8月4日(金)より東京・天王洲 銀河劇場にて、舞台『弱虫ペダル』THE DAY 1が開幕した。
初演から11年目を迎える舞台『弱虫ペダル』シリーズ。今作も、前作「The Cadence!」に引き続き鯨井康介が演出を務め、西田シャトナーの脚本・レース演出メソッドとともに、ステージ上で新たな歴史を切り拓いてゆく。
前作では、主人公・小野田坂道とチームメイト達との出会いや総北高校・箱根学園(ハコガク)両校メンバーのインターハイにかける思いなどが語られた。今作では、いよいよ彼らが激突するインターハイ初日の様子が描かれる。
2.5ジゲン!!では、初日に先立って開催されたゲネプロとオフィシャル会見を取材した。
今作の上演時間は約2時間10分。3日間続くインターハイの第1日目が描かれる。
この大会は小野田坂道(演・島村龍乃介)、今泉俊輔(演・砂川脩弥)、鳴子章吉(演・北乃颯希)ら1年生にとっては初めての、そして巻島裕介(演・山本涼介)、金城真護(演・川﨑優作)、田所迅(演・滝川広大)ら3年生にとっては最後のインターハイとなる。
インターハイ1日目のレースには、3つの大きな見どころがある。直線の平坦な道路で純粋な速さを競う「スプリントリザルト」、箱根山の難所と言われる九十九折りの頂上を競う「山岳リザルト」、そして1日目の総合優勝を決する「ゴール前」のステージだ。
江ノ島をスタートした選手たちはパレードランを経て一気に加速し、この日のレースの主導権を左右すると言われるスプリント勝負に突入していく。ここで活躍するのは、平坦道でのハイスピード走行に長けたスプリンターたちだ。総北からは鳴子と田所が、ハコガクからは2年生の泉田塔一郎(演・青柳塁斗)が打って出る。
北乃颯希演じる鳴子は、小柄ながらもエネルギーの塊のような存在感。内側からあふれるはち切れんばかりのパワーをすべて前進するために燃やす、まっすぐな気性が伝わってくる。
同じ総北の先輩である田所とは、チームメイトでありながらお互い負けることのできないライバル同士でもある。総北きっての負けず嫌いコンビが織りなす真剣勝負は、熱い肉弾戦を魅せてくれる。そこへ切り込むのがハコガク唯一の2年生レギュラー、泉田だ。
「全身スプリントマシーン」と称される筋肉自慢の泉田を演じるのは、今作が「ペダステ」初出演となる青柳塁斗。青柳は俳優でありながらボディビル大会入賞経験を持つ。鍛え上げたその肉体から繰り出される泉田の台詞や自負の説得力は圧倒的だ。
ちなみに、「ペダステ」の醍醐味の1つである多彩な兼役システムは今作でも健在で、キャストたちは様々な人物や事象を豊かな感性とユニークな手法で表現している。泉田の左右の胸筋「アンディ」と「フランク」もその1つ。誰がどのように演じるのか、要チェックだ。
スプリントリザルトはコミカルなシーンも多く、素直に楽しめると同時に、勝敗を喫するまでの過程はやはり熱い。鳴子、田所、泉田が繰り広げる三つ巴のガチンコ勝負をぜひ体感してほしい。
2つ目の見どころは山岳リザルト。
これは険しい上り坂を得意とするクライマー達の見せ場であり、小野田はチームのキャプテン・金城から、先輩クライマーの巻島とともにチームを先導するようオーダーされる。
しかし、ここで集団落車のハプニングが発生。巻き込まれた小野田に大きな怪我は無かったものの、チームから引き離され最下位まで後退してしまう。
小野田がチームに追いつくためには、前方を走る100人もの選手を抜き去らなくてはならない。ロードレースを始めてたった数ヶ月の彼には不可能としか思えない過酷な条件だが、小野田坂道は迷わずペダルを漕ぎ出すのだった。
小野田のメンタルの強さと「チームの力になりたい」というひたむきな思いが、演じる島村龍乃介からにじみ出る。舞台初出演・初主演となった前作ではフレッシュながらも表現力の高い芝居で観客を唸らせた島村だが、今作ではそれに加えて小野田特有の力強さが伝わってくる。
そして、この山岳ステージにはもう1つ大きな見せ場がある。原作でも屈指の名勝負、巻島vs東堂のクライマー対決だ。
ハコガクの東堂尽八(演・フクシノブキ)は「山神」の異名を持つ実力派クライマー。その東堂が最大のライバルと認めるのが「巻ちゃん」こと総北の巻島である。性格も走行スタイルも全く違う2人だが、山頂に焦がれる思いは同じだ。
