「客席にこそドラマがある」をテーマとした舞台『観劇者』が、2021年6月30日(水)に幕を開ける。本作は、開沼豊の脚本・演出によるオリジナル舞台。劇場に来た9人の男女がどのような経緯で舞台を観劇することになったのか…客席の開場から終演後までを描くストーリーだ。
2.5ジゲン!!では、“観劇者”の1人で、かつて養成所に通いながらも俳優の道を諦めた青年・高木蓮役を務める堀田竜成にインタビューを実施。初めてオリジナルのストレートプレイに臨む心境や楽しみにしていること、人生のターニングポイントなどについて聞いた。
課題は「自分の色を見つけること」
――脚本を読んでどのような印象を受けましたか。
僕は、オリジナルのストレートプレイの舞台に出演するのが初めてなのですが、「初挑戦で一人芝居?」と驚きました。舞台に立つ“人”との掛け合いがなく、録音した声とのやりとりになるんです。でも、ここでしか表現できない演技の見せ方があるはずなので、色々と模索しながら挑戦していきたいと思っています。
――今回演じられる高木蓮という人物について教えてください。
とても努力家で真面目な人物です。そして、芯が強くて負けず嫌いでもあります。真面目だからこそ、壁にぶつかってだめになった時に心がポッキリと折れて自信がなくなってしまうんですよね。けれども心のどこかで「まだチャンスはある」と思っている。
最後まで脚本を読んで感じたのは、気持ちを引きずったとしても、自分でこうだと決めた後は区切りをつけて、前を向いてポジティブに努力できる人なんじゃないかと。「新しいことに挑戦しよう」と気持ちの切り替えができる人柄なんだと感じました。夢をあきらめてネガティブに終わるのではないんです。
それまで頑張っていたこととは別の道に進むことになっても、切り替えて努力をしていく未来が見えました。闇の中に光がある、彼のそういう人物像を表現していきたいです。
――どのように役作りをしていこうと思いますか。
蓮は、僕と似ている部分と似ていない部分の両面を持っています。似ているなと思うのは、負けず嫌いなところ。
僕も負けず嫌いだから、やるべきことはちゃんとやろうと決めているんです。
僕と違うなと思うのは、蓮は根っから真面目であるところです。僕は明るく、お調子者のところがあるけれど、彼はそうではありません。
今回掛け合いをする佐伯裕二(声のみの出演)は、蓮とは真逆の存在です。でも不思議なことに、裕二も僕にそっくりだと感じる面があるんです。
蓮は、裕二に対して嫌な気持ちを持つこともあるのですが、最後には裕二のことをきちんと認めます。蓮のそういう真面目なところをしっかりと表現するために、彼のことをたくさん知っていこうと思っています。
――ご自身初となる、原作のないストレートプレイです。どのように個性を出していこうと思いますか?
今回はそれを見つけるというのが大きな課題になっています。今までは原作のある舞台だったので、キャラクターもすでに出来上がっていましたから。
オリジナルのストレートプレイでお芝居をすることで、こんな表現ができるんだ、あんなこともできるんだと自分の能力を発見していきたいですし、一緒に演じる役者さんのいいところをいっぱい盗んでいけたらいいなと思っています。
自分の色を見つける。それが今回の課題ですね。
――今は稽古前ということですが、顔合わせの時に印象深かった方は?
大滝樹さん(田淵舞役)と林明寛さん(大澤亮太役)です。お2人は今回、カップルを演じられるのですが、顔合わせの時から「あれ? この2人付き合っているんじゃない?」と思うくらいに本当に違和感のない掛け合いを見せてくださって(笑)。
お2人のやりとりがすごく楽しくて、すでに自分が“観劇者”になっているかのようでした。空気感が良くて、テンポや間がマッチしていて…。ぜひ皆さんにも、この面白さを共有してほしいなと思いました。
それから、斉藤レイさん(一条かなえ役)と長戸勝彦さん(一条勉役)のご夫婦役はもう安定の安心感です。このお2人も「本当の夫婦じゃないの?」というくらいにいい空気感を出していらっしゃいました。
救命の現場で考えた「僕にも夢がある」
――先ほど高木蓮は「切り替える」ことができるとおっしゃっていましたが、堀田さんがこれまでの人生の中で“切り替えた”ことを教えてください。
僕は救急救命の看護師として働いていたんですが、この業界で生きていこうと切り替えました。きっかけは、救命の現場で、自分よりも年下の方が亡くなっていくのを目の当たりにしたことです。次の日、留学するはずだったという方もいました。
この方も夢を持っていた。僕にも夢がある。いつ死ぬかわからないし、ひょっとしたら明日死ぬかもしれないんだ。そう思ったら、このままで人生に納得できるのだろうか? と疑問を感じてしまって…。その数日後には、上司に「夢を追いかけたいです」と伝えて、一カ月後には東京に出て来ました。
――芸能界への挑戦。上京にあたって不安はなかったのでしょうか?
不安よりも楽しみの方が大きかったです。
新しいことに挑戦するのはすごく大変だけれど、それよりも、自分が挑戦してみたかったことに対してすごくわくわくドキドキしました。どんな出会いがあるんだろうと楽しみで仕方なかったんです。上京してすぐ、土日は路上ライブをしていました。
――路上ライブは堀田さんにとって原点なのですね。
原点ですね。路上でライブをしていると、色々な人に出会いました。突然「歌わせろ」とマイクを奪われたり、酔っ払いの方にからまれたり(笑)。路上ライブをすることで、そういう突然のことが起こっても対応できる力が身に付いたと思います。
そして、とあるきっかけでスカウトをしていただき、俳優業をやらせていただくことになりました。でも僕は歌手志望で大阪から上京してきたので、初めはどうしたらいいか分からず戸惑いました。気持ちの作り方も分からず、不安でいっぱいでした。
でも、表現したことをお客さんに喜んでもらえるというのは素敵なお仕事だなと思ったんです。掘れば掘るほど深いですし、大変ですけれど、大変な分だけ素敵だな、と。
俳優になりたいと夢を持っている人に、「こんな僕でもなれたよ」「一生懸命やっているよ」というメッセージを伝えることができて、支えになれるのであれば、このお仕事をやっている意味があるのかなと思います。
俳優を目指している人だけではなく、何に対してでも、頑張っている人に僕の頑張っている姿を見てもらいたい。僕のそういう姿勢が、誰かの生きるきっかけになれたら嬉しく思います。
これから目指す役者像は?
――今後の役者としてのビジョンを教えてください。
具体的な目標としては、ムロツヨシさんのようになりたいです。演技の幅が広くて、どの役をやっても心に引っかかりを感じることなく、スッとそのまま自然に見られます。特にコメディーでは自然に目で追ってしまいますし、人を惹きつける素晴らしい魅力のある役者さんです。
今まではテレビを本当に何気なく見ていたのですが、最近では、表現力の中にある人間力を見るようになってきました。今後、幅広い表現ができると同時に人間性を見てもらえる役者になりたいと思っています。
――最後に、本作の見どころとファンの皆さんへメッセージをお願いします。
あえて笑わせにいっているわけではないけれど、長セリフの中に思わず笑ってしまうような箇所が入っていたり、テンポの良い掛け合いがあったり、見どころがたくさんあります。
僕自身で言えば、今回は原作のないオリジナルのストレートプレイなので、観に来てくださった皆さんが心に引っかかりや疑問を感じることなく、自然に納得してもらえるような人物像を作っていけたらと思っています。
稽古で作り上げて完成した“答え”になる高木蓮を、どうぞ楽しみに観に来てください!
文:広瀬有希/撮影:梁瀬玉実
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