レポート

確かに存在する“9時間55分” 2021年版「ロボ・ロボ」でダイレクトに伝わる演劇の力

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西田シャトナーが28歳の時に執筆し、20数年の間、繰り返し上演されてきた舞台「ロボ・ロボ」。その2021年版が10月9日(土)から東京・中野の劇場HOPEで開催中の第1回クラゲフェスティバルで5年ぶりに上演されている。

クラゲフェスティバルは、自ら再生し“不死”と呼ばれるベニクラゲからインスピレーションを得て生まれた演劇イベント。6つの団体が回ごとに2団体ずつ入れ替わり、10月17日(日)まで上演。「ロボ・ロボ」は毎日行われる。

2.5ジゲン!!では、初日に先立ち行われた通し稽古の様子をレポート。小劇場だからこそ細かな表現まで見え、肌でダイレクトに感じられる役者たちの芝居と物語。ぜひ劇場で感じとってほしい。

潮風、砂浜、波の音。木々が生い茂る森、たわわに実った果実。人の気配のないとある場所で7体のロボットが目覚めた。どうやらここは無人島のようだ。バートンロボッツ・カンパニー新製品発表会の場所へ輸送される途中、輸送機が何らかの理由でほぼ墜落状態で不時着し、家庭用ロボットである彼らは無人島に残されてしまったらしい。操縦士である人間の姿は見えない。

ロボットたちの電源は初期起動用として入っていた分のみで、残り9時間55分。充電してくれる人間はいない。このままでは電池が切れ、機械の身体にとっては不適切な潮風と砂と暑さにさらされて朽ちていってしまうだろう。

さて、どうするべきか…? 彼らのリーダー的存在である分析ロボット・アナライザーT-1(演:和泉宗兵)は状況を分析し、一つの提案をする。「もしここに人間がいたなら、我々にこう指示するだろう。“破損した輸送機を修復し、北の大陸に帰還せよ”と」。

アナライザーは、各ロボットたちへそれぞれの能力に合った指示を出す。今回の発表会のデモンストレーションに間に合わずとも、家庭用のロボットたちが自らの力でピンチを脱出できたとなれば、開発会社のまたとない宣伝になるだろう、とも。

この案に乗る者、「俺はプログラムどおりにデモンストレーションをやり続ける」と拒否する者…果たしてロボットたちは無事に「おうちに」帰れるのだろうか。それともこの無人島で、電源がなくなり機能停止するまでプログラミングされたデモンストレーションをまっとうするのだろうか…。

5年ぶりの公演となる今回の「ロボ・ロボ」の会場は、前回公演が行われた東京・天王洲銀河劇場の10分の1ほどの客席数である劇場HOPE(さらにここから席数が減らされ、40数席と見られる)。何とも贅沢な空間だ。劇場に足を踏み入れた瞬間、誰もがそう感じるだろう。最前列はもちろん、最後列の席であっても、大きな劇場の2列目ほどの距離。この近さで「ロボ・ロボ」が見られることは、観客にとって得難い体験となるに違いない。

上演が始まると、“近さ”による演劇のすさまじさをすぐに実感する。視界全てが「ロボ・ロボ」の世界だ。

マイクを通さない生の声、オペラグラスを使わなくても見える表情、視線の流れ方、指先の動き。俳優とは、肉体を使って別の人格(この場合はロボットだが)を表現する職業だということを改めて感じる。なぜこんな動きができるのか、そんな声の出し方ができるのか。本番では表に出さないものの、顔から下、衣装の下はぐっしょりと汗をかいていることだろう。

冷徹とも言える分析能力で他の6体に指示を出し、状況を突破しようとするアナライザー。破天荒に自由に、しかし自分に課せられたプログラムに忠実に動くゲーマー707(演:岡本悠紀)。静かに穏やかに慎重に、調和を重んじるように感じさせるドクター1001(演:寿里)。全てを“記録”する大事さを教えてくれ、時にコミカルな空気を生むレコーダーMR-5(演:谷山尚未)。料理という、人間の生きる基礎を担うためか親しみやすさにあふれるシェフ900(演:八島諒)。力仕事はお手のもの、まっすぐでシンプルな言葉による決断が胸を刺すワーカー503(演:山川ありそ)。そして、一見エキセントリックながらも「家族でおうちに帰る」というプログラムに忠実に生きているピュアなナビゲーター104(演:村田充)。

セリフ量は全員膨大。動きの面ではロボットマイムという点のみが注目されやすいが、全体に要求されるレベルが高いと感じる。何せ、人ではないのだから感情と動きがリンクしているとは限らない。しかし、観客席の人間にロボットの気持ちが伝わらなければならない、これは難しいだろう。

28歳の時の西田シャトナーは「誰もいない森の奥で大木が倒れたら、その倒れる音は鳴ったのか、それとも鳴っていないのか」という哲学の言葉を頭にこの戯曲を書いたという。聞いた人がいないのだから鳴っていないのと同じだと考えることもあるだろうし、知覚されなくても確かに存在はあったのだろうとも、さまざまな解釈ができる。

無人島で起こったロボットたちの働き、焦り、衝突、故障による混乱…これらは人間は誰も目にしていない。では、人間が知覚していない彼らの9時間55分は無かったことになるのだろうか?

筆者も物語を生み出し文章を書く人間として、「それは確かにある」と信じたい。例え誰の目にも触れない作品であっても、頭の中だけでも生まれたからにはそれは“ある”と思いたいからだ。

冒頭の「俺は幸せだ、俺はとても幸せだ…」。この言葉は誰のものだったのか。記録、思い出、思いやり、信念…極上の演劇を至近距離で浴びて、観終ってさまざまな感情が全身を包む。

小さな劇場で観る「ロボ・ロボ」は、小さな頃に持っていた宝箱に似ているように感じた。大事なものをいくつか入れ、眺めるたびに頭の中に生まれるストーリーの無限の広がりを楽しむ。きっと、2021年版の「ロボ・ロボ」は観る人それぞれにとって大事な宝物になるだろう。

取材・文:広瀬有希

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公演情報

タイトル

「クラゲフェスティバル」

日程・会場

2021年10月9日(土)~17日(日)
東京・劇場HOPE

演目詳細

・クラゲフェスティバルプロデュース作品「ロボ・ロボ」
作・演出:西田シャトナー
出演:和泉宗兵、岡本悠紀、寿里、谷山尚未、村田充、八島諒、山川ありそ(五十音順)

・OLヴィーナスはちみつシアター【COME BACK】
出演:田渕恭子、氏家康介、秋元佐和紀、栗野未悠、マリー(以上、OLヴィーナスはちみつシアターメンバー)、岡野里咲、未来みき

・しがらみ屋台「最初で最後の「またね」のキス」
作:今井夢子
演出:市野龍一
出演:若尾桂子

・白猫屋企画「ベテルギウス従軍記」
作:織田夜更
演出:今村美乃
出演:市島琳香、佐瀬康久

・COROBUCHICA.「肥後系麗月」
作:堀越涼(あやめ十八番)
演出:COROBUCHICA.
出演:コロ

・team戯獣「配信中~半分くらい本当の話~」
作・演出:橋本知加子
出演:小木珠実、合田孝人、橋本知加子

「クラゲフェスティバル」公式ホームページ

https://quackluck.wixsite.com/jellyfishfest

WRITER

広瀬有希
							広瀬有希
						

金融・印刷業界を経てフリーライターへ。エンタメメディアにて現場取材・執筆の他、日本語・日本文化教育ソフト監修、ゲームシナリオ、ノベライズなどで活動中。感動が伝わる文章を目指して精進の日々を送っています。

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