レポート

“境界”の扉がいま開く、「地縛少年花子くん-The Musical-」観劇レポ&全キャラ紹介

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かもめ学園を舞台に七不思議を巡る騒動を描く怪異譚を原作とした「地縛少年花子くん-The Musical-」。1月28日に幕開した東京公演の観劇レポートをお届け。ネタバレなしで、本作の魅力や全キャストの見どころを紹介する。

疾走感がいざなう、あの世とこの世の“境界”

怖いけど楽しい、賑やかだけど物悲しい……。感情の表と裏がひっきりなしにひっくり返るような時間が待っていた。

2020年にアニメ化もされた「地縛少年花子くん」は、誰もが子供時代に一度は耳にしたことがあるであろう学校の七不思議を題材にした作品。

物語は「トイレの花子さん」の噂を聞いた八尋寧々(演:髙石あかり)が、女子トイレで花子くん(演:小西詠斗)と出会うところから始まる。

この花子くんは、学園の七不思議を取りまとめる“七不思議七番”の「トイレの花子さん」。寧々はひょんなことから花子くんの助手になることに。二人は祓い屋の少年・源光(演:谷水力)も巻き込み、学園に潜む怪異に関わっていくことになる。

特筆すべきは、そのスピード感とテンポの良さだ。クライマックスに向けて徐々に加速するのではなく、冒頭からトップスピード。まるで止まることを知らないジェットコースターのように、観客の視点と感情は揺さぶり続けられることになる。

寧々と花子くんの出会い、光との出会い、ミサキ階段……と原作通りストーリーは進んでいくのだが、とにかく場が淀む瞬間がないのだ。噂話が次から次へと湧いて広がっていくように、観客は次々と新たに生まれくる展開に飲み込まれていく。

この疾走感が、なんとも奇妙な感覚をもたらす。目の前で繰り広げられる芝居という“此岸(この世)”に引き寄せられる、“彼岸(あの世)”の存在になったような。あるいは逆に、“彼岸”の世界に魅了された人間の気分だろうか。

此岸と彼岸の“境界”は、両者が混ざり合う曖昧でアンバランスな場所だ。1本のレールの上から落ちることなく、絶妙なスピードで駆け抜ける本作は、そんなアンバランスで掴みどころのない「地縛少年花子くん」の世界観を、見事に舞台に昇華した作品と言えるだろう。

テンポの良さは、決して“軽い”というわけではない。幽霊という死んだ存在が主人公である以上、その内容は人の生死と切っても切り離せない。花子くんだけでなく、ヤコ(演:佐倉花怜)や土籠(演:安里勇哉)といった怪異たちが、決して覆すことのできない死を既に抱えており、“未来”などなくそこに存在し続ける。

彼ら怪異が、“未来”ある若者である寧々や光と賑やかに過ごすシーンは少なくない。クスッと笑えるやり取りや、コミカルな歌唱シーンもある。そこにキラキラとした躍動を感じれば感じるほど、彼岸の存在の“闇”が際立ち、観る者に光の裏にある影を感じさせる。

本来交わることのない二つの世界が交差する「地縛少年花子くん」の世界。その不思議な空間は、劇場に足を踏み入れた者、または配信で画面越しに作品に触れた者を、束の間“境界”へといざなってくれるだろう。

全キャラレポート! 小西詠斗&髙石あかりが魅せる

主人公・花子くんを演じるのは、これが初主演・初ミュージカルとなる小西詠斗。そして、ヒロイン・寧々を演じるのは髙石あかりだ。ストーリーの軸となるこの二人の芝居があるからこそ、前述したスリリングな疾走感も成り立っているのだろう。

ふわふわと宙に浮かぶ幽霊で、掴みどころのないひょうひょうとした花子くん。小西の身のこなしは、幽霊らしくまるで重力を感じさせない。足が地に着いている、その事実は視覚で捉えているのだが、花子くんの身体が浮いているように脳みそが処理してしまうほど、リアルな“非現実的”な存在であった。

思わせぶりな距離感で寧々の周りをうろちょろとしている彼の姿は、多くの観客のハートを射抜いたに違いない。「ヤシロ~」と寧々に抱きついて甘えたかと思えば、次の瞬間スッと分厚い心の壁を構築する。

そしてある時は、不意打ちに年相応の幼さを覗かせる。この愛らしくて放っておけないオーラを浴びると、山のようなドーナツを差し入れしてあげたくなること必至だ。

花子くんの魅力を堪能できるのは、やはり寧々とのシーンだろう。夢見がちでちょっと残念な暴走もしてしまうけれど、真っ直ぐで優しい女の子・寧々。髙石が演じる寧々は、とにかく表情がくるくるとよく動く。感情のアップダウンも激しく、とにかく忙しい役どころだ。

芯のある重い芝居を見せる一方で、コメディエンヌとしての才能も発揮する。多才な髙石の芝居を、多方面から楽しめる役どころと言えるだろう。

寧々と言えば、本人には否定されていまうだろうが、チャーミングな“大根足”は欠かせない。作中でも事あるごとに「大根」というワードが登場するので、衣装の工夫も含めて彼女の大根足っぷりにも注目だ。

二人と共に七不思議の事件に関わっていくことになる光は、ひたすら熱く真っ直ぐだ。太陽にも似た彼の熱さと爽やかさは、陽のオーラをまとう谷水にぴったり。舞台では戦闘シーンも多く描かれているので、光の熱血っぷりがより際立っていた。後半でのミツバ(演:三原大樹)とのエピソードは、涙なしでは観られないだろう。

