恩田陸のデビュー作で、2000年にはドラマ化もされた小説「六番目の小夜子」が原作の舞台「六番目の小夜子」が2022年1月7日(金)に初日を迎える。
2.5ジゲン!!では、初日の前に実施されたゲネプロの様子をレポート。記事後半では主演の乃木坂46・鈴木絢音や高橋健介らが登壇した囲み会見の様子も詳しくお届けする。
一滴の違和感から広がる静かな恐怖
「サヨコ伝説」という不思議な言い伝えがある以外は、至って平和な高校生たちの放課後から物語は始まる。華美なBGMもなく、そこに聴こえてくるのは放課後に響く生徒の声に部活動の音。放課後特有の気だるさと開放感が漂い、一気に観客の心を高校時代へと誘っていく。
始業式だったこの日。演劇部の部室は、ある話題で持ち切りになっていた。それが「サヨコ伝説」だ。これは学校に大きな幸運をもたらすとされる言い伝え。3年に一度、「サヨコ」に選ばれた生徒が、3つの約束を誰にも知られずに遂行すると大きな幸運が学校にもたらされるという。
約束のうちの一つである「始業式に赤い花を生ける」が実行され、6番目のサヨコが現れたと生徒たちは浮足立っていた。ところが放課後、演劇部の部室には誰が生けたか分からない赤い花が飾られていたのだ。
すでに実行されたはずの約束が、なぜ演劇部の部室で再現されたのか? これは誰かのいたずらなのか、それとも――。
▲沢木容子役の山内瑞葵
同時にこの日、演劇部には転校生・津村沙世子(演:鈴木絢音)が入部する。サヨコの出現の証である赤い花が生けられた演劇部。そして、そこに現れた“沙世子”とは一体何者なのか。不気味な美しさをまとう彼女を中心に、謎と恐怖に満ちた青春群像劇が動き始める。
サヨコをキーワードにしながらも、そこに描かれる日常はとても普遍的だ。部長として文化祭での劇を成功させたいと意気込む花宮雅子(演:尾碕真花)に写真部でサヨコ伝説について詳しい関根秋(演:高橋健介)、彼と仲のいいバスケ部員の唐沢由紀夫(演:熊谷魁人)、文化祭実行委員長として演劇部に関わる設楽正浩(演:山本涼介)。
彼らはそれぞれ部活に打ち込み、学校行事を楽しみ、恋に、進路に…と悩みが尽きない至って普通の高校生たちだ。その“普通”の空気感が丁寧に作られているからこそ、そこにヒタリヒタリと忍び寄る“違和感”が鮮明に浮かび上がっていたのが印象的だ。
本作は「Jホラーの父」である鶴田法男を総監督に迎えているとあって、恐怖がじわりと肌を這うような演出が多数仕込まれている。演者と観客が空間を共有する舞台だからこそ、ステージ上の登場人物が抱く恐怖がダイレクトに伝播してきて、観客は小説やドラマともまた違った不気味さを五感で感じることになるだろう。また舞台ファンとっても、これまで味わったことのない種類の怖さを、ステージから受け取ることになるのではないだろうか。
小説『六番目の小夜子』とJホラー、そして舞台が融合しどんな化学反応を生み出したのか。数多く仕込まれている仕掛けと共に、ステージの隅から隅まで目を凝らして堪能してみてほしい。
目に見えないものに向き合う物語
異様な存在感を放つ沙世子を除き、キャスト陣は素朴で等身大な芝居で多感な少年少女を好演。中でもサヨコ伝説の真相について追いかけていく秋役の高橋と雅子役の尾碕は、自然体な中にも彼らが抱える内面的な葛藤や決意がにじみ出ており、その巧さが光った。
▲花宮雅子(演:尾碕真花)と関根秋(演:高橋健介)
沢木容子役の山内瑞葵や設楽役の山本は、前述の2人とはまた違った形で物事を動かしていく。真っ直ぐさと脆さが同居した繊細な芝居に注目してもらいたい。
▲設楽正浩(演:山本涼介)
一方で由紀夫役の熊谷は、本作の青春担当と言えるだろう。思わずニヤニヤしてしまう高校生らしい甘酸っぱいシーンも多いので、背筋がゾッとする本作における癒やし枠となっている。ホラーが苦手という人は、彼のシーンで心の平穏を保ちながら観劇するといいかもしれない。
▲唐沢由紀夫(演:熊谷魁人)
そして主演として沙世子を演じる鈴木絢音は、これまでの彼女らしさをいい意味で捨てた気味の悪さで新境地を見せた。近寄りがたい雰囲気を持つ沙世子は、場面ごとに複数の顔を覗かせ、同級生や観客を惑わしていく。霧のように掴みどころのないのだが、その瞳には強い念のようなものが籠もっていて、とにかく薄気味悪いのだ。
彼女がその場にいるだけで、レンズが歪み、世界観そのものがぐにゃりとねじ曲がっているような感覚に陥った。舞台「六番目の小夜子」という作品でしか出会えない鈴木絢音を、ぜひ劇場や配信で味わってみてほしい。
▲絶えず不気味さを纏う沙世子(演:鈴木絢音)
見えないものの怖さというのは、この数年で多くの人が味わったことだろう。そんな時代を体験したからこそ、姿をつかめないサヨコを描く本作から受け取れるものがあるのではないだろうか。
