舞台「ヴァニタスの手記」-Encore-が3月10日(金)に東京・サンシャイン劇場にて開幕した。
本作は、アニメ化もされている望月淳による漫画「ヴァニタスの手記」(スクウェア・エニックス刊)の舞台化作品。2022年1月に惜しくも1公演のみで幕を下ろした再演だ。
2.5ジゲン!!では、初日に先立ちおこなわれたゲネプロと囲み会見の様子をお届けする。
舞台となるのは、19世紀のフランス。人間と吸血鬼(ヴァンピール)による戦争の後、吸血鬼たちは人間を襲うことを禁じられ、そのほとんどが「境界」の向こう側の世界へと姿を消した。
そんな中、吸血鬼の青年・ノエ(演:菊池修司)は彼の師であり育ての親でもある“先生”からの言いつけでパリへ向かっていた。ノエの目的は、吸血鬼に呪いを振りまくという機械仕掛けの魔導書魔道書「ヴァニタスの書」を探すこと。パリ行きの飛空艇の中、とある事件に巻き込まれたノエの前に現れたのは、吸血鬼専門の医者を自称する人間・ヴァニタス(演:植田圭輔)だった。
ヴァニタスは真名を歪められたアメリア(演:渡辺菜花)を治療し、滅びゆく運命にあるすべての吸血鬼を自分の手で救うのだと宣言。ノエはヴァニタスの書だけではなく、ヴァニタス自身にも興味を抱き、2人は行動をともにすることになる。
パリに到着してすぐ、飛空艇の事件が理由で牢屋に入れられてしまうヴァニタスとノエ。街の権力者であるオルロック伯爵(演:中村哲人)によって釈放されるが、先日ヴァニタスが助けたアメリアは“呪い持ち”として処分されようとしていた。アメリアを助ける交換条件として、ヴァニタスとノエは街を騒がせている事件の犯人を捕まえに行くことになる。
事件の真相に迫る中、ヴァニタスの書を求める吸血鬼の少年・ルカ(演:前田武蔵)とルカを守る騎士・ジャンヌ(演:七木奏音)が2人の前に立ちはだかる。ヴァニタスの考えたある作戦によって何とか勝利を収めるが、その後も異界での仮面舞踏会に乱入したり、吸血鬼の真名を歪める謎の集団「シャルラタン」との邂逅を果たしたりと、波乱万丈な日々は続いていく。
その先に待ち受ける運命を、ノエが冒頭で語っていたことに後になって気づく。終わりに向かって進む2人の旅路は悲しく残酷なものかもしれないが、たった一瞬でも目を反らしたくないと思えるのは、彼らの生きざまがあまりにも眩しく、鮮烈な光を放っているからだろう。
主人公のヴァニタスは、前作に続き植田圭輔が熱演。初演の際には代役として急遽舞台に立つこととなった高本学を支える頼もしさが目立ったが、今作ではよりひょうひょうとしたヴァニタスらしさが輝いていたように思える。ヴァニタスは軽薄な振る舞いによって周囲の反感を買うことも多いが、その実は自己肯定感の低い天邪鬼だ。そんなヴァニタスの機微を繊細に描く植田の姿は、さすがの一言に尽きる。頭のてっぺんから爪先まで美しい色男が時折見せる影のある表情に、心臓を鷲掴みにされたファンも多いのではないだろうか。
菊地修司が演じるもう1人の主人公・ノエは、紳士的な好青年。けれど自分の感情に素直に行動する子どものような真っ直ぐさを、菊地が見事に演じ切っていた。自分には決して成し得ないことを可能にするヴァニタスの姿に光を見出しながら、その影に潜む心の闇に寄り添う姿にも胸を打たれる。長い手足が光る殺陣は、ぜひ劇場で確認してほしい。
美しくも苛烈なヒロイン・ジャンヌを演じるのは七木奏音。ルカを守るために戦う姿は業火の魔女と呼ばれ恐れられているが、そんな彼女が見せる照れた姿はとにかく可愛い。強さも可愛さも兼ね備えたヒロインに、筆者も思わず目を奪われた。ルカを演じる前田武蔵は、なんと13歳。ジャンヌへの愛に溢れたルカを見事に好演。ステージ上でも唯一無二の存在感を放っており、今後の成長が楽しみ過ぎる役者だ。
澤田美紀が演じる長い黒髪をした男装の麗人ドミニク・ド・サドが登場すると、舞台がぱっと眩しくなるような錯覚を覚える。それほど美しいのだ。漫画でよくある“背景に花が飛ぶ”という演出が、こんなにも似合う麗人はそうお目にかかれないだろう。
