レポート

松本零士×御笠ノ忠次『スタンレーの魔女』ゲネプロレポ 戦時中の“生”をリアルに描く

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2019年7月28日(日)、『スタンレーの魔女』の公演が東京 渋谷・DDD青山クロスシアターで始まった。

今回の舞台『スタンレーの魔女』は、御笠ノ忠次による3度目の上演となる。原作は「銀河鉄道999」「キャプテンハーロック」などで知られる松本零士で、戦場を舞台にした「ザ・コクピットシリーズ」に収録されている作品だ。

ここでは、ゲネプロのレポートと同日行われた会見の様子をお届けする。

演劇を好きな人、そして演劇を見たことが無い人、演劇の面白さがまだよく分からない人、すべての人に観劇してもらいたい。

ただ時代が「戦時中」であっただけ――人々の日常と生を描くことで強く浮き出るもの

『スタンレーの魔女』の舞台は、太平洋戦争中のラバウルだ。出撃のたびに飛行機を壊したりしてしまう落ちこぼれたちは、自分たちの過ごす場所の模様替えをしたりふざけたりしながら、日々を過ごしている。

衣裳はもちろん軍服、セットには戦闘機の残骸。そこに洗濯物が無造作に干されている。ふざける内容も中途半端ではない。男たちが集まればそうなるだろうなという、どこにも遠慮のないえげつないほどのふざけっぷりだ。

「戦争もの」イコール緊張感、焦燥という概念を覆させられながらも、時にゆらりと、これは戦争中の話なのだと実感する瞬間がある。唐橋 充演じる出戻中尉は、ほぼロクデナシなのだが、淡々とした喋りとたたずまいが時に「確かに中尉だ」と上官であることを感じさせる。

敷井は、愛機「わが青春のアルカディア号」で大空を飛びまわった航空探険家ファントム・F・ハーロックの自伝を愛読していた。ハーロックさえも成し遂げられなかった、標高5300メートルのスタンレー山脈を制覇すること。それが夢だった。

飛行機が好きな彼が生きた時代が、たまたま戦時中だっただけだ。好きこのんで「戦闘機」乗りになったわけではない。

そんな彼らにも、いよいよ出撃命令が出る。寄せ集めの部品で飛行機を組み立て、ゴーグルと飛行帽、救命胴衣を身に着ける。

スタンレー山脈を目指して、護衛の零戦をともに飛行機は「片道だけ」の空を飛ぶ。

敵機来襲、エンジン被弾。最後までふざけあっていた護衛の零戦も撃ち落とされる。いよいよスタンレー山脈が間近になり、上がる高度と共に敷井の鼓動も高まっていく。

彼らは重い気体を少しでも軽くするため、機に装備していた機関砲も衣服も脱ぎ捨てる。スタンレー山脈を越えたいと夢見ていた敷井のためか、そこに自分たちのロマンを乗せていたのだろうか。

ファントム・F・ハーロックの自伝にはこうあった。「無念の涙をのんで引き返す私が、ふと、ふりかえった時――。山が笑っていた。」

敷井はハーロックのように、スタンレーを超えられず山の笑いを目にするのか、それとも山を笑うのか。

戦時中のリアルな暮らしを、より生々しく描くからこその喪失感

戦争ものらしくない戦争もの、とひとことでは片づけられない。ある意味、もっともリアルにその時代・戦時中を描いているのではないかと言えるからだ。

爆撃の中でも人々は暮らし、生活をし、ふざけあったりもしただろう。酒を飲んだり手紙を書いたり、くだらない話をしたりしながら、何でもない一日を過ごす。

けれども、いつ出撃命令が下るとも、いつ敵の襲撃を受けるとも分からない。一緒に死ねるのか、1人で死んでいくのか、1人だけ生き残ってしまうのかも分からない。

前半、ほとんど台本の存在が感じられないほどのリアルなやりとりで、観客は彼らの人間みを、これでもかと叩き込まれる。油断させられながらも同時に、どこかに流れる暗い予感もじわじわと広がっていく。

松本零士作品に流れる空気は生々しい。人々の暮らしをよりリアルに描くことで、不意に訪れるほんの小さな幸せや、逆に突然命を奪われる喪失感が大きく浮かび上がる。

気のせいかもしれないが、スタンレー山脈に入る辺りから場内の温度がどんどん下がっていった。真夏なのに指先が震え、彼らの感じる気温を同じように体感する。終幕後、振り返ればそこには、見たことも無いような冷たい微笑を浮かべた魔女が見えるようだった。

「演劇が好きな人、演劇が嫌いな人、両方の人にぜひ見てもらいたい」演劇の醍醐味がぎゅっと詰まっている!