囲み会見レポート
ゲネプロ終演後、津村沙世子役の鈴木絢音、花宮雅子役の尾碕真花、関根秋役の高橋健介の3名が登壇する囲み会見が実施された。ここからはその様子を、3人の掛け合いも含めてお届けする。
――ゲネプロを終えて、いよいよ初日を迎えます。まずは意気込みをお願いします。
鈴木絢音:千秋楽まで元気に走り抜けられるよう頑張ります。
尾碕真花:今日から初日が始まります。千秋楽までいい緊張感を持って頑張りたいと思います。
高橋健介:原作も大変人気のある作品、さらにドラマ版でも成功している作品なので、それに負けないような舞台を作れたらなと思ってここまでやってきました。最後まで応援よろしくお願いいたします。
――役を演じる上で、苦労した点や工夫した点があれば教えてください。
鈴木:私は動きを制限するのにすごく苦労しました。動き続けているタイプなのですが、ミステリアスさを出すためにじっとして頑張っています。
尾碕:演劇部の部長として自分の思いを貫く役どころなのですが、ニュアンスを間違えてしまうとただのワガママな子になってしまうと思ったので、そこは気をつけて演じています。
高橋:まずは普通の高校生が集まっているという雰囲気作りを最重要課題としてやってきました。最初の雰囲気作りのところがなかなか難しかったのですが、何回もみんなで繰り返しやって(その雰囲気が)できたのが良かったです。
――鶴田総監督からのホラー指導はありましたか。
鈴木:セリフの言い方は普段のお芝居とは違う感じで教えていただいたので、それが怖さにつながっていたらいいなと思います。
高橋:Jホラーの父ということで怖い方なのかなと思ったんですが、全然そんなことはなくて。12月30日が鶴田さんの誕生日だったのでみんなでお祝いしたんですけど、この歳になると誕生日なんて全然嬉しくないと仰っていたんですが、すごく嬉しそうでした。
一同:(笑)。
高橋:そんな素敵な父でした。
――2022年初舞台かと思います。今年の抱負を教えてください。
鈴木:のんびりと生きていけたらいいかなと思います。
高橋:珍しい抱負ですね。
尾碕:気取らず、気負わず、気楽に。この3つの気を大切に、私ものんびり生きていけたらいいなと思います。
高橋:若い後輩がいっぱい出てきて、いつ追い抜かれるのか不安なので、僕はとにかく生き急いで生き急いで、「高橋健介ここにあり」という感じでやっていけたらいいなと思います。
――お2人から見た鈴木さんの印象はいかがでしたか。
高橋:めちゃくちゃ変です。
一同:(笑)。
高橋:毎日2時間半、半身浴をしていると言っていて。さすがトップアイドルは違うな~って。その話をした次の日に、「半身浴、2時間半したの?」って聞いたら、「今日は30分です」って言われて、すごい嘘つくじゃんと思いました(笑)。でも座長として、みんなを引っ張っていってくれる特別な存在感があったので、素敵な方だと思います。(このコメントの)後半部分だけ使ってください。
一同:(笑)。
尾碕:お互い人見知りということもあって、最初はクールな方かなって思っていたんですけど。稽古場でみんなが笑い終わった後に、一人で「今!?」っていうタイミングで笑っていて。私もゲラなのでちょっと似ているなって思いました。すごく優しい方です。
――ご自身が作品の世界に入りサヨコに選ばれた場合、3つの約束を遂行しますか?
高橋:最初の赤い花を生けるってとこくらいはやるかな。スタートはやるんですけど、誰にもバレずに1年間隠し通すっていうあたりから怪しくなりますね。
尾碕:おしゃべりだから?
高橋:そう。この界隈一、口軽いんで。僕に秘密とか言わない方がいいと思います。
一同:(笑)。
尾碕:私は花を生けすらしない。
高橋:花は生けて。お話始まんないよ。
尾碕:そんな重責負いたくないので、自分がサヨコじゃなかったことにしますね。
鈴木:私はしっかりやるんじゃないかなと思います。でも1年間、ニヤけ続けていると思います(笑)。
――では最後に、鈴木さんからメッセージをお願いします。
鈴木:2022年の観劇初めになる方も多いんじゃないかと思いますので、気合を入れて頑張りたいと思います。ありがたいことにチケットの売れ行きもいいようなので、劇場に来られないよという方もぜひ配信で観ていただけたらと思います。頑張ります!
舞台「六番目の小夜子」は1月7日~16日まで新国立劇場小劇場にて上演。9日(日)夜公演はRakuten TVでライブ配信も決定している。
取材・文・撮影:双海しお
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