2020年8月9日に神奈川・KT Zepp Yokohamaで大千秋楽公演が行われ、8月16日(日)までディレイ配信中の舞台「炎炎ノ消防隊」。
原作は、大久保篤による週刊少年マガジン(講談社)で連載中の大人気漫画。テレビアニメも2020年7月から2期が「炎炎ノ消防隊 弐ノ章」として放送・配信され、大きな盛り上がりを見せている。
ここでは、実力者ぞろいのオールスターキャストによる、熱量高く行われた公演のレポートをお届けする。暑い夏、さらに熱い気持ちになること間違いなしの舞台だ。
なお、ストーリーの重要な部分やネタバレなどに触れてはいないが、公演のシーン写真を使用しているため、演出も含めてまっさらの状態で観劇したい人は注意してほしい。
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オールスターキャストによる納得の舞台! 強い個性がさらなる炎を生む
舞台は太陽暦佰九拾⼋年、東京皇国。何の変哲もない人が突如燃え出し、“焰ビト”となって破壊の限りを尽くす“人体発火現象”に、人々は怯えて暮らしていた。
“ヒーロー”を目指す少年・シンラは、“焰ビト”から一般市民を守る特殊消防隊に入隊。桜備大隊長率いる第8特殊消防隊に配属され、仲間たちとともに“焰ビト”と戦っていくこととなる。
主役の森羅 日下部(シンラ・クサカベ)を演じるのは牧島 輝。シンラは背負った過去の重さ故に緊張すると変な笑顔になってしまうが、根は礼儀正しく真面目だ。舞台初主演の牧島のフレッシュな魅力が、真っ直ぐなシンラの性格と非常にマッチしている。
足から炎を出して空を飛ぶ、炎をまとった強烈な蹴りなどの特殊能力が、舞台上でどう表現されているのか楽しみにしてもらいたい。
シンラの同期であり、同じ第8消防隊に配属された新人、アーサー・ボイルを演じるのは小澤 廉。はりつめた空気を和ませる性格ではあるが確かな実力を持つという役で、はつらつと明るい小澤 廉に実にハマっている。
エクスカリバーが舞台でどのように表現されるのだろうと思っていたが、予想以上にプラズマを噴出して青白く輝いている。楽しげに振るうエクスカリバーの剣さばき、アクションの動きの良さにも注目だ。
他の隊の隊長も含めて数少ない「一般消防士」からの特殊消防官、大隊長・秋樽 桜備を演じるのは君沢ユウキだ。
そのまま本物の消防隊にまぎれていても何ら違和感の無いほどに美しく鍛え上げられた肉体。そのビジュアルに加えて、周りを引っ張る力強い大らかさなどに、思わず「ナイスキャスティング」とうなってしまう。君沢ユウキが秋樽 桜備なのか、秋樽 桜備が君沢ユウキなのか分からなくなるほどに、役として自然に舞台上で生きている。
クールな武久 火縄を演じるのは馬場良馬。馬場良馬に眼鏡と制服……これ以上のものはない。新人たちにドライかつ厳しくあたるものの、帽子選びは個性的。舞台ではオペラグラスで、配信では目を凝らして確認してほしい。
桜備大隊長とのやりとりでは、交わすちょっとした言葉にも、2人の過ごしてきた時間や信頼関係が見て取れる。
隊服の下には鍛え上げられたマッチョな肉体、茉希 尾瀬を演じるのは星波。素晴らしい筋肉とアクションの動きだ。これまでもさまざまな舞台で身体能力の高さを見せてくれていたが、今回は特にそれが堪能できる。キレのあるアクロバットにぜひ注目を。
シスター・アイリスを演じるのは礒部花凜。高く澄んだ、美しい歌声に心が洗われる。よく通る透き通った声で捧げる祈りの言葉には、焰ビトたちも魂を救われることだろう。穏やかでかわいらしい振る舞いが、舞台の中でも癒やしの凜とした花となっている。
第1特殊消防隊の隊員たち。3人の中隊長、烈火 星宮(演:小南光司)、カリム・フラム (演:校條拳太朗)、フォイェン・リィ(演:安里勇哉)と、環 古達(演:早乙女ゆう)。
中隊長役の3人はそれぞれが、クールな人物も熱血漢も両方こなせる若手実力派だ。冷静で物静かなフォイエン、気だるげだが仲間思いのカリム、好戦的で暑苦しいまでに熱血漢な烈火 星宮。中隊長3人の絆と、そこに絡んでくるタマキの想いに、多くの人がぐっとくるに違いない。
第1特殊消防隊、大隊長のレオナルド・バーンズを演じるのはベテラン、萩野 崇。そこにいるだけで場をピシリと引き締める力がある。
