「マッシュル-MASHLE-」THE STAGEの稽古レポートが到着した。
6月下旬、稽古場での稽古が残り1週間ほどとなった、ある日の稽古の模様をレポートする。今作の演出を手掛ける伊藤今人(梅棒/ゲキバカ)の明るい声が響き渡る稽古場。その熱量の高さに感銘を受け、このレポートも少々テンション高めでお送りしたい。
稽古場に入ってまず驚いたことがある。スタッフクレジットに作詞・音楽・振付とあることから、どうやら歌もダンスも入るらしい、とは認識していたが、これはもう「入る」どころではない。全編を通してものすごく、歌って、踊っている。これはもうミュージカルではないのか!? ステージ…?
しかし、ミュージカルと銘打っていないのには理由があるという。この舞台において重要な要素である魔法、その魔力を表現する手段として使われているのが、歌、だというのだ。もちろん、映像など最新の技術も取り入れながらではあるが、演劇的な身体表現とともに歌の力を使って魔法を表現している。
と、ここで「マッシュル-MASHLE-」のストーリーを復習しておこう。
物語の舞台は、魔法が当然のものとして使用される世界。そんな魔法界に生まれたマッシュ・バーンデッドには秘密があった…それは、魔法が使えないこと。この世界では魔法が使えない者は排除され、罪人と同じ扱いを受ける。育ての親である“じいちゃん”ことレグロ・バーンデッドと平穏に暮らしていたマッシュだったが、ある日魔法警察に見つかり、命を狙われる身となってしまう。マッシュが再びレグロと平和に暮らすための条件は、「神に選ばれし者」としてさまざまな特権を与えられる“神覚者”に選ばれること。そのために名門魔法学校に編入したマッシュは、レグロの教えにより筋トレに励んで鍛えぬいた筋力(パワー)を魔法に見せかけて、さまざまな試練を切り抜けていく。
お気づきだろうか。魔法を歌で表現している、ということは、魔法を使えない者はどうするのか。そう、物語の主役であるマッシュ・バーンデッド(演:赤澤遼太郎)は、歌わないのである。歌という武器を持たずに戦うのだ。ここに今作のタイトルがあえて「マッシュル-MASHLE-」THE STAGEとなった理由があったと気づき、感嘆した。同時に、ミュージカル界のレジェンド的存在である岡幸二郎が、魔法学校の校長であるウォールバーグ・バイガンを演じる意味を理解して唸った……間違いなく最強の魔力を持っているではないか!
話を稽古場に戻そう。陽が傾きだした頃、2幕のブロック通し稽古が始まった。ブロック通しというのは、これまでの稽古で場面ごとに細かく作り上げてきたものを、数シーン分つなげてみる、という稽古だ。演出の伊藤今人が前に立ち、各キャストの動きの流れを確認しながらシーンを作り上げていく。高さのある可動式のセットで場面の切り替えや立場の違いを表し、息をつく間もなくシームレスに物語を進行させる演出は、さまざまなジャンルの舞台芸術で縦横無尽に活躍してきた伊藤今人の腕の見せどころだ。
2幕では、赤澤演じるマッシュを中心としたアドラ寮のメンバーと、笹森裕貴演じるアベル・ウォーカーが監督生を務めるレアン寮、その中でも特に優秀な実力者が集まった七魔牙(マギア・ルプス)との戦いがスピーディーに展開していく。それぞれのシーンの振付は、梅棒の野田裕貴、多和田任益と、えりなっちが分担している。自身もパフォーマーとして活躍し、独自のスタイルで人気を集める3人の振付には、キャラクターの性格を重視した、ただ踊るだけではない“身体表現の1つとしてのダンス”の意味が感じられる。
魔法の応酬による戦いが繰り広げられる中で、魔法を使えないマッシュの存在の異質さが際立つ。それでいて、その大きな武器を持たずともすべての魔法を粉砕していくパワーがマッシュにはある。その1つはアクションだ。