ゲネプロの前に、オフィシャルによる会見が行われた。登壇者は、脚本・演出の御笠ノ忠次、敷井役の石井 凌、出戻役の唐橋 充、大平役の宮下雄也、足立役の松井勇歩、石田役の津村知与志の6名。

御笠ノ忠次:脚本・演出

この舞台は今回が再再演です。元々の経緯としては、もう10数年前のことになりますが、原作の松本零士さんのお宅にお邪魔しまして『スタンレーの魔女』を上演させてくださいとお願いしたところ「いいよ」と(笑)。

見どころは松本零士先生の世界観です。演劇が好きな人、演劇が嫌いな人。両方の人にぜひ見てもらいたいです。

石井 凌:敷居 役

毎公演みんなが自由に動くので、毎回違うものになります。セリフは一緒だけれども、感情の流れが違うような。16公演違う『スタンレーの魔女』になると思います。

僕は将来的に47都道府県を回りたいと思っています。今年の夏から少しでも埋めていきたいですね。あと海が好きなので、海でバーベキューをしたいです(笑)。

毎回違う空気感を感じて、楽しんでください。

唐橋 充:出戻 役

稽古では「空気」を作ることに終始しました。毎回、澱まず、新鮮な空気を作ること。楽しい稽古でした。その空気がお客様にも伝わると思います。

戦争ものというと「死」にまつわると思うのですが、この舞台では「生」の部分を描いています。「生」を描くと同時に「死」も描かれる……そんな戦争ものです。ぜひご観劇ください。

宮下雄也:大平 役

個性を確実に生かした、むちゃくちゃいいカンパニーです。1シーン1シーン、このメンバー、座組でしかできないものばかりです。

稽古と本番と空気感の違いが「演劇の醍醐味」としてギュッと詰まっているのではないかと感じます。夏にピッタリですよ!

松井勇歩:足立 役

最高にふざけながら、でもしっかりと道を作って進んでいってくれる先輩方。それに死にものぐるいでついていく僕や主役の凌くんや(宮田)龍平くんたち。その、キャストたちの相乗効果がみどころです。

「あれ、これ戦争を題材にしているんですよね」となるシーンもあると思うのですが、観終ったあとは絶対に、心に残る何かがあるはずです。最高にふざけてて、でも最高に面白い男たちのロマンを見届けてください!

津村知与支:石田 役

僕は、今回とは違う役なのですが前回の2008年公演にも出ています。

前回も感じたのですが、今回集まった9人、毛色・出身・個性みんなバラバラなんです。その9人が舞台上で異種格闘技戦をして化学変化を起こしています。

僕は劇団を20年やっています。こうやってバラバラなメンバーが集まったからこそ、スリリングな面白さがあります。

僕の役は後半に出てくるので、前半は観客のような視点で舞台を見ています。稽古の一カ月ずっとそれを見ていて感じたのは、毎回違って、毎回新鮮で毎回面白いんです。

「毎回違う」というのはよくあるんですが、毎回一定のクオリティに達している、これはなかなか稽古では無いことです。

それを今日からいよいよお客様に見せられて、僕も演じられる。僕自身、とても楽しみにしています。男たちの化学変化を、ぜひ見に来てください!

演劇の「面白さ」ここにあり! 技巧派が集まった真夏の舞台

「戦争ものはちょっと」と二の足を踏んでいる人がもしいたら、難しいことは考えずに「素晴らしい技巧派が集結して作り上げた舞台」として観に行って欲しい。

マイクを通さない肉声、役者同士のやりとりの反射神経。場内に流れるすべての空気が、演劇の醍醐味、演劇の楽しさ・面白さを伝えてくれる。

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公演情報

タイトル

『スタンレーの魔女』

原作

松本零士(小学館)

脚本・演出

御笠ノ忠次

劇場・日程

東京 DDD青山クロスシアター 
2019年7月28日(日)~8月8日(木)

キャスト

石井凌
唐橋充
宮下雄也
池田竜渦爾
松本寛也
永島敬三
松井勇歩
宮田龍平
津村知与支

チケット情報

公式サイトよりご確認ください

公式HP

https://www.marv.jp/special/stanley-stage/

公式Twitter

@stanley_stage

©松本零士/小学館 ©『スタンレーの魔女』製作委員会

WRITER

広瀬有希
							広瀬有希
						

金融・印刷業界を経てフリーライターへ。エンタメメディアにて現場取材・執筆の他、日本語・日本文化教育ソフト監修、ゲームシナリオ、ノベライズなどで活動中。感動が伝わる文章を目指して精進の日々を送っています。

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