西田シャトナーが28歳の時に書いた戯曲「ロボ・ロボ」。1994年から繰り返し上演され、そのたびに驚きと感動を観客に与えてきた本作が10月9日(土)から東京・中野の劇場HOPEで行われる第1回クラゲフェスティバルで5年ぶりに上演される。
「ロボ・ロボ」は、無人島に不時着した7体のロボットたちを描くストーリー。人間の操縦士はすでにおらず、残された自分たちの電源は残りわずか…。
2.5ジゲン!!では、本作に2014年版・2016年版に引き続き3度目の出演となる村田充と、初出演となる和泉宗兵にインタビューを行った。初共演となるお互いの印象や小劇場に対する思いまで、同い年の2人が仲を深めながら語った様子をお届けする。
同い年にして今回初共演
−−今回のお話が来たときのお気持ちを教えてください。村田さんは3度目の「ロボ・ロボ」ご出演になりますね。
村田充(ナビゲーター役):シャトナーさんとは5年半ぶりくらいになります。「ロボ・ロボ」、「破壊ランナー」、舞台『弱虫ペダル』…シャトナーさんの舞台では、僕が今までやってきたダンスなどの体を使ったものを活かせるキャラクターを頂いてきました。「ロボ・ロボ」でも、僕が今回も演じるナビゲーターは機動力高めで物語をかき回すキャラクターです。
実は最初にお話が来たときは役の指定はなかったので、レコーダー役でも面白いなと思っていたんです。でもこれまでの本作を振り返って、やっぱりナビゲーターをやりたいなと思いました。今回も、ナビゲーターの信念や他のロボット6体のことを家族だと思っている気持ち、ピュアさ、そういうものをお客さまに伝えたいと思っています。
−−和泉さんは本作に初出演で、シャトナーさんとも初めてになりますね。
和泉宗兵(アナライザー役):シャトナーさんが28歳の時に書かれて、そこから脈々と受け継がれ、突き詰められてきた本作を小劇場で上演する…とても興味深いと思いました。
また、お話を頂いた時に、“ミスターロボ・ロボ”と言える村田さんと2016年版から引き続き山川ありそ君(ワーカー役)も出演されると聞いて「屋台骨はできているな」と。いざ稽古が始まって初参加のメンバーで試行錯誤していたところ、村田さんとありそ君が入った瞬間、作品が立ち上がる機動音が聞こえたんです。これが「ロボ・ロボ」の見えない力かと強く感じました。
客席との距離がより近い小劇場だからこそ勝負できる役者力、それに幅を持たせてくれる演出、音響、照明技術…今まで本作を観てきた方にも、新しい「ロボ・ロボ」だと感じてもらえるような作品になっているんじゃないかと思います。
−−お2人は今回が初共演になります。お互いの印象を教えてください。
和泉:村田さんは、学生時代に読んでいたファッション誌にモデルとして出ていたので、僕からしたら「向こう側」の人でした。充さんは「MITSUU(ミツゥー)」というお名前で活動されていて、…あっ、初めて充さんて呼んじゃった。充さんて呼んでいいですか?
