2020年11月18日、東京・草月ホールで舞台『ハイスクール!奇面組3』~危機一髪!修学旅行編~が開幕した。
本作は、1980年代に「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載、アニメ化された、新沢基栄の人気ギャグ漫画の舞台化シリーズ。昭和の雰囲気が再現された、役者全員が体を張り、全身で演じているドタバタコメディで、第3弾となる今回のテーマは修学旅行だ。
初回公演に先立ち行われたゲネプロと会見の様子をレポートする。
物語の舞台は修学旅行で訪れた京都・奈良
物語は、京都、奈良への修学旅行出発シーンから始まる。もうすぐ新幹線が発車してしまうというのに奇面組の5人、一堂零(演:平野良)、冷越豪(演:寺山武志)、出瀬潔(演:もう中学生)、大間仁(演:高木晋哉・ジョイマン)、物星大(演:井深克彦)がやって来ない。冒頭からすでにトラブルの予感。
現地に到着した一行は、公園で不思議な少女・エルザ(演:宮澤雪)と出会う。何やら訳ありの彼女を悪者から守るため、5人は旅先で奮闘することに…。
“超”個性的キャラクターを演じる実力派たち
登場するキャラクターは皆、強烈な個性を持っている。キャラクターと演者、それぞれの見どころを紹介していこう。
3作連続主演、一堂零役の平野良。抜群のコメディセンスとシリアスな演技のバランス感覚で、本作をより魅力的な作品にまとめ上げている。
一堂零を演じるには、このバランス感覚が必要だ。ただバタバタと大騒ぎしているだけでは零くんにはなりえない。リーダーとしてカッコいい部分もあり、頼りになりそうで全くならない時もあり、トラブルメーカーでありながら問題を強引に解決させるパワーもある。
さまざまな引き出しと、座組みの中心となる力を持つ平野良の魅力が存分に味わえるのが、奇面組での一堂零役だろう。
冷越豪役、寺山武志。事前のインタビューで語ったとおり、座組みでのバランサーとしての役割を持っている。零くんと鈍ちゃん、ツッコミ不在でヒートアップする2人に一撃をくらわせることができるのは豪くんしかおらず、ストーリーを進めるのに重要な人物だ。
また、千絵ちゃんとの関係性のもどかしさにも注目してほしい。
出瀬潔役、もう中学生。第3弾である本作のキーマンとなる。時折見せる真面目さとほのぼのとしたキャラクターで応援したくなること間違いなしだ。常にスケベな事を考えているが、明るくカラッとしているので嫌な気分にはならない。
大間仁役、ジョイマン・高木晋哉。のんびり、だらだら、ほのぼのした雰囲気を持ちながら、食べ物のこととなると手が付けられないほど暴れ出すこともある狂気をはらんだ仁くんを熱演。
会見では「ラップの箇所もセリフも初演からだんだん減ってきている」と自虐的な発言で笑いを誘っていた。
物星大役、井深克彦。可憐でかわいく、大胆なところもある大ちゃんを素のままのびのびと演じていた。大ちゃんは乙女チックな性格であるが、自分を貫く強ささを持っている。その点が、演じる井深自身と非常にマッチしていると感じた。
ゲネプロ後、「初演と第2弾で大ちゃんを演じていた鳥越裕貴くんがリップを日替わりにしていたということなので、僕もそうします」と抱負を明かした。
ヒロイン・河川唯役は乃木坂46の和田まあや。かわいいだけでなく、超個性的な奇面組5人に対して興味を持つ少し変わった女の子を演じる。なだぎ武からも「コメディエンヌとしての才能がすさまじい。勝てませんよ」と絶賛されていた。
和田は「普段のメイクをしていたら薄いなと感じたので、舞台用に濃くしてみました」「小学校のとき、給食のコッペパンを握りつぶして食べていたのを思い出しました」とコメント。一風変わったところもある素顔をのぞかせた。
