11月17日(木)、東京・シアター1010にて音楽劇「ジェイド・バイン」が開幕した。
本作は、アニソンシンガーとして活躍中の黒崎真音が原案、花奈澪が脚本を担当するオリジナル音楽劇。アンドロイドが実用化され、人々の暮らしに受け入れられた世界を舞台に、機械の生きがいと人間の心についてを問いかけるストーリーだ。
2.5ジゲン!! では、初日に先立ち行われたゲネプロとフォトセッションの様子をレポートする。
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人型アンドロイドが人々の暮らしに受け入れられている世界。人類で初めてアンドロイドを実用化したオーキッド・ハリソン(演:君沢ユウキ)は、HRSN(ハリソン)社の若き社長として人々の信頼と羨望を一身に浴びていた。
感情システムを搭載された人型アンドロイドは、人々の暮らしの世話をしたり、さまざまな用途で活躍するために次々とアップグレードされ、生活に浸透するようになっていた。
オーキッドはある日、愛する妻・リリー(演:黒崎真音)のためにプレゼントを用意する。それは、昔に彼自身が作ったアンドロイドだった。オーキッドは倉庫の奥に眠ったままのその固体に修理を施し、起動させる。
翡翠色の美しい瞳を持つその旧型アンドロイドに、リリーは「ジェイド・バイン」(演:前川優希)と名付けた。
そんな折に大きな事件が起き、それから5年後、HRSN社は「自ら学習し、進化するアンドロイド」を大々的に発表する。人よりも人の心が分かり、人と同じように1つとして“同じ”固体のないアンドロイドを作りだしたというのだ。
ジェイドの旧型ゆえの葛藤、新型アンドロイドたちのプライドや感情、生きている人間の心…。物語は、5年前の事件の真相に迫りながら、さまざまな“心”が交差し、進んでいく。
「音楽劇」の冠どおり、劇中には多くの歌が登場する。力強く誓いを掲げる歌、喜びに満ちあふれた歌…。歌を生業(なりわい)としているキャストが多いこともあるが、どの歌も聞きごたえがある。
また、音楽のテイストがさまざまである点も面白い。明るいパフォーマンスに合わせた、思わず手拍子を入れたくなるリズムの曲もあれば、切々と聞かせるクラシックを思わせる歌もあり、飽きることがない。
アニメイラストのようなビジュアルの解禁から始まったため、アニメ原作舞台のような印象を受けるかもしれないが、黒崎真音が原案、花奈澪が書き下ろし脚本の、完全オリジナルストーリーだ。
話の中で何度も、「生と死」「人とアンドロイド」「“心”と“プログラミング”」のように、対比する存在について考えさせられるシーンが出てくる。
人が本当に死ぬのはきっと、生命を維持できなくなった時ではない。故障したアンドロイドがもしも基盤を変えて修理されたとしたら、それは“同じ固体”なのだろうか。アンドロイドは死を恐れるのだろうか。人の心というものは本当に強いのだろうか…。その時々の状況に重ね、セリフやストーリーの展開からさまざまなことを受け取るだろう。
また、特筆すべきはやはり、キャストそれぞれに関してだ。各々の持っている特技や能力を、さらに引き出して役に乗せ、昇華させている。「この人のこういう芝居が見たかった」「こういうパフォーマンスが見たかった」と期待していたものがさらに倍以上になって観られるのは実に気持ちがいい。
ジェイド・バインを演じる前川優希の、人とロボットのちょうど中間であるアンドロイドを感じさせる動きと表情には驚くばかりだ。最後の最後、舞台から姿を消すその瞬間まで「旧型アンドロイド」でいる姿には拍手を送りたい。
登場するだけでその場の空気を変え、このアンドロイドにはきっと何かあるに違いないと感じさせる村田充(イベリス役)の存在感にも触れたい。また、「リリー」の名前を背負い、優しい色合いの可憐な衣装に身を包み歌う黒崎の姿には、胸にこみあげるものを感じるファンが多いに違いない。
黒崎の思いと花奈の熱意のこもった脚本を、数多くのヒット作を手掛ける伊勢直弘が演出。丁寧に作られたマッシュトラントによる衣装、鮮やかなウイッグ、メイク、世界観を表現したセットと照明など、芝居を支える仕事の丁寧さにも注目してほしい。厚さのあまり自立する(実際に立つか筆者が試し済み)パンフレットに込められた思いの数々にも、ぜひ目を通してほしい。
ゲネプロの時点ですでに何カ所か日替わりを思わせるパートがあったので、回数を重ねて観劇するファンは楽しみにしてもらいたい。なお、上演時間前のアナウンスでは安元洋貴による非常にいい声が聞けるので、早めに劇場についておくことをおすすめする。
キャストコメント
ゲネプロの前におこなわれたフォトセッションには、ジェイド・バイン役の前川優希、リリー・ハリソン役/原案/音楽監修の黒崎真音、ダリア・ローダンテ役/脚本/ディレクションの花奈澪、イベリス役の村田充が出席した。
前川優希(ジェイド・バイン役)
あらためまして、ジェイド・バイン役前川優希です。挑戦の連続で、一瞬で駆け抜けた稽古期間でしたが、役者としてとても幸せに感じる時間でした。 またこれから皆さまに観劇していただいて、その瞬間が増えると思うと楽しみで仕方ありません。生まれた心を、感情を、感動を、伝えられますように。
黒崎真音(リリー・ハリソン役)
音楽劇『ジェイド・バイン』という作品は、私にとって大切な宝物です。傷痕から産まれた物語に命が芽生え、舞台に立ち、“彼ら”と生きる瞬間を迎えられること。心から愛しく思います。全員で創りあげた、唯一無二のこの世界でお待ちしています。あなたの心に触れられますように。
花奈澪(ダリア・ローダンテ役)
主演の前川優希を筆頭にただただ表現することに愛を持つ素敵なメンバーです。ファスト、デジタル、隔離が推奨される世の中で、劇場でしか出来ない“舞台”はきっと贅沢品。でも音楽やダンスそして物語は、必ず心を豊かにさせてくれる! 人生には心が必要です。「こういう舞台が好きだ!」と嘘偽りなく言える作品を届けたい。来てくださった皆さまに、我らの“好き”が届きますように。心を込めて演じます。
村田充(イベリス役)
この作品が生まれた経緯、この役が生まれた経緯をしっかりと感じながら稽古に励みました。一点の迷いもなく、この音楽劇「ジェイド・バイン」のために、そしてご観劇いただくお客さまのために、芝居をしたいと思います。どうぞよろしくお願いしたします。
取材・文・撮影:広瀬有希