2020年10月7日(水)、『舞台版 誰ガ為のアルケミスト』~宛名ノナイ光~が開幕した。
原作は、全世界で1100万ダウンロードのタクティクスRPGスマホゲーム「誰ガ為のアルケミスト」。本作はザイン(演:中村誠治郎)の過去を掘り下げたスピンオフ作品であり、次回作で舞台版が完結する。完結を前に、キャラ解釈を深めるためにもぜひ見ておきたいストーリーの一作だ。
全公演無観客ライブ配信ため、VR、2D配信を前提とした作りになっている。
「こうせざるを得なかった」ではなく、「この時だからこそ、さらなる新しいことを」とチャレンジと実験を繰り返し、果敢に攻め続けている本作。配信を前提としながらも、人が目の前で演じる「生」の力が感じられる舞台となっている。
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ザインの過去に触れる旅。彼が持つ「正義」の原点とは
束の間の平和の中、書庫でオーティマに手渡された手記に目を通すカノン。それは、第10代ロードマスター・ザインが書きつづったものだった。大切にしてきたもの、さまざまな出会い、正義への思いと強い願い……。
読み進めるうち、カノンはザインのある思い出に触れることになる。
ザイン役、中村誠治郎。40歳を迎え、ますます演技とアクションに磨きがかかっている。本作では殺陣付けも担当。手数が多く、キャラクターそれぞれの個性が強く出ている感情の乗ったアクションは必見だ。
過去作を観た人は、共通した動きやさらに洗練された部分にぐっとくるだろう。剣を振るった勢いで、真っ白な衣装の内側にある赤がひらりと見える瞬間が最高に格好いい。
カヤ役、野本ほたる。原作でも人気のキャラクター・カヤ。ビジュアルはもちろん、声、アクションなどの再現率が非常に高い。女性キャラの握力強めの力推しバトルは観ていて気持ちがいい。
ソル役、健人。本作からの参加だが、実にハマっている。一見、何を考えているのかよく分からないが、ソル自身の信念に基づいて行動しているのだろうということがよく分かる。もちろんアクションのキレは抜群。何を演じさせても安心して観ていられる俳優の一人だ。
カノン/ザインが愛した女“シオン”役、花影香音。舞台のシリーズ唯一の皆勤賞だ。美しく高いハイキックなどのアクションはもちろん、その笑顔には芝居を超えて心を照らしてくれる輝きがある。
花影は「カノンとシオンは両極端の人物。初めての一人二役をタガステに捧げます」と会見で語っていた。
オーティマ役、遊馬晃祐。ロッド使いがさらにぐんとうまくなり、セリフ回しも板についてきた。役へのハマりっぷりに、オーティマは彼の代表的なキャラクターのひとつと言ってもいいだろう。
ひょうひょうとしていてマイペースだが、時に熱い感情がほとばしる。本作では、ザインとの絆も描かれている。オーティマもまた、アクション中の衣装のひるがえりが美しい。
ワギナオ役、松田岳。凛々しく、美しく、そして強い。圧倒的な存在感に目が離せなくなる。
会見では「配信なので飲食も自由です。お酒も飲めます。べろんべろんに酔っ払っても楽しめるので、ぜひ自由に楽しんでください(笑)」と語り、取材陣の笑いを誘った。
この他、舞闘兵団はいつもながら6人であることを感じさせない多彩な動きとアクションだ。彼らのプロフェッショナルなアクションがあってこそ、タガステの舞台はより一層、派手で見応えのあるものになっている。
本作はこれまでのシリーズよりも登場人物が少なめではあるが、ストーリーの重厚感やアクションの手数、緊張感はそのままだ。また、次回の最終章に向けての布石であると思われる部分もある。各キャラクターの掘り下げが丁寧にされているので、観劇後にはこれまでの作品を振り返りたくなる。
特にザインは、欠点もなく、頼りがいがあり、包容力と正義感の体現者である正確無比のロードマスターというイメージが強いが、悩みも苦しみもあり、つまづくこともある「人間」なのだと感じさせてくれる。そして、ソル、カノン、オーティマ……各キャラクターたちのことがもっと好きになる。
今だからこそやれることを。妥協ではなく常に挑戦を続けるタガステ
ゲネプロ会場は、2019年6月の初演、同年9月の再演がおこなわれた東京・銀座 博品館劇場。足を踏み入れて驚いた。機材に次ぐ機材。ロビー、階段、劇場内には、張り巡らされたケーブルに、数えきれないほどのモニター。まるで超大型ライブの会場裏方だ。
2Dカメラ9台にVRカメラ。カメラワークは公演ごとに変わるという。前作「聖ガ剣、十ノ戒」でも感じたが、映像へのこだわりが尋常ではない。何度見てもそのたびに違うアングルで楽しんでもらおうという心意気が伝わってくる。
それに加えて今回は、「推しの定点カメラ」が概念ではなく物理的にできる。自宅にいながら、推しや好きな部分が好きなように観られる。安心して生の観劇ができにくい今だからこそ考えられた、新しい試みだ。
「舞台」は2面用意され、一方はより「生の舞台」感を楽しめる。もう一方は背景ありのセットの中で芝居が行われるため、映像的な工夫がなされている。もちろん両方でアクションが行われるが、受けるイメージは異なる。生の舞台の空気と映像の良さ、どちらも味わえる贅沢な作りだ。
お楽しみである日替わりは、今回は「小部屋」ではないが、ザイン絡み。出てくる日替わりゲストは公式サイトでチェックしてほしい。プロデューサーの今泉潤氏によると「ザインがモテまくる」だ。
演出は磯貝龍乎。緊張感の中にも、ふと気持ちを緩ませるシーンを挟んでくるなど彼らしさが随所に出ていた。「思い出」をたどるストーリーでは時間経過が分かりづらいことが多いが、効果的にAとBを行き来することで、スムーズにシーンの切り替えができている。
中村誠治郎は、初演の際に行ったインタビューで「誰が主役でもいい。ゲームのストーリーがしっかりしているから」と語っていた。今回は満を持して、ザインが主人公回。タガステのストーリーに、さらに深みを持たせる公演となった。
湯田商店の丁寧な仕事が見える武器、小道具。色鮮やかでさまざまな素材でできた布が重ねられた衣装は、キャラクターの作り上げられた背景まで想像させてくれる。
属性魔法効果を感じさせる照明は、一層派手に、しかしうるさくない。差が大きな光と闇も、視覚で脳に情報として入ってくる。
また、タガステならではのバトルが始まるシーンに入る前のBGMは、イントロが鳴った瞬間に「来た!」とワクワクさせてくれる。手数の多いアクションに音をハメるのは、並大抵の努力ではできないはずだ。
プロデューサー・今泉氏の、人が演じる生の舞台に懸ける思いを、キャストと制作チームが一丸となって作り上げようとしているパワーが伝わってくる。これは、初演から感じていることだ。
「原作をプレイしたことのない人にも、もちろん原作ファンにも」。
タガステで初めて舞台を観に来たという人も多いと聞く。逆に、ここからゲームをプレイする人も多いことだろう。
次作、ついに完結となるタガステ。本作をじっくりと味わいながら、そして終わってほしくないと願いながら、次作の発表を楽しみに待ちたい。
撮影:ケイヒカル
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