この三人が賑やかなのに対し、不気味な存在感を放っていたのが、七峰桜(演:関根優那)・日向夏彦(演:黒田昊夢)・つかさ(演:設楽銀河)の放送室メンバー。

桜の凛とした美少女っぷりにドギマギし、そんな桜に邪険に扱われる夏彦の不憫さにキュンとしてしまうファンも多いはず。夏彦が寧々とすれ違いざまにぶつかった際の、ナチュラルなチャライケメンっぷりも必見だ。

そして、キーパーソンの一人・つかさ。設楽の演技に、背筋が凍る怖さを感じる観客も多いのではないだろうか。子役時代を知っているファンならなおさらだろう。

天使のような笑顔が似合う役を多数演じてきた設楽の見せる、18歳の芝居。それはおどろおどろしく、とても純粋だった。特に大好きな花子くんへ向ける表情は、どこまでも甘い。それでいて、周囲にはピュアな悪意を振りまく。その振り幅に、設楽銀河という役者が秘めた可能性の大きさを感じざるを得ない。このつかさ役は、彼の新たな可能性を感じられる役となったのではないだろうか。

つかさの恐ろしさが味わえるのが、ミツバとのシーンだ。三原がつかさによって翻弄されるミツバを好演。光との青春の1ページのようなやり取りから一転、切ない運命を辿ることに。

オープニングでは、ミツバの萌え袖の破壊力にニヤニヤさせられるが、終盤は違った意味で観客の心を壊しにくる。ネタバレになるので多くは語れないが、心して観てもらいたい。

学園きってのモテクイーンで、寧々に噂話を語って聞かせる寧々の親友・赤根葵役を演じるのは朝倉ふゆな。「ねぇ、知ってる?」と物語の始まりを告げる彼女の声は、その声だけで葵の可憐さを想像させる。そして実際に歌っても、階段を駆け上っても、手を振ってもかわいい。

朝倉がキュート系のかわいさを見せてくれるのに対し、ヤコを演じる佐倉は妖艶な美を見せてくれる。ヤコは七不思議二番「ミサキ階段」として、花子くんたちとの戦闘シーンもあるのだが、和服美人が巨大なハサミを振り回して戦う姿は圧巻だ。

そして最後に紹介するのが、七不思議五番「16時の書庫」の土籠。演じているのはカンパニー最年長となる安里勇哉だ。学園の教師と七不思議の二つの顔を持つ土籠は、ギャップの宝庫だ。

ミュージカル化したことで今回、歌って踊る土籠が観られるのだが、面倒見の良さから仕方なく子どもたちに付き合っているような、気怠げなダンスがなんとも色っぽい。加えてソロ曲では、「そのテイストで来たか」とファンは思わずニヤニヤしてしまうこと必至だ。

シリアスなシーンでは、随所に花子くんへの想いが見て取れる。表立っては見せない優しさを、ほんの一言のセリフや一瞬の動きで表現しているので、ステージ上にいるとつい目で追ってしまいたくなる。なんとも大人の魅力あふれる役に仕上がっているので、これから観るというファンは楽しみにしていてほしい。

舞台だからこそ味わえる混沌の世界、覗いてみては?

生きている者の世界と死んだ者の世界の二つが奇妙に混ざり合う「地縛少年花子くん-The Musical-」。原作が描く、おどろおどろしくも愛おしい世界が、脚本・作詞の浅井さやか、演出の吉谷光太郎によってステージ上に確かに存在している。

アンサンブルのマンパワーをフルに使った吉谷らしい演出は今作も健在。彼らが世界観を生み出すだけでなく、歌やダンスでも重要な役割を担っていた。

そうして生まれた世界の中で、躍動する花子くんや寧々といったキャラクターたちは、生きている者もそうでない者も、エネルギーに溢れていた。この不思議で奇妙な怪異譚を、劇場や配信で味わってみてはどうだろうか。

ライブ配信概要
■配信サービス
dアニメストア
■配信公演
東京・千秋楽日2公演
1月31日(日)12:30、17:00
■アーカイブ期間
生配信終了から1週間
■ライブ配信チケット販売期間
1月16日(土)10:00〜2月7日(日)20:00
https://anime.dmkt-sp.jp/animestore/CP/CP00001221

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公演情報

タイトル

『地縛少年花子くん-The Musical-』

公演日程・会場

2021年1月22日(金)〜24日(日)
大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール

2021年1月28日(木)〜31日(日)
東京・東京ドームシティ シアターGロッソ

公演チケット

一般販売実施中
イープラス:https://eplus.jp/hanakokun/
チケットぴあ:https://w.pia.jp/t/musical-hanakokun/
ローソンチケット:https://l-tike.com/hanakokun/

出演

花子くん役:小西詠斗、八尋寧々役:髙石あかり、源光役:谷水力、つかさ役:設楽銀河、ミツバ役:三原大樹、赤根葵役:朝倉ふゆな、ヤコ役:佐倉花怜、七峰桜役:関根優那、日向夏彦役:黒田昊夢/土籠役:安里勇哉

アンサンブル:蘆川晶祥、船橋拓幹、熊田愛里、朝日奈杏

原作

あいだいろ「地縛少年花子くん」(掲載 月刊「Gファンタジー」スクウェア・エニックス刊)/「地縛少年花子くん」製作委員会

脚本・作詞

浅井さやか

演出

吉谷光太郎

公式サイト

http://musical-hanakokun.com

公式Twitter

@hanako_mu

(C)あいだいろ/SQUARE ENIX・「地縛少年花子くん」製作委員会
(C)ミュージカル「地縛少年花子くん」製作委員会

WRITER

双海 しお
 
							双海 しお
						

アイスと舞台とアニメが好きなライター。2.5次元はいいぞ!ミュージカルはいいぞ!舞台はいいぞ!若手俳優はいいぞ!を届けていきたいと思っています。役者や作品が表現した世界を、文字で伝えていきたいと試行錯誤の日々。

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