村田:みんな下の名前で呼ぶので、そう呼んでください(笑)。
和泉:雑誌には充さんがダンスされている写真も載っていて、すごくカッコ良かったんですよ。その後、仮面ライダーシリーズに出演されているのを観て「MITSUUだ!」って心が沸いたのを覚えています。同じ“舞台”という世界で活動しているので、いつか共演したいなと思っていました。今作で共演できてとても嬉しいです。でも、MITSUUだし気軽に話しかけていいのかなって…。
村田:(笑)。
和泉:稽古中に目が合うと、どうしてこんなにキラキラした目をしているんだろうって思います。すごく純粋に人を見る方だなってドキドキしますね(笑)。
村田:僕は、周りの後輩たちから和泉さんの噂はよく聞いていました。それでいざ稽古にご一緒させていただいたら、想像していた以上に“音”がいいんです。セリフの出し方もそうなんですけれど、耳心地のいい声をされていると感じました。
それから、芝居で役を通しながら会話ができる方です。僕の芝居に対して、拾ってきちんと返してくれる。そうなると、芝居が一つできるし、色々と試したりできるからすごく嬉しいんですよね。芝居で会話が成立するのってすごく難しくて奇跡に近いんです。キャリアもあるし、声と音がすごくいい。羨ましいです(笑)。
和泉:自分の芝居を改めて観ると「声をコントロールできていないな」と思うこともあるので、褒めてもらえて嬉しいです。
初共演する時は、やっぱり相手との距離感が分からず遠慮してしまうことが多いんですけれど、充さんはご自身の全てを使ってきてくれます。だから僕もそれに応えようとして化学反応が起きるんですよね。僕も負けずに頑張ります、という気持ちでいます。
小劇場の醍醐味も
−−これまでの「ロボ・ロボ」と2021年版、違うところがあれば教えてください。
村田:ざっくりと言うと、だいぶ違います。稽古に入る前に2014年版と2016版のDVDを毎日見返していたのですが、今までのものは通用しないなと思いました。パワーマイムやカメラワークといったシャトナーさんの特徴的な演出はほぼ使っていなくて、“すごくストレートプレイだな”と感じています。
それから、客席のスケールも前回公演の10分の1くらいになって、舞台のスペースも半分くらいです。美術の位置が全く変わるし、立体的に動くギミックも今回は使えません。
−−身長の高いキャストさんが多いですし、スペースが狭くなると舞台上の位置取りも難しそうですね。
村田:被ったらいけない場所、被ってもいい場所、それから、存在を消すために被っていないといけない場所を明確に見つける必要があります。物理的な舞台上での立ち位置もなのですが、作品における立ち位置というものも考えながら稽古していかないといけません。
和泉:立ち位置はキャラクター同士の関係性や物語を表現するのに大事なものなので、舞台を効果的に見せるためには計算が必要なんです。
村田:そう、計算しないとですね。この「ロボ・ロボ」で言えば、舞台は無人島にある広い砂浜です。実際はその砂浜よりも狭いスペースで広さを表現するので、お客さんをうまく騙すためにはリアルな距離感ではない芝居をしなければいけません。お客さまのイマジネーションを刺激するためにも、これから稽古で各々が持っているものを持ち寄ってディスカッションしていかないと、と思っています。
−−劇場の大きさが変わることで、お芝居の表現や観客席への見せ方は変わりますか?
和泉:やることは同じなのですが、見せ方の幅は変わりますね。大きな劇場では、遠くや2階席にもよく見えるように動きを意識したり。
村田:僕の場合は、大きな劇場で遠くからは見えないと分かっていても細かい表現はやります。最近はとてもいいカメラでDVDにしていただいていますしね(笑)。
気持ちの面では劇場の大きさに関わらず、シャトナーさんの世界観にどこまで入っていかれるかというのが重要です。特にシャトナーさんの場合は、どれだけ童心に戻れるかが大事かなと。
「ロボ・ロボ」で言えば、シャトナーさんがイメージしているファンタジーなSFの世界に飛び込みながらも、それを俯瞰で見る必要があります。映画で言えば、スクリーンの中にいる自分とそれを客席で観ている自分、2人用意しないと難しいんですよね。
和泉:僕はシャトナーさんとは今回がはじめましてなのですが、“童心”というのはすごく感じました。自分の中にある童心をすごく大事にされているから、こちらが決め込んだものでぶつかっていっても何も生まれないんですよね。
村田:子どもの気持ちに戻って、感情の起伏を拾いながらそれを粒立てて、ロボットとして削ぎ落としていく作業が必要です。まずは童心に戻って楽しむところからです。
−−上演中ずっと行っているロボットマイムは、キャラクターによっては体力的にもきつそうですね。
