2019年9月22日(日)、東京六本木・俳優座劇場にて舞台『Get Back!!』が開幕する。同舞台は、小笠原 健が初めて演出・脚本を手掛けることでも話題になっている。
常にタフでエネルギッシュな小笠原が初めての自作舞台に選んだテーマは「ヒューマンラブ」だ。
本番が近付く中、稽古場にお邪魔し、この舞台にかける意気込みやこれまでの俳優人生についてなどをインタビューした。そこで見えてきたのは、熱さと繊細さをあわせ持ち、常に人が喜ぶように、と気を配る素顔だった。
もくじ
一周回って自分のやりたいことの原点にかえった
――早速ですが、今回の舞台のテーマに「ヒューマンラブ・家族」を選んだ理由をお聞かせ下さい。
「最初に演出・脚本のお話を頂いた時に『何をやろう』と1か月くらい悩みました。
サスペンスも好きだし、殺陣のあるバトルものもいい。俳優座劇場だったらスペースも広いから、そういう演劇をやった方がいいのかな? って。実際、プロット(話のあらすじのようなもの)を何本も書いてみたりもしました。
相談をした長戸勝彦さんにも、『作・演出は、その作家の生きてきたものが出るし、第一作は一生残るものだ』などたくさんのアドバイスをいただきました。
いろいろ悩んで一周して『自分が一番やりたいことは何なんだろうな』と思ったんですね。結局、自分自身が、観る方でも演じる方でも一番好きなもので勝負した方がいいんじゃないかって。
僕は今まで生きてきた中で、家族、友達、ファンの皆さんなどのいろいろな愛に支えられて生きてきました。一番大事でものであり、原点です。
そう思って選んだのが、愛をテーマにした、笑って泣けるヒューマンコメディ。原点であり一番好きなものであれば、自分が一番表現したいものが表現できるのではないか、と思いました。」
――とても良い脚本ができた、とうかがっています。
「脚本を書くにあたって、トータルで半年かかりました。テーマは愛に決まった、じゃあどんな話にしよう? と思った時に『タイムスリップの話、好きだな!』と思いつきました。
でも、タイムスリップものって王道ですよね。映画や舞台など、過去にいろいろな作品がたくさんあるから、何をやっても『○○っぽいね』と言われてしまうかもしれない。
でも、自分の経験や家族の話、実体験の中で起こったことを入れれば、それはもう完全に僕のオリジナルになります。
エピソードをいろいろと入れているうちに、これは唯一無二だな、と感じてこのまま書き進めよう、と思いました。
王道の話ではあるのですが、僕らしさは随所に出ているはずです」。
王道の話は「個性」という味付で、どこにもないオリジナルの料理となる。加えられた小笠原の個性と思い、人柄、信念や価値観、大切にしているものを舞台で味わいたい。
見てくださる方の「面白い!」のために。自分の思いをひとつひとつのセリフに乗せていく
――今年で舞台生活10周年となりますが、どのくらい前から、演出・脚本をやってみたいと思われていたのでしょうか。
「漠然と3、4年くらい前から思っていました。
2016年ころに『眠れる夜のホンキートンク』という舞台で全国7都市を回っていて、移動中の新幹線で初めて長戸さんと話をしたんです。会話のひとつとして演出の話をしたら話に花が咲いて。そうしたら「じゃあまず脚本を書いてみろ」と。
それから、やりたいなと思いながらプレイヤー(演者)として2、3年が過ぎました。
でもね、1回『創る側をやってみたい」』思うと、稽古をしていても見方が変わるんですよ。
――演出家目線が入ってくるんでしょうか。
「そうです。今までは『この役者さんどういう芝居をするんだろうな』だったんですけど、袖で待機をしていても『この演出家さんはどういう演出をするんだろう』と思うようになって。
このお話をいただいた時、そういう目で周りを見た経験があってよかったなと思いました」。
――演出の立場に立ってみて初めて分かる「難しいな」と思ったことや、こうしてみたい、などのお考えを教えてください。
「僕ら役者は、現場・舞台ごとに演出家が変わります。だから、役者の目から見たいろんな演出家の良いところ取りをできたらいいなと思って稽古を始めたんですけれど、そんな簡単なものではないですね(笑)。