たたずまい、視線、振り返る動きひとつ取って見ても、さすがの貫禄に安心感を覚える。静かな喋りなのにもかかわらず、脳と心臓が直接震えるような声には敬服するばかりだ。
象 日下部(ショウクサカベ)役の木津つばさ。ショウについては大きく言及できないが、登場シーンのひとつひとつ、目が離せない。
プリンセス火華役の野本ほたる。プリンセス火華は、スタイル、声、振る舞い、話し方などが、アニメからそのまま抜け出てきたような再現っぷりだ。バトルのシーンでの美しく花びら状の炎が散る演出効果にも、ぜひ注目してほしい。
謎の男、ジョーカーを演じるのは和泉宗兵。正体の見えない謎のある人物を演じさせたら右に出るものはいないだろう。敵なのか味方なのか、そもそも何者なのか……? 紫煙のくゆらせ方まで謎に満ちている、神出鬼没のミステリアスな男だ。
公演前に行ったインタビューで「その役の人物がそのままそこに生きていると思ってもらいたい」と語っていたとおり、人でありながら人ではないのかもしれないと感じさせる力がある。
また、アンサンブルも重要な役割だ。ときに焰ビトとして、あるいは謎の敵役として、プリンセス火華に踏みつけられる砂利隊員としてなど、忙しく役割を変えていく。
以上、若手、女性、中堅、ベテランそれぞれ実力の高いキャストをそろえた豪華な舞台だ。2.5次元舞台として、原作の世界をそのままに「人が舞台で演じる」ことの意味を観客に見せてくれている。
脚本、演出、音響、アクション……作品を作り上げる精鋭スタッフたち!
脚本、演出などのスタッフにももちろん触れよう。
舞台のストーリーは、原作を「詰め込みすぎず、しかし引き伸ばすことはなく」テンポよく進み、大きなクライマックスまでを2時間20分ほどに綺麗にまとめている。2.5次元舞台として、原作ファンが観たいシーンがきっちりと入っていた。
なるせゆうせいの書く脚本は、2次元の漫画やアニメ、ゲームファンが観たいと思っているシーンを入れながら舞台として成立させてくれる。エモーションをかきたて、観る人をわくわくさせる。
原作漫画に触れずに舞台を見ても、世界観の紹介も組み込まれているので安心だ。舞台を観てから原作とアニメを履修することもできる。なお、DMM.comでは大千秋楽公演が8月16日までディレイ配信中。舞台から原作、アニメから再度舞台というコースで、よりこの世界を楽しめるだろう。
久保田唱が担当する演出面では、やはりバトルシーンに注目だ。プロジェクションマッピングと煙を駆使して、それぞれが発する炎を、美しく力強く、そして時に恐ろしく表現している。
特筆したいのは“焰ビト”だ。2.5次元舞台は、2次元の世界を3次元で生々しく表現する。それだけに、ハードな設定の“焰ビト”を実際に舞台で……と観劇前は恐ろしさもあったのだが、心配はいらなかった。
また、シンラらしいバトルが観られるワイヤーアクションにも注目してほしい。
ヨシモトシンヤが音響を担当する舞台で感じるのは、「音を体感する」ことだ。天から地から左右から鳴る音で、場を盛り上げ、世界観を支える。配信の映像から聞こえる音でも体感できるだろう。
迫力のあるバトルシーンの音や静かな礼拝の歌声を、ぜひ聴いてほしい。
アクション監督、宣伝デザイン、宣伝写真撮影(記事内写真も)なども、経験と実力のある顔ぶればかりだ。どこを見ても隙が無く、この「炎炎ノ消防隊」の世界観をきっちりと、そしてダイナミックに舞台として表現しようという意気込みが伝わってくる。
「ぜひ続編を」と願ってしまうほどの完成度
絶妙なキャスティング、ストーリー、演出。実力のあるメンバーが集まり作り上げているこの舞台は、まさに「炎炎ノ消防隊」の世界そのものだ。さまざまな個性のある人間たちが、それぞれの個性を殺さずに実力を発揮し、魅力を増幅させている。
この舞台を見て、もともと好きだったキャストの新たな一面に気づいたり、より好きになったり、または新たに好きになるキャストがきっと出てくるに違いない。
ストーリーは、ひとつの大きなクライマックスを迎えたところで終わっているが、もうひとつの大きな謎が生まれている。話はまだこれからだ。ぜひこの先も続いてほしいと願ってやまない。
ぜひ配信で、燃え盛る舞台の炎を体感してほしい。
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