舞台「薔薇王の葬列」が6月10日(金)に東京・日本青年館ホールにて開幕する。
シェイクスピアの史劇「ヘンリー六世」「リチャード三世」を原案とした菅野文による漫画「薔薇王の葬列」のアニメ版(TOKYO MX ほか)が原作。ヨーク家とランカスター家による王位争い「薔薇戦争」の中に生きる男女二つの性を持つ、ヨーク家の三男・リチャードの運命が描かれている。
2.5ジゲン!!では、男女ダブルキャストで主演を務める若月佑美と有馬爽人に対談インタビューを実施。この日が初対面となるお互いの印象、男女ダブルキャストや共演者について、リチャードとの共通点などについて話を聞いた。
――はじめに、本作へ出演が決まった時のお気持ちからお聞かせください。
若月佑美(リチャード役):もともとコミックスの『薔薇王の葬列』を読んでいたので、お話を頂いた時は「まさか自分がこの作品に?」と、とても驚きました。
同時に、1年半ぶりの舞台出演になるけれども大丈夫だろうかと、少しの不安と怖さが胸をよぎりました。舞台というものの存在の大きさや大変さはよく分かっていますし、本作の題材、大きく葛藤するリチャードの役回りを考えると、これは苦しむだろうな…と。色々な思いが頭を駆け巡りましたが、リチャードを演じたいという気持ちがそれらに勝りました。
有馬爽人(リチャード役):僕は舞台に立つのが今作で2度目になります。お話を頂いた時は「また舞台に立てる!」という嬉しさと、次はどんな自分を皆さんにお届けできるだろうと楽しみな気持ちでいっぱいになりました。
僕で大丈夫なのかな…と不安な気持ちもあったのですが、コミックスやアニメを見ていくうちに、リチャードと自分は似ている部分がある、と前向きな気持ちに変わってきました。芯があって己を貫くリチャードを見ていると、自分も頑張らなければと感じます。
――リチャード役は男女でのダブルキャストだと聞いていかがでしたか。
若月:リチャードは男女二つの性を持っていますから、男女ダブルキャストになったことで、男性、女性どちらを主体にしても観られるようになり、「私は、リチャードの性別はこちら側主体で観たい」と思う方の気持ちに寄り添えるのではと感じています。
ダブルキャストは舞台『嫌われ松子の一生』(2016年)で経験していますが、その時は女性2人でのダブルキャストだったこともあり、舞台の雰囲気ががらりと変わるように別々の演出がつけられていました。今回は、同じ演出で男女キャストによる違いを出していくのか、それとも全く違う演出にするのか、どうなるのか楽しみです。
有馬:どうなるのだろうと不安な気持ちはまだ少しありますが、とても楽しみです。男性であり女性でもある人物を演じるのはもちろん初めての経験ですし、新たな挑戦ですね。
――若月さんが考える、ダブルキャストならではの役者としての利点は何でしょうか。
若月:自分一人では思いつかなかった表現などに気付けることと、同じ役について相談できる相手がいる心強さですね。特に今作ではそれを強く実感します。リチャードはたくさんの事を抱え込む人物ですが、お芝居で悩むことがあっても周りの方々に気軽に相談するような役どころではないと感じるんです。リチャード自身が周りを遮断しているような人物なので…。リチャード同士でたくさん話し合って、素敵なリチャードを作り上げていきたいです。
それから、今回私はリチャードが意識していた「男性としての仕草」を勉強しなければいけません。例えば、私は女性として生きているので足を広げていたら怒られますが、リチャードは男性として育てられているのでその限りではないんです。そういう潜在的な男性としての仕草を有馬さんから教えていただけたらと思っています。
――お二人は今日が初対面ということですが、お互いの第一印象を教えてください。
若月:舞台の公式から配信されているコメント動画を拝見した時に、まず「お声が素敵だな」と感じました。しっかりと男性らしさはありつつ、女性っぽい柔らかな部分もあって。実際に今日お会いしてみたら、とても物腰柔らかで優しい方でした!