僕はどちらかと言えば、ピリっとしてしまった現場の空気を明るく和ませるのは得意なんですが、演出家の立場になればそうもいかない。優しいだけが愛ではないし、厳しいことも言わないといけない。
そのキャストのためを思って、もっと良くしたいと思ったら、野球で言う1000本ノックのようなことをしないといけない時もあります。けれども他のキャストも待っているので、1人だけに時間をかけるわけにもいかないんです。
役者さんは、自分が思ったようには動いてくれないですね(笑)」。
――脚本の解釈も、人それぞれ異なるのでしょうか。
そうですね。ただ、思っていたものと違っても、俺のイメージを超えてくる分には変えてもいい。自分でプレイヤーとして演じている時もそうしているんです。
『ちょっとイメージと違うけど、そっちの方が面白いからそれでいこう』って言われたら勝ちですし、そういうことの積み重ねだよ、と若い子には言っています。
演出家を喜ばせて、想像を超えて行けたら、また次に繋がります。
今は役者が輝くように、素材を活かして演出をつけていますが、最終的にはお客様に喜んでいただけるのが一番です」。
――悩みながら、ですね。
「現状、やれると思っていたことがまだ完全にはやれていない。それが、今等身大で悩んでいることです。
かつて、とても厳しく熱い演出家の方にご指導いただきました。もっと来いよ! 気持ち出せ! 押して来い! みたいな。相撲の稽古みたいですよね(笑)。
でも今思うと、愛があったなぁと思います。そこを目指したいです」。
――脚本執筆はいかがだったでしょうか。やはり同じようにいろいろと難しかったですか?
「脚本を書くのは本当に難しかったです。過去に色々なものを見て感じていた疑問点、それが自分の方に回るわけです。文句を言われる側になる。そういうプレッシャーがまずすごい。
悩みながらプロットを作っている時にアドバイスをいただいたのは『そこに実際にキャスティングされるかどうかは別として、役者をあてはめてみろ。そうしたら勝手に動いてくれるよ』と。それでやってみたら実際に動き始めたんです。
例えば、友達の横山真史君と上田悠介君を「大工とその弟子」みたいに当てはめてみる。そうしたら勝手にギャグとか日常のことが出てくるんですね」。
――キャラクターが立つと勝手に動いてくれる、と言いますよね。
「そうなんです、筆が進みました(笑)。
そこから何回も直して直して、パソコンに向かって書いたり、スマホのメモ帳に書いてあちこちくっつけたり入れ替えたり。
本当に考えることが多いです。通し稽古の時間を計って、長ければ削ったりしないといけないのですが……」。
――削る部分によっては意味が変わって来てしまったり、セリフひとつに対しても思い入れがありますよね。
「本当にそうです! 思い入れがあるので、どこを削るかは悩みますね。ストレートの芝居で2時間、難しいです。
脚本は自分で言うのもなんですが、良いものができたと思います(笑)。でも、今できたものが100%だとは思わずに、もっと突き詰めていきたいです。客観的に見た時に面白いと思ってもらえるように」。
初めての脚本に詰め込んだ自分の価値観、考え方、大事にしているもの。だからこそどれも削れなく、けれどもさらに面白い舞台にするための苦悩が続いている。
「こちら側」に座って気付いたこと、得たこと。悩み苦しむけれどもやはり舞台は素晴らしい
――演出家となって机の向こう側に座って、見え方が変わったことや、初めて知ったことは何でしょう。
「今までは仲間同士、先輩、可愛い後輩という関係だったのが、この線をまたぐととても違う存在に見えます。正直怖いです。どう思っているんだろうと。
基本的に、役者をやっていてもいつも不安です。お客さん喜んでくれるかな? これ面白いかな? と。常にその戦いです。悪い夢を見たりもします(笑)。
それで初日の幕が開いて、客席のみなさんが喜んで楽しんでくれているのを見ると、良かったと安心します。
脚本・演出をする側になって何が一番大きく変わったかと言うと、最終的な決定権、ですね。
