アニメ化、実写映画化も大きな話題となった、原泰久による中国時代劇漫画『キングダム』。戦国七雄が覇権争いを繰り広げる壮大なスケールの物語はもちろん、武と知のパワーバランス、魅力的なキャラクターなどが多くの読者を魅了している作品だ。
そんな『キングダム』初の舞台化作品、舞台『キングダム』が2月5日(日)に開幕した。
2.5ジゲン!!では、2月6日(月)に実施されたゲネプロの様子をレポート。この日に初日を迎える、信役の高野洸、嬴政・漂役の牧島輝をはじめとした面々が、帝国劇場に刻んだ“歴史のはじまりの物語”の見どころを紹介する。(河了貂役:華優希、楊端和役:美弥るりか、壁役:梶裕貴、成蟜役:神里優希、紫夏役:石川由依)
▲一足先に初日を迎えた三浦宏規&小関裕太
「王」というこの物語を象徴する一文字を模した巨大な岩のセットが暗転とともに上がり、王騎(演:山口祐一郎)がかつての主である昭王と言葉を交わすシーンから物語は静かに始まっていく。生ける伝説・王騎とともに、私たち観客が、これから動き始める新たな時代の生き証人になるのだと、自然と背筋が伸びる。
そして本作の主人公、信(演:高野洸)と漂(演:牧島輝)の物語が始まっていく。秦国に暮らす戦災孤児の下僕の少年・信と漂は、ともに「天下の大将軍」となって最底辺の生活から抜け出そうと、幼い頃から剣を交え続ける。
ある日、漂は秦国の大臣・昌文君(演:小西遼生)に見出され仕官を果たす。お互いの夢を改めて確認しあった信と漂はいっときの別れを前向きに受け入れるが、2人の再会は思わぬ形で果たされてしまい――。
▲同じ夢を追いかける漂(演:牧島輝)と信(演:高野洸)
本作は原作での王都奪還編にあたるストーリーを描いていく。
序盤の夢を語り合う信と漂のみずみずしい友情という眩しい“光”があることで、直後に訪れる2人の悲しい再会に“闇”が色濃く広がり、心に迫るコントラストとなっていたのが印象的だ。漂は信へと夢を託し、信は漂の遺志に導かれ秦王・嬴政(演:牧島輝)と出会う。
信を演じる高野は、一貫して猪突猛進な熱さをまとうが、親友の夢を背負ってからはその瞳がよりいっそうギラついた。持ち前の反射神経の良さから生まれる身のこなしが、「天性の戦バカ」な信らしさを見事に表現。高野の持つピュアな少年のような笑顔も、政治や大人の事情はどうあれ、自分は武功を立てて夢を叶えるだけだと言わんばかりの信のまっすぐさにハマっていた。
▲高野洸演じる信
一方で牧島は、心根の優しさを感じる漂と、胸に熱さを秘める切れ者の若き王・嬴政という、そっくりな漂と嬴政の1人2役を演じ分けて魅せた。
1幕では漂としての決意を熱く演じ、2幕では幼少期の紫夏(演:石川由依)との切ないエピソードで頬を濡らし、作品全体にずしりと重みを与えていたように思う。なかでも嬴政が王として人々を説くシーンは、強さと高貴さとが所作の1つひとつからにじみ出ていて、そのシルエットに王たる風格を感じ取れた。
▲牧島輝演じる嬴政
今回描かれる王都奪還編は、反乱により異母弟・成蟜(演:神里優希)に玉座を奪われた嬴政が、逃れた先で出会った信や河了貂(演:華優希)、昌文君、壁(演:梶裕貴)らとともに王座奪還へと挑むというのがメインの流れとなる。
嬴政が信や河了貂とともにいる理由、山界の死王・楊端和(演:美弥るりか)と接触する理由、嬴政の過去、成蟜との決着など、原作の膨大な情報量をコンパクトにまとめたうえで、剣戟(けんげき)アクションとして見応えのある作品に仕上がっていた。
手数の多いアクションはもちろん、それに付随するセットや小道具の使い方も“魅せる”にこだわっていた点が印象的だ。原作では紙の上に表現された迫力と躍動感とが、岩が崩れる、木が割れる、刀が折れるといった手の込んだ仕掛けの数々によって、舞台ならではのリアルな質感を感じさせてくれた。
また、あえて本作品を2.5次元作品の1つとして見るなら、殺陣のSEが極端に少ない点も特徴的だろう。SEがないことで、武器と武器がぶつかる鈍い音や役者同士の息遣いが鮮明となり、彼らの戦いの生々しさが浮かび上がった。
