2019年9月22日(日)、東京六本木・俳優座劇場にて舞台『Get Back!!』が開幕した。
同舞台は、小笠原 健による初の脚本・演出ということでも話題になっている。
初日公演に先立ち、ゲネプロと囲み取材が行われた。笑って泣けるヒューマンコメディ。思わずくすりと笑ってしまうシーンから場内を巻き込む爆笑のシーン、じわりと目頭が熱くなるシーンからバスタオル必須になるシーンまで、感情を大きく揺さぶられる舞台となった。
小笠原健が、タフに熱く繊細に挑む舞台『Get Back!!』 初の脚本・演出テーマは「やりたいことの原点」
自分を知る、取り戻す。愛に気づかなかった若者の、20歳の誕生日に訪れた奇跡の物語
荒れた生活を送り、喧嘩の末に意識を失った薫が目を覚ますとそこは、見知らぬ、しかしどこか懐かしい空気の世界だった。
空腹な薫の面倒を見てくれた女性と、その夫らしき男性。驚くことに彼はどう見ても自分の「父」で――?
新聞やテレビで、ここが過去の世界、しかも自分が産まれる数か月前だと知った薫。帰るあてもない無い薫は、山田太郎と名を偽り「自分の両親」とその家族と暮らし始める。
過去の世界には、もちろん自分の両親以外にも、心当たりのある人物が生きている。まさか、元いた世界の自分と関わりのある、あの男の……?
顔を見れば張り合い始める2人には、何やらただならぬ因縁がありそうだ。
20年後の未来から来た薫は思わぬところで大活躍。1999年の競馬情報もお手の物だ。あたたかく賑やかな人たちに囲まれて、薫の奇妙な生活は続いていく。
チャーミングで明るく、場を楽しませてくれる夏織の父。少女らしさがそのまま生きているような可愛らしい母。2人が経営する写真館兼食堂は、そこに訪れる人も巻き込みいつも笑顔に包まれている。
夏織の担当の産婦人科医・加藤と、何かワケありの妖艶なダンサー柚月。柚月は「差別や偏見が無い世界に生きたい」と語る。
日替わりゲストのシーンは、特にお楽しみが詰まっている。ゲネプロがおこなわれた22日に登場したのは坂本康太。ハイレベルなモノマネでのあっちむいてホイ大会が繰り広げられた。
日替わりコーナーでは、素で楽しむ周りの反応にも注目だ。ゲネプロでは太田将煕が巻き込まれ無茶振りをされた。
歌あり踊りありショーあり。「夢があった」と照れ混じりに語る母、夢を語れない秋恵。物語で描かれるのは、家族間の関係性だけではない。登場人物はそれぞれ人生に悩みを抱えて生きている。
突然始まる80年代、冬ソナ、滑るギャグ。ほのぼのとした日常、明るい笑いと大騒ぎの毎日。そこに生きている人たちが身近に感じられるからこそ、悲しみのシーンでは深く心をえぐられる。
「人生」はドラマ。人と人とが関わることで生まれる感情を描く、心あたたまるストーリー
舞台『Get Back!!』で特に印象的なのは、役者たちの個性が存分に生かされている点だ。役として生きながら、役者として舞台の上で心から楽しんでいる様子が伝わる。本気で笑い、戸惑い、怒り、悲しむ。
事前におこなったインタビューで、演出・脚本の小笠原は「それぞれのキャストのファンにも喜んでもらえるように」と語っていた。
そのとおり、それぞれに見どころがあり、この人ならこう演じてくれるだろうという期待どおりの部分と、さらに、今まで知らなかった新しい魅力が引き出されている。
可愛くチャーミングで強い女性陣、思い悩み、時に弱さをさらけ出す男性陣、そしてどちらも兼ね備える役者もいる。
役と役者の一体感、舞台上の人間ドラマ。
若い世代の観客は、人生や親との関係に葛藤する薫や秋恵に、子を持つ親世代は徹と夏織、また夏織の両親に気持ちがぐっと入り込むことだろう。
どの世代でも楽しめて、そして見終わった後には大事な誰かに連絡したくなる。そんな舞台だ。
人に触れる。自分が変わる。『Get Back!!』囲み会見レポート
ゲネプロに先立ち、囲み会見がおこなわれた。稽古の様子から舞台にかける意気込みまで、熱く和やかに語った様子をお届けする。
太田将煕(薫 役):この作品を、お客様に届けられることを嬉しく思います。小笠原健さんは初の脚本・演出、僕は初の単独主演。初めて同士のタッグですが、楽しみにしていてください。
役者でもある(小笠原)健さんが、役者視点で稽古をつけてくださるのでとても分かりやすく、やりやすかったです。稽古場の雰囲気も、健さんがあたたかく作ってくれました。
薫は、過去にタイムスリップしてたくさんの人と接します。いろいろなことを肌で感じて少しずつ、空っぽだった自分の中の何かが変わっていきます。些細な感情、人との接し方の変化。そこに注目して見てください。
舞台全体の見どころは、みんなの個性です。それぞれの強い個性を健さんがうまく引き出しています。最後にはほっこりしてもらえれば嬉しいです。
藤田奈那(夏織役):私自身も初めて挑戦する役で、「初めて」がたくさん詰まった作品です。稽古ではたくさん悩みましたが、小笠原さんに導いて頂きました。
今日まで積み上げてきたものを出しきり、楽しんで頂けるように精いっぱい頑張ります。
お気に入りのシーンは、薫と徹、そして私の3人でのシーンです。短いですが、あたたかく切なく、そして幸せな時間が流れています。ぜひ注目してください。
横山真史(徹 役):今回の作品は、とても愛にあふれています。家族の愛やさまざまな愛、そこをぜひ楽しんでください。
やっと幕が上がる、と感慨深いです。作り上げてきたものは、間違いないと思っています。自信を持ってお客様にお届けします。
林田真尋(秋恵役):秋恵は、普段の私とは全く違う性格です。そのため稽古では苦戦しました。
私は普段、フェアリーズというグループにいるのですが、舞台中にもフェアリーになるシーンがあります。そこをぜひ注目してください!
佐藤弘樹(龍司役):たくさん試行錯誤をして、ずっと稽古を重ねて来ました。いいものを届けたいという演出家と役者の熱意を感じてください。
本当にあたたかい作品です。みなさんに届きますように。
丸山敦史(医者役):この作品に参加できることを嬉しく思います。僕をイメージして書かれた当て書きの役なので(笑)、しっかりと演じます。
開演前のアナウンス(小笠原担当)の声の出し方が独特なので、お聴き逃しの無いように、劇場には早めにお越しください!
小笠原 健(脚本・演出):今回の舞台は、たくさんの方に助けて頂きました。キャストの皆さんは、稽古をしていく中で僕の書いたものをどんどん超えて行ってくれました。
小さな子供が大きく成長し、そして今日生まれる。作品と僕の感情がリンクして、とても感情がたかぶっています。
しかし、まだまだこれからです。信頼できる役者たちと一緒に、お客様に最高の笑顔と涙をお届けします。
小笠原健が初の脚本に込めた、人に対する「愛」、それを受け止め超えて行く役者たちの演技。
心にじんわりとしみいるヒューマンドラマ、舞台『Get Back!!』。観劇後、必ず胸に何かが残る作品だ。ぜひ劇場で、目に見えないあたたかさを感じ取って欲しい。
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