漫画「抱かれたい男1位に脅されています。」の劇中劇から生まれた舞台「紅葉鬼」~童子奇譚~が2021年1月8日(金)、初日を迎えた。本記事では、ゲネプロの様子を劇中ショットと共にお届けする。
シリーズ2作目となる本作では、一体どんな宿命の物語が描かれるのか。新たな登場人物、キャストが加わり、次なる展開を迎えた本作の見どころをネタバレなしでレポートする。
心が想いで動き、色づく…絡み合う宿命の物語が再び
妖しく悲しく舞い散る鬼と人の生き様に、心が翻弄される約1時間35分が劇場で待っていた。
「こんな生き方をしたい」「この人のようになれたら」。誰もがどこかでそんな想いを一度は抱いたことがあるのではないだろうか。その志のままに生きて立派な人だと評されることもあれば、その目指した場所に道半ばで違和感を感じることもあるかもしれない。
鬼と人。相容れぬ存在がそれぞれの想いのために憎み合い、刃を交え、ときに手を取り合う本作を通じて、筆者は生きる道を選び取る難しさを痛感した。
シリーズ2作目となる本作は、帝の息子であり鬼の頭目である経若(演:陳内将)が、前作の戦いで失われた人々や鬼の弔いのため、山奥で隠居しているところから始まる。
もう人と鬼との戦いに関わるつもりはないと、今にも消えてしまいそうな儚さと脆さをはらむ経若の美しさは今回も健在。いや、むしろ格段にパワーアップしている。冒頭の世捨て人として生きる経若の何とも言えない妖艶さは、観客をあっという間に「紅葉鬼」の世界観へと引き込んだ。
▲世捨て人のように生きる経若(演:陳内将)
独りで生きていきたいという彼の願いに反し、彼の元には次々と難問が持ち込まれる。
熊武(演:髙木俊)は、最近京を襲っている近江山の鬼の説得をしてほしいと現れ、さらに経若を「父上」と呼んで懐くはぐれた小鬼・いぶき(演:岩間甲樹・磯田虎太郎のWキャスト)が彼の家に転がり込む。
▲経若を挟んで、左から熊武(演:髙木俊)といぶき(演:岩間甲樹)
一方で、京を襲う近江山の鬼たちの勢いは増すばかり。その筆頭として登場するのが茨木童子(演:梅津瑞樹)だ。
▲京で人を襲っている茨木童子(演:梅津瑞樹)
鬼としての荒々しさと内に秘めた憎しみ。瞳の色一つで次々と感情を表現する梅津の“七変化”とも言える感情の移ろいは、本作の見どころの一つと言えるだろう。
独白や殺陣のシーンで、なぜ彼はその表情をしたのか。結末を知ってから改めて茨木童子の表情を思い返すと、思わず鳥肌が立ってしまった。一度観ると、2度、3度と味わいたくなる中毒性の高い芝居に注目してほしい。
▲一風変わった武器を使っての殺陣にも注目したい
そんな茨木童子を止めるため、渡辺綱(演:小坂涼太郎)が京に呼ばれることに。この綱という男、また実に快活で気持ちのいい人物として描かれている。
▲とある信念を持つ渡辺綱(演:小坂涼太郎)
長身の小坂だが重さを感じさせない軽やかな身のこなしを披露し、その人となりを見事に表現していた。彼の濁りのない存在感がより一層、茨木童子の苦しみを浮かび上がらせていたのが印象的だ。
▲数奇な運命を辿る茨木童子と綱
茨木童子と行動を共にする謎めいたイクシマ役を演じているのは小波津亜廉。顔半分が隠れているビジュアルだが、口元からは得も言われぬ妖しさが漂っている。茨木童子との関係性に注目したい役どころだ。
▲妖しい存在感を放つイクシマ(演:小波津亜廉)
また、前作は摩爬役で出演した富田翔は、本作では保名役で出演。摩爬との関係も気になるところだが、前作とは全く違った形で経若と関わっていくことになるため、その芝居の違いを楽しめるだろう。本作が舞台初出演となる平楓士が演じる行成とのコンビ感にも注目だ。
▲演技の幅で楽しませてくれる保名役の富田翔
漫画からリアルへ、観客を誘う陳内将の存在感
強い憎しみを持つ鬼の茨木童子、人でありながら鬼を憎まず生きようとする綱、そして人と鬼の間で悲しみの連鎖を断ち切ろうともがき続ける経若。3人の姿の中に見えてくる“鬼VS人”という単純な二項対立では決して語れない複雑さは、どこか日々の人間関係にも通じるところがあるのではないか。
“鬼のいる世界”という現実離れした設定ながら、この3人を中心に登場人物の心と心がぶつかり合い、苦悩する姿からは確かに“リアル”を感じられる。そんなところも、本作の面白さに繋がっていると感じた。
この「紅葉鬼」という作品自体、“リアル”というキーワードととても縁深い。
本作はもともと、漫画「抱かれたい男1位に脅されています。」に登場した舞台を原作とした、劇中劇の舞台化作品だ。漫画の世界と現実の舞台がリンクする“リアル舞台”という触れ込みで、2.5次元作品に新たな可能性を見出した作品でもある。
この新たな試みの成功を語る際、欠かせないのはやはり、座長の陳内将だろう。彼が本作で演じている経若役は、原作漫画で西條高人という超人気売れっ子俳優が演じた役だ。
陳内が舞台の中で西條高人としての顔を見せる瞬間はないが、経若の姿に西條高人の存在を感じ取る原作ファンは多いはずだ。彼の芝居は、「紅葉鬼」の経若でありながら、“西條高人の演じる経若”という説得力に満ちている。
本作では、さらに生演奏が加わった。和太鼓・鳴り物の美鵬直三朗とヴァイオリンの後藤泰観が奏でる生の音が、“リアル舞台”「紅葉鬼」の世界観をさらに押し広げてくれるのだ。劇場に足を運ぶファンは、生演奏ならではの音の情景も楽しめるだろう。
2021年1月8日、無事幕を開けた舞台「紅葉鬼」~童子奇譚~。出自も辿ってきた人生も異なる彼らが何を背負い、何のために立ち上がるのか。それぞれの想いの行き着く先を、ぜひ劇場や配信で見届けてほしい。
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