2020年6月28日(日)、講談社とOffice ENDLESSの共同プロジェクト「ひとりしばい」のvol.2上演が配信された。
第1弾の荒牧慶彦に続き、今回の出演は小澤 廉。2015年のミュージカル『薄桜鬼』、「ダイヤのA The LIVE」で爆発的に知名度を上げ、近年では声優としての活動もめざましい、勢いのある俳優だ。
ここでは、このプロジェクトの概要と公演の様子をレポートする。
講談社×Office ENDLESSによる「ひとりしばい」プロジェクト
「ひとりしばい」はタイトルのとおり、キャスト1名による一人芝居だ。豪華な演出家とタッグを組んだ、完全オリジナルストーリーが届けられる。
稽古はオンラインミーティングアプリ「Zoom」などを活用しておこなわれ、観劇は配信課金システム「ファン⇄キャス」、会場は池袋に誕生したLIVEエンターテインメントの複合施設ビル「Mixalive TOKYO」(ミクサライブ東京)の「Hall Mixa」を使用。
撮影方法などはそれぞれの回によるので、実際に視聴して楽しんでほしい。同じ「ひとりしばい」の企画であっても、まったく違うものが観られる。
また、いわゆる「舞台に1人で立って芝居をする一人芝居」なのかと聞かれれば、それはネタバレになってしまうため、やはり実際に観てもらうしかない。
以下レポートは、みどころをメインとして、できるだけバレに触れないようにしている。しかし公式写真とともに軽く内容、展開も紹介しているため、まっさらの状態で観劇を楽しみたい人はここで引きかえし、観劇後に復習としてレポートを読んで欲しい。
個人的には、どう始まり、どう話が転がっていくのか、何もかも知らない状態での観劇をおすすめする。
「楽しい」がつぎつぎに押し寄せてくる! 生配信だからこそのエンタメ芝居
※冒頭のみ内容を紹介しています。ネタバレにご注意ください。
今回の小澤廉の「ひとりしばい」、タイトルは『好きな場所』だ。時間になり、芝居が始まると思いきや――、画面に出てきたのはインスタライブなどで見せている、素のままの小澤廉。
映っているか、もう始まっているか確認をして挨拶をする小澤に、思わず画面と時計を二度見三度見して、「ひとりしばい」では? と盛大に首を傾げてしまう。
この自粛期間中ずっといたという、自分の部屋の「好きな場所」。落ち着いた濃いブラウンのソファに、背後にはカーテン。カメラをよいしょっと向けて部屋のすみを見せれば、過去に出た作品のグッズなどもある。
どうやら本当に彼の部屋のようだ。
あれあれ、と思ってはいたものの、近況、今感じていること、身の回りの好きなものなどについて話す小澤の姿に、感じていた不思議さは消えていってしまう。
窓の外でサイレンの音がしたり、宅配便が届いたりと多少のトラブルは起こるものの、順調に「好きな場所」でのトーク配信は続いていく。
ぐっと息をとめて食い入るように画面を見つめていたvol.1とは打って変わり、リラックスして配信を見ることさらに数分。何やら雲ゆきがあやしくなってくる。
あれよあれよという間に、雰囲気は一転。そうだこれは「ひとりしばい」の演劇なのだと思い出すことになる。そしてここから、「個人・小澤廉」の顔から「役者・小澤廉」の顔へと変わっていくことになるのだ。
今回の作・演出は、クリエイティブユニット「時速246億」を主宰する川本 成。芸人、声優、役者など、プレイヤーとしての実績も非常に多い。
時速246億は「バック・トゥ・ザ・ホーム」「お静かにどうぞ(作・演出は喜安浩平)」など、観る人が純粋に「楽しい!」と感じる舞台を多く生み出している。
今回の「好きな場所」も、一度見て楽しい、二度見て泣けて楽しい、三度見て笑って泣いて楽しい。1時間に満たない短い公演時間の中で、泣いて笑ってハッピーになれる。
キラキラまぶしい小澤の笑顔と、「楽しい」をダイレクトに与えてくれる作・演出が、非常にマッチしていた。
成長を続ける俳優、小澤 廉。彼と、スタッフと、そしてファンたちにとって「好きな場所」とは
幸せな気持ちをたくさんもらえると同時に、小澤廉の役者としての成長に驚く。
冒頭、どこまでが演技かわからない「素」のままの顔から、どんどん役者の顔になっていく。そして最後には、「ここが僕の好きな場所」と力強く語り、歌い、踊る。
2015年から舞台に立ちはじめ、初主演舞台の千秋楽で「かつがれていないと座長はできなかった」と泣きながら語っていた彼も、今やカンパニーを力強く引っ張る、頼りがいのある俳優だ。
「一人芝居」は1人ではできない。企画をする人たち、作・演出、音楽、衣装、照明、小道具、大道具、アンサンブルなど。舞台は、それぞれの人たちの努力と協力の結晶だ。
そして観客の存在。観客がいて、舞台の上に役者がいて、舞台は完成する。
今は手が届かない、足を運べない。けれども、小澤にとっても我々ファンにとっても「好きな場所」はなくなっていない。ちゃんとある。
「待っている」「待ってて」と、画面の向こうとこちら側で気持ちが繋がるような、そんな芝居だった。
新型コロナウィルス感染症の影響により、劇場に観客を入れた舞台の公演は大きな制限を受けている。そんな中、無観客配信をおこなったり、充分に客席間を取ってじょじょに公演をおこない始めるなど、さまざまな工夫がこらされ始めている。
今回の企画「ひとりしばい」は、配信を前提としたポジティブな作りの芝居だ。
第一弾の荒牧慶彦×岡本貴也による、映画と舞台の境界を極限までなくした芝居。今回の小澤 廉×川本 成では、多くの人々の力で作られているエンタメ舞台の素晴らしさと、舞台が舞台であるための理由を。
この状況にあきらめることなく、「ならば今、逆に何ができるか」と舞台表現の可能性を探り、エンタメとして新しい手法を生み出していく。「ひとりしばい」はそんな企画なのではないだろうか。
当たり前は当たり前じゃない。使い古された文言をあらためて身近に感じる今だからこその芝居
今回の『好きな場所』は、誰にとってもある、大切で大好きな場所が、当たり前にあるものではないことを教えてくれた。
舞台の制作が発表され、チケットを取り、観劇する。稽古をし、観客を迎え入れて舞台に立つ。それがどれだけ特別な奇跡の積み重ねによるものだったのかと、あらためて知ることになった2020年。
役者や制作スタッフたちにとって、そしてファンにとっても当たり前にあった、あの大好きな場所にまた戻れる日を、楽しみにしたい。
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