「朗読劇 ドラゴンギアス Another~再生のための物語~」が4月7日(水)に開幕。当日に行なわれたゲネプロの模様を写真と共にお伝えする。
本作は、ボードゲームを原作とした珍しい作品だ。世界観設定を、数々のデジタルゲームで名作を世に送り出してきたイシイジロウが原作者として担当。製作は昨年、旗揚げ公演が新型コロナウイルスの影響で延期となってしまった安藤匠郎率いるアメツチ。
主人公のエリック・デズモンド役を小南光司が務め、新境地の朗読劇に挑戦している。
あらすじ
今年も王位選抜学校から各学部から最高の成績を上げた者たちが選びだされた。竜の襲来自体は高い確率ではないが、一度襲来すれば彼らは過酷な戦いに立ち向かう。そして敗れ去った場合はその国全てが滅ぼされてしまう。国を守りたいと志願し、選ばれた主人公エリックだが、本当にその日は訪れる。
「朗読劇」という枠を超えるエンタメ
本作は朗読劇ではあるが、紗幕を利用した照明・映像・キャストの融合的なビジュアル、キャスト自体の衣装の豪華さや動きのある表情・やりとりといった、朗読劇の枠を超えた演出が魅力的な作品だ。
ドラゴンの咆哮・攻撃魔法・辺り一帯を浮遊する毒などRPG的な世界観を映像・照明と音で表現し、それらに対するキャストの演技で現実のものに昇華する。
物語を“読み聞かせる”という朗読劇としての特徴は堅持しつつも、他方で見栄えとしてのエンターテインメントに力を注ぐ姿は、舞台上で戦うキャラクターと同様に、製作者側も挑戦をしているように感じた。
「声優×俳優」で生まれる相乗効果
本作は2.5次元舞台で活躍する俳優陣とアニメ声優陣が参加しており、それぞれの持ち味が良い方向に融合されている。
低い声でいさめる場面もあれば、少し派手な動きやアイコンタクトで声だけではない細かい描写がなされる。そういったことを感じられるのは、この作品・このキャスティングならではで、“舞台の作り方に正解などはない”と考えることを禁じえなかった。
キャストはAチーム・Bチームと大別されており、さらに公演によって微妙にキャストを入れ替わっている。様々な組み合わせがあり、それによって掛け合いの調子なども違ってくるはずだ。様々な相乗効果を期待したい。
現実と重なる、運命に立ち向かう物語
人類の兵士数と同じだけ敵軍勢が決まるという設定の中、最善の数字として導き出されたのが魔女1人に加えそれを守護する7人。
竜など何十年も訪れてこない平和な世界で過ごす彼らは、各々は夢があり、将来の期待に胸躍らされている。
序盤にそういった小さな幸せのようなシーンが描かれているおかげで、後半は急転直下となる竜との戦闘がどこか現実味を帯びず、それでいて何かが起きると急激に生きる世界が変貌するという現実を感じさせる。
さながら我々の世界においての新型コロナウイルスと重ねてしまうきらいがある。
命を賭す戦場と化した世界。勝利の要となっている魔女を守護する若き少年たち。圧倒的な脅威にもがき、苦しみ、支えあう勇敢な姿を、現実をその目に焼き付けてほしい。
ボードゲームを感じる仕組み
原作ボードゲームは、へクスギアス側とグランドラゴン側を2人のプレイヤーがそれぞれを担当して戦う、将棋やチェスのように1対1で遊ぶ形式だ。駒にはそれぞれ特性があり、舞台中でもそれがしっかりと再現されている。また、舞台セットに使われている壁には六角形のヘックスが施されており、ボードゲーム上の盤面を彷彿させるデザインで、なかなか芸が細かい。
このようにボードゲームを遊んだ人がおもわずニヤリとしてしまう部分があるので、遊んでから観劇すると見える風景も変わるだろうし、逆に観劇してから遊ぶと物語の再現をしているような感覚を味わえるだろう。そんな相互作用を持っているのも、本作がボードゲームを原作としているからこそである。
全公演、Streaming+(イープラス)で生配信が予定されているので、気になる公演をチェックしてみよう。
なお、アメツチ代表の安藤匠郎にインタビューをしたので、そちらも合わせて読むと、作品に対する意欲などを感じていただけるだろう。
文:木皿儀隼一
撮影:ケイヒカル
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