この『キングダム』という作品は、冒頭でも少し触れたが、敵味方問わず、どのキャラクターも濃い味付けがされている点も魅力の1つだ。
なかでもファンが多いのが、王騎という異様な存在感を放つ伝説的な将軍である。ここぞというときに圧巻のオーラを放ちステージ上に現れる山口の演じる王騎は必見。本作はストレートプレイなので歌唱シーンはないが、数多くのミュージカルシーンで活躍する山口の美声は、王騎の圧という形で空気を震わせ、その場にいる誰よりも別格な武将であることを観客に知らしめていた。
原作を知るファンなら、「この王騎であのシーンを観てみたい」という妄想を駆り立てられることだろう。それほどまでに山口の王騎は、“秦の怪鳥”と呼ばれる王騎らしさを表現していた。
▲濃い存在感を放つ王騎(演:山口祐一郎)
怪演という意味では、神里演じる成蟜も引けを取らないだろう。王族たる誇りと歪(いびつ)さが入り乱れる表情はひどく冷たく、観る者に不安な気持ちを抱かせる。
▲竭氏(演:壤晴彦)と成蟜(演:神里優希)
また、パルクールも駆使したアクションのなかで埋もれぬ存在感を放っていたのが、山の民の戦士・バジオウ役の元木聖也、王弟派の武将・左慈役の早乙女友貴だ。バジオウは仮面で表情が見えない役柄だが、全身からほとばしる野性味と型破りなアクションが魅力。一方の左慈は人斬りらしい強く速い剣筋が見事で、クライマックスの一端を担っていた。
▲元木聖也が演じるこちらの役もお楽しみに
▲左慈役の早乙女友貴
梶の演じる昌文君副官の壁は、真面目で気のいい兄貴分といった雰囲気のなかに名家出身の品の良さを感じさせ、小西演じる昌文君は、あの王騎も一目置く存在にふさわしいどっしりとした貫禄で、フレッシュな嬴政派をピリッと締める存在に。
▲貫禄ある楊端和(演:美弥るりか)と昌文君(演:小西遼生)
▲信、河了貂らと行動をともにする壁(演:梶裕貴)
芯の強い女性キャラも本作の魅力だろう。華が演じる河了貂は、てとてとと効果音が聞こえてきそうな真ん丸な簑(みの)姿が愛らしく、表情豊かな様子は観ていて飽きない。コミカルな動きながらも、自分ができることを精一杯頑張っている姿は思わず応援したくなってしまう。
河了貂の可愛らしさとは対象的な美しさと強さを持つのが、美弥が演じる山の民を統べる楊端和だ。双曲剣を使っての殺陣もカリスマ性にあふれ、説得力のあるキャラクターに仕上がっていた。石川演じる紫夏は幼い嬴政に大きな影響を与えた人物なのだが、全身全霊の信念みなぎる芝居から紡がれるシーンは、作中屈指の泣けるシーンになっていたように思う。
▲紫夏(演:石川由依)
伝統と挑戦と。そんな気概を感じるこの舞台『キングダム』によって、2.5次元作品の可能性はまた1つ広がったのだろう。それぞれの道で天下を目指す2人の少年の道が交わって動き出す『キングダム』のように、原作と舞台が交わる先にまだまだおもしろい景色が待っているに違いない。
舞台『キングダム』は帝国劇場を皮切りに、大阪・梅田芸術劇場メインホール、福岡・博多座、北海道・札幌文化芸術劇場 hitaruにて5月11日(木)まで上演される。
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原泰久先生 観劇コメント
舞台『キングダム』、圧巻でした! 目の前で繰り広げられる壮絶なアクション、白熱のドラマ、とにかくキャストさんたちの圧倒的な熱量がダイレクトに伝わってきて、想像を遥かに超える感動がありました。 今回の舞台用にアレンジした脚本も素晴らしい出来栄えで、『キングダム』をまた新しく体験できる作品が生まれたと感じています。これから長い公演が続きますが、キャストの皆さんが怪我なく「戦場」に立ち続けられることを切に願っています。
取材・文:双海しお
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