舞台「HELI-X III〜レディ・スピランセス〜」が6月3日（金）、東京・サンシャイン劇場で開幕した。
本作は毛利亘宏脚本×西森英行脚色・演出によるオリジナルシリーズ作品の第3弾で、2020年12月に第1弾が、2021年10月に第2弾が上演された。全世界を巻き込んだ第三次世界大戦後の極東の島国「大和」を舞台に、性別選択技術「TRANS（トランス）」を受けた者の中から生まれた「HELI-X」と呼ばれる特殊能力者たちの苦悩や葛藤を描く。
2.5ジゲン!!では、初日公演に先駆けて行われたゲネプロの様子をレポート。ストーリーに深く踏み込んだネタバレはしないが、劇中写真を多く含む記事のため、まっさらな状態で観劇したいファンは観劇後に記事を読むなどしてほしい。（※第2弾までのネタバレあり）
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ゼロ（演：玉城裕規）が螺旋機関を抜けて1年の月日が経とうとしていた。ゼロは「アンモナイトシンドローム」の首謀者であるオシリス（演：平野良）と行動を共にし、HELI-Xが支配する世の中を作り上げようとしていた。
一方、クライ（演：宇野結也）は、人間とHELI-Xとの共存を望み、ワカクサ（演：立道梨緒奈）と組織「ツインイプシロン」を結成する。対立する2つの組織の争いが劇化するに従い、一般市民も巻き込まれ犠牲が出始めていた。
ある日、螺旋機関に2人の人物がやってくる。国際平和連盟から派遣されたというその2人は、セーレ（演：彩凪翔）とフルカス（演：天真みちる）と名乗った。2人は、螺旋機関の指揮権は我々が持つことになったと告げ、アンモナイトシンドロームとツインイプシロンの殲滅をカンザキ（演：久世星佳）に指示する。しかし、エリートだという2人の経歴は、ハッキングにより塗り替えられたものだと判明する。果たしてセーレとフルカスの正体と、その目的は――。
シリーズも第3弾となり、本作で一つの大きな区切りとなったと言える一方、ひょっとしたらこれまでは壮大な序章または一幕であり、今後新たな「HELI-X」の世界が展開されるのではないか？ とも感じられる。第３弾にして多くのキャラクターの過去が掘り下げられ、なぜその能力を得るに至ったかが判明し、“HELI-X”の特殊能力の得方や、逆に失い方などの謎も散りばめられているからだ。
螺旋機関、アンモナイトシンドローム、ツインイプシロンに加え、今作ではブラックブラッドも暗躍。誰がどの組織に入り、そして裏切るのか。誰と誰が本当は通じていて、使命をまっとうしようとしているのか。めまぐるしいまでに情報が入り乱れるが、話が進むにつれてストーリーはシンプルになっていく。
テーマはいくつもあり、それぞれのキャラクターに移入して違う視点で何度も観たり様々な解釈や考察をして楽しめるが、軸はやはりゼロとアガタ（カイ／菊池修司）の2人だ。
TRANSを受け男性となったゼロと、記憶を取り戻したアガタ（カイ）の愛の行く先には、困難ばかりが立ちはだかる。ゼロは、生きる意味を持たずに暗殺者として育てられてきた。そんな中でカイと出会い、初めて生きる意味と喜びを知った。しかし、カイを失い、様々なことがあって今に至る。
ゼロはカイに出会わなければ愛を知らなかったであろう。だが、カイに出会わなければこれほど苦しむこともなかった。それほどまでに愛し、愛していたからこそ憎み、また、カイに裏切られるのではないかとおびえ続けている。その上、2人だけの問題ではないこともわきあがってくる。ゼロとカイが愛し合うことでどのような物語が未来に巻き起こるのか、そしてどんな選択をするのか…それは舞台で確かめてほしい。
また、現在の世界情勢的にも、ひょうひょうとしたリュウジン（演：輝馬）が何気なく口にする一言に重みを感じる人は多いだろう。人が行動を起こす理由、そして行動を起こしたことで巻き起こる事象。今作中では、強い意志を持って行動している者もいれば、何の理由もなく行動を起こしている者もいる。意志のない行動の恐ろしさには身震いする。それぞれの人物が、信念や目的を持っているか、逆に何も持たずに動いているか、という点にも注目だ。
葛藤することで人としての弱さを見せるクライ、亡くなった父の愛を求め続けるレスター（演：服部武雄）、HELI-Xたちの運命を大きく変える研究を続けるDr.皇（演：田辺幸太郎）。アンガーを失ったサッドネス（演：星元裕月）はどこへ行くのか、ささやかな幸せを手に入れられるのか…。
他にも、シュンスイ（演：松田昇大）、カンザキの過去が明かされるなど個々の人物像が掘り下げられるだけではなく、バディやパートナーなどの関係性にもさまざまな変化が生まれている。シデン（演：後藤大）はシュンスイがとある理由で激しく苦しむ時の支えとなり、イモータル（演：杉江大志）はワカクサから憎しみを向けられるも、それを受け止める。今後のシリーズ展開も…？ と感じる関係性の誕生や発展もあるので、ぜひとも続編を期待したい。
これまではスチームパンクだったり無機質さが出ていたりしたセットが、今作では緑豊かな森や園を思わせるのも、ストーリー上の大いなる伏線となっている。衣装の面では、螺旋機関を抜けた者たちはそれぞれ別々の組織のテイストに合わせた衣装になったり、ガーターベルトだったサッドネスがニーハイブーツになっているなど、少しずつ変化が見える人物がいるのも第3弾として嬉しいポイント。テーマソングのイントロが流れた瞬間、「きた！」とテンションが上がるオープニングのアクションシーンの派手さは、過去最高ではないだろうか。
激しい絶望の中にひとひらの幸せを見出すゼロを演じる玉城裕規の演技には、魂を揺さぶられる。まっすぐだからこそ苦しみもがく、カイを内包するアガタを演じる菊池の芝居の真摯さには心を打たれるだろう。また、オシリスを演じる平野良の、軽妙なセリフ回しと民衆を扇動する力を持つカリスマ性に溢れた演説術は圧巻だ。
他にも見どころとして、宝塚の先輩後輩である久世と彩凪のバトルシーンで、彩凪演じるセーレのとある変化に注“聞”してほしい。
登場人物たちはそれぞれに過去を持ち、TRANSやさまざまなことを経て今の彼ら、彼女らがある。TRANSは、生まれながらの運命とも言える性別を自らの生き方や希望に合わせて選択できる技術だ。しかし、TRANSを受けたからと言って誰もが幸せになれるわけではなく、新たな苦しみを生むこともある。それでも人は運命に抗い、現状を打ち壊して新たな自分と未来を築き上げようともがく。
舞台「HELI-X」シリーズは、決して絵空事ではない。どんな困難にあっても、例えそれが傍から見れば大きな幸せではなくとも、人それぞれの希望を見つけることはできる、と教えてくれる。今後のシリーズ展開にも期待したい。
取材・文：広瀬有希／撮影：ケイヒカル
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