物事を思うように進められずに焦ったり、大きな失敗をして落ち込んでしまったり…誰もが皆、経験したことがあるだろう。
経験豊富なベテラン俳優から人生のヒントを学ぶ連載企画「2.5次元のベテラン教室」。第2回となる今回、2020年にデビュー20周年を迎えた俳優・和泉宗兵に話を聞いた。
ミュージカル「黒執事」シリーズ、舞台「文豪ストレイドッグス」シリーズなどの2.5次元舞台やオリジナル舞台、映像作品と幅広く活躍している彼は、7月31日(金)から公演予定の舞台「炎炎ノ消防隊」で謎の男・ジョーカーを演じる。
芸能生活を振り返りながら語られた彼の言葉は、何かにつまずき、一歩踏み出す勇気が欲しい人にとって、よきアドバイスになるに違いない。
もくじ
戦隊シリーズでデビュー、数年後に経験した大きな失敗
ーーデビューから20年。節目の年になりますね。まずはデビュー作「未来戦隊タイムレンジャー」の頃のことから聞かせてください。
タイムレンジャーは、僕の俳優人生で初めての大きな仕事であり、最初のターニングポイントでした。
実は、この仕事が決まるまでにもいろいろありました。芸能事務所を40社くらい受けたけど落ちて、やっと事務所に入れたものの、何年も仕事が無かったんです。
「このままじゃいけない。一度事務所をやめて、演劇学校でちゃんと芝居の勉強をしよう」と思い立ちました。
ーー気持ちの切り替えをしようとアクションを起こしたんですね。
やめるために事務所に顔を出しに行ったところ「今度、戦隊もののオーディションがある」と。それがタイムレンジャーのオーディションでした。
「どうせ落ちるだろう」と、それを最後にするつもりで受けたところ合格。そこから戦隊ヒーローとして忙しい日々が始まりました。
1年間、ひとつの役で毎日のように芝居をするというのは、なかなか経験できることではありません。
脚本の小林靖子さんが大事にしてくださった、リアルな人間ドラマが描かれたストーリー。脚本家の方の気持ちを汲み取って、どう表現するのかということを、1年かけて勉強させていただきました。
ーーそこからしばらく、映像のお仕事が続きます。
タイムレンジャーが終わってから、別の事務所に移籍しました。
そこでも同じ映像の仕事をしていたのですが、特撮ヒーローものと、いわゆるテレビドラマとでは、撮影方法から現場の雰囲気まで全く違います。そのため、また一から勉強し直しでした。
実際、ひとつの大きな仕事をしたとはいえ、デビューしてまだ数年の新人です。演技はまだまだ、代わりはいくらでもいる、何か強い印象を残さなければ。そういった焦りがあったのでしょうね。ある現場で、大きな失敗をしてしまったんです。タイムレンジャーが終わってから数年後の話です。
ーーどのような失敗を?
アドリブの失敗です。「これはいけるだろう」と思ったアドリブだったのですが、現場はすごい空気になってしまって……。
確認してからアドリブを入れるべきだったのですが、疲れや睡眠不足、やってやろうという強い意気込みのから回り、そういったものが重なって……。それから2年間、仕事がありませんでした。
ーー厳しい世界ですね。
その間、アルバイトをして過ごしていました。でも「これじゃダメだ」と思い立って、まず俳優のワークショップを探しました。
そうやって少しずつ動いているうちに、当時の事務所の先輩の山城新伍さんが救ってくださいました。「若いやつが頑張っているんだから、使ってやってくれ」と。
山城さんは、工夫や新しい芝居が好きな方だったので、チャレンジしている僕を見て声を掛けてくださったんですね。
それでもまだ、たくさん仕事が入るわけではありません。ドラマの改編期になると声が掛かるのを期待して、「いつか仕事が来るだろう」と思っていたのですが、現実は甘くありませんでした。
あらためて危機感を覚えて、「待っているだけではダメだ。前に出ないといけない」と、さらに精力的に動くようにしました。ワークショップでアドリブや即興芝居など、いろいろな芝居を試したりして……。
ーー2年間、苦しい思いをすることになってしまうきっかけとなったアドリブや即興芝居に対して、恐怖心は無かったのですか?
