2019年8月17日、舞台「この音とまれ!」の東京公演が始まった。
「この音とまれ!」は、廃部寸前の箏曲(そうきょく)部を守るために必死になる高校生たちの青春を描くジャンプSQ.(スクエア)にて連載中の人気コミックスだ。
舞台は、人気キャストたちによる演技はもちろん、箏の生演奏が披露されることが大きな話題となっている。
初日に先駆け、16日にゲネプロと囲み取材が行われた。
もくじ
真っ直ぐな思いが伝わる、傷つきやすいキャラクターたちの心理描写を丁寧に描くストーリー
ストーリーは、中学時代は札付きの不良だったが繊細で心優しい久遠 愛(演:財木琢磨)、気弱そうな外見に反して芯の強い部長の2年生・倉田武蔵(演:古田一紀)、箏の家元の娘である鳳月さとわ(演:田中日奈子)が中心となる。
愛の祖父、源(演:加藤靖久)は箏の職人だ。まわりに反発し、煙たがれ怖れられている愛を、祖父として「愛」をもって見守る。
愛もそんな源と暮らすうちに少しずつ変わり始めていたが……。
祖父の作った箏曲部を守るために入部した愛は、部長である武蔵や、幼い頃から家元で厳しく育てられ、人と触れ合うことが苦手なさとわとぶつかりあう。
愛の友人サネ(足立実康:塩田康平)、みっつ(堺 通孝:小島ことり)、コータ(水原光太:上仁 樹)。猫をかぶったさとわにだまされ3人はあっさりと入部を決める。
彼らの名前を借りることで人数はそろい、箏曲部はひとまず廃部の危機をまぬがれたように思えたが――。
愛が目障りな教頭・加村 穣(演:山﨑雅志)は部を潰そうとするが、さとわは「一か月後、全校生徒の前を認めさせる演奏をしてみせる」と教頭に約束する。
そうは言っても初心者揃い。弾き方はもちろん譜面も読めない。さとわのスパルタの前に部員たちは風化寸前にまでなるが、それぞれの目的のために皆必死に努力を重ねていく。
部員たちは同じ時を過ごし、お互いを認めながら少しずつ心を通わせていく。自分の孫のように彼らを見守る仁科静音(演:藤田弓子)、陰からそっと愛を支える幼なじみ哲生(演:小沼将太)の存在があたたかい。
加藤・藤田・山﨑のベテランたちの演技が舞台をさらに引き締め、安心感と重みをもたらす。塩田・小島・上仁の3人組は、場をぱっと明るくさせながら愛との絆も感じさせ芸達者ぶりを見せてくれる。小沼の哲生は、外側から愛の良き理解者として立ち回り、控えめながらも無くてはならない存在だ。
天才ゆえに「分からない」ことが分からずに戸惑う、不器用さを感じさせる田中のさとわ、何があっても折れない芯の強さで、部員たちの心の支えとなっている古田の武蔵。
そして座長の財木は、繊細で傷つきやすく、何かあっても自分の中に飲み込みためこんでしまいがちな愛を、細やかな表情で丁寧に演じている。
6カ月の稽古を重ねた本気の生演奏が胸を打つ。会場に降り注ぐ音の「龍」星群!
全校生徒を前に決意を語る武蔵の真剣な言葉と表情に、静音にしているとはいえカメラのシャッターを切るのをためらうほどの緊張感が漂い、背筋がピンとのびる。
2.5次元の舞台としては異例とも言える長い稽古期間をともにしてきた仲間たちのアイコンタクト、息遣い。そして最初の一音が奏でられる。
さとわがソロで奏でる十七絃の響きは、原作にあるように、深く時に甲高く、天で孤独に泣いている龍の鳴き声のようだ。そこに仲間たちが次々に音を重ねていく。
5月におこなったインタビューで財木は
「今はまず『箏が弾けるように』って我流で弾いているんですけど、これからは愛として弾いていかないといけないんです。語りかけるように弾いたり……座り方や姿勢、音色の優しさや強さで役を表現しないと」
と語っていた。愛のソロシーン。舞台上には「大事な人に言葉を投げかけるように」思いを込めて音を奏でる愛がいた。
愛と祖父が、箏の音色を通じて心を通わせる大事なシーンだ。優しい音色と眼差しに思わず涙があふれる。
1枚、筆者があえて本文中には組み込まなかったショットがある。念のためのワンクッションに下の「画像一覧」に入っているので観劇後に見て頂きたい。
絃をつまびき、スクイ、激しくかき鳴らす。生み出されたトレモロが流星となって会場じゅうに降り注ぐ。「届け」「届きやがれ」の思いが耳と胸を震わせる。
2月から稽古を重ねてきた6人の姿に、舞台での演技を超えたものを感じる人も多いことだろう。
取材関係者などが多く反応が得られにくいとされているゲネプロだが、演奏終了と同時に感極まった大きな拍手で場内が揺れた。
物語あってこその生演奏、生徒になったつもりで楽しんで欲しい!
