1月31日(水)、舞台『ブルーロック』2nd STAGEが大好評の内に閉幕。大千秋楽のカーテンコール後には、第3弾を今夏に上演することが発表された。
本作は「週刊少年マガジン」(講談社)で2018年から連載中でありアニメ化もされている『ブルーロック』(原作:金城宗幸 漫画:ノ村優介)の舞台化作品で、2023年5月に第1弾が上演された。
2.5ジゲン!!では、劇中写真とともに公演の様子と見どころをレポート。本記事を、観劇の思い出をたどる助けや、アーカイブ配信視聴のおともとしてほしい。
※本記事は、演出や本作で描かれるストーリーに関しても言及しています。
日本をW杯優勝に導けるストライカーを育てるため、“青い監獄(ブルーロック)”に集められた300人の若きFW(フォワード)選手たち。
第1弾は、主人公である潔 世一(演:竹中凌平)が、チームZの仲間たちとともに一次セレクションをクリアしたところで幕を閉じた。今作では二次セレクション「ライバルリーバトル」の中で、潔をはじめとした選手たちが、挫折や葛藤を味わい、覚醒しながら大きく成長していく姿が描かれる。
物語は、今作も序盤からテンポよくスピーディーに進んでいく。
大画面に映し出される絵心甚八(演:横井翔二郎/映像出演)による、これから行われる選考の説明と、圧倒的な実力を見せつけながら先へ進んでいく糸師凛(演:長田光平)。「この実力者はいったい…?」 と引きを残して、メインである二次セレクションの「ライバルリーバトル」へ突入する。
今作の見どころは、第1弾同様に熱い試合シーンであるとともに、潔、蜂楽廻(演:佐藤信長)、凪誠士郎(演:佐藤たかみち)、馬狼照英(演:井澤勇貴)といったライバルかつ仲間たちの大きな覚醒だ。
前作で、空間認識能力×ダイレクトシュートの“成功(ゴール)の方程式”を生みだし、能力開花のスタートラインに立った潔は、成早朝日(演:伊崎龍次郎)とのマッチアップでさらなるステップアップのきっかけをつかむ。
特に、馬狼に「ヘタクソ」と潔が言い切る場面は、潔が今後さらにエゴと能力を増幅させていく様を予感させるとともに、ここが“喰い喰われ”の厳しい世界なのだと実感する。
潔を演じる竹中は、舞台上にほぼ出ずっぱりであり、特に試合中は激しい動きをこなしながらの長セリフという厳しい要求に見事に応えていた。熱い試合の中でも、頭と目を猛烈に稼働させ状況を見極めている、その熱さと冷たいほどの静かさとの対比表現が印象的だ。
自由でマイペースな凪と馬狼の仲裁役になるなど、場のバランサーであると同時に、舞台全体を強くまとめて引っ張っていく主役にふさわしい力を感じさせてくれる。
急きょ代役として凪を演じることになった佐藤たかみち。
前作で雷市陣吾を演じていたことで座組や作品そのものの空気感を知っていたアドバンテージはあるものの、凪と雷市とでは、役作りや求められるものが正反対と言ってもいいほどにまったく違う。それにも関わらず、凪そのものとして存在してくれていたことに称賛の拍手を送りたい。
長い手足にぼんやりとした表情などのビジュアルはもちろん、特に、序盤で潔の襟首を掴んで発破をかけるシーンや御影玲王(演:菊池修司)との決別のシーンでは、声だけで秘めた感情を表現。
表情や動きで大きく感情をあらわすことが少ないからこそ、無邪気に玲王に話しかける声と「もう知らない」との落差には、身震いするほどのものを感じる。
その凪と袂(たもと)を分かつことになってしまった玲王。オールマイティに能力が高く、公私ともにすべてを持っている恵まれた男という印象が強いからこそ、凪との決別のシーンでの「嘘だろう、なぜだ、信じられない」という表情が強く印象に残る。
今作では、自信に満ちた顔や凪と一緒にいる時の楽しげな笑顔はほぼ見られないだけに、演じている菊池はずっとつらいだろう。今後玲王がどのように大きく成長するのか、そのときにどんな表情を見せてくれるのか。
舞台における凪と玲王の関係性は、原作コミックスの『ブルーロック』そのものだけではなく、スピンオフの『ブルーロック-EPISODE 凪-』で描かれていることもエッセンスとして取り入れられている。そのため、2人がその時に何を考えていたのかがより分かりやすくなっていると感じる。
玲王と世界一を取るという大きな目標のためにあえて玲王のそばを離れ、個の能力をより高めながらサッカーの楽しさに気づいていく凪と、その凪の気持ちを知らずにただ「去っていった」としか思っていない玲王が、いつどのようにしてまたコンビを組むようになるのかを楽しみに待ちたい。