不思議なことに、即興芝居は自分にとって、とても馴染むもののように感じたんです。
失敗をした。確かにそれは傷になりました。でも、ミスをおかしたからこそ「どこまで何をやっていいのか」の線引きができたのでしょうね。
その後、即興芝居は僕にとって大きな武器になっていきます。もしもあのまま逃げ腰でいたら、チャンスはつかめなかったと思います。失敗は大きな財産を得るきっかけにもなります。
ーーミスの原因となった出来事を、逆に自分の武器にしたのですね。この後、どんなチャンスが訪れたのでしょうか。
「救急戦隊ゴーゴーファイブ」に出演されていた、西岡竜一朗さん主宰のワークショップに参加していたときのことです。僕の即興芝居を見て「面白いね」と声をかけてくれたスタッフさんがいました。
それをきっかけとして、「アクトリーグ」という即興演劇のテレビ番組に出ることになったんです。この番組は、観客から出されたお題を元に、3分ずつの起承転結、合計12分の芝居を即興で作り上げる、役者の演技バトル番組です。ここでずいぶんと役者仲間たちと鎬を削りました。大先輩の勝矢さんにも大変お世話になりました。
「大人の麦茶」とミュージカル「黒執事」との出会い
ーー自ら動いたことで、道が開けてきましたね。
すると、2つのことが起こりました。「アクトリーグ」を観てくれていた演出家さんが「『劇団 大人の麦茶』の本多劇場での舞台に、主演で出てくれないか」と声を掛けてくれたんです。
いつか立ってみたいと思っていた下北沢の本多劇場に、しかも主演で。突然のことで本当に驚きました。
それから、あるスタッフさんが「今度『黒執事』っていう舞台があるんだけど、出てみないか」と。まだ「2.5次元舞台・ミュージカル」という言葉が、世間にもあまり知られていないころでした。
ミュージカル「黒執事」での僕の役は、葬儀屋・アンダーテイカーでした。彼は、「面白いもの」を対価に情報を渡すという謎の人物で、演技の瞬発力が必要だったんです。まさに即興芝居で得た瞬発力、対応力が糧になったんですね。
「大人の麦茶」の舞台と、ミュージカル「黒執事」。この2つが、舞台でも活動するきっかけになったと言えます。
ーー大きな出会いが2つもあったのですね。ここからは順調でしたか?
いえ、実はまだなんです(笑)。ここから数年は「大人の麦茶」と「黒執事」がメインで、その他のお仕事はあまり入ってきませんでした。
今思い返してみれば、「待ち」の状態になっていたんですよね。少し動いては仕事が来て、そしてまた待つ、の繰り返し。待っていれば仕事が来るだろうという考えが生まれてしまっていたのでしょう。
そんなとき、「大人の麦茶」で共演した大河元気君が「今度、舞台の作・演出をするから出てくれませんか」と声を掛けてくれました。
その舞台が、けっこうアクションのある舞台で。アクションに自信がなかったので、正直なところ、「大丈夫だろうか。どうしようか」と悩みました。
でも「いつまでもこんなことを言っていていたらダメだ」と思い、全力を出して精いっぱい努めました。
その姿を、たくさんの方が見てくださっていたのだと思います。そこから徐々にあちこちのお仕事に呼んでいただけるようになって、ようやく今に至ります。
ーー「頑張ろう!」と思い立って動くと状況が大きく変わる、という経験を多くされているんですね。
運がいいということもありますが、「頑張ろう」と能動的に動いたときに物事が動くのは感じました。
人間やっぱり、常に積極的に、前向きにフットワーク軽く、というわけにはいきません。腰が重くなったり、逃げ腰になってしまうこともあります。
でも、待っていても「偶然」は来ないんですよね。まず動いてみる。動くから偶然が起きる。僕はそう思っています。
近年だと、中屋敷法仁さんのワークショップに参加したご縁で「文豪ストレイドッグス 三社鼎立」にキャスティングしていただいたことがありました。
そういう場に積極的に足を運んで、自分の技を磨く。人に演技を見てもらう。待っているだけでは誰の目にもとまりませんからね。
60歳になっても舞台に立ち続けるために…
ーー現在42歳。現在とこれからについて聞かせてください。
ふたつあって、ひとつは、役者の仕事は長期的に見て、いつまでも同じようにできるものではないということです。
以前、同年代の俳優である唐橋充さんと「いかに長く役者を続けるか」について話したことがあります。
例えば2.5次元舞台・ミュージカルに出演させていただくときは、たくさんの若い俳優さん方とご一緒しますが、動きや体力的な面など、何もかも彼らと同じようにはできません。
