2020年10月10日(土)に舞台「BIRTH」が開幕する。初日に先駆け、10月9日にゲネプロが行われた。
演出を手掛けるのは千葉哲也。シライケイタ脚本による劇団温泉ドラゴンの財産演目「BIRTH」が、若手実力派俳優たちによって演じられる。
出演は、ダイゴ役の梅津瑞樹、前山剛久、ユウジ役の杉江大志、玉城裕規、マモル役の後藤大、佐藤祐吾、オザワ役の陳内将、北園涼、章平。ダブルキャスト、トリプルキャストによって6通りの組み合わせがある。今回は、「ダイゴ:梅津瑞樹、ユウジ:杉江大志、マモル:後藤大、オザワ:陳内将」のキャスティングで行われた。
終演後、客電がついた瞬間に筆者が強く感じたのは、「これは6通り、全パターン観てみたい」だった。
一本の電話から始まる物語…複雑に絡み合う4人の運命
物語は、一人の男がとある事件を振り返りながら語るところから始まる。
横領でヤクザを怒らせてしまったユウジは、追手から逃げるために刑務所に入ったのだが、出所後に多額の示談金を要求され「ある商売」を思いつく。
ユウジは、その商売に通じるオザワと手を組み、さらに昔の仲間ダイゴ、ダイゴの友人マモルに声を掛け、仲間に引き入れる。
その商売とは、“オレオレ詐欺”だった。
オザワが詐欺のマニュアル台本や電話リストなどを用意。試しにユウジが台本を読むものの、その演技はあまりにも“大根”。「誰がやる」の押し付け合いの末に手を挙げたダイゴは、リストの中からひとつの番号を選び、電話を掛けるのだが――。
その一本の電話から、4人の男たちの運命が大きく動き始めていく。
ダイゴを演じる梅津瑞樹。マモルとともに、詐欺まがいの商売をして生計を立てていた。オレオレ詐欺を始めるも罪悪感に苦しみ、ユウジとぶつかりあう。非情な悪になりきれない青年の苦しみを繊細に演じている。
ユウジを演じる杉江大志。ガラが悪く沸点が極端に低く、すぐに喧嘩を売りまくる。かつてオレオレ詐欺のグループで現金を引き出す“出し子”をしていた。特殊な環境で育ち、自分を守るために周りを威嚇しながら生きている。
常に巻き舌の怒号でイキっているが、時折、その姿からは悲痛と孤独を感じさせられる。
マモルを演じる後藤大。一歩引いたところから常に行動をともにするダイゴを見守る。悲しい過去故に、愛がどういうものか分からないと語る。ひょうひょうとした仮面の下に隠した切ない気持ちが胸に迫る。
オザワを演じる陳内将。3人に協力する立場ではあるが本心は見えず、何か大きな傷を抱えていると感じさせる。歩き方、立ち方ひとつ取ってみても「生きがいや楽しみの無い、人生に疲れた男」に見え、その演技力の高さが光る。
舞台に立つのはこの4人。ダイゴ、ユウジ、マモルが固定の2グループ、3人のオザワが順繰りに入れ替わり、全6バージョンとなる。
あらゆる“視点”で観たい、「BIRTH」で描かれる4人の世界
4名の登場人物、どの人物にもそれぞれの事情があり、全員に気持ちを寄せて観ることができる。
ユウジ視点で観れば、彼がこれまで育った環境に同情するかもしれないが、一方で、ダイゴの気持ちに寄り添ってみると、ユウジに恐ろしさを感じることだろう。
4人それぞれ、求める愛の形は違うものだ。愛が分からない者、欲しいと表立っては言わないものの、渇望していると感じさせる者。
時折はさまれる「おかあさん」の旋律と歌詞が胸を締め付ける。
ゲネプロで出演したキャスト4人は、これまで見てきた多くの役とは真逆、あるいはイメージの異なる人物を演じていた。
しかし不思議なことに「ああ、なるほど」と納得してしまう。演技力の高さはもちろん、彼らの個性を活かした演出がなされ、各キャラクターを構成する要素を見事に表現していると感じた。
上演時間は休憩なしの約100分。フットマイクを通した声は、限りなく肉声に近い。芝居中は、怒りや憎しみに燃えたり、暗い目をしていた役者たち。終演後のカーテンコールで「人前で、劇場で芝居をするのが本当に楽しい」と言わんばかりにキラキラと輝く目が印象的だった。
全ての組み合わせで観て、彼らが求める愛の形を確かめたい。
撮影:ケイヒカル
「BIRTH」生配信概要
初日10月10日(月)と千秋楽10月21日(水)の計4公演が生配信。【配信サービス】
Streaming+
https://eplus.jp/birth-st/【配信公演】
10月10日(土)13:00、18:00
10月21日(水)12:30、16:30
アーカイブ:配信終了後から1週間(※生配信後1週間は購入可能)
【お詫びと訂正】
記事初出時、日付に一部誤りがありました。訂正してお詫び申し上げます。
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