舞台『キングダム』が5月11日(木)に大千穐楽を迎え、オフィシャルレポートが到着した。
紀元前、春秋戦国時代。未だ一度も統一されたことのない苛烈な戦乱の中にある中国を舞台に、たった2人の少年が史上初の中華統一を目指す様を描いた舞台『キングダム』が5月11日(木)、北海道・札幌文化芸術劇場 hitaru で全82公演完走の大千穐楽を迎えた。
2月5日(日)に東京・帝国劇場で幕を開けた舞台『キングダム』は、2006年に「週刊ヤングジャンプ」(集英社)で連載が始まり、既刊68巻の累計発行部数が9,700 万部を突破する原泰久のデビュー作をはじめて舞台化した作品。TV アニメ、実写版映画に続くメディアミックスの展開で、主人公の少年「信」役に三浦宏規と高野洸、若き王「嬴政」と信の親友「漂」役に小関裕太と牧島輝のそれぞれWキャストをはじめ、演劇界の未来を担う若きホープたちが集結。戦国の世に育まれた友情や信義、自らが得た恩恵はすべて次の者になどの、数々の大切なものを届けながら、人が体感を持って演じる舞台ならではの高い熱量で、3月12日(日)からの大阪・梅田芸術劇場メインホール、4月2日(日)からの福岡・博多座公演を経て、最終地・札幌文化芸術劇場 hitaru へとひた走ってきた。
そんな舞台の大千穐楽、昼夜2公演生中継のライブ配信が行われ、最後の場面、最後の台詞に命を託すキャストが織りなした感動のフィナーレ、そしてスペシャルカーテンコールまでがノーカットで全国に届けられた。
ライブ配信はまず、稽古場から帝劇の舞台へ向かう面々を追ったミニメイキング映像の配信からスタート。稽古場に立てこまれた本番同様のサイズのセットのなかで、豪快に繰り広げられる殺陣を愚直に、入念に稽古し続けるキャストたちが映し出される。中でも印象的なのは、三浦と高野、小関と牧島が1つひとつの殺陣、台詞の間合い、芝居についてそれぞれの意見を交わしあう姿だ。帝劇でセンターを務める彼らが、大きなプレッシャーと闘いながら、一丸となって作品に取り組んでいる真摯な姿勢に早くも胸が熱くなる。
そんな若い力を扇の要として支える「王騎」役の山口祐一郎が、作りこんだ装束や照明による特殊効果がまったくない稽古場でそのまま「王騎」に見えることが、さすがとしか言いようのない驚きで、これは何度舞台を観てもわからない部分だけに目を奪われる思いだった。
そんな観る側のテンションがどんどん上がっていくなか、いよいよ本編配信がスタート。
まず、5月11日の13:00公演、信:三浦宏規、嬴政・漂:牧島輝、河了貂:華優希、楊端和:梅澤美波、紫夏:石川由依による舞台が幕を開けた。
ストレートプレイでありながら、生のオーケストラ演奏という贅沢な舞台は、オーバーチュアから迫力満点。照明が大きくクローズアップされ、その照明が舞台に落とす光の道が引いて映るなど、客席からでは想像できなかった配信映像ならではの切り口に目を奪われる。舞台作品を観る醍醐味の1つは、自分で選んだアングルで好きな場所を観ることができる自由度だが、一方で手に入った座席の位置の、固定された角度からはどうしても見えないものも出てくる。それが14台のカメラが次々にスイッチングしていくこの配信映像では、自在に観る角度が変わっていく。自分1人では決して観ることのできない景色、気づくことのできない大人数のなかでのそれぞれの表情がクローズアップされ、あれだけ客席で何度も観たはずなのに、と驚くほどの多くの気づき、新鮮な発見に心躍る。
例えば漂の牧島輝に出会った昌文君の小西遼生が、この出会いが未来を変えるかもしれないと強い思いを抱く様がアップから、引き、さらに2階席からしか観られない角度まで映像が上昇していく様のドラマ性は抜群だし、その昌文君が漂に仕官を促す場での、信も一緒にとの願いを退けられた際の漂、そして立ち聞いている格子窓越しの信の三浦宏規の表情が、次々にアップになることによって、2人の思いが刻々と変わっていく様が手にとるようにわかる。こうした細かい表情変化が捉えられることによって、スピード感に優れた舞台で怒涛のように進んでいくストーリーの時々で、信が、漂が、そして嬴政が何を思い、何を感じたのかがきめ細かく伝わるのは、映像ならではの効果だった。