ゲネプロに先立ち舞台で囲み取材が行われ、出演者たちが意気込みや見どころなどについて語った。
登壇者は財木琢磨(久遠 愛役)、古田一紀(倉田武蔵役)、田中日奈子(鳳月さとわ役)、塩田康平(足立実康役)、小島ことり(堺 通孝役)、上仁 樹(水原光太役)、小沼将太(高岡哲生役)、脚本・演出の伊勢直弘の8名。
財木琢磨(久遠 愛役)
原作を読んだとき、「届け!」という言葉がとても印象的でした。この舞台も、その思いを大事に最後まで駆け抜けていきます。
見どころは、生演奏はもちろんなのですが、その前の緊張感です。皆さまにも、生徒になったつもりでこのリアルな緊張感を感じていただきたいです。
「龍星群」の中で、自分のソロの部分がとても好きです。音に気持ちを乗せるということが最初は分からなかったのですが、芝居の稽古をしていくうちに感覚が少しずつ分かってきたので、それを本番で出せればいいなと思います。
とにかく、じいちゃんに語りかけているような気持ちでソロ部分をやっていきたいです。
古田一紀(倉田武蔵役)
今日に至るまで、自分の中でいろいろなことを考えて咀嚼して、何回も頭の中でイメージを重ねて来ました。そして身体の中に「ふっ」と入った状態になったので、緊張はしていません。
……すごく緊張しています(笑)。
血マメができては針でつぶし、を繰り返していたんですね。そうしたら、何日かしたら血マメが吸収されて指先が硬くなりました。
原作で「指が硬くなっていって、いい音が出せるんだよ」というようなセリフがあるんですけれど(コミックス2巻67ページ)それを実感を持って言えるようになりました。
▲血マメのつぶし方についてリアルな講義をする古田
田中日奈子(鳳月さとわ役)
この舞台は、皆それぞれに人としてワンランク成長していく物語です。私自身も、この舞台を通して成長していかれたらと思っています。
見どころは、生演奏と、その前の物語です。物語があってこそ生まれる緊張感と生演奏、そしてその後に続いていく物語。話の部分を大事に見てください。生演奏が、よりグッとくるものになります。
龍星群のソロでは、愛とは違い「孤独」を表現する音程やリズムを担当します。深い海の底に沈みこむような一点集中のイメージで稽古をしつつ、後半では皆が入って来て合わせるので、そういう前向きな部分も、音や弾き方、たたずまいで表現しなければいけません。そこがとても難しいですが頑張っていきます。
塩田康平(足立実康役)
原作は、とても言葉の力が強い作品です。読んでいるとグッとくるシーンがたくさんあります。高校生ならではのド直球な言葉で、ドキドキしてもらえたらいいなと思っています。
漫画だと表現が絵として見える、そこを僕らは音で表現しなければいけません。音が波打っている、そういうところが見えればと思います。
小島ことり(堺 通孝役)
原作がとても好きです。人と人との思いがいろんな形で繋がりぶつかって、また繋がっていく、そういう繋がりが大切に描かれていく作品です。
この箏曲部のメンバーはもちろん、作品に関わってくれているすべての人の思いを繋ぎながら最後まで駆け抜けていきます。
生演奏に至るまで、それぞれのキャラクターがどのように出会って、どんなことを感じているのか。そういったところを大事に演じています。みんなの思いが繋がって最後の場所まで行かれるように。
上仁 樹(水原光太役)
すごく考えていたんですけれども、言いたいことはほぼ皆さんが言ってくれたので(笑)、役のコータとして意気込みを!
舞台上で元気よく、みなさんに元気を振りまくことができるように頑張ります!
小沼将太(高岡哲生役)
この舞台が始まる前に皆で横断幕にひとことずつ書いていったのですが、僕はそこに「絆」と書きました。
原作ではみんなキャラクターの個性があって、演奏前にどんどん仲良くなっていきます。そこには「絆」が大事だと思っています。
今回の舞台はロングランなので、やっていく上で役者である自分たちも絆を深めて、千秋楽まで怪我の無いように続けていきます。
伊勢直弘(脚本・演出)
箏という楽器を通した青春群像劇です。スタッフ・キャスト一同「この音とまれ!」の世界が大好きなので、その「大好き」が会場じゅうに伝わっていけばと思っています。
キャストたちはみんな、ぶつかって悩んで壁に当たってそれを乗り越えて成長していくという役のままで、今日の時点でとても成長してくれています。個人的にも、これからも楽しみに応援していきます。
この物語のクライマックスでは、全校集会という形で箏の生演奏をします。会場にお越しの皆さんは、全校生徒集会に来た気分で見届けてくだされば、彼らの思いの詰まった音を堪能していただけると思います。
ぜひ、彼らの生き様を聴きに来てください。
こんな経験は無いだろうか。絵を描く人、文章を書く人、歌を歌う人、楽器を演奏する人、そして演技をする人。
「好きだ」という思いで始めたそれらに、しだいに「何かを伝えたい」思いが芽生え、うまくなりたいと努力する。
伝えたい、伝わってほしい、うまくなりたい、思いを届けたい。そして思いが伝わったときの喜びのために、また厳しい努力を重ねる。
ゲネプロが行われたのは、おりしもペルセウス座流星群が降り注ぎ終わった8月16日。
しかし、ホールの中では彼らの思いが音の形を取り、見る人の胸に流星となって降り注いでいた。これから福岡、そして大阪と、思いを繋ぎ、届けるために公演が続けられる。
ぜひ、彼らの思いをその耳と胸で受け止めてほしい。
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