今作での大きな見どころの1つが、馬狼の挫折と覚醒だ。キングとして君臨し生きてきた彼が、初めて「自分はキングではなかった」と気づきフィールドに伏すシーンが印象深い。
また、前作で傍若無人な男という印象を与えた上で、今作では「きっちりしたマメなところがある」「自分に課したルールにのっとり生きている」と、じょじょに人間らしい一面を見せることで馬狼の人間性をより深めている。
伊勢直弘の脚本・演出と、巧者井澤の情熱的な芝居が“悪役”として目覚める彼をより魅力的なキャラクターとして描き出していた。自分にも相手にも厳しく、負けてなお立ち上がり自分の信じる道を進むキングにバロバロキュンだ。
“お嬢”と呼ばれる見た目とは裏腹な猛々(たけだけ)しさを見せる千切豹馬(演:佐伯亮)、強いフィジカルで圧倒的な頼もしさを見せるヒーロー・國神錬介(演:織部典成)など、今作では第1弾以上にそれぞれのキャラクター性が掘り下げられている。
特に蜂楽は、彼が何を思って何を楽しみにこれまでサッカーを続けてきたのか、“青い監獄(ブルーロック)”で何をしたいのかがここで示され、さらに人間性に深みを与えている。“かいぶつ”との別れを演じる佐藤の無垢な目と表情が、蜂楽の純粋な気持ちを強く表現していると感じた。
今作から登場する重要人物、糸師凛。
圧倒的な実力を持つプレーヤーとしての雰囲気を表現するのは長田光平。鍛えられた体、長躯、ミステリアスな空気がよくマッチしている。今作ではまだ凛の思いや過去は多く語られていないので、次作での展開に期待だ。
蟻生十兵衛(演:磯野大)、時光青志(演:中林登生)は、糸師凛という強いキャラクターと試合をともにするチームメイトではあるがその個性は埋もれず、強い存在感を発揮。
蟻生は「オシャ…」という独特のスタイルが目立つためどうしても色物として認識されやすいが、二次元をそのまま再現した磯野のビジュアルと動きによって、おもしろさは残しつつも、蟻生の身体能力を生かしたプレーに説得力を与えてくれた。
また今作では、成早の存在意義が大きい。負ければ“青い監獄(ブルーロック)”を去るという前提のもとに話が進んでいることを否応なしに突きつけられる。潔へ「お前になら勝てると思った」と、えぐいとも言えることを言い放つ成早にも、“青い監獄(ブルーロック)”に挑戦する理由があった。
それぞれに事情や夢や目的があり、相手を喰い、蹴落としてでも上に行かなければならない、このストーリーの基礎となる部分を改めて実感させられる。
それと同時に、日替わり出演である伊右衛門送人役の澤田拓郎が1月30日(火)の公演で客席に語りかけていた言葉が印象深い。
本編には登場しなくても、伊右衛門たちは別の場所で戦っている、今舞台に出てこない人物たちもそうだ、と。この言葉を受けて、この先出番が少なくなる人物も、舞台の表に出て来なくなる者もそれぞれに戦っていると想像できる。「舞台の上だけで話が進んでいるのではない」と、この話に一層の深みと楽しみ方を与えてくれた。
舞台美術とセットは、前作同様に動くパネルを多用して、場面転換やプロジェクションマッピングをより効果的に見せている。今作ではサッカーボールが投射され、それを映像とともにキャストたちが蹴ることで、“エアー”ではあるがボールの存在を感じさせ、漫画・アニメ的表現で視覚の面でも楽しませてくれる表現を作り上げている。
人が演じる熱さとリアルさと、二次元的表現をちょうどいい塩梅で融合させているのはさすが伊勢直弘と言うべきだろう。
脚本も、2時間の舞台にするために原作をカット・編集した部分はあるが、そこに含まれていた大事なエッセンスは他の部分に取り入れるなど、切り捨てっぱなしにはしないことで、作品そのものへの強い愛を感じる。
ストーリーの盛り上がりが最高潮に達したここぞという場面、ベストなタイミングで主題歌がかかるのはまさに少年漫画ならでは。また、カーテンコールで「本当の主役を名乗るなら」の歌詞部分で後方パネルから主役である竹中が登場するのは、偶然かもしれないが見事な演出だ。
前作同様、千秋楽のカーテンコール後に発表された次回作は、早くも今年の夏に上演が決定している。より熱く、より激しくエゴく、さらに昂ぶり盛り上がりを見せる本作の続編を、今から楽しみに待ちたい。
取材・文:広瀬有希
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