ミュージカル『アニー』が4月23日(土)に新国立劇場 中劇場にて開幕する。
ミュージカル史に輝く名作として知られる同作は、1993年のニューヨークを舞台に、孤児院に置き去りにされた11歳の女の子“アニー”が、本当の両親と暮らす夢を持って強く生きていくストーリー。1976年のアメリカでミュージカル初上演、1977年にはブロードウェイで上演され、長年愛され続けている。2022年はアニーの生誕100年となる(作中のアニーの出生証明書を読むシーンより)。
2.5ジゲン!!では、ルースター役として出演する財木琢磨にインタビューを実施。役への印象や稽古で苦戦していること、小学校時代の思い出などの他、初舞台であるミュージカル『テニスの王子様』の裏側についても話を聞いた。
――はじめに、本作にご出演が決まった時のお気持ちを聞かせてください
びっくりしたと同時に、役者としての夢を一つ叶えた、と思いました。初舞台のミュージカル『テニスの王子様』(2015年)とミュージカル『刀剣乱舞』(2017年)以来、ミュージカル作品に触れてこなかったので、挑戦したい気持ちがずっとあったんです。
ファンの皆さんからも「歌を聞きたいです」というお手紙や声をよく頂いていましたし、僕自身もファンイベントなどで「ミュージカルに出たいです」とお伝えしていたので、本作に出演が決まりましたと皆さんに発表した時はとても嬉しかったです。
出演が決まってすぐに、昔観た映画の「アニー」を観返しました。アニーの強さに勇気づけられますし、落ち込むこともあるけれど笑顔で生きていこうと思える、大切なものがすごくたくさん詰まった作品だと改めて感じました。
――ご家族や周りからの反応も大きかったですか?
とても大きかったです。僕は芸能界に入る前に地元の工場で会社員として働いていたのですが、その時の上司が「僕が初めて観たミュージカルは『アニー』なんだよ」「『アニー』を観てミュージカルを好きになったんだ」と電話をくれました。
役者仲間たちからも同じように、初めて観たミュージカルだという言葉をたくさんもらって、そんな作品に出られることをとても嬉しく思いました。家族も、観劇するのを今から楽しみにしています。
そうやって、人生で初めて触れるミュージカルが『アニー』だという言葉を聞くたびに、今回僕が出演する本作も、誰かにとって初めてのミュージカルになるのだと心に刻みました。いつでもどの舞台でもそうなのですが、この『アニー』も、真心を込めて全力で演じていきます。
――演じられるルースターの印象と、役作りについてお聞かせください
ビジュアルを見ると、スーツでビシッとキメているけれども、派手な柄物シャツで首元のボタンも開けていますし、ニヒルでちょっと悪いイメージですよね。僕も最初は悪い人物なのかなと思っていたのですが、台本を読み進めていくにしたがって、愛らしい部分もあるなと印象が変わってきました。自分の中では、映画「ホームアローン」に出てくる悪役をイメージしています。悪役だけど悪すぎないように。
これまではクールな人物を演じることが多かったのですが、ルースターは、ちょっと抜けていて完璧に格好をつけられない人物ですね。その点は自分自身と近いかもしれません(笑)。
ルースターの役作りに関しては、これまで歴代の先輩方が演じられてきたものを意識し過ぎないように、自分の感じたままに演じていきたいと思っています。演出の山田和也さんに「今までにないルースターだね、これからの稽古が楽しみだ」とお言葉を頂いたので、その言葉を信じて役を追求していきます。
――稽古場の雰囲気はいかがですか?
これまで出演してきた舞台の稽古場と全然違うのは、まずやっぱり、子役が多いことですね。顔合わせの時は皆緊張しているように見えたのですが、読み合わせが始まった瞬間に雰囲気が変わって役にスッと入り込んでいたのを見て、すごいなと感じました。
僕は子どもが大好きなので、みんなが愛おしくてしかたがないのですが、どう距離を詰めて仲良くなっていこうかと悩んでいるところです。このご時世なので、みんなの中に入っていって親密にお喋りするわけにもいかないですからね。自分の稽古がない日でも稽古場に顔を出したい気持ちもあるのですが…。子どもと遊ぶのは得意だと思っていた分、今の状況がもどかしくて悔しいです。
稽古場全体の雰囲気としては、ハニガン役のマルシアさんが明るい空気を作ってくださっています。僕が演じるルースターの相手役のリリーを演じられる島ゆいかさんとは、2人の関係性について話し合っている最中です。
――稽古で苦戦していることはありますか?