有馬:僕は本当に人見知りで…。実は、恥ずかしくてまだちゃんと若月さんのお顔を拝見できていないんです(笑)。でも、これまでの質問への回答を聞いていて『薔薇王の葬列』という作品とリチャードへ本当に愛を持っている方なんだと感じました。分かる! と思うこともたくさんありましたし、自分とは違う視点での捉え方を知ることができて新鮮です。これから同じ役を演じていくので、もっとたくさんお話をして、仲を深めていけたらと思っています。
――共演の方々の印象も伺います。ヘンリーを演じる和田琢磨さんと、リチャードの父・ヨーク公爵リチャードを演じる谷口賢志さんについてはいかがですか。
若月:和田さんのコメント動画を拝見して感じたのは、お声もビジュアルもまさにヘンリーなんですよね。原作のある舞台の大先輩ですし、動きやさまざまなことをお聞きできたらと思っています。
谷口さんとは共演経験があって(舞台「鉄コン筋クリート」/2018年)、その時は谷口さんは敵の大ボス役でした。前回は谷口さんを倒すために頑張っていたのが、今回は大好きなお父さん役なので、真逆になりますね(笑)。お芝居も本当に素晴らしい方なので、色々なことをたくさん吸収したいです。
有馬:和田さんは、まだご挨拶させていただいただけなのですが、ものすごく優しくて…。コメント動画も拝見して思ったのは、もうヘンリーそのものだな、と。
谷口さんは、ビジュアルからすでに存在感の大きさを感じます。憧れの存在ですね。大好きな父上を演じられるので、色々とお聞きできたら嬉しいです。
――若月さんは以前からの原作ファンだそうですが、お気に入りのシーンはどこですか。
若月:たくさんあるので悩みますね!(笑) でもどれかを選ぶとすれば、リチャードとヘンリーが森の中で初めて出会うシーンです。リチャードに「おまえ羊飼いなのか?」と言われて、ヘンリーは本当は王様なのに、その言葉に喜ぶんですよね。地位も名誉もある王様という身分の人間なのに、王ではなく、平民である羊飼いだと言われて喜ぶヘンリーがとても印象に残りました。
あのシーンで、ヘンリーの内面や、王である自分の立場に対してどう思っているのかが分かります。リチャードとヘンリー、それぞれの王座についての考え方についても知れる、序盤の中でも大好きなシーンのひとつです。
――作中のキャラクターの中から、ご自身の恋の相手として選ぶなら誰でしょうか。
若月:エドワード王太子です! 一途に恋しちゃっているのがかわいいなって(笑)。
有馬:僕もエドワード王太子ですね! あとケイツビー。ケイツビーはいつも自分の思いを隠し通しているので、素の思いを知りたいです。
若月:ケイツビーを見ていると「もっと自分の気持ちを出していいんだよ!」という気持ちになりますね(笑)。
――冒頭で有馬さんから「リチャードは自分に似ている」というお話がありました。お二人が感じられているリチャードとの共通点を教えてください。
有馬:一度「これ」と決めると死にもの狂いで突き進んでしまうところ。それから、何かに悩み始めると、あまり周りに相談せずに1人で思い詰めてしまうところです。だからこそ、原作に触れてリチャードのことを知れば知るほどつらくなりました。
リチャードのことを考えながら眠りについたら、リチャードのようにものすごい悪夢にうなされて飛び起きたこともあります。リチャードは生まれてからずっとこんな悪夢を見続けてきたんだ…と身に染みる思いでした。
若月:私は、自分の姿かたちにコンプレックスを持っているところと、“代償”に対して恐怖感を抱いているところが似ていると感じています。
リチャードは男女二つの性を持っているので、王子として育てられたものの男でも女でもない自分の体を呪わしく思っていました。どちらの性も持っているというのは素敵だなとも思えるのですが、本人にしてみれば、白黒はっきりつけたいと考えていたのではないかと思うんです。
私は過去、もっと女性らしくなりたいとずっと思っていました。そんなことはないと言ってくださるかもしれないのですが、自分の姿を見続けてきているとやはりどうしても、フォルムなども含めてもっとこうなりたい、という欲が出てきてしまいます。今は年齢も重ねてきて“私は私”と思えるようになってきたのですが、リチャードを見るとまるで過去の自分を見ているような気持ちになります。
“代償”に関しては、リチャードは誰かから愛を向けられても「この愛を受け取ったら代償として何かがダメになるかもしれない」と、愛を受け取ろうとしないんですよね。私自身、何かいいことがあると代わりに悪いことが起きるのではないかと思ってしまっていたので、そこが自分と似ていますね。
――最後に、本作の見どころとファンの皆さんにメッセージをお願いします。
有馬:舞台『薔薇王の葬列』はとても繊細な作品です。一人一人が悩みを抱えながらそれに立ち向かっています。キャラクターそれぞれが持っている背景やストーリー性も濃いので、リチャードはもちろん、他の人物からの視点で観ても色々な感情が見えて楽しめるのではないかと思います。
伝えたいことや、感じてほしいことが溢れるほどあります。それは生で観てこそ感じ取れると思うので、ぜひ劇場へ足を運んでいただけたらと思います。キャストとスタッフ一同で思いを込めて作り上げていきます。
若月:今、この情勢の中でもさまざまな演劇作品が作られています。その中でも、舞台『薔薇王の葬列』は、リアル寄りではないファンタジー色の強い作品なので、違う世界に連れて行ってもらえるような気持ちになってもらえるのではと思います。それと同時に、演劇要素もとても強い作品ですから「ただただ演劇を浴びたい!」という方にもぜひ観ていただきたいです。原作がとても美しいビジュアルの作品なので、舞台もまた、セット、衣装、ヘアメイクその他本当に美しいものが出来上がるのではと思っています。その美しさも楽しみにしてほしいです。
男女ダブルキャストなので、私たちの芝居を受けて他のキャストの皆さんのお芝居も違ったものになるはずです。ぜひ、有馬リチャード、若月リチャード両方を観てその違いも楽しんでいただけたら嬉しいです。素敵な原作をリスペクトして、最高の作品になるように一生懸命頑張ります。ぜひ劇場へ足を運んでもらえたらと思っています。
取材・文:広瀬有希/撮影:梁瀬玉実/ヘアメイク:結城春香/スタイリスト:蔵之下由衣
若月佑美=カーディガン・キャミソー(共にtunica)、パンツ(MURUA)、右リングLana△Swans、左リング(somnium)、シューズ(MANA)
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