7月27日(木)に東京・タワーホール船堀にて、ミュージカル「伝説のリトルバスケットボール団」のプレビュー公演が上演される。
本作は、学校でいじめられ居場所がなくなった高校生スヒョンが、突然現れた幽霊たちとバスケットボールを通じて奮闘し、勇気と自信を取り戻していく物語。韓国の2大ミュージカル賞「イエグリーンミュージカルアワード」で、主要部門であるミュージカル賞、演出賞、脚本賞候補に選ばれるなど、パク・ヘリムによる笑って泣けるストーリーとファン・イェスルによる美しく心躍る音楽が魅力の作品だ。
そして6人の俳優が1人何役も演じ分け、物語を紡いでいくことも本作の大きな魅力となっている。
2.5ジゲン!!では、初日直前に開催された囲み取材とゲネプロ(公開通し稽古)を取材した。
舞台上にはバスケットボールのコートが設置されており、フェンスの向こう側で生バンドが迫力のある演奏を繰り広げる。
主人公のスヒョン(演:橋本祥平)は、運動が苦手で引っ込み思案な性格。同じクラスで隣の席のサンテ(演:太田将熙)にさえ存在に気づいてもらえない。
ある日バスケットボールの試合があり、スヒョンのチームが負けてしまったことをきっかけに激しいいじめにあってしまう。そんな毎日に絶望したスヒョンは自ら命を絶とうとするのだが、一命をとりとめた目の前には、ダイン(演:梅津瑞樹)、スンウ(演:糸川耀士郎)、ジフン(演:吉高志音)と名乗る見知らぬ3人の高校生がいた。
スヒョンを演じる橋本の熱演にくぎ付けにされる。「お前、ほんとクズだな!」ときつい言葉を浴びせられ、おどおどする姿に心が痛むのだが、「自分ばかりがなぜこんな目に合わなければいけないのだ」という怒りと、「自分を変えたい」と心のどこかで願う思春期の揺れを見事に表現していた。
幽霊となって現れたダイン、スンウ、ジフンに出会い「どうせ死ぬならその体を俺たちに貸して願いをかなえてほしい」と頼まれたことで、スヒョンの人生は動き出す。
数学が得意なダインが憑依すると、授業中に難問を解いて先生に驚かれ、バスケットボールが得意なスンウが憑依すると、運動音痴のスヒョンが見事にダンクシュートを決める。そして少しチャラいけれどもいつも元気で前向きなジフンが憑依すると、人が変わったように積極的な高校生になるスヒョン。
その変貌を橋本は自由自在に演じ分け、梅津、糸川、吉高とのコンビネーションも抜群だ。
眼鏡がトレードマークのダインを演じる梅津は、いかにも秀才といった風情がよく似合う。ヘアバンドをしてバスケットボールが得意なスンウを演じる糸川は、自身が得意としているバスケットボールの技を惜しみなく披露し、さわやかな笑顔を見せる。そして、ヘッドホンをつけいつも明るいジフンを演じる吉高が登場すると、ステージ上がパッと華やかになる。
スンウが憑依した状態でバスケットをするスヒョンを見たコーチのジョンウ(演:平野良)は、スヒョンを強引にバスケットボールのチームに入部させる。
やる気のない部員たちでのチームでは廃部になってしまう、と危機感を持ったジョンウは、なんとか部員たちに「試合に勝つこと」の意味を知ってほしいと奮闘し、スヒョンは渋々入部したにも関わらず、一生懸命に頑張りキャプテンに指名されるまでになるのだ。
やる気のない部員を梅津、糸川、吉高が演じているが、これが物語の後半では、ダイン、スンウ、ジフンにリンクし、ジョンウとの関係性が明らかになっていく。
親善試合で訪れた海辺の町・ソクチェで、「海には絶対に入るなよ!!」と部員たちにくぎを刺すジョンウには悲しい過去があり、演じる平野の切ない演技に思わず涙がこぼれてしまった。
「こんな人生、終わらせたい」と自暴自棄になっていたスヒョンが、ダイン、スンウ、ジフンそしてジョンウと出会ったことで考えを変えるようになる。そしてバスケットボールを通じてサンテと友人になりスヒョンの未来が開けていくのだが、サンテを演じる太田が、クールにスヒョンを見守り、次第に寄り添っていく過程を上手く演じているのが、物語の良いスパイスになっていた。
