舞台「アクダマドライブ」が3月10日に東京・品川プリンスホテル ステラボールで開幕する。本作は、2020年に放送されたオリジナルアニメ「アクダマドライブ」(ぴえろ・TooKyoGames原作)の舞台化作品。カントウとカンサイによる戦争で分裂した世界を舞台に、“アクダマ”と呼ばれる犯罪者たちを描くストーリーだ。
2.5ジゲン!!では、アニメから続投して舞台でも“一般人”役を演じる主演・黒沢ともよに単独インタビューを実施。本作の見どころ、「アクダマドライブ」の魅力などに加え、アニメの収録時のエピソードや自身の運命を変えた一言、将来のビジョンなども語ってもらった。
――原作アニメで演じられた“一般人(詐欺師)”役で舞台に出演することになった際のお気持ちを教えてください。
自分ではない誰かにこの役を演じられたくない、とさえ思っていたのでとても嬉しかったのを覚えています。
実は、一足先に舞台化のお話を伺った時に、その気持ちをアニメの制作の方にちらっとお伝えしてしまっていたんです。だからオファーを頂いた時は「わたしのワガママが通ってしまったのかな…」と思ったのですが、舞台のクリエイションチームからきちんとお声がけいただいたとお聞きして、相思相愛だった! と嬉しく感じました。
アニメ『アクダマドライブ』は、声優の演技を受けて結末が変わったキャラクターもいるほど、役者の持つ色が濃く反映されている作品です。わたし自身、その時の等身大で演じていた自覚がありますし、だからこそ“一般人”は他の誰でもない自分が演じたい、そうでなければ悲しいと思ったのでしょうね。
――当時、等身大のご自身をどのように役へ乗せて演じられていたのでしょうか。
アクダマを演じている声優さんたちとは元々ご縁があったので、役として与えられたラインの下に、その方々への気持ちも大いに盛り込んで演じていました。そういう演技をしてもストップをかけられなかったので、役に対する気持ちが強くなっていったんです。とても自由に演じさせていただきました。
――収録現場も自由な雰囲気でしたか。
自由でしたね。こういうご時世になる前だったので、喧嘩屋役の武内駿輔くんが大量にパンを買ってきてくれたり、大塚明夫(処刑課師匠役)さんはずっと気さくでおちゃめにいてくれて(笑)。休憩中はそうやって楽しくやっていても、収録が始まるとキチッとまとまる。その空気が、懲役年数がついている自由なアクダマたちを描く作品の空気に通じているなと感じていました。
――カンパニーの雰囲気は、登場人物たちの関係性と似るものなのでしょうか。
アニメ「彼方のアストラ」(2019年・TOKYO MX他/キトリー・ラファエリ役で出演)は、座長の細谷佳正(カナタ・ホシジマ役)さんが周りに意見を求めながらお芝居を作り上げたカンパニーでした。みんなで一致団結をしてミッションをこなさなければならない話だったので、お芝居について話をしてすり合わせをすることに意味があったんです。
『アクダマドライブ』では、むしろお芝居の話は一切しなかったです。アクダマたちのように、自由であることを許容されていたんです。
どちらも作品の雰囲気そのままのカンパニーでした。
――舞台『アクダマドライブ』はどんなカンパニーになりそうでしょうか。
不思議なことに、舞台のカンパニーもアニメと似ている部分があると感じています。幼なじみ同士の方や小さい頃から一緒にものづくりをしてきたメンバーがいたりするので、この人にかっこいいところを見せたい、一緒にやれて嬉しい、そういう感情がカンパニーの中に既にあるんです。
『アクダマドライブ』は、どんな媒体になっても大丈夫な、土台のある“足腰の強い”作品です。だからわたしも作品の力を借りて、また一から、脚本の白鳥雄介さん、キャストの皆さん、演出の植木豪さんと舞台を作っていこうと思っています。植木さんはレーザーを使った演出がお得意だと評判を伺っているので、サイバーパンクな世界観をうまく表現してくださるはずです。バイクに猫にシンカンセン…いったいどうなるんでしょうね、楽しみです。
――“一般人”が詐欺師と名乗ったことで大きく運命を変えたように、黒沢さん自身の運命を変えたと感じる一言はありますか。