村田:体力そのものは大丈夫なんですけれども、若い頃と比べると集中力がもたないようになってきました(笑)。ちゃんと休憩を取って、メリハリをつけてやるようになりましたね。昔は、舞台の本番中は楽屋に戻ると集中が切れてしまうので、ずっと舞台袖にいたりしたのですが、今はちゃんと休んでいます。
動きの面で言えば、動いている時よりも止まっている時の方がキツいです。ずっと前ならえをしている状態なので、その状態で数分いるとなると内側の筋肉をだいぶ使うことになります。
一番汗をかくのはアナライザーですね。動きは少ないですが、ずっと喋っているので誰よりも真っ先に汗をかきます(笑)。
和泉:今日も稽古で20分やっただけでものすごい汗をかきました!(笑) いい秋を迎えられそうですね、運動の秋ということで。
一同:(笑)。
届けよ、躍動感とパワー
−−今回の「クラゲフェスティバル」は、客席規模40席ほどのいわゆる「小劇場」で6団体が日替わりで公演を行う演劇祭です。
和泉:僕は演劇フェスティバルというものに参加するのは初めてです。一度の公演で必ず2つの演劇が観られるので、お客さまは面白いのではないかなと思います。同日同時間の組み合わせによっては、同じ演目でも観た印象が変わるかもしれませんね。
村田:僕は、下北沢で似た企画に参加した経験があります。でもその時は、下北沢にあるいろいろな劇場で公演が行われるものだったので、今回のように一つの劇場でという形は初めてです。
“フェスティバル”という形でなければ、「ロボ・ロボが一番いいと言われるために頑張ろう」と、もっとバチバチな気持ちでいたかもしれません(笑)。でもフェスティバルなので、このお祭りを成功させたい、小劇場をもっと盛り上げたいという気持ちでいます。
和泉:収容人数の多い劇場で2.5次元系の大きな舞台を観ることが多い方は、全く違うものを見つけられるのではないかなと思います。こういう機会でもないと、なかなか小劇場に足を運んでみようと思わないかもしれないですしね。
村田:小劇場には、名前は広く知られていなくてもいい役者さんがすごくたくさんいるんです。でも、それは環境次第ということもあります。僕はおかげさまで色々な演出家さんや、素晴らしい技術を持っている役者さんと作品を共にすることができたので多くのことを吸収できたのですが、そういうチャンスがない人もたくさんいます。
僕が2.5次元の大きな舞台に出ているのは、それを見てくれたお客さんを小劇場に引っ張ってきたいという思いと、大きな現場で得た知識と経験を小劇場に戻った時に共有したいという思いからです。僕は映像の出身ですが小劇場から演劇に入ったので、小劇場界に何か貢献したいとずっと思っているんです。
僕を入り口にして小劇場に足を運んでもらえたら嬉しいですし、このフェスティバルが小劇場を楽しむきっかけになってくれたらいいなと思っています。
和泉:僕が演劇学校に行くことになったきっかけは、小劇場を観て感動したことです。そしてたまたま大きなミュージカルや舞台に呼んでいただけて、持っていたスキルを試すことができました。充さんと同じように、大きな舞台で得たスキルを小劇場に持って帰る。そういうサイクルができていると感じます。
小劇場はすごく楽しいです。小さな劇場の中で、お客さまとすごく近い距離で演技をする。わくわく感とともに恐怖もあります。でも、その恐怖に打ち勝ってお芝居をしてカーテンコールを迎えた時の満たされた感覚…あれは自分の中で原風景になっていますね。
−−最後に、「ロボ・ロボ」の見どころとファンの皆さんへメッセージをお願いします。
村田:惑星ピスタチオの偉大な名作「ロボ・ロボ」に3度も出演できて本当に幸せです。シャトナーさんとは5年半ぶりになりますが、日々「これだ!」と思いながら稽古できています。
今回の2021年版が、これまでのどの「ロボ・ロボ」にも引けを取らないようなものにしたいですし、とんでもないものを小劇場に持ってきたなと言われるようなものを作りたいと思っています。公演時間もオリジナルからぎゅっと詰まって60分とさらに見やすくなっています。一瞬の気も抜かずに観ていただけるように、我々も倍の集中力で演じます。
和泉:シアターアプルでシャトナーさんの「破壊ランナー」を観た時、作品で劇場が壊れるのではないかと感じるくらいの躍動感とパワーを感じました。今回の「ロボ・ロボ」は、もう2度と集まらないのではと思うほどのメンツが集まっていますので、劇場のある中野駅のあたりまで破壊してしまうかもしれません(笑)。
村田:東中野の辺りまで破壊するかもしれないですね(笑)。
和泉:そのくらいの思いで密度濃く作っていますので、劇場やオンラインでぜひ、その爆風を受けてほしいと思います。
取材・文:広瀬有希/撮影:ケイヒカル
広告
広告