にも、今舞台ができることにも、心から感謝の気持ちです。その気持ちで作っているこの舞台を、心から楽しんでいってください。
* * *
井澤の緊張をほぐすかのように、陽気で軽快に取材に応える錦織。
写真撮影ではスタジオに設置された卓球台に「卓球しているところ撮る?」、腰掛けポーズを求められた井澤には「そこは俺の膝に乗らないと!」などと笑いを交え、その場にいた者の心を掴んで離さなかった。
一方、インタビュー中に見せた井澤に対する柔和な表情は、言葉以上に物語っているようでもあった。
井澤にとっては半年ぶり、錦織にとっても大きな節目となるであろう同舞台。厳しい状況下での上演となるが、熱のこもった2人のインタビューに、期待はさらに募るばかりだ。
取材・文:広瀬有希
撮影:きさらぎひかる
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