ミュージカル『アニー』が4月23日に東京初台・新国立劇場の中劇場にて開幕した。1977年にブロードウェイで誕生したミュージカルで、、日本では1986年にスタートし、子どもから大人まで幅広い世代に愛される国民的ミュージカルとして知られている。2.5ジゲン!!では、初演に先駆けおこなわれたゲネプロと初日前会見の様子をレポートする。
舞台は1933年のニューヨーク。孤児院にいた11歳の少女アニー(演:山崎杏・山本花帆のダブルキャスト)は、いつか両親と暮らすことを夢見ていた。彼女の胸には、両親からの手紙が入ったロケット。しかし、いつまで経っても両親は迎えに来ない。アニーはついに、自分で両親を探しに行くために孤児院を飛び出した。
希望を求めて街に出たアニーが見たのは、世界大恐慌により失業者があふれたニューヨークの風景だった。仕事も住む所もなく、人々は希望を失っている。街角で一匹の犬“サンディ”と友達になるも、アニーは警察によって孤児院へ連れ戻されてしまった。
ある日、孤児院に大富豪・ウォーバックス(演:葛山信吾)の秘書・グレース(演:笠松はる)がやって来た。彼と一緒にクリスマス休暇を過ごす孤児を探していると言う。前向きで明るいアニーは、グレースの目に留まり、ウォーバックスの家に招かれることになる。
財は成しても心に孤独を抱いていたウォーバックスは、アニーに心を慰められ、彼女を養子にしたいと思うようになる。しかしアニーの願いは、本当の両親と暮らすこと。彼女の願いをかなえるために、ウォーバックスは手を尽くして両親を探し始める。
ウォーバックスのもとには連日、我こそはアニーの両親だという名乗り出があふれた。彼女の両親と名乗り出た人物には多額の懸賞金を出すと知らされたからだ。孤児院の院長・ハニガン(演:マルシア)と弟のルースター(演:財木琢磨)、ルースターの恋人のリリー(演:島ゆいか)は、懸賞金のことを聞きつけ悪だくみを始める。
果たしてアニーは、本当の両親と出会えるのだろうか。そしてウォーバックスの心の孤独は埋まるのだろうか…。
長年愛されている作品には、理由と強さがある。子どもが見ても分かりやすく、ハッピーなストーリー展開。『アニー』に出演するために厳しい審査をくぐりぬけてきた子役たちの名演技。大人組の視点で見るとまた違った魅力も見えてくる。その年々でキャストが変わるので、違う雰囲気を感じられるのも魅力の一つだろう。
ストーリーとしては、孤児のアニーが大富豪の目に留まりハッピーに暮らすという王道だが、そこにさまざまなものが絡んでくる。
孤児院の外はきっと自由で幸せだ、と希望を抱いて外に飛び出したアニーは街の現実を目にする。大人は誰も助けてくれず、手を差し伸べてくれることもない。皆、自分のことで精いっぱいだからだ。しかしそんな中でもアニーは「明日になれば、朝が来れば」と歌う。1度目は、現実に触れ、それでも明日が来れば…と自らを奮い立たせるように。2度目は心に暗い不安を抱き続けている大人たちに向かって。
大人になると「朝が来たところで何が変わるわけでもない」と諦めがちになることも多い。だが、子どもは違う。1日どころか数時間、数分目を離しただけで大きな成長を遂げることもある。子どもにとって“明日”はきっと、希望そのものなのだろう。
そのアニーの前向きな明るさは、ウォーバックスの心の空虚を埋めていく。そして時の大統領フランクリン・ルーズベルトは、経済を立て直すために大規模な公共事業による失業者の救済・ニューディール政策を行う決意を固めるのだ。
ゲネプロでアニーを演じたのは山本花帆。伸びやでよく通る真っ直ぐな歌声、その笑顔で周りを明るい気持ちにさせる。ウォーバックスを演じる葛山信吾は、孤独を埋めてくれたアニーの幸せを願って彼女を手放す決意をした寂しさと切なさを表現。大人の視点からウォーバックスを観ると、ただの大富豪ではないと感じられるだろう。“できる女”、秘書のグレース役・笠松はるは、アニーとウォーバックス2人の幸せを願って温かく見守る視線が印象的だ。
物語を引っかき回す3人、ミス・ハニガン、ルースター、リリー。子どもたちにとって恐怖の存在であるハニガンは、補助金目当てで孤児院を運営していたと言われている。マルシアは3度目のハニガン役。存在感のあるオーバーアクションな芝居で、恐ろしさの中にくすりと笑える要素も感じさせている。
ルースター役の財木琢磨は、久しぶりのミュージカル作品への出演だ。より深く豊かになった声量で歌い踊り、これまで多く演じてきた真面目・不器用・一本気といった人物とはかけ離れた、チャラくてこずるい人物を好演。30歳を目前に、役幅や芸の幅を広げていこうとするチャレンジを感じた。リリー役の島ゆいかは、無邪気なかわいい笑顔の裏に「ひょっとしたらルースターをも弄(もてあそ)んでいるのでは」というものを感じさせる。
子どもから大人まで、さまざまな楽しみ方ができる名作ミュージカル『アニー』。今年は、例年のストーリーをぎゅっと凝縮し、休憩なしのおよそ1時間半ノンストップで上演される。
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同日、劇場ロビーで会見が行われ、山崎杏、山本花帆、葛󠄀山信吾、マルシア、笠松はる、財木琢磨、島ゆいかが登壇した。
