インタビュー

「生について時間をかけて伝える作品」唐橋充・松井勇歩『スタンレーの魔女』インタビュー

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舞台『スタンレーの魔女』が、7月28日からDDD青山クロスシアターで開幕した。本作の原作は、『宇宙戦艦ヤマト』や『銀河鉄道999』を手掛けた松本零士による漫画作品。

脚本・演出は、ミュージカル『刀剣乱舞』の脚本も手掛ける御笠ノ忠次。今回は、松井 勇歩(劇団Patch)と唐橋 充に稽古場の雰囲気や本作の見どころについて語ってもらった。

稽古前にある1時間の「雑談タイム」が、有意義な時間

――稽古場が始まって1週間ほど経過したと伺いました。

唐橋充:10年に1回のいい現場です。まぁ、どこでも言っているんですけど(笑)。

(脚本・演出の)御笠ノさんはいつかご一緒したいとずっと思っていた憧れの方です。とは言ってもお名前と顔が一致していなくて。とにかくすごい方だよと折に触れて耳に入ってくる伝説上の方だったんです。

ある時、松本寛也さんと共演した舞台で、松本さんのお知り合いの方と少しだけお話ししたのですが、その話していた相手が御笠ノさんであることを後で知るという(苦笑)。

なので、この舞台が「謝れる絶好の機会だ」と真っ先に思いました(笑)。

――稽古はいかがでしょうか。

唐橋:稽古が始まる前に、俳優部が輪になって雑談をする。という時間を御笠ノさんが作られるんですけど、それがほんとうにいいんですよね。

舞台上では決められた順番で台詞を発しますが、日常の生活では相手が話し終わる前に誰かが言葉を発することもありますよね。あるいは、好きな話は知らずに声が大きくなったり早口になったり、恥ずかしい話では声が小さくなったり。

そういった会話のシミュレーションや個々人の声のボリュームを揃えられるのが狙いだそうで、なにより、大笑いした流れで稽古に臨めることが素晴らしい。

松井勇歩(劇団Patch):最初は5〜10分くらいやろう、という話だったんですよ。でも、気づいたら毎回1時間くらい話していますね。

僕は、台本以外を使った稽古が初めての経験で。とても新鮮で、好きだなぁと思いました。内容自体はメディアに出せない話ばかりですが……(笑)。

――出演が決まり「スタンレーの魔女」を初めて読んだとき、どんな印象を持たれましたか。

唐橋:いくら戦争中とはいえど、同年代の人たちが島で共同生活を送っていたら衣食住と共に笑顔もあったはずなんだ、と気付かされました。

戦争ものは、題材ゆえに「とっつきにくい」「怖い」というイメージが強く、敬遠しがちだったので、このような作品が世の中にあったとは全く知らなくて。

御笠ノさんがこの作品に惹かれた理由が、非常によくわかりました。

原作に寄せていくのではなく、リアルな人間を完成させる

――カンパニーの雰囲気はいかがでしょうか。

松井:3年前に永島敬三さんと共演したのですが、当時から敬三さんのお芝居が大好きなんです。今回久しぶりにお会いして、改めて優しくて素敵な方だなぁと感じています。

作品の中で宮下雄也さんと敬三さんが一緒に演じるシーンが多いのですが、2人とも面白すぎて、同じシーンでも毎回笑ってしまいます。

唐橋:あのシーン、毎回分析するんだけど、すごい高度な技の応酬で、分析が追いつかない(笑)。感心のため息しか出ないなあ。

――キャスト陣は若い方からベテランの方までいらっしゃいますね。

唐橋:キャスティングのときに「演劇おじさんから若い役者まで様々に集めよう」という企画意図があったそうです。

僕が20代のころ、明治座で上川 隆也さんや風間 杜夫さんなど、そうそうたる方々とご一緒したときに「こういう歳のとり方したら素敵だな」と思っていたので、松井さんにもそういう風に思われるように頑張っております。

松井:もちろん、そう思っています。僕にとっては、ありがたい現場です。お客さんよりも近い距離で、ベテランの方々のお芝居を見られるので。ずっと特等席にいるんです。

――本作で脚本・演出を手掛けられている御笠ノ忠次さんの印象はいかがですか?

松井:ある意味、少し変わっている人だなって思います。

唐橋:あらやだ。僕は、嬉しくなっちゃうくらい自分と考えが一緒の方だなあと、目が離せません。

松井:御笠ノさんは、心の奥が見えない。属性で言ったら闇。でも、暗い闇ではなくて深い闇というか……。

僕の勝手なイメージではありますが、演劇人が持つ独特な闇のように感じます。演劇を長い間やってこられた方や、好きな方が持っているもの。

僕が所属する劇団Patchのなかにも、これから「深い闇」をまとっていくんだろうな、と感じるメンバーがいますね。

唐橋:なるほど。では僕もそう見えているのだな(笑)。

――本作の役作りで意識していることを教えてください。

唐橋:原作の人物像を各々で掘り下げつつも、最優先は空気感。その空気感を途切れずに出せちゃうんだといったような豊かなやりとり。

たまたま戦争をしている時代に生きた、あんなに笑っていた人たちの一場面を丁寧に切り取りたいです。

大前提として、演劇はファンタジーです。でも、この作品を観て、お客さんが「あぁ、なんてリアルなんだ」と思ってもらうためのお芝居を探っています。

松井:そうですね。今回に関しては、他の作品における「役作り」とは少し違うように感じています。

戦争の悲劇だけを伝えたい作品ではない

――それでは最後に、本作の魅力を改めて教えてください。

松井:本作は戦争という題材を扱っているので「死」は当然つきまとうのですが、それでも戦争の残酷さや悲しさにスポットを当てているのではありません。

そこで生きていた人、そこに必ずあったであろう生活についてスポットを当てている作品です。「戦争ものだから」と言って敬遠せず、ぜひ観に来ていただきたいです。

唐橋:本作は「生きている」ということをニコニコと伝え続けます。それは同時に戦争だけではなく、地震をはじめ、現代でも起きるかもしれない悲しみが、肌をかすめていくような作品です。

松本零士先生の作品だからこそ、かまえずにご観劇いただけます。

なにより、2.5次元舞台も多く手掛ける御笠ノさんや私がかつて落ちた大好きな演劇の沼の「幅」を、ぜひご観劇くださいませ。

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公演情報

タイトル

『スタンレーの魔女』

原作

松本零士(小学館)

脚本・演出

御笠ノ忠次

劇場・日程

東京 DDD青山クロスシアター 
2019年7月28日(日)~8月8日(木)

キャスト

石井凌
唐橋充
宮下雄也
池田竜渦爾
松本寛也
永島敬三
松井勇歩
宮田龍平
津村知与支

チケット情報

公式サイトよりご確認ください

公式HP

https://www.marv.jp/special/stanley-stage/

公式Twitter

@stanley_stage

©松本零士/小学館 ©『スタンレーの魔女』製作委員会

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