狩人(シャスール)のローランは、丘山晴己が演じることによって、緊迫したストーリーに笑いを差し込む最高のエッセンスとなっている。しかし、ひとたび戦闘シーンなれば纏う空気が一気に変わる面がずるいくらいにカッコいい。スイッチが切り替わる際の表情づくりは必見である。
ほかにもツッコミも担当してくれるノックス(演:香月ハル)とマーネ(演:酒井翔悟)の姉弟や、圧倒的貫禄で空気を締めつつかわいい一面も見せるオルロック伯爵など、魅力的なキャストが勢ぞろいな上に、アンサンブルの存在も欠かせない。美しくもおぞましいネーニア、シャルラタン達の演出が物語の不穏さを加速させていた。
今作は大がかりなセットチェンジはないが、その分多彩な照明や音響の効果をしっかりと感じることができる。ある時は19世紀の華やかなパリ、ある時は緊迫感の漂う地下墓地と、場面ごとにステージはがらりと雰囲気を変える。衣装も細部まで美しい仕上がりになっており、目がいくつあっても足りないと感じてしまうほどだ。
上演時間は休憩を含め、カーテンコールまでおよそ150分。エンディングにもアニメのOPテーマ「空と虚」が用いられており、最後の最後まで「ヴァニタスの手記」の世界に浸ることができるだろう。
公演は3月12日(日)まで行われる。呪いと救いの吸血鬼譚を、ぜひ見届けてもらいたい。
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ゲネプロ前の会見には、植田圭輔、菊池修司、七木奏音、澤田美紀、前田武蔵、丘山晴己の6人が登壇した。
――公演に向けての意気込みをお聞かせください。
植田: 1年前に無念な思いがありましたが、今回のキャストでしかできない「ヴァニタスの手記」というものがあって、武蔵が大きくなって…、時間がちゃんと経っていると思いました。良いものを、改めて再確認できた稽古期間でした。このキャストでできる精一杯をお届けできたらと思いますので、よろしくお願いします。
菊地:僕は1年前に降板でノエを演じることができなかったので、再びノエとして(舞台に)立たせていただけることをとても嬉しく思います。前回、僕は場当たり1日目の1幕が最後でした。止まってしまっていた時間が、今日動き出した気がします。この作品はメッセージ性も強く、いろいろな思いが詰まっています。ヴァニタスとノエの物語をぜひ見守っていただきたいです。座組一同皆で頑張って作り上げた姿を皆さんに見ていただきたいと思いますので、最後まで応援よろしくお願いします。
七木:私は再演から参加させていただきましたが、稽古の初日から、カンパニーの皆さんが抱く原作や舞台に対する愛やこだわりを感じていました。その中に飛び込んで、一緒に私なりのジャンヌを積み上げられたことが幸せでしたし、これから幕が開いて皆さんにこの世界をお届けできることが楽しみです。最後まで精一杯ジャンヌとして生き抜いていきたいと思います。よろしくお願いします。
前田:今回の目標は、ジャンヌをヴァニタスに獲られないことです! 去年からカンパニーの皆さんとは仲良しで、喋りたくて喋りたくて…楽屋の壁がいらないんじゃないかなって思いました(笑)。あと1ヶ月、稽古と本番の期間が延びないかなって思っています。3日間、ルカを120%演じきりたいと思います。
植田:修司より挨拶が上手すぎる(笑)。
菊地:頭から越えてきましたね。
澤田:この時を迎えられることを、とても嬉しく思っています。稽古期間は短いものでしたが、とても濃い時間を過ごさせていただきました。皆の想いが、ぎゅっとぎゅっとつまった舞台です。この作品ができる限りたくさんの人の心に届くよう、ドミニクとしてできる限り頑張りたいと思います。よろしくお願いします。
丘山:はじめは「手記」を「カルテ」と読むことができませんでした。なんとも可愛らしいタイトルだなというところから始まりましたが、吸血鬼と人間の違いだったり、世界の中の差別だったり、そういう関係が(今作の)魅力だと思います。いろいろメッセージを発信できたらと思いますし、脚本・演出の山崎彬さんやたくさんのお客さんの思いもあって今回こうして舞台に改めて立ているのが奇跡だと思いました。始まったら終わりが来ますが、関係ありません。3日という“長い”日にちを、大事に抱き締めていきたいと思います!