また、激しい戦闘シーンが舞台上で立て続くなかで、それぞれのキャラクターがどう戦っているかも、切り替わるカメラワークが捉えてくれることによって、逆に戦いの全体像が見えてくるのは嬉しい驚きだった。山の民の王が民たちに命じ、また留める手の動きや、キャラクターが互いに理解を深め、握手を交わす様、目の動きなどが大きく映し出される醍醐味はまさに繊細にしてダイナミック。特に、この長い道のりのなかで、キャストそれぞれの役への理解、演じることの進化が映像からひしひしと伝わり、カンパニーと作品の底力が感じられ、信の三浦と嬴政の牧島が剣を交わす終幕まで、作品がここまで成長し続けていることを
示したパワーに感嘆するばかりだった。
昼の部のカーテンコールでは、この回で一足早く千穐楽を迎えるWキャストの面々が挨拶。1人ひとりが、2月5日(日)帝劇での初日から、5月11日(木)札幌文化芸術劇場 hitaru 千穐楽を、これほど激しい殺陣の続く舞台で、誰1人欠けることなく、全員で迎えられた感謝を述べ、コロナ禍のなかで走ってきたキャストたちの、苦悩と深い思いが感じられた。
紫夏役の石川由依は「『恩恵は全て次の者へ』を胸に生きていく」、楊端和役の梅澤美波は、「この舞台での出会い全てへの感謝を」と。河了貂役の華優希は「命を懸けてやってきた公演の一員になれて幸せ」という趣旨を、それぞれの言葉で語った。
嬴政・漂役の牧島輝は「ここまで余韻に浸る暇もなく駆け抜けてきて、このカンパニーで走り抜けられて幸せ。今日はもうこの衣装を着ることも、この髪型をすることもないのかとすごく寂しくて、この舞台を観られることもなくなるのが悲しいけれど、寂しい、悲しいと思えるのは、この作品とカンパニーを愛しているからだと改めて気づけた。スタッフ、キャスト、お客さまの素敵な作品を作ることができて、人生のなかで誇れることの1つになりました」との感謝とともに、「夜公演への雄姿を一緒に見届けましょう」と夜公演のメンバーにエールを贈った。
信役の三浦宏規は、感極まった様子で涙を堪えながら「このカンパニーはすごい、強い」と話しはじめ「やっぱり初演なので色々大変なこと、ワークショップから、はじめて稽古場にセットが入った時など、色々な光景がフラッシュバックした」 と思いを語り、さらにやはりコロナ禍でのアクションの多い舞台の大ロングランを、やり抜くとの強い気持ちを持っていた反面で、いつ舞台が止まるのかとの不安をもあったと正直に吐露したあと「完走でよかったね!」と、全員に向けた心からの喜びの声に、どれだけ大きなプレッシャーを抱えていたのかと涙を禁じ得なかった。
それでもスタッフへ、そして東京からここまで応援し続けてくれたお客さまのおかげで走り抜けられた、と謝辞を述べ「ひと足先に千秋楽で、本当に素敵な時間を過ごさせてもらいました。ラスト一戦、無事に届きますように」とバトンを夜公演に託して、恒例となった「キングダム」の「キングダ」から「ムー」で全員が唱和し、こぶしを掲げるポーズで昼公演の幕が下りた。
その余韻が強く残る劇場で、信:高野洸、嬴政・漂:小関裕太、河了貂:川島海荷、楊端和:美弥るりか、紫夏:朴 璐美、壁:有澤樟太郎、成蟜:神里優希、左慈:HAYATE、バジオウ:元木聖也、昌文君:小西遼生、王騎:山口祐一郎が千穐楽を迎えた18時公演大千穐楽の模様が配信される。メイキング映像は同じものだが、1つの配信映像を観たあとでは、また新たに感じることも多く、楊端和の美弥と梅澤が殺陣を確認しあう姿をはじめ、Wキャストの面々が力を合わせて役に取り組む様が心にしみる。
だからいよいよはじまった大千穐楽公演では、1つの場面、1つの台詞にこれが最後との思いが観る側にも強く広がってくるのを感じる。全体のスピード感もますます増していて、特にクローズアップで細かい表情が伝わるだけに、各ダブルキャストそれぞれの魅力がより際立ってみてとれ、アーカイブがついていてよかった、ここはもう1度あとで見比べたいとの気持ちにもなりながら、過ぎていく本編映像に見入った。
そしていよいよ大千穐楽のカーテンコールは、稽古から半年間、2月5日(日)~5月11日(木)のこの日までの4都市に渡る大ロングラン、82公演を全員で完走したキャストたちの高揚と、感動で登場からすべてがキラキラと輝く涙、涙の渦。思えば本当にこれだけダイナミックなアクションと汗と涙と人が演じる熱量にあふれた舞台が、この期間1度も止まらずに、怪我無く終えられたことが、改めてどれほど大きな奇跡だったかを感じさせる。そこからメインキャストそれぞれの感動の挨拶があった。