事代作吾役、なだぎ武。指先に至るまで、動きの一つ一つ、セリフの端々まで面白い。出てきた瞬間から笑ってしまう。彼なしでは奇面組の舞台は成り立たない。
教師として大人の役割を担いながらも、(留年はしているが)高校生である奇面組たちと一緒になって場を引っかき回す。場を温め、芝居とストーリーをさらに盛り上げる。潤滑油でもあり、面白さを増幅させる燃料でもあり起爆剤でもある。
“変態力”の高さでは他の追随を許さないにもかかわらず、デリケートな面もあり紳士的でもある、奇面組のリーダー・一堂零。
高校生としての倫理など完全無視の豪快さと複雑な家庭環境による繊細さを持ち合わせる冷越豪。
乙女チックな面ばかりがクローズアップされやすいが、暴走したり度胸のあるところを見せたりと「本当のトラブル時には実は最も頼りになるのではないか」と感じさせる物星大。
突き抜けてスケベでも、メンバーの中で最も常識的で真面目な面が(比較的)ある出瀬潔。
常にニコニコしていて人畜無害そうだが、食べ物のこととなる豹変する一面を持つ大間仁。
突出した個性のある表の顔と時折見せる裏の顔の二面性が非常に魅力的な奇面組を、平野らは見事に好演。他のキャストも皆、強い個性を持つキャラクターのまれることなく演じ切っていた。
第3弾の貫録、ただ笑えるだけではない!
今回の修学旅行は、原作漫画「3年奇面組」とアニメ「ハイスクール!奇面組」で描かれた修学旅行編の融合であり、他のエピソードも交えて舞台版独自のストーリー展開がなされていた。
ストーリーにアレンジを加えても「奇面組」感がしっかりと生きているのは、ひとえにキャラクター一人一人の強い個性をしっかりと再現しているからだろう。
そして、田中大祐の脚本、なるせゆうせいの舞台づくりは見事の一言。原作のキャラクターたちの個性を活かし、無数にあるエピソードを繋いで組み合わせ、しっかりとした一本のストーリーにまとめあげている。
原作を深く読み込んでいるファンは、端々で「あのシーンのセリフだ」とニヤリとしてしまうに違いない。
原作を知らなくても、丁寧なキャラ紹介があるので心配はいらない。複雑な場面展開はなく、深い考察は必要ない単純明快なストーリーで気楽に観ることができる。演者たち自身が楽しんで演じているのが伝わってくるので、自然に楽しくなってくるだろう。
ナチュラルに張られたいくつもの伏線が、終盤でどんどん回収していくなるせ舞台は、観ていて気持ちがいい。なるほどと納得したり、ストンと腑に落ちた瞬間、気分がさらに盛り上がるのを感じる。
これだけドタバタしたコメディであるのに、ただ笑って終わりではなく「いいものを観た…」と心が温かさで満ち足りる。終わり方が鮮やかで綺麗なので、すっきりとした気持ちで劇場を後にできる。
続編に期待、心から楽しめる明るいコメディ
筆者は、夏休みシーズンになると奇面組の5人が映画を観終った後にイデオン合体をしていたのを思い出してしまうほどの原作ファンである。
奇面組は、「変態」という言葉をギャグ的な前向きの意味で浸透させた作品だと言っても過言ではない。作中で「あっちにもキャラクタ、こっちにもキャラクタ」と原作者の新沢基栄が語っているように、奇面組には魅力的なキャラクターが数えきれないほど登場している。
中学生編コミックスは6巻、高校生編は20巻。アニメは86話。エピソードは膨大であり、今後の舞台で観てみたいキャラクターはたくさんいる。インタビューでなるせゆうせいが語っていたとおり、ぜひ第4弾、第5弾と続けていってほしい舞台だ。
なお、本公演は落日にライブビューイングの配信が行われる。さまざまな事情で生の観劇が難しい昨今、配信という形でも観劇ができるので「何となく気分が上がらないな…」と感じている人はぜひ、本作を観て大いに笑ってほしい。
撮影:ケイヒカル
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