――ご自身が演じる役について1年の間に試行錯誤していたところや、見どころはありますか?
植田:改めて「こういう風にやりたい」と準備していたことはないかもしれないです。でも、1年の間にアニメの2期が始まったり原作が進んでいたり、よりヴァニタスの過去について触れる機会をいただきました。その中で発見はあったので、そういったところをトレースしたいと思っています。見所は全部、ですね。
菊地:この1年、いろんな思いがありました。今はがむしゃらに、役者として学んできた感情をノエに乗せられたらと思っています。ヴァニタスとノエの会話には大事な言葉がたくさんありますので、それが見所ですね。
七木:私は初演を映像で拝見したんですが、画面越しでも熱量や思いが伝わってきました。一からルカ様とジャンヌの関係を築くのは武蔵君も大変だったと思うんですけど、2人の関係性を大事に描いていきたいと思います。
武蔵:見所は、ジャンヌをヴァニタスに奪われたルカが怒り狂うところですね。今年6年生になったので、5年生レベルでこの舞台に立つのはぎこちないと思います。前回噛んだり感情が籠っていなかったところを修正して、この舞台に立ちたいと思っています。
植田:役者やん。
菊地:いいね、君。
澤田:この後に喋るのは緊張するんですが…(笑)。ドミニクという役で一番気にしているのは優雅さです。前回を上回ることを目標に、大切なものを大切に生きていく姿をお見せできたらと思います。原作にはないドミニクのアクションシーンがあるので、そこが見所ですね。
丘山:ローランは17歳です。1年経ってローランとの差がまた出てしまったので、アンチエイジングを大切にしていきたいと思います(笑)。1年前のあの配信から、今日が続編だと思っていただければと思います。1年経っても2年経っても物語は変わりませんので、つながってきたもの見ていただけたらと思います。演じながら、見てもらいながら、両方で楽しみたいと思います。
――ファンの皆さんへ、メッセージをお願いします。
植田:本当にいい空気の中、ここまで来ることができました。短い日程ではありますが、思いのたけをぶつけるには十分な期間かなと感じております。ヴァニタスは、自分史上一番の色男ではないかなと思います。色気もへったくれもないちんちくりんではございますが、絶対に武蔵からジャンヌを奪ってやるという気持ちでいますので、エロ植田をご堪能ください!
菊池:たくさんの方々のおかげで「ヴァニタスの手記」という作品を、ノエとして届けられることを嬉しく思っています。期待に応えられるよう、1年前よりも素敵な作品を届けたいと思っています。ぜひ劇場に足を運んでいただけたらと思います。
取材・文・撮影:水川ひかる
ライブ配信概要
■対象公演・チケットリンク■ライブ+再ライブ+見逃し配信販売期間
2023年3月13日(月)21:30まで■販売価格
3,800円(税込)■ライブ配信時間
各公演開始30分前~ライブ配信終了まで(予定)■再ライブ配信期間
2023年3月13日(月)19:00~再ライブ配信終了まで(予定)■見逃し配信販売期間
2023年3月13日(月)21:25~3月19日(日)23:59まで■見逃し配信期間
2023年3月17日(金)12:00~■見逃し配信視聴期間
購入から3日間※公演開始30分前からライブ配信視聴ページに入場可能となります。
※詳しい視聴デバイスに関してはサービスサイトをご覧ください。
(C)望月淳/SQUARE ENIX・「ヴァニタスの手記」製作委員会 (C)舞台「ヴァニタスの手記」製作委員会
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