3月11日(木)、舞台『錦田警部はどろぼうがお好き』が東京・品川プリンスホテル クラブeXで開幕した。
本作は、かんばまゆこ原作の「錦田警部はどろぼうがお好き」の舞台化作品。怪盗ジャック=アンリ巡査役、錦田警部=死んだ目の錦田役ともにダブルキャストで、実力派俳優たちによる4通りの組み合わせで楽しめる点でも話題になっている。
3月11日(木)初日前のゲネプロは、怪盗ジャック=アンリ巡査役・廣野凌大、錦田警部=死んだ目の錦田役・藤田 玲の組み合わせで行われた。
ストーリーや演出のネタバレは避けるが、記事内には公演写真を含むため、まっさらな気持ちで観劇や配信を楽しみたい人は注意してほしい。
悪人のいない、優しくハッピーな世界
正体不明の謎の怪盗、ジャック。犯行を予告する予告状をわざわざ警察に送りつけ、あざ笑うかのように見事に財宝を盗んでいく。ジャックを追う錦田警部だが、彼を追い詰めまではするものの、毎回逮捕できない理由があった。それは、ジャックを目の前にすると胸がときめき、柱の陰に隠れてしまうほどの乙女になってしまうこと。今日も警部はあと一歩のところでジャックを取り逃がしてしまう…。
実は、警部による警備情報はジャックに筒抜けだったのだ。錦田警部の右腕であるアンリ巡査こそが、警察内部に侵入をして警備などの情報を得ている怪盗ジャック、その人だったからだ。警部が怪盗ジャックを逮捕できる日は来るのだろうか…。
本編のストーリーはオムニバス形式になっている。どのエピソードが舞台化されているのかは観てのお楽しみだ。キャラクターたちの一つ一つのセリフや動きを丁寧に再現しながらも、人が演じる舞台ならではの要素も盛り込まれている。
ジャックの予告状を幾度となく読み返す錦田警部。演じるのは藤田 玲(髙木 俊とのWキャスト)。筆跡からジャックの気分を読み取れるほどに研究を重ねている。
ジャックのアジトはどこなのか、好きな料理は何なのか、休日は何をして過ごしているのか…思いをはせる錦田警部。見ているうちに、ひたすら綺麗な顔で180センチ近い藤田 玲がキラキラ目の2頭身に見えてくる。
死の淵をさまよったりなどして煩悩が消滅すると、過去の姿である伝説の名刑事「死んだ目の錦田」に戻ってしまう(心臓が正常に動き出すと元の錦田警部に戻る)。
錦田警部の右腕。猫好きの16歳、アンリ巡査。その正体は、警察内部に侵入をして警備などの情報を得ている怪盗ジャック(廣野凌大/大崎捺希のWキャスト)。
ジャックでいる時の警部による乙女アプローチを気持ち悪がり、早々に警察を退職したいと辞表を出すタイミングを狙っている。
だが、警部が死んだ目になり、容赦のない人物に変貌すると表情を変え…?
錦田警部のことをお好きな緑島栄助(大隅勇太)。「センパ~イ」と相当なキラキラを振りまき舞台を引っかき回す。
この他、財宝を狙われまくりの金持ち・宝ノ持クサレ役には酒井敏也。チャーミングな魅力と存在感で舞台が和む。錦田警部の部下の警官たちのリーダー的存在・部下田タテシには福島海太。キレのあるダンス、突然の大声などが圧倒的に強い。
警官たち4人も個性的だ。彼らによる前説があるので、開演10分前には着席して待っていることをおすすめする。一度見れば4人の中から推し警官ができるだろう。
オリジナルの要素やキャラクターが加わっても、原作そのままにハッピーな舞台だ。悪人が登場しない。誰もが皆、誰かや何かを大好きで、性根からの悪である存在がいないのだ。
観終わっても心がえぐれることなく、悲しみに浸ることもなく「ああ楽しかった! 嬉しかった! かわいかった!」という気持ちで帰れる。
スリリングな展開は時たまあるものの、基本はハッピー。そして、頬の内側の肉を噛みちぎり、太ももをつねって内出血を起こしてしまうほどに笑いや色々な感情をこらえざるを得ないシーンも盛り込まれている。
歌ありダンスありアクションあり。上演時間の1時間50分が30分ほどに感じられるくらいあっという間に過ぎてしまう。
舞台のエンディングは何と応援可。自作のうちわやペンライトが持ち込み可能だ。公式サイトや公式Twitterで案内されているルールを守り、思い切り盛り上げてレビューを楽しみたい。
冒頭でも触れたが、この舞台はダブルキャストによる4通りの組み合わせで楽しめる。組み合わせが異なれば芝居プランも変わり、印象も大きく変わるだろう。
ぜひ全ての組み合わせで、このゆるふわハッピーな舞台を堪能してほしい。
取材・文:広瀬有希
撮影:ケイヒカル
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