50歳、60歳になっても舞台に立ち続けるために、しっかり寝て、身体づくりをして、芝居の感覚を磨く。若手の皆さんに、そういう姿勢を見せていく。「この人だからこそ、この役を頼みたい」と舞台に呼ばれるところに持っていきたいと思っています。
もうひとつは、「役者は、いつも安定して仕事があるわけではない」ということ。何事も絶対に約束されたものではなく、無事に演劇ができるのは本当に幸せなのだと改めて感じています。
若い頃に失敗をして長い間仕事がなかったこともありましたし、それから今、新型コロナウイルスの影響で、たくさんの舞台が中止や延期になっていますよね。
この騒動以前にも、インフルエンザやいろいろな天災などで公演が中止になったことはありましたが、そのときにも同じことを感じました。
例えば最近では、テレビドラマと連動した舞台『ギリシャ神話劇場 神々と人々の日々』。ドラマで座組のみんなの関係性ができあがっていたので、中止は本当に残念に思っています。
役者の仕事は、ある日、突然目の前から消えてしまうかもしれないものです。だからこそありがたく、ひとつひとつの仕事に対して全力で、丁寧に演じていきたいです。
オールスターキャストが集結、舞台「炎炎ノ消防隊」
――7月末からの「炎炎ノ消防隊」も無事に公演されることを祈っています。若手、中堅、ベテランと、とてもバランスが良く、素晴らしいキャストですね。
出演している僕が言うのも……なのですが、本当にオールスターキャストです。
主演の森羅 日下部(シンラクサカベ)役の牧島輝くん、アーサー・ボイル役の小澤廉くんをはじめとした勢いのある若手たち、君沢ユウキくん、馬場良馬くんといった安定した力のある中堅どころ、アクションもできる強くてかっこいい女性陣、それからベテランの萩野崇さん。
萩野さん、実は今回が初共演なんです。佇まいひとつ取っても、本当に勉強になります。萩野さんはもちろん、年下のメンバーたちからも演技やいろいろなものを盗めたらいいなと思いながら、日々稽古しています。
ーー稽古場の雰囲気はいかがですか?
明るい小澤くんと君沢くんがとてもいいムードを作って、座長と共に座組を盛り上げています。それから元気な小南光司くんに安里勇哉くん、とてもわいわいと楽しい現場ですよ。
ーー今回演じられるジョーカーは、謎に包まれた人物ですね。どんなところを意識されていますか。
謎のある人物を演じるときは、気持ちにドライブがかかるように思います。普段の自分から離れた人物を演じるには、より強い「演技」を加えますよね。演技によってどんな人物にもなれる。二次元のキャラクターを三次元の人間として表現できるのはとても面白いです。
今回の役作りで言えば、アニメで声をあてられている津田健次郎さん、声がすごくセクシーでしょう。あの声で演じられていたキャラクターを、生身の人間として演じることで、どういうものをお客様に届けられるか……
いろいろな考え方の役者さんがいますが、僕は2.5次元舞台では、原作そのままのキャラクターでありたいと思っています。「和泉宗兵が演じている」ではなく「そのキャラクターがそこにいる」と感じてもらえるように。
だから今回も、ジョーカーが舞台に生身の人間として存在していると思ってもらえたら嬉しいですね。
ーー最後に、舞台「炎炎ノ消防隊」を楽しみにしているファンの皆さんにメッセージをお願いします。
炎やバトルの表現を「どうするんだろう?」とファンの皆さん、考えていらっしゃると思います。今、現場のスタッフや役者たちが一丸となってアイデアを出し合って、より面白くてすごいものを作り上げようと努力している最中です。
稽古の段階で光を放っているこのオールスターのキャストたちが、メイクをして衣装を着て舞台に立つ。特殊効果、音響、照明、そういった現場の努力が重なって、皆さんの期待以上のものがお届けできるはずです。
ぜひ期待していてください。期待を超えていきます。
撮影:ケイヒカル
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【応募期間】
2020年7月30日〜2020年8月6日正午
※必ずTwitterキャンペーン応募規約をよくお読みいただき、同意の上ご応募ください。
【応募方法】
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— 2.5ジゲン!! 編集部【公式】 (@25jigen_news) July 30, 2020
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