左慈を演じた HAYATEは「10月からパルクールの準備で、12月から稽古でカンパニーを支えてきましたが、出演することが決まってからは皆が支えてくれた。素晴らしいメンバーと素晴らしい作品にできて幸せでした」とスタッフ、キャストとしての思いを。バジオウ/朱凶を二役で演じた元木聖也は涙を浮かべながら「キャスト、スタッフ、そして応援してくださったお客さまのおかげで全82公演怪我なく終えることができました」との感謝を。成蟜役の神里優希は「約半年間この作品に関わり最高に刺激的で楽しい日々でした。舞台では死罪、死罪と言ってますが、皆さんどうぞお元気でまたお会いしましょう」とユーモアも交えて。壁役の有澤樟太郎は第一声「楽しんでくれましたか~?」と和やかに客席に投げかけ「皆さんの応援、力がなかったらここまではこられていなかった」との謝辞のあと帝劇公演で、Wキャストで壁を演じた梶裕貴に「梶さーん! やりました!」と誇らかに呼びかけた。紫夏役の朴璐美が涙で言葉にならない中、「このストイックなメンバーで1つの舞台を作ってこられた誇らしい座組です!」と朴ほどのベテランにしても高かったであろう山を乗り越えたカンパニーを称えた。
楊端和役の美弥るりかの「こんなにも愛した舞台への別れの寂しさ」とともに「北海道の血祭りも最高でした!」と台詞にかけた役ならではの豪快な挨拶。河了貂役の川島海荷は「このカンパニーが大好き!」と涙、涙! 隣の山口祐一郎が抱きとめ、小西遼生とともに、独特のヘアスタイルを整えて客席の温かな笑いを誘った。これも配信ならではの、山口が布の質感までが伝わる豪華な衣装で川島の涙をぬぐっている姿も目撃できてこちらももらい泣きの状態。
昌文君役の小西遼生は「清らかな気持ちでひとつずつの台詞、場面ごとに稽古場からの日々を思い出していた。戦国時代だけれど全員と青春を謳歌していた気持ち。こんなに熱くなれる舞台はそうそうない」と語ったあと、どうぞ皆さんでご一緒にと促し「まずは何より、よくぞご無事で」と劇中の台詞を唱和した。王騎役の山口が、カンパニー内で自分をそう称していたのだろう「お父さんも本当に幸せでした。皆様とまた劇場でお会いする日を楽しみにしています」と感無量の優しい微笑みで挨拶する姿に、心打たれる。
嬴政・漂役の小関裕太は「険しい公演でした。1回1回を生き抜くのがすごく大変な舞台で、その分生きがいがあって、毎日自分との闘いでした。皆が集まってこぶしを挙げながら『俺たちの勝ちだ!』という台詞に向かっていく日々が終わってしまうと思うとすごく寂しいです」と思いを語り「夢の中でまた台詞を言っているのではないかと思う。皆さまの心のなかにも少しでもこの作品、この台詞たちが残ってくれたら嬉しいです」と、作品を作り上げた日々を振り返りながら話してくれた。
最後に信役の高野洸が「さすがに嬉しすぎて何を話していいか…」と言いつつも「(三浦)宏規たちの昼公演の千穐楽を間近で観て、ホッとしたし嬉しかったし、でも夜公演何があるかわからないという気持ちもあって」と、やはりコロナ禍でのカンパニーの座長としての責任感の重さを語りながら、曇天から晴れた当日の天気になぞらえ「やっと晴れましたね!」に続けて「『キングダム』風に言うと札幌天下統一を果たしました!」と高らかに宣言。万雷の拍手とともにやはり恒例の「キングダ」「ム~」が唱和された。
それでも総立ちの客席からのカーテンコールの声は鳴りやまず、生演奏で舞台を盛り上げたオーケストラの面々もはじめて舞台に登場。彼ら1人ひとりを前に押し出していた山口が、銅鑼を豪快に叩いて場内のハッピーオーラは最高潮に。昼公演で千秋楽を終えた三浦宏規、牧島輝をはじめWキャストのメンバーも歓声のなかで舞台に登場、それぞれ同じ役を作り上げてきた役者同士が、熱い抱擁を繰り広げる、まるで夢のようにキラキラしたカーテンコールが過ぎていった。何もかもが輝いて見える美しい光景だった。
この長いロングラン公演が完走を果たしたことが、コロナ禍に揺れたこの3年半の演劇界に新たな灯をともす、山口祐一郎のライブ配信決定時のコメントを借りれば「劇場は社会の映し鏡。この新しい時代の幕開きを皆様とともに祝えることを心より願っております」となることを願ってやまない。帝劇公演から進化し続けたこの、舞台『キングダム』の奇跡の大千穐楽を、ぜひ多くの人に見届けて欲しいし、そして遠くない将来に、この新たな歴史を拓いた舞台の再演の幕が開くことを願っている。
ライター:橘涼香
(C)原泰久/集英社
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