よく考えたら、ある程度予想ができる物語展開なのかもしれない。それでも舞台上の人物に感情移入して、知らず知らずのうちに涙がこぼれてしまうのは、橋本、梅津、糸川、吉高、太田、平野の熱演があるからだろう。
そして囲み取材でも語られていたが、物語を彩る音楽の素晴らしさも舞台に見入ってしまう要因だといえる。
韓国ミュージカルならではの魅力がたっぷりつまったミュージカル「伝説のリトルバスケットボール団」の上演時間は1時間50分。2024年2月~3月に東京と大阪で本公演の上演が決定している。
囲み取材レポート
同日の囲み取材には、スヒョン役の橋本祥平、ダイン役の梅津瑞樹、スンウ役の糸川耀士郎、ジフン役の吉高志音、サンテ役の太田将熙、ジョンウ役の平野良が登壇し、翌日に控えるプレビュー公演と来年の本公演に向けて意気込みを語った。
挨拶をする際に、橋本と梅津は「アンニョンハセヨ」糸川は「サランヘヨ」と韓国語を披露。平野は、いただきますを意味する「チャルモッケスムニダ」とあいさつし、笑いをとった。
橋本:この作品の出演者は6人しかいません。舞台上にいなくても裏でバタバタと着替えて、すぐ出て…と、約2時間の演劇ですが常にフル稼働で動いてる状態です。そしてバスケ経験者もいたり、僕もそうなんですが初心者もいたり、稽古が始まる前からバスケットの事前練習をして向き合ってきましたので、そういう成果を届けられたらと思います。何よりも、スポ根ならではの爽快感のある作品をぜひ楽しんで欲しいです。
梅津:僕らは10代で亡くなってるという設定なのですが、僕は今、30歳なんですよね。こうして脇や生足も出している姿は今後見れないかもしれません(笑)。10代に戻って駆けずり回って、最終的には切ないというか、10代のときの友達が今どうしてるかなと思い出したりするぐらい、いい物語になっているので、ぜひ楽しみにしていただければと思います。
糸川:出演者が少ないんですけど、個性豊かなキャラクターがいっぱい出てきて、本当に素晴らしい方々が集まったと思います。これぞ日本版の「伝説のリトルバスケットボール団」だというものをお見せできたら嬉しいです。
吉高:稽古をしてきた中で、たくさんバスケの練習もしてきて、スポーツでしか共有できない絆だったり、青春のワンカットだったり、そういうキラキラしたところをお届けできたらと思います。
太田:音楽がすごく明るくて楽しくて、いい曲が多いです。韓国はエンタメのレベルが高いですが、こうした曲を日本で生バンドをつけて歌えるのはすごく光栄なことです。作品は切ない部分もありますが、あまり重たくお芝居をせず、軽々とテンポよく進んでいきます。さっき梅くん(梅津)も言っていましたけど、見終わった後に「あいつらどうしてるかな」と、友達のことを考えられる作品になっているんじゃないかなと思っています。
生きてる人間は時間が止まっていて、亡くなった人のほうが先に進んでいたりするのは本当にあると思っています。残された側は現在にとどまりがちなんですけど、この作品を見て、自分ももう1歩進みたいと思ってもらいたいです。
平野:最後なので言うことがあまりないんですけれども(笑)、韓国特有の軽快な音楽に乗せて、しかもそれが生バンドなので、青春の爽やかな感じとか、弾け飛ぶ感じが本当にライブならではで飛んでくるのが魅力です。
10代の頃を思い出したという話がありましたが、僕は10代の頃が思い出せないぐらい昔になりました。今回大人組としてコーチを演じますが、同じ舞台上に立っていても、5人が歌って踊ってお芝居をしてる姿を見ると、それだけでなぜか胸が熱くなります。青春は「青い春」と書きますが、それ以上の表現で言っていいんじゃないかなと思っていて「スカイブルースプリング」ですかね。以上です!(一同笑)。
