音楽劇「黒と白 -purgatorium- amoroso」が6月30日(水)に東京ドームシティ シアターGロッソで幕を開けた。
今作は音楽劇「黒と白」シリーズ3作目で、人として転生して生きる黒天使とそれを見守る白天使が中心となるストーリー。A・B・Cの3つのオムニバス形式で構成され、Aルートでは天使たちの物語が、B・Cルートでは人間に転生した天使たちの物語が描かれる。
初日公演に先駆け、公開ゲネプロとフォトセッションが行われた。ゲネプロで披露されたのはA・Bルート。本記事では大きなネタバレを避けてレポートするが、簡単なあらすじとキャラクター紹介、劇中写真を多く含むため、まっさらな状態で観劇したい人は注意してほしい。
狂気的な愛の果てに“幸福”はあるのか…
舞台は、黒天使たちのプルガトリウムでの日常から始まる。人間に転生していた頃の思い出話を和やかにわいわいとしながらも、ふと天使ならではの視点で「人間として転生するとは?」などの話をし始める黒天使たち。
そこに白天使たちが現れる。イオフィエル(演:鈴木翔音)は、新しい世代の天使たちに世界中を見せているのだという。各ルートに入る前のプロローグは、これまでのシリーズを観ていない人への世界観説明であり、半面、これまで観てきたファンたちはちょっとした小ネタに思わずクスリとしてしまうだろう。
Aルートのテーマは「原罪」。今回はハルート(演:縣豪紀)とマルート(演:末原拓馬)を中心に話が進み、2人の天使がなぜ黒天使に堕ちたのか、2人の間に何が起こったのかが描かれる。
何千年も同じ時を過ごしてきたハルートとマルート。マルートは、ハルートを自身の半身であるかのように常に求めては愛を語る。その姿は無邪気な子供のようであり、狂信的とも言える。マルートが願うのは、「ハルートとの境界がなくなること」。自分のものにしたいというだけではなく、溶けて一つに混ざり合いたいとまで願っているように見える。
対するハルートは、つれない態度をとるわけでもなく、しかし、マルートを受け入れる様子もない。長い間一緒にいるためにマルートの直球の重い愛を受け流す術に長けているのか、はたまた本気にしていないのか…。
マルートはある日、仕事に真面目なハルートの息抜きにと、人間界に連れ出す。そこで2人が見たのは神殿で踊る1人の美しい王女だった。
思いを込めて祈りと踊りを捧げる彼女を見守っているうちに、ハルートは彼女に心を寄せるようになってしまう。
数カ月に一度だったハルートの人間界降りは頻度を増し、マルートは気が気ではない。「そんな暇があるなら僕に構え」とむくれながら、ハルートへの愛をさらに強めていく。マルートの狂気的とも言える愛を目にしてミカエル(演:平井雄基)は、自分がハルートだったら押しつぶされてしまいそうだと思わず口にする。
一方のハルートは、彼女が他国に望まぬ輿入れをするという話を聞いてしまうーー。
天使の転生先の謎、その人生を生きる理由は?
Bルートは、黒天使たちが転生した人間たちの話だ。殺人罪を犯した一人の男と刑事たちの物語が描かれる。逮捕された男は「天使」を自称する。彼が犯罪を犯した理由、そしてなぜ“天使”の記憶を断片的に宿しているのか…。
誰かにとっての幸福は、誰かにとっては災禍となるか。幸福に溺れてしまえば、自分の身を災禍に投げ込むことになるか。さまざまな考察と深読みがはかどる作品だ。観劇後、誰かと感想を思い切り語り合いたくなる。また、黒天使たちがその人間に転生する理由も考えさせられる。
同シリーズが今後も続いていくのであれば、“転生のシステム”について謎がまた一つ生まれたとも解釈できる。プロローグから全編を通して各所に挟み込まれる、ルシフェルとミカエルの過去を想起させる台詞も気になるところだ。
今回のゲネプロではA・Bルートが披露されたが、Cルートでは命の重さを感じさせる内容になるという。できれば3つのルート全て制覇したいところだ。
芝居の面では、狂信的にハルートを求めるマルート役の末原拓馬が強い印象を残す。恍惚とした表情の中にある狂気は、ぞっとするほど。マルートの刃のような気持ちを受け止め、受け流しながらも、罪に身を落とすハルート役の縣豪紀も、天使でありながら人を愛してもいいのかと葛藤する姿が見事。
天使の長であるルシフェル役の岩永徹也、ミカエル役の平井雄基は、落ち着いた声色と含みのある存在感を見せてくれる。他のキャストたちも、わちゃわちゃとしてふざけていたかと思えば、ふとしたセリフ回しや表情で、果てしなく長い時間を生きている天使だと感じさせる。
舞台セットは、今回もシンプルながら大幅にパワーアップ。Gロッソの高い空間を活かした、天界・煉獄・人間界とも受け取れる組み合わせのセットだ。プロジェクションマッピングにより、季節や時間の流れも分かりやすい。オープニングのキャラクター紹介映像も派手でクールだ。
公演時間は2時間30分と発表されているが、日替わりネタの盛り上がりやその日の芝居で10〜15分程度延びる可能性がある。冷房対策でカーディガンやストールなどがあると安心だろう。
なお、期間限定のコラボ商品「黒と白」クレープが販売されている。劇場内はもちろん、待機列にも持ち込めないので注意が必要だが、観劇前後に推しの天使カラーを楽しみながら食べるのもいいだろう。
公演は2021年7月4日(日)まで。
取材・文:広瀬有希/撮影:ケイヒカル
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