実力も順位もずっと拮抗してきた因縁のライバルが、高校最後の夏にすべてをかけてぶつかり合う。フクシ演じる東堂が見せる勝負そのものへのはじけるような喜びと、山本演じる巻島の抑えても込み上げるマグマのような情熱の対比が印象的だ。この勝負、ぜひ多くの目に焼き付けてほしい。
さて、山岳ステージが終わるといよいよ1日目のゴールが近づいてくる。各校の脚自慢がこぞって追い込みにかかる中、総北からはエース・金城とアシストの今泉が、ハコガクからはエース・福富寿一(演・髙﨑俊吾)とアシストの荒北靖友(演・相澤莉多)がそれぞれ飛び出す。
あきらめない男・金城と、強さに絶対のこだわりを持つ福富。心身ともに強靭な2人のエースとそれを支えるアシスト同士の対決は、まさに一瞬も目が離せない緊迫感に満ちている。
金城と福富は1年前のインターハイでも対決しているが、あるできごとが原因で決着をつけられずにいた。チームのエースとして、また1人の“自転車乗り”として、互いの信じる「強さ」をぶつけ合う好敵手の姿は熱くも爽快だ。
そんなエースを支えるべく走る今泉も、ここで飛躍の機会を得る。ハコガクの荒北は野獣のような気質の持ち主で、己の中にある飢えや乾きをレースで満たす術を知っている。そんな荒北の走りに刺激を受けた今泉もまた、これまで見せなかった剥き出しの闘争心を爆発させるのだった。
4人の男がそれぞれの強さをぶつけ合う、ゴール前のラストラン。そこへ思いもよらない異分子が加わり、レースはさらに激化する。1日目最後のカラーゼッケンはいったい誰の手に渡るのか、手に汗握るゴールの瞬間を選手たちとともに迎えてほしい。
3日間にわたる長いレースの1日目を描く今作では、まだ実力を見せていない選手も複数いる。ハコガクのエーススプリンター・新開隼人(演・百成瑛)、同じくハコガクの1年生ルーキー・真波山岳(演・中島拓人)がそうだ。2人ともすでに観客の目を惹きつけてやまない存在感を放っているだけに、今後活躍するシーンが楽しみである。
さらに、京都伏見高校エース・御堂筋翔(演・新井將)も忘れるわけにはいかない。新井演じる御堂筋の印象を一言で言うと「怪物」。今作でも小野田が100人抜きに挑むシーンで最大の壁となり、エース同士のゴール争いにも驚くべき形で絡んでくる御堂筋だが、その実力はまだまだ底が知れない。
筆者はあるシーンで、御堂筋の姿が実際の何倍にも膨らむような錯覚を覚えた。細やかな表情や声色の変化、手足の長さを活かした不気味な動きはまさに御堂筋そのもの。今後のストーリーでの「進化」にも期待が高まる。
舞台『弱虫ペダル』 THE DAY 1は、8月13日(日)まで東京・天王洲 銀河劇場で上演される。この夏は、酷暑を吹き飛ばすほど熱い芝居を、ぜひ劇場で体感してほしい。
会見レポート
当日はゲネプロとともにオフィシャル会見が開かれ、小野田坂道役の島村龍乃介、今泉俊輔役の砂川脩弥、鳴子章吉役の北乃颯希、泉田塔一郎役の青柳塁斗、御堂筋翔役の新井將の5人が登壇した。
――まずは、今作への意気込みをお聞かせください。
島村:小野田坂道役の島村龍乃介です。前作「The Cadence!」では坂道にとって初めての自転車、僕にとって初めての舞台出演ということで、坂道と一緒に成長させていただきました。今作ではもっともっと成長して、一味違う坂道の姿をお見せできるよう頑張ります。
砂川:今泉俊輔役の砂川脩弥です。前作では自転車対決をした坂道と、今作ではチームメイトになります。仲間意識やライバルに対する思いなど、また違う角度から今泉を表現できるのではないかと思うので、ぜひ楽しみにしてください。
北乃:鳴子章吉役の北乃颯希です。前作では1年生レースということで僕ら個々の戦いが描かれましたが、今回は3年生も加わりチーム一丸となってインターハイに挑みます。強豪校のハコガクや京都伏見をみんなでぶっ倒したいと思います! よろしくお願いします。
青柳:泉田塔一郎役の青柳塁斗です。僕は今回から初参加ですので、自分がチームに加わることでよりハコガクの強さを見せられるように、この日のためだけに筋肉を鍛えてきました(一同笑)。自転車を漕ぐということで、やっぱり足を重点的に鍛えました。
演出の鯨井康介くんは僕が10代のときから知っている仲の良い方です。彼の演出に身を任せつつ、男子校よりも“男子校くさい”くらいにたくさん汗をかいて、まさに部活をする気持ちで楽しんでいます。頑張ります!