今回のように1日限りのプレビュー公演、本公演は来年上演という珍しい取り組みについて質問が及ぶと、橋本は「1日限りのプレビュー公演のために約1カ月間稽古をしたので、今ある全力を出したい」と意気込んだ。
梅津は「今回のような形態をとること自体が珍しいので、シンプルにドキドキします」とし、太田が「ブロードウェイだと、プレビュー公演の“でき”で本公演がなくなったりします。ありがたいことに僕たちは本公演が決まっているので、プレビュー公演を観たお客さんに『来年もっといっぱい観たいな』と思っていただきたいです」と語ると、平野は「それのみだよね。我々の評価にもなるので、明日1日ですが、肩を張りすぎず、延長線上に本公演があると思って初日を迎える心持ちで臨みたいと思います」と熱い想いを込めた。
一方でバスケを得意とする糸川は「本公演は来年なので、みんなのバスケのレベルが格段に上がってると思います」と語り、同じくバスケ経験者の吉高は「一緒に練習やシュート練習もしてきたんですけど、このチームでできるフレッシュさをお届けしたいです」と意気込んだ。
囲み取材の最後は、本公演に向けてそれぞれ想いを語った。
平野:明日プレビュー公演をして、来年2月の本公演まで半年ぐらいありますが、来年はこのプレッシャーにプラスして、ちょっとエッジの効いたシュッとした作品になるんじゃないかと今から期待してます。本公演は冬ですが、劇場を出る頃にちょっとジンワリ汗かいちゃった…なんてお客さまに言ってもらえるぐらいの熱い公演にしたいと思っております。
太田:(平野)良さんが言ったとおりで、より良い作品にするのはもちろんですけど、日本の『SLAM DUNK(スラムダンク)』が、韓国で映画がヒットしている中、日本ではこの「リトルバスケ」をいろんな方に知っていただけたらと思います。そしていろいろな国でこの作品が続いていくように頑張りたいです。
吉高:本公演まで半年ですが、ここで感じてきたものをリトルバスケにぶつけて、体力をもっとつけて、キラキラしたフレッシュな青春のバスケのエネルギーをぶつけられたと思います。頑張りたいと思います。
糸川:本当にいい作品ですし、いいキャストの皆さんが揃ってるので、まずは明日のプレビュー公演を頑張って、お客さまに「リトルバスケを観に行ってきたけど、すごく面白かったよ」と口コミでいっぱい広まって、本公演につながってくれたらとても嬉しいです。とりあえず明日全力で頑張りたいと思います。
梅津:やっぱ最後の方にコメントするのはつらいですね(笑)
平野:つらいですよ!
梅津:半年という期間は長いようであっという間だったりもするわけで、今日のゲネプロもふくめて3公演やって、もっとこうしたかったと思っても続きはないんですよね。役作りも、もしかしたら半年の間にコロッと変わるかもしれないし、それは(演出の)TETSUHARUさんやいろんな人と相談しながら決めることでもあるんですけど。来年は来年で、ゼロから作るというぐらいの気持ちで取り組みたいと今から思っております。
橋本:改めて素敵な物語に生きれることが本当に幸せだと思っております。明日のプレビュー公演は来年につながる素敵な1日にできたらと思いますし、僕らの使命は、この素敵なミュージカルを日本で上演して、できるだけたくさんの人に伝えることです。そのために明日全力で頑張って、来年たくさんの人が観に来てくださるようなプレビュー公演にしたいと思っています。今ある全力を出しますが、そこから来年に向けて伸びしろはまだまだあると思います。その伸びしろを含め、楽しみにしてくださったら嬉しいです。
取材・撮影・文:咲田真菜
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