講談社とOffice ENDLESSの共同プロジェクト「ひとりしばい」の第5弾が、2020年8月1日(土)に配信された。
荒牧慶彦、橋本祥平など今をときめく実力派俳優たちに続き、今回舞台に立つのは糸川耀士郎。ミュージカル『刀剣乱舞』や舞台『憂国のモリアーティ』などで人気を博し、昨今では声優としても活躍のフィールドを広げ続けている。
演出は『MANKAI STAGE「A3!」』などで知られる松崎史也、脚本は舞台『逆転裁判』などを手掛けるほさかよう。
ここでしか見られない豪華メンバーが一堂に会した本作の、オンラインゲネプロの様子をレポートする。
※作中に公演写真・ストーリーに触れている箇所があります。未視聴の方は、ネタバレにご注意ください。
講談社×Office ENDLESSによる「ひとりしばい」プロジェクトとは?
「ひとりしばい」はタイトルの通り、キャスト1名による一人芝居だ。豪華な演出家とタッグを組んだ、完全オリジナルストーリーを見ることが出来る。
稽古はオンラインミーティングアプリ「Zoom」などを活用しておこなわれ、観劇は配信課金システム「ファン⇄キャス」、会場は池袋に誕生したLIVEエンターテインメントの複合施設ビル「Mixalive TOKYO」(ミクサライブ東京)の「Hall Mixa」を使用。
撮影方法などはそれぞれの回により、同じ劇場だとは思えないほど演出方法が多岐に渡っている。決して同じものが存在しない「ひとりしばい」は、配信時代の新たなエンターテインメントとなるだろう。
ひとりの役者が魅せる、何人もの主人公たち
本作は、図書館のひとつの出会いから始まるいくつもの恋の物語を描いたラブストーリーだ。
配信が始まると、そこに立っていたのはどこか冴えない雰囲気のメガネの青年。自称「痛くて暗くて人と話すのが苦手」な性格である。
図書館でアルバイトに勤しむ青年は、決して物語の主人公になれるような派手なタイプではないだろう。しかし一目惚れをした彼女がある日話しかけてきたことをきっかけに、代わり映えのしなかった日常が眩しく彩られ始める。
物語はそのまま青年と彼女を主軸に展開してくかと思われたが、そうではない。青年がおすすめした本の中身を垣間見る形で、糸川がいくつもの物語の主人公を演じていくのだ。
本のタイトルが画面に映し出されたりと、配信だからこそ楽しむことのできる演出も見どころのひとつだろう。
糸川が演じた主人公は、どれも一癖も二癖もある個性派なキャラクターばかり。
例えば、『翼をよこせ』というタイトルの本の主人公は、憧れの少女とのデートに向かうために暴走してしまう男。彼女への気持ちが募るあまりとんでもない行動に出てしまう振り抜けた姿に、思わず笑いが零れる。
続けて、ダーク色の強い『ベタ殺しのジョニー』では、銃を片手に大切な人の復讐を果たそうとするサイコパスを演じた。上半身裸で登場した『翼をよこせ』とは打って変わって、帽子や手袋、コートもすべて黒に統一した姿はどことなくセクシーな雰囲気も漂う。
他にも探偵、忍者、天使など、舞台上に登場する主人公たちはすべて糸川が演じているが、ひとりたりとも同じ人間には見えないから不思議である。
筆者はここに、俳優・糸川耀士郎の真骨頂を見た。ひとつの作品の中で、何人もの登場人物を演じるというのはどれほど難しいことだろう。かつて糸川が舞台『黒子のバスケ』で演じた赤司征十郎も二重人格という役どころであったが、それともまた話が違ってくる。
当たり前なのだが、45分間舞台に出ずっぱりの糸川の台詞量はとんでもなく膨大だ。しかしその台詞は決して詰め込まれたものだと感じることはなく、登場人物ひとりひとりから自然と発された生の声のように聞こえてくる。
彼が舞台に立つたびに、まるで新たな人間がこの世にひとり生まれるような、そんな錯覚を覚えるのだ。ここまで生きた芝居を見せられては、次の糸川の舞台ではどんなキャラクターに出会えるのだろうと期待せずにはいられない。
登場人物だけではなく、物語のジャンルも暴走系コメディからサスペンスなどさまざま。振り幅が凄まじ過ぎて、45分の公演時間があっという間に感じてしまうほどだった。
照明や映像といった演出も、物語に合わせてがらりと雰囲気を変えている。観客席まで使っての演出は、劇場をフルに使うことのできる「ひとりしばい」ならではの新鮮さがあり、物語と俳優の良さを最大限に引き出す演出家・松崎史也の大きな愛を感じることもできた。
今だからこそ観て欲しい、変わらないものを描いた珠玉の物語
物語の結末は、どうかその目で見届けて欲しい。ただひとつ、今だからこそ観るべき演劇だと、筆者は大声で主張したい。
松崎は、今作に挑むにあたって「普遍的な話がみたい。つくりたい」と糸川とほさかに話したという。
コロナ禍に襲われ目まぐるしく変わる日々の中でも、変わらない普遍的なものがこの世には存在する。例えば恋をしている時の愛おしさ、もどかしさ、切なさ。誰しもが抱くシンプルな感情を描いた今作は、今だからこそ、観客の胸に真っ直ぐに届くだろう。
胸の奥が締め付けられるような優しい物語を、ひとりでも多くの観客に見届けて欲しいと願っている。
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