僕はダンスが得意ではないので、振りを覚えるために必死です。昨日もスタジオを取って鏡の前で自主練習をしていました。「財木くんは体が大きいから、すごく大きく面白く見えるね」と言っていただいているので、体の大きさを生かして動いていきたいなとは思っているのですが、なかなか自信が持てなくて…。
それから歌に関しても、今までは原作のある2.5次元ミュージカルということで役柄に合ったクールな歌い方を追求して歌ってきたのですが、今回は全く違う歌い方になります。ジャズの裏拍でのリズムの取り方も難しくて、頭を抱えているところです。
とにかく数をこなして稽古を重ねて、これが自分の武器だと言えるものを探していきたいです。
――財木さんがアニーの年齢である11歳の頃は、どんなお子さんでしたか?
よく食べて、毎日ドッジボールばかりしている子どもでした。ある日、遊んでいる最中に腕がとても痛くなったのですが、反対の手で投げられるからとそのままやっていたんです。でもさすがに痛みがひどくて一週間後くらいに病院で検査をしてもらったら、骨にヒビが入っていました(笑)。それでも「ドッジボールしようぜ!」と足で地面に線を引いて、包帯を汚しながら遊んでいたので、親にとても怒られました。
それから、家にあるゲーム機は姉たちに占領されていたので、友達の家に行ってゲームをしていました。親に今聞くと「琢磨はあの頃は本当に家にいなかった」と言われます。
そんな風に、好きなことに対しては積極的で活発だったのですが、性格としてはとても緊張してしまう子どもでした。幼稚園の頃から、お遊戯会や運動会の前には緊張して熱を出していたくらいです。
だからこそ、本作に出演している子どもたちはみんなすごいなと感じます。元気よく挨拶ができて、大勢の前で歌って踊って…。敬語で話した方がいいかなと思うほど尊敬します(笑)。
中学生になっても基本的には目立つのが好きではなくとても消極的で、人前に出るのは苦手なままでした。先日、中学時代の先生にお会いする機会があったので、その頃の僕は先生からどう見えていたかお聞きすると「ビビりだったよ」と言われました(笑)。
――今こうして、大勢の前でお芝居をする役者のお仕事をされているのは不思議ですね。
自分でも考えられなかったし、親も今でも驚いています。昔からずっと恥ずかしがり屋で、自信がないことが緊張に繋がっていて、人前に立つ時は実力が発揮できずにいたんです。今でも実は、お客さまの前に出るまでは緊張して足が震えています。でも舞台に立った瞬間、世界が広がって自分が自分じゃなくなるんです。その感覚が楽しくて役者をやっているんだと思います。
――初舞台のミュージカル『テニスの王子様』を振り返るといかがですか?
緊張のあまり舞台袖で泣いていたのですが(笑)、手塚国光という重要な役を頂いて「この人の強さや説得力はどうしたら出せるだろう」とさまざまな努力をしました。初演の「青学(せいがく)vs不動峰」では、公演が終わると毎回音響さんのところに行って「今回の歌はどう聞こえていましたか」と聞いていましたし、歌の先生がいらっしゃる時も同じように毎回どうだったか聞きに行っていました。
その頃はまだ、歌やお芝居が楽しいというよりは「やらなければいけない」と必死な気持ちの方が大きかったです。でも、ビブラートが一つできたり、それまで歌えないと思っていた曲が歌えるようになったりということが積み重なって、だんだん楽しいという気持ちが出てきたのを覚えています。
その努力の結果をファンの皆さんに評価していただけたのは、本当に嬉しくてありがたいことですね。
――今年の10月で30歳を迎えられますが、節目を意識はしますか?
大人になりたいな、という意識はあります。30代に入れば学生役のお仕事はなかなかないでしょうし、役の幅を広げていくことも必要ですね。漠然と「かっこいい大人になりたいな」というイメージはあるのですが、具体的にこうしよう、というものはなくて、目の前の物事一つ一つに対して真摯に真っ直ぐぶつかっていこう、と思っています。
――“かっこいい大人”と聞いて思い浮かぶ先輩はいますか?
僕にとっては出会い全てが大きくて、どの方もかっこいい方ばかりなのですが、誰かをと言われれば2019年の舞台『里見八犬伝』でご一緒した山口馬木也さんです。たくさんアドバイスを頂いて、立ち振る舞いを近くで見させていただきました。『里見八犬伝』に出演してから、ファンの方から殺陣についてのお手紙を頂くことが増えたのですが、馬木也さんのおかげだと思っています。
――最後に、ミュージカル『アニー』を楽しみにしているファンの皆さんにメッセージをお願いします。
念願の久しぶりのミュージカルです! 舞台で歌う姿は本当に久しぶりなので、期待していてください。僕もこの『アニー』に対して真摯に向き合って、この作品のことを考えない日はないくらい毎日考えて、皆さんの心に残る作品に仕上げていきます!
取材・文:広瀬有希/撮影:ケイヒカル
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