新井:御堂筋翔を演じさせていただきます、新井將です。意気込みとしては……大変な重圧を感じています(笑)。長年愛されてきた作品に参加できることを本当に光栄に思うと同時に、どうやって(芝居を)やっていこうか、僕の思い描く御堂筋をどのようにすれば皆さまにお届けできるかと、ワクワク、ソワソワしています。
でも幕が開けば、力強い御堂筋が全身の毛穴から飛び出してくるかと思います! 楽しんだり気持ち悪がったりしながら見ていただけたら嬉しいです。
――前作から継続して出演されている島村さん、砂川さん、北乃さんに質問です。ペダステ新シリーズ2作目となる今作ですが、ご自身やカンパニーが成長したと感じる点はありますか?
島村:新キャストの青柳塁斗くん、新井將くんが加わって熱量が高まり、自分としても坂道としても、また作品(カンパニー)としても大きく成長できました。
また、前作では信号機トリオ(小野田、今泉、鳴子)が物語のメインでしたが、今回は総北、ハコガク、京伏と色々なキャラクターがインターハイに挑む、見どころ満載のストーリーです。そこも大きな進化ですね。
砂川:僕にとって初めての「ペダステ」となった前作の稽古場では、最初スロープの上に立つのも怖く感じたり、どうしたら良いのか分からないことも多かったりしました。でも今作ではそういう怖さをいったん脇に置いて、今泉俊輔を研究することに集中できたと感じています。
新キャストのおふたりが(役や世界観を)濃厚に作り上げてきていて、それも刺激になりました。間違いなく前作よりパワーアップしている手応えがあります。
北乃:僕も前作の稽古ではいっぱいいっぱいで自分の役に集中するばかりでしたが、今回は1歩引いて見られる自分がいるな、と感じました。
稽古中には歴代キャストの先輩方が訪問してくださって、自転車の乗り方や集団の動きを新たに勉強できる機会もありました! パワーアップした姿をお届けしますので、お客さまには楽しみにしていてほしいです。
――次に、今作より新キャストとして加わった青柳さん、新井さんに質問です。現時点で、カンパニーについてどんな印象を抱いていますか?
青柳:「ペダステは身体を使う」と聞いていましたが、実際に現場に入ってみて僕自身は、自転車を漕ぎつつフォーメーションを覚える、変えていく、といった「頭を使う」部分により神経を注ぐ必要があるなと気づきました。「ここは漕がずに足を止めて台詞を言う」など気をつけるべき事柄も多く、身体の動きはアスリート、頭の動きはクレバーに、という意識のもと作られている作品なのだと感じています。
新井:座組の雰囲気は本当にとても良いです! 見ていただければ分かるとおり、みんな優しい人ばかりで、一丸となって作品を作り上げています。「ペダステ」は、創業当時から継ぎ足し継ぎ足し引き継がれてきた秘伝のタレのような作品です。そこに僕らのような新しいキャストのフレッシュさが加わって、また新たな舞台『弱虫ペダル』の世界が広がっていくのだと思います。
御堂筋という役柄も、「僕が演じたから」だけでなく「(このカンパニーの)彼らと演じたから」こういう御堂筋ができあがったのだと感じていて、とても気に入っています。
――最後に、お客さまに向けてメッセージをお願いします。
砂川:舞台上で場当たり(リハーサル)をしていると、本当にパワーアップしていること、熱くて面白いものができあがっていることを実感します。1回見たら絶対ハマると思うので、ぜひ皆さん見に来て、楽しんでいってください!
北乃:新メンバーも加わってさらにパワーアップした「ペダステ」、生で見ていただけたらよりその良さが伝わると思います。配信はもちろん、できればぜひ劇場で、生でご観劇ください!
青柳:この作品を見た方はきっと「身体を鍛えたい」と思うでしょう(一同笑)。もし「同じフォームでペダルを漕いでみたいな」と思ったらそれも試していただければ、下半身も鍛えられると思います。ぜひ観劇して楽しんで、色々なことを学んで、そして笑って帰っていただければと思います。
新井:ここまでまじめにお話させていただきましたが、舞台の上にはこのようなまっとうな御堂筋はまったく登場いたしません!(一同笑) いろいろな恐ろしさや面白さを体感してください。そして先ほど(北乃)颯希くんが言ったように、生で見ていただいてこその「ぺダステ」だとも思います。
この熱量と、魂と、汗と情熱と血と骨と、すべてが湧き出るような舞台を劇場で見ていただきたいです。感動をどんどん伝播(でんぱ)させ、新しい「ペダステ」旋風をみんなで巻き起こしていきたいです。
島村:僕は『弱虫ペダル』の原作漫画もアニメも大好きなんですが、舞台の良さはやはり目の前で生身の人間がぶつかり合い、汗を流し、熱い台詞を心から発する、それを見られることだと思っています。みんなが言っているとおり、生で見ていただいたら心にガツンと来るものがあると思うし、僕らも熱量を込めて演じます。劇場でお待ちしています!
取材・文:豊島オリカ/撮影:ケイヒカル
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