舞台「アクダマドライブ」が3月10日(木)、東京・品川プリンスホテル ステラボールで開幕した。本作は、2020年に放送されたオリジナルアニメ「アクダマドライブ」の舞台化作品。カントウとカンサイの間で起きた戦争後の世界を舞台に、“アクダマ”と呼ばれる犯罪者たちを描く。
2.5ジゲン!!では、初日に実施されたゲネプロを取材。幕が開いた瞬間から最後の一瞬に至るまで目が離せない、疾走感に溢れた舞台の様子をレポートする。
物語は、“アクダマ”と呼ばれる犯罪者がのさばるカンサイが舞台。ごく平凡な生活を送っていた一般人(演:黒沢ともよ)は、ある日、お店で500イェンのたこ焼きを注文する。しかし、その店はキャッシュレス決済が不可。現金を持ち合わせていなかったために、一般人は無銭飲食を疑われ、警察に逮捕されてしまう。
一方、一部のアクダマたちに、囚われている処刑予定の“殺人鬼”(演:本田礼生)の救出依頼が舞い込む。成功報酬は1億イェン。集まったのは、ハッカー(演:廣野凌大)、喧嘩屋(演:桜庭大翔)、医者(演:吉川友)…超S級のアクダマたちだ。別の依頼を受けていた運び屋(演:蒼木陣)も現れる。
一般人は、そんなアクダマたちに出会ってしまい、「自分は詐欺師」と咄嗟に嘘をついたことで、身分を偽ったまま行動を共にすることになってしまう。
無事にミッションを達成した彼らだが、フェーズ2として新たな依頼がされる。依頼内容は、カントウ行きのシンカンセンにある金庫の強奪。そして金庫を指定した場所へ届けること。報酬は10億イェン。どさくさに紛れて脱獄したチンピラ(演:長妻怜央)も加わり、アクダマたちはシンカンセンへ向かう。果たして金庫の中身は? そして、依頼を送ってくる人物の狙いとは――。
一般人(詐欺師)を演じるのは、原作アニメから続投の黒沢ともよ。喉から本人なのはもちろんだが、アクダマたちに振り回されながらも徐々にしたたかさを持ち強くなっていく、詐欺師の心理を表現する芝居が見事だ。朗々と歌い上げるバラードに心を強くつかまれる。どんなに早口になっても言葉の一つ一つが粒だっていて耳に心地良いのはさすがの一言。
明朗快活、好青年の具現化と言っても過言ではない蒼木陣が今回演じるのは、寡黙な仕事人、運び屋だ。今作では感情を抑えた演技を見せるが、その分表情や佇まいで、“何だか存在が気になる…”と思わせるキャラクターを好演。バイクに乗っていてはその身体能力が思う存分生かせないのでは、と不安に感じるファンもいるかもしれないが、アクションもダンスもアクロバットも目いっぱい堪能できるので安心してほしい。
チンピラ役の長妻怜央。無限のメートルを誇る脚の長さとスタイルの良さに目を奪われがちだが、今作では、チンピラが存在する意味と成長具合に注目してほしい。他のアクダマたちが強大な力を持つ超人の集まりだからこそ、チンピラの存在は観客に近い。周りのS級アクダマたちとは違い、自分は虚勢を張っただけのチンピラなのに…と葛藤する姿に胸が苦しくなる。
吉川友演じる医者。重傷者を助けたかと思えば裏切る医者は、底が見えず、本心がどこにあるのか分からない謎の存在。しかし主張や美学は一本筋が通っていると感じる。果たして医者の本当の目的は…? それは舞台を観て確かめてほしい。色気たっぷりの歌唱シーンにも注目だ。
孤独を抱えるクールな天才ハッカーを演じるのは廣野凌大。ブレーンとして作戦を立て、ヒーローのようにアクダマたちの行く道を開く。小生意気なキャラクターを演じれば右に出るものはいないのでは、というほどの廣野にハッカーはハマり役。ハッカーは何に理想を抱き、何を求めていたのだろうか…?
どこからどう見ても勝てる気がしない、桜庭大翔演じる喧嘩屋。あまりにも体が仕上がっているため衣装ではないかと勘違いしてしまいそうになるが、自前の筋肉だ。場を引っかき回したり勇み足を踏んでしまうこともあるが、決して憎めない。チンピラとの関係性に注目して観てほしい。
殺人鬼役の本田礼生。人間はこんな動きができるのかと不思議に感じるほどすさまじい本気のダンスと、舞いながらの殺人アクションを見せてくれる。一般人への倒錯した執着は観ていて恐怖を覚えるだろう。白衣さばきも見事で、動きがより映えて見えるためどのシーンでも目が離せない。
その存在感で舞台に重さを加える、処刑課師匠役の唐橋充。高くて大きな壁として、アクダマたちの前に立ちはだかる。
処刑課弟子を演じる星波のアクションは、器械体操経験者らしく柔軟でのびやかだ。つま先、指先までピシリとキマったバク転には思わず称賛の拍手を送りたくなる。
処刑課後輩役の佐久間貴生は、ひたむきさが魅力。
処刑課FORCEチーム(Toyotaka ・RYO ・HILOMU ・Dolton ・KENTA ・KIMUTAKU)は、1人1人が圧倒的な実力を持ち、ひとたび踊り始めれば、いつまでも見ていたいと思わせてくれる。個の力ももちろん強いのだが、揃ってのパフォーマンスも圧巻だ。
兄(演:中村琉葦・国井煌/ダブルキャスト)、妹(演:佐久間凛奈・神津優花/ダブルキャスト)。かわいさのあまりに、とある場所から出て来た瞬間に涙腺が壊れそうになってしまう。
レーザー、スモーク、パネルに投影されるプロジェクションマッピング。光る衣装、ハードなダンス、ダンサブルなアクションバトル。坂田浦島坂田船の主題歌をはじめ、差し込まれる音楽や歌も印象深い。こんな演出どうやって思いついたのだろう? という様々な効果を全てひっくるめ、これぞエンターテインメント! の演出に役者たちの全力の芝居とアクションが乗り、他の何にも例えられない「アクダマドライブ」の舞台化作品が出来上がった。
原作アニメをそのまま舞台化したのではない。「アクダマドライブ」が3次元で表現されるとこうなるのだ、と感じる。生身の人間が演じる、舞台でしか表現できない迫力を浴びて、初めから終わりまで口が開きっぱなしになってしまうかもしれない。
楽しい、切ない、圧倒される、恐ろしい、楽しい…色々な感情が休むことなく襲いくる。いっときも休むことなく走り続けている舞台だ。
世界観の説明は、うさぎちゃんとサメくんがしてくれるため、アニメを履修していなくてもストーリーは把握できる。初見にも優しい親切な役割のキャラクターなのだと感じるが、話が進むにつれて徐々にその存在意味が分かってくるだろう。
なお、本編終了後にライブパートがある。テンションがマックスに達すること間違いなしなので、できればグッズのペンライトを使って思い切り盛り上がりたい。(※ペンライトは公式グッズのみ持ち込み可。使用できるのはライブパートのみ)
公演は3月21日(月・祝)まで品川プリンスホテル ステラボール、3月26日(土)・27日(日)にはCOOL JAPAN PARK OSAKA WWホールにて上演される。
取材・文:広瀬有希
(C)ぴえろ・TooKyoGames/アクダマドライブ製作委員会
(C)舞台「アクダマドライブ」製作委員会
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