アクションを手掛けるのは、“wordless×殺陣芝居”など、独特の作風で注目されている劇団壱劇屋の竹村晋太朗。マッシュの肉体から放たれる普通では考えられないほどの強いパワーが、まるでCGのような動きを生身の人間で実現させる、壱劇屋独特の“人間CG”によって表現されている。
さらにこの舞台特有の表現方法がある。マッシュの筋力(パワー)の概念として登場する“マッスルズ”である。情報解禁時から疑問符だらけの反応が飛び交っていたが、マッスルズを演じる彼らはプロダンスリーグ、Dリーグで戦う“肉体派舞闘集団” FULLCAST RAISERZとRAISERZ A.R.M.Yのメンバー。“クランプ”というジャンルの全身を大きく使ったアグレッシブでパワフルな動きを得意とする彼らが、マッシュの尋常ならざるスピードとパワーを“観客の目に見えるように”具現化する存在となって、ともに戦う。その不可思議で絶妙な所作は、時折挟み込まれるシュールなギャグとの相性も抜群だ。
もちろん、マッシュ役・赤澤遼太郎自身の筋肉も負けてはいない。彼はもともと筋肉が付きやすい体質らしく、今作のために日々筋トレを重ね、かなり増量したそうだ。これまで演じてきた役のイメージからするとマッシュのようなタイプの役柄は珍しいようにも思うが、稽古場でマッスルズとともに戦う姿は、物静かだが仲間想いで熱い感情を内に秘める、マッシュ・バーンデッドそのものに見えた。
他のメンバーも実に個性豊かで、勇気と信念を特性とする生徒が集まるアドラ寮のフィン・エイムズ(演:広井雄士)、ランス・クラウン(演:石川凌雅)、ドット・バレット(演:山田ジェームス武)、レモン・アーヴィン(演:河内美里)、才能と自尊心を特性とする生徒が集まるレアン寮のアビス・レイザー(演:京典和玖)、ワース・マドル(演:中原弘貴)、ラブ・キュート(演:花奈澪)、まったくカラーの異なる2つの寮のメンバーそれぞれ、役もキャストも、とにかくキャラが濃い。稽古場でも寮ごとに集まって和気あいあいと話し合う様子が見られ、どこからか「本当にいいカンパニーだな!」という声が聞こえてきた。
加えて、前述のウォールバーグ校長や、マッシュたちが目指す“神覚者”でありフィンの兄であるレイン・エイムズ(演:佐々木喜英)、養父のレグロ・バーンデッド(演:ウチクリ内倉)、魔法警察のブラッド・コールマン(演:澤田拓郎)と、何れ劣らぬ個性派揃い。稽古の様子を見ていて確信したが、間違いなく、最高のカンパニー、最強の布陣である。
この日の稽古では、1幕のシーンは部分的にしか見られなかったが、小道具置き場には「あのシーンで使うらしいアレ」やら、「あそこで出てくるアレ」らしきものがあることも確認出来た。2幕はバトル中心の展開になるが、1幕では“ファーン”となるシュールなギャグも散りばめられているはずだ。
レポートであるからには「見どころ」をギュッとまとめてお伝えしたいと思うのだが、正直、「すべてが見どころ」と言わざるを得ない。筋肉×魔法×シュークリーム!という世界観の中で描かれる、友情と戦いとシュールなギャグを、芝居・歌・ダンス・アクションといった舞台ならではの方法で表現するというのだから、この山盛りの要素だけでもおもしろいことは約束されているし、目が足りないのである。まだ何の装飾もない、中身だけですでにおもしろいのだ。これが劇場で音響・照明・映像効果と合いまったとき、どんなものになるのか、楽しみで仕方がない!
シュー皮からあふれるほどにたっぷりと詰め込まれた、「マッシュル-MASHLE-」の魅力とマシュステならではのおもしろさを、ぜひ劇場で、何度でも楽しんでいただきたい。
公演は7月4日(火)~11日(火)に東京・東京国際フォーラム ホール C、7月15日(土)~17日(月・祝)に兵庫・AiiA 2.5 Theater Kobeで行われる。
(C)甲本 一/集英社 (C)「マッシュル-MASHLE-」舞台製作委員会
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