今までは、例えば「ラーメンと蕎麦どっちにする? あ、蕎麦がいい? じゃあ蕎麦にしよう!」っていうように、自分の考えを強く押し通すのではなく「どっちも良いよね! 君がいいと思う方にしよう!」っていうようなことが多かったです。
でもね、今回は『どっちも良いよね』じゃダメなんです。僕が決めないといけない。そういうことが山ほどあります」。
――演出の立場での考え方を知って、これから役者も同時に続けていかれる上での大きな財産になりますね。
「今年これからプレイヤーとして舞台が2本ありますけれども、その時、今までよりもさらに『演出家が何を求めているんだろう』っていう目線で見られると思います。
こういう絵が欲しいんだろうなとか、台本全体を見て『今自分がどう立ち回れば、この作品がより面白くなるんだろうな』とか。
これからも、もっともっと面白いものを作り続けたいですね。それを世の中の人に見てもらって、感動を与えたいです。
今回であれば、キャストそれぞれのファンの皆さん、ご家族の皆さんにも喜んでもらいたい、そう思って作っています。
お客様を笑わせたり泣かせたり……そういうことができる仕事、すごいですよね、また見たいからと劇場に通って下さる、家でも見たいからとDVDを買ってくださる。人の気持ちを動かすことができる、本当に素晴らしい仕事です」。
タフに、熱く。パワーを外に出せばそれがまた自分の力になる
――野球をはじめ、ゴルフやアウトドアなど、常にアクティブでエネルギーにあふれていらっしゃるのですが、その源は何でしょうか?
「映画を観たり、舞台を観に行ったりもしますが、やっぱり『人と喋ること』です。人に触れること。
舞台の他にも、バースデーイベント、メンズヘラクレスのライブ……それから友達のイベントに行った時も。
ファンの皆さんが楽しみに待っててくれる、期待してくれている、手紙を書いてくれたり、チェキを撮ったりする時に『楽しみにしてます』と言ってもらえたり、そういうものからすごくエネルギーをもらいます。
皆さんを喜ばせるためにはどうしたらいいんだろう、と刺激にもなります」。
――ファンは小笠原さんから元気をもらいますし、そのエネルギーがぐるぐる回っているんですね。
「僕、タフって言われるのが本当に嬉しい褒め言葉なんです。だから横山にも言ってるんですよ、もし俺が落ち込んでたら『あれ? 健ちゃんタフなんじゃないの?』って言ってよって。そう言われると燃えるんですよね。
もちろん死んだように眠るときもあるんですけど、でもタフに生きるっていうのは今年のテーマなんです。
『今日は疲れたから寝たいな』じゃなくて。『いいや寝てよう』ってなるとエネルギーが内に内に、って向かって行っちゃう。
そういう時に出てくる言葉ってネガティブなものになってしまうんですよね。朝早い、眠い、暑い、めんどくさい……。でもそんなの関係無い、行っちゃえばこっちのもんです! 辛い時こそ朝野球に行こう、みたいな(笑)」。
――まず身体と頭を動かして外に出ると。それがタフである秘訣ですね!
「そうなんです、基本的には誘われたら断りません!(笑)
今年もこれから年末に向けて忙しいんですけど、タフっていう魔法の言葉があるんで、攻めていきます!」
笑いと涙。じんわりと心にしみるヒューマンラブ。『Get Back!!』稽古場レポート
この後、『Get Back!!』稽古の様子を取材した。
あらすじにもある、物語の冒頭。主人公である薫が自分の産まれる前の世界へとタイムスリップするシーンだ。
常に何かに苛立っている薫と父親の関係。息を飲むほどの熱演に、開始数分で心臓を掴まれる。
緊迫感のあるシーンと、ほっとするあたたかさのあるシーン、それから笑いが織り交ぜられる。
さし込まれる笑いの要素に、感情がさまざまに動かされる。これから物語がどのように展開されるのか非常に楽しみだ。
ビートルズの『Get Back』は「戻って来い」と呼びかけている。父の思いと声は、過去に行ってしまった薫に届くのか。
人に触れ、想いに触れ、薫は空っぽの自分の中に生きる意味を見出すことができるのか。
タフに熱く、そして繊細に。小笠原 健が紡ぐ初めてのオリジナルストーリーが、間もなく上演される。
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