今の気持ちと本作への意気込みを聞かれると、まず山崎杏が「ゲネプロの前はとても緊張したのですが、舞台に出て楽しくできたので良かったです。明日の初日に向けて体調管理をしてしっかり体を整えて明日の初日を迎えます」とハキハキ。山本花帆は「稽古で色々と頑張ってきたことを全て出し切りたいと思います」と笑顔を見せる。
葛󠄀山は「久しぶりのミュージカルということで、ダンスに歌に色々と皆さんにご迷惑をおかけした部分があるのですが、最後まで2人のアニーや共演者の皆さんやスタッフの皆さんに囲まれて楽しく演じて行けたらなと思っております」。
マルシアは「ドキドキとワクワク、両方が重なり合っている感じでございます」とし、2020年公演は中止、2021年公演は初日が最終日となってしまった思いに触れ、「この2年間、本当に複雑な思いで『アニー』は向かってきたのですが、今回は最後まで走れるよう精いっぱいいきたいと思います」と意気込みを語る。
笠松はるは「正直なところ、やっとここまで来れたという気持ちです。また直前で止まってしまうのではと思いながらきたので、こうして今日を迎えられたことを本当に感謝しています。このまま最後まで皆で元気に走り抜けたいと思っています」と感慨深げ。
財木琢磨は「まず、今回のミュージカル『アニー』に出演させていただくこと、そして無事に開幕できることに改めて幸せを噛みしめているところです。この作品がなぜこんなにも長い間愛され続けているのか、公演を重ねていけているのかは、観ていただければ必ず分かっていただけると思っております。毎公演、お客さまの心に『アニー』の素晴らしさが届くよう、真心こめて楽しんで演じていきたいと思います」と、感謝とともに作品への自信をのぞかせた。
島ゆいかは「子どもたちの“この作品に出たかった!”という思いが本当に溢れてキラキラしています。その輝きをよりキラキラと輝かせるためにもこの役を頑張りたいと改めて思っています。公演ができる幸せと奇跡を噛みしめて、日々楽しんで行けたら」と、子どもたちへの思いを口にした。
続けて、進行役から大人キャストへ「アニーの年齢である11歳の時にはどのような子どもでしたか?」と質問が。
葛山は「学校が終わると1人で帰るようなおとなしい子でした」と小学校時代を振り返り、マルシアは「皆さんご存知のように私はブラジル生まれ育ちでございまして、11歳の頃は日本の歌も大好きでよく歌っておりました。けれど目指していたものは建築士でした」とエピソードを披露。
笠松は「ちょうど11歳の頃(ミュージカル)『キャッツ』を観て、ミュージカルに出る人間になりたいと思いました。そこからずっと目指して、初舞台は25歳の時でした。私が“なりたい!”と思った年より若い年で彼女たちは(山崎杏と山本花帆を見ながら)主役をやっていて本当にしっかりしていてすごいな、と日々思っています」と、自らのルーツとともに若きアニー2人を称賛する。
財木は「僕はドッジボールばかりしていました、タテ投げとヨコ投げを使い分けて(笑)。手が折れてもギプスをつけて、砂で真っ黒になっても遊んでいたのでよく怒られていました」と、事前のインタビューでも語っていたドッジボール愛を告白。島は「私は熊本出身なのですが、自然の中でのびのび自由に楽しく過ごしておりました」と幼少期を語った。
稽古で大変だったことについて、山崎は「アニーの心の動きが難しかった」、山本は「主役なのですべてをこなさなければならなかったのが難しかったです」。
葛山は「マスクを外して稽古をするのは昨日が初めてで、稽古場とは違う皆の表情が見えて新しい感覚になりました。これから日々、そこを楽しみながら芝居を育てていけたら」、マルシアも「ずっとマスクを着けていましたので、逆に背筋と肺活量が鍛えられました」とコロナ禍におけるマスク稽古を逆手に取る。
財木は「苦労したことは思いつかなくて、稽古場から本当に楽しくて幸せで、とにかく楽しかった思い出しかないです」と笑顔で思いを馳せた。
夢をあきらめないアニーにちなみ、「今かなえたい夢」という質問には、山崎は「遠い未来ですが、俳優になって色々な作品に出れたら」、山本は「女優になることが夢です。舞台や映画やドラマや色々なジャンルに挑戦したいです」と目を輝かせていた。
一方の大人組は、葛山は「自然豊かなところでのんびり過ごせるように頑張ります」、マルシアは「これからも、夢を与えられる仕事をし続けたいです」、笠松は「犬を飼いたいです。マンションが犬がダメなので…」、財木は「このミュージカル『アニー』に、またルースター役で出たいですし、葛山さんのようにシブかっこいいウォーバックスを演じられる役者になりたいです」、島は「『アニー』に出たいという夢がかなったので、その持続と女優でい続けられるように」と思い思いの言葉で語った。
最近始めたことを質問されると、山崎が「体力作りと喉のケアを」、山本が「(犬の)サンディや(共演の)モリーを抱っこするには体力が必要なのでずっと腹筋をしていました。100回」と明かすと、周囲からは驚きの声があがった。
最後にアニー役の2人が「ぜひ観に来てください!」と声を合わせ、会見は終了した。
公演は4月23日(土)から5月8日までは東京初台・新国立劇場の中劇場にて、その後名古屋、大阪、金沢などを回る予定になっている。
取材・文:広瀬有希/撮影:ケイヒカル
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