わたしは小さな頃に子役として芸能活動をしていたのですが、中学生の時に事務所を退所して引退しました。その時、子役時代にお世話になった先輩方と食事をしていたら「歌は好き?」と聞かれて。歌をお仕事にした経験はなかったのですが「好きです!」と答えたところ、何とプリキュア(『ドキドキ!プリキュア』2013年/テレビ朝日系列)のオープニング主題歌を歌わせていただくことになったんです。
当時は、この先は音大に行ってミュージカルの道に進むか、受験をして早稲田大学の演劇部からストレートプレイの舞台に…そんなビジョンを持っていました。もしも「いえ、歌はお仕事でやっていなかったので…」と消極的に答えてしまっていたとしたら、プリキュアの主題歌には決まらず、事務所にも入らず、声優にもなっていなかったと思います。あの一言がわたしの運命の分かれ道でした。
――この先、直近の展望を教えてください。
心ときめく楽しいことは何でもやっていきたいと思っています。歌うのも文章を書くのも好きですし、脚本の執筆にもいま挑戦中です。
この1〜2年でカメラの前でお芝居をさせていただく機会もいただいて、「五感で感じながらお芝居をするという点では、カメラの前での演技は面白い」と感じるようになりました。例えば、アニメや舞台では実際に何か食べながら「おいしい」とセリフを発する状況はあまりありません。そういう、五感を使ったお芝居の空間をもっと味わっていきたいです。
――では、将来のビジョンはいかがでしょうか。
もっと劇場に足を運んでもらえる環境を日本に作りたいです。アニメも舞台も、閉じ気味の世界をもっと開いていきたいと思っています。そのために今、色々な物事に興味を持って挑戦している段階です。子供たちがもっと劇場を身近に感じてくれるような環境作りをしていきたいです。
日本では一つのことを突き詰めた専門的な人が信頼されやすいですし、それも素晴らしいですが、わたしはクリエイションの枠組みの中でやれることは何でもやっていきたいです。
――改めて『アクダマドライブ』の魅力についてどのように感じられていますか。
いい大人たちがこれまで得てきた信頼を使って、一生懸命かっこつけてふざけた作品です。だからこそ大人の本音がたくさん詰まっているし哲学的な描写もあります。バーでお酒を飲むかのごとく、味わい続けてもらえるんじゃないかなと。
各話のサブタイトルにもなっていた映画の名シーンが本編に少しずつ入れられていたのも面白いですね。エンタメ業界に対する偏愛の権化かな? と感じています。
アニメでは12話それぞれに伝えたいメッセージが込められていたのですが、舞台では一本の話になります。アニメで伝えていたものを全て描くのかもしれないし、「今のこの時だからこそ」と伝えたいメッセージが放送時とは変わるかもしれません。でも、それをやってもいいと思える強さがある作品です。
足腰の強い作品なのでもし実写映画になったとしてもすごく面白くなると思うし、もちろん舞台も絶対に面白くなると思います。
――最後に、舞台の見どころとファンへのメッセージをお願いします
イケメンがいっぱい出ます!(笑) ビジュアル撮影の時に「世の中にはこんなにうつくしい男の子たちがたくさん存在するんだ…」と恐れおののきました。見ているだけで幸せになります。
そんな彼らが口をそろえて「身体が動くやつらが揃っている」と。原作アニメは躍動感を秀逸なカット割りで表現していましたが、舞台では生身のわたしたちが体で表現しなければなりません。その点も担える、フィジカルでのパフォーマンス面でも強い方ばかりなんです。
共演者の皆さんは「黒沢さんはアニメから引き続きだから、自分たちがそこに寄っていけたら」と言ってくださっているのですが、私は逆に、皆さんの表現の隙間に溶けていくつもりでいます。“一般人”として、アニメの時のようにアクダマたちに振り回してもらうのを楽しみにしています。
観に来てくださる皆さんも、黒沢がどれだけ振り回されているのかをぜひ楽しみにしていただけたらと思います。
取材・文:広